no132
20/24
20伝統と革新お互いを引き立てる二つの存在波佐見焼の窯かまもと元が多く集まる中なかお尾郷ごうは、いくつもの煙突が並ぶノスタルジックなまち並みが魅力だ。入り組んだ路地裏をゆっくり散策しながら、一軒一軒窯元をのぞいて回る。ぬくもりある波佐見焼を眺めていると「どうぞ〜」とお茶をすすめられる。波佐見の人はおもてなし上手だ。中尾郷に生まれ育った自治会長の北村さんに「古いまち並みがきれいですね」と話しかけると、「普通に生活しているだけで、何もしていないよ」と笑う。「住んでいると価値が分からなかった。そのうち『路地裏がいい』『古い雰囲気がいい』と耳にし、それを守るためになんとかしなくちゃいけないと考えるようになりました」(北村さん)すでにあったものの中から、新たな価値に気付き、それを守りつつさらに美しいものに変えていく。〝何もしていない〞が価値になった。「県のまちづくり景観資産に登録され、住民が主体的に景観を守ろうとさまざまな活動をしています。それに波佐見の人間は研究心が旺盛。若い窯元の感覚と、センスを重要視する若いお客さんの感覚がマッチして〝ニュー波佐見焼〞も生まれました。おかげさまでたくさんの観光客が来てくれるようになったんですよ」(北村さん)流行に左右されない伝統と時代に即して新しいものを生み出す力。波佐見の魅力を語ろうとすると不思議とこの相反する言葉が出てくる。波佐見町教育委員会文化財保護係の中野さんは「歴史や文化を調べ、波佐見には貴重な宝がたくさんあるということが分かっています。それを生かしたまちづくりを進め、後世に伝えていきたい」と未来を描く。穏やかなまなざしの中野さんがこう結んだ。「出張授業で小学校に行き、子どもたちに波佐見の歴史を話す機会をもらっています。子どもたちには波佐見に生まれ育ったことを誇りに感じて欲しい」この誇りが、波佐見らしい景観を未来につないでいくものになるだろう。▲中尾郷の窯元の一つ、陶房(とうぼう)「青(あお)」の吉村さん。工房にはIターンの職人さんやドイツから来た職人さんもいる。御年90歳のおばあちゃまも現役で作業をしている。ギャラリーに並ぶモダンな器は若い女性に人気が高いが、吉村さんは伝統ある染付をこれからも大事にしていきたいと語ってくれた。景観行政団体景観法に基づき景観行政を担う主体として、都道府県、政令市、中核市がなるとともに、都道府県との協議を経たその他市町村がなることができる。景観行政団体は良好な景観形成のため、景観に関する規制内容などを定める景観計画を策定することができる。波佐見町は平成24年に景観行政団体となる。波佐見町景観計画まち全域を景観計画区域に定め、緩やかなルール設定により広域的な観点で景観誘導を図っている。また、特に重点的に景観形成を進めることが必要な区域として、鬼木棚田、陶郷中尾山、宿郷、西ノ原の4つの区域を重点景観計画区域(案)に指定する検討が進められている。▲中尾郷自治会長 北村さん▲文化財保護係の中野さん▲文化の陶「四季舎(しきしゃ)」館長の畑中さん。県認定の「地産地消こだわりの店」として、地元で採れた食材を使ったメニューで楽しませてくれる。使う器はもちろん波佐見焼。昭和初期に建てられたやきもの工場を改修した店内は、真ん中に囲炉裏(いろり)があり、窯ではピザを焼くこともできる(要予約)。窯めぐりのひと休みにいかがですか。▼陶房「青」ギャラリーの外観と店内
元のページ