国土交通省No.136
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05ました。平成14年に政府が国産旅客機を造ろうと提案し、この機会をチャンスと捉えた三菱重工が手を挙げました。そして三菱航空機によって、平成20年から国産旅客機の開発が正式なプロジェクトとしてスタートしたのです。以後、MRJ試験機の初飛行までは苦労の連続でした。飛ぶことができる機体を造るだけなら三菱にも十分な技術があり、それほど困難ではありません。しかし、“安全に”飛ぶことができる機体だということを“証明する”経験とノウハウが無かったのです。設計から製造、飛行試験まで、安全の要件を全て満たしていると認めた証である「型式証明」を、とりわけ高い安全が必要な航空機である旅客機で取得するプロセスは、個人で使われるビジネス機とは桁違いで、全て未知の経験でした。国産旅客機の開発はほぼ半世紀ぶりです。しかも半世紀前より格段に高いレベルに進化した国際標準に基づいて型式証明を行う国土交通省航空局の審査官も苦労が多いと思います。立証する側と審査する側で立場は違っても、共に安全な航空機を造ることが目標の運命共同体だと感じています。ぶつかり合いもたくさんしながら、初飛行までたどりつきました。ただし、MRJの開発はようやく6合目に来たといったところです。昨年の初飛行は社内試験であり、飛行試験を伴う型式証明の審査はこれから本格化します。納入まで続くたくさんの壁を今後も一つ一つ乗り越えなければなりません。日本のものづくり力とおもてなし精神がMRJの強みMRJは、70〜90席クラスのリージョナルジェット旅客機です。中大型機は米ボーイングと欧州エアバスがシェアを独占しており、市場に参入するのは困難ですが、地方間を結ぶリージョナル機は、今後20年間で5000機の市場が見込まれています。現在はブラジルのエンブラエル、カナダのボンバルディアの2社が強く、さらにロシアや中国も本格的に参入を計画しています。2強の壁を崩すのは容易ではないですが、国土交通省と共に海外当局などの信頼を得られつつある中、現在407機の受注があるMRJには勝機があると確信しています。重要な点は、今までにない新しい価値を提供すること。リージョナル機では初の複合材多用や新型エンジンの採用など、最先端技術を用いたことで、燃費・騒音・排ガスの低減を実現する運航経済性を実現させようとしています。また、顧客となる航空会社や国土交通省と活発に意見交換を行い、安全性はもちろん、使う側の意見も取り入れたシステムの開発とサービスの構築に力を入れています。日本ならではのきめ細やかなものづくり力と、おもてなしの精神。その総合力がMRJの強みになるだろうと考えています。ただし、カスタマーサポートの構築なども未知の経験であり、開発も本格化はこれからといった状況。6合目に突入した今、お客さまへの初号機納入に向けて一層気を引き締め、一丸となって全力で挑み続けます。飛行試験機2号機の構造組み立て中の様子(平成26年9月)。胴体と主翼、胴体と垂直尾翼を結合しているところ。初号機は同年10月に完成し、機体を初めて一般公開した。写真提供/三菱航空機平成19年10月正式客先提案(ATO)を決定し販売開始平成23年4月MRJの組み立てを開始平成26年6月MRJ飛行試験機初号機の翼胴結合、エンジンを搭載平成20年4月三菱航空機株式会社設立平成25年10月MRJ飛行試験機初号機の最終組み立てを開始平成26年8月日本航空がMRJの導入を決定平成20年3月全日本空輸から最大25機の受注で事業化決定平成23年12月 MRJ地上試験装置の模擬飛行を開始平成26年7月米国における飛行試験をワシントン州の空港を拠点とし実施する旨を発表平成22年9月MRJの製造開始平成26年4月全機静強度試験準備を開始平成27年1月MRJ初飛行に向けた各種試験を本格化平成27年11月初飛行に成功MRJの開発開始から初飛行までMRJの今後はどうなっていく? 低速・低高度で飛ぶだけだった初飛行時から、運航の中心となる高速・高高度の飛行実験に拡大。パイロット訓練用のシミュレータや整備の拠点、システムの構築など、航空会社向けのカスタマーサポートの整備も開始し、お客さまへの納入に備える。長期的な目標は、20年後に世界で5000機とされる小型旅客機のシェアの半数を獲得すること。
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