国土交通省No.138
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のビジョンは極めて大事ですが、民間が動き出して、これを実現する事も大事です。せっかくのビジョンも、プランで終わってしまっては意味がありません。実行することです。「攻めの観光」へ。お客様目線で今の時代に合わせた取り組みを―これまでの観光業の姿勢ではいられないということですね。日本はつい先だってまで、人口激増時代でした。この時代は座っているだけで売上げが増える時代。毎年新しい観光客が増えていくから、特段新しい手を打つ必要も無かったのです。お客様目線、需要者側目線はそこに無く、供給側の都合だけが優先されていたのです。しかし、日本は人口減の時代に入っています。今の時代に合わせた取り組みへ変わらないといけないのです。受け身の姿勢では衰退する一方です。―攻めの観光とは、具体的にどのようなものですか?例えば、ラスベガス。何も無い砂漠のど真ん中ですが、年間4000万人以上が訪れる観光地になっています。徹底的にお客様のニーズ、満足度に注力した結果です。今まで日本人が観光資源としてアピールするものは、文化や歴史、桜、富士山、芸者さん……。日本人が誇りに思っている事だというのは分かりますが、それは日本人が「外国人も好むだろう」と思っているに過ぎないのです。観光の基本である、観光客がどこまで楽しめるかどうかまでは考えていない。観光資源を整備して日本人目線ではなくお客様目線でPRし、来てくれた観光客を楽しませることができれば観光客は増えます。日本以外のどの国でもできていることです。難しいことではありません。日本は先進国、技術大国だと世界にアピールしていますが、クレジットカードが使えないところやWi-Fiも無いところもあり、不便な国という印象を持たれている。自分目線で物事を捉えるのではなく、お客様目線で見れば変えられる事は山ほどありますよ。観光産業の育成が日本経済を成長させる―今回のビジョン策定の過程では、あらゆる省庁が同じ土俵に立って観光産業について考えるようになりました。この構想会議がうまく機能した一番のポイントは、各回のワーキンググループが機能し、いろいろな人の意見が反映され、さまざまな検証がなされたことです。霞ヶ関全体にわたる議論もされました。新たな産業を生み出すわけですから少人数で決めただけの理想論では経済は動かないと私は思います。ビジョンに書かれていることは、特に地方から見れば「やらない」という選択肢は無い。迎賓館の公開や、サミットやオリンピック・パラリンピックの誘致も大切ですが、それだけでビジョンに掲げられた目標が達成できるわけではない。日本はこれまで観光業を甘く見ていたと言えるでしょう。世界水準であるGDP9%の産業に観光業を育てるのは、多様性を軸にした総合力です。もちろん半年や1年でできることではありません。しかし、ここに日本経済の大きな伸びしろがあると確信しています。特集明日の日本を支える観光ビジョン「観光先進国」への取り組みデービッド・アトキンソン PROFILE小西美術工藝社代表取締役社長。元ゴールドマンサックス社アナリスト。1965年イギリスに生まれ、オックスフォード大学で「日本学」を専攻。1992年にゴールドマンサックスに入社し、日本の不良債権を暴くレポートを発表し注目を集める一方、1999年に裏千家に入門。日本の伝統文化に親しみ、2006年には茶名「宗真」を拝受する。ゴールドマンサックス退社後の2009年に創立300年余り、国宝・重要文化財補修を手懸ける小西美術工藝社に入社、取締役に就任。2014年より現職。11

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