国土交通省No.138
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1990年代の不良債権問題や銀行再編をアナリストとして早期に指摘し、現在は日本の国宝・重要文化財の修復を手懸ける小西美術工藝社社長であるデービッド・アトキンソン氏。「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」のメンバーとして、ビジョン策定に直接関わった同氏に、日本の観光産業への思いを伺いました。日本は観光に必要な4つの条件が全てそろった国―政府は今回のビジョンで、2020年までに年間2000万人としてきた訪日外国人旅行者数を4000万人に引き上げ、訪日外国人旅行消費額を8兆円に、さらに2030年には6000万人、15兆円という目標値を掲げました。「観光先進国」となるべく日本全体で「観光」を基幹産業に育てようと力を入れています。国際観光客数は国連世界観光機関(UNWTO)の長期予測によると、2020年で16億人(2014年は11億人)、2030年では18億人とされています。仮にこの予測通りになったとして、2020年に日本を訪れる外国人旅行者が4000万人では、シェアは2・5%にすぎません。世界の観光産業は、直接的、間接的、誘発的な影響なども含めると、世界全体のGDP9%を占める産業ですが、日本の対GDPにおける国際観光収入の割合はまだまだ低いというのが現状です。日本のGDPは現在世界第3位で500兆円を超えています。世界水準並みの9%を観光業が占めるとすれば、50兆円を超える産業が生まれることになります。日本は観光に必要な4つの条件「自然・気候・文化・食」を全て満たしている数少ない国の一つです。観光先進国になり得るポテンシャルは既に持ち合わせています。でもそうした資源がこれまでうまく活かされていないのです。観光先進国となるには必要なあらゆる事を同時並行でやり抜く!―観光先進国となるために、まず何をしなければいけないのでしょう?その発想が既に間違いなのです。50兆円といえば現在の自動車産業に匹敵する額です。自動車産業を上回る産業を生み出そうというのですから「何をすればいいのか?」と問われて答えられるような単純なものではありません。自動車産業がここまで発展してきた理由を思い浮かべてください。部品やそれを作る技術、工場、道路、ガソリンスタンド整備など、発展するために必要なあらゆるパーツを揃えていかなければならない。先ほど言った4条件にしても、例えば文化財一つやれば良いのではなく、必要なあらゆる事を同時並行でやり抜くことが必要です。―今回のビジョンでは、具体的に「3つの視点と10の改革」が提示されました。構想会議を経て、しっかりとしたビジョンを示すことはできました。しかし、さまざまな分野で、これを実行する人たちが出てこなければ実現することはできません。観光産業はビジネスです。観光資源があるからといって、観光客を呼び込むための整備をしないのでは産業としては成り立ちません。政府「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」のメンバー デービッド・アトキンソン氏に聞く観光産業はビジネス観光客を楽しませる「攻めの観光」で自動車産業にも迫る産業になりますPRの仕方も変えていかないといけない。外国人向けの日本の観光パンフレットなどでは、間違えた英語で紹介しているものも多くあります。ネイティブの英語で正しく紹介しなくては理解されません。どんなことでも自分目線ではなく相手目線で考える、実行することが大切です。10

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