国土交通省No.138
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14地上気象観測の装置ゴム気球に観測機器を付けて、地上から約30kmまでの気圧、気温、湿度、風向、風速などを観測する高層気象観測。1日2回世界で定められた同時刻に行う。天候が荒れている時でも、室内で準備し、定時になると吹雪の中に飛び出して放つことも。日射放射計は気象棟の屋上と海岸沿いに設置されている。地球上で最も寒冷でとても乾燥した地域である南極大陸。夏でも平均気温は0度程度、冬はマイナス20度以下が当たり前で、沿岸部にある昭和基地近辺ではブリザードが襲来すると秒速20m以上の風が吹き付けます。そんな酷寒の地で、気象庁は第1次隊から気象観測を継続してきました。当初は地上気象観測のみでしたが、現在は高層気象観測、オゾン観測および日射放射観測も実施しています。気象庁からは5名派遣され、馬場祐介もその一人として第56次越冬隊に参加しました。「長期間データを取ることで南極の現状や過去からの変化を把握することができるだけでなく、将来的な気候変動の予測にも役立つと考えられています。また、世界気象機関の国際観測網の一翼を担っており、観測データは各国に共有され、日本はもちろん世界中の気象予報や気候変動の監視に活用されています。そうした先輩たちの蓄積を引き継ぎ、国際的活動の一員として精確なデータを取らねばと、身の引き締まるような思いでした」装置による自動計測目視や手作業による観測も実施気象観測の中で最も歴史があるのが地上気象観測です。気圧や気温、湿度、風向、風速、日照時間などの基礎的なデータを24時間365日連続して観測しています。「装置で自動的に観測する他、目視で雲や大気現象なども観測し、記録します。日本でもこうしたデータに触れる機会はあったのですが、実際に凍えるような気温や吹雪などの気象現象を体験すると、あらためて『南極に来た!』と実感しました」高層気象観測では月に2~3回オゾン量を観測する機器も一緒に飛ばします。「地表付近のオゾン濃度は連続的に観測し、オゾンホールの時期には飛揚回数を増やして監視。地表と上空におけるオゾン量の把握に努めています」そして、日射放射観測では、地表に届く日射量を測定する全天日射、地表で反射された日射量を測定する反射日射、地表に届く赤外放射量と地表から出て行く赤外放射量などを観測し、地表におけるエネルギーの精密な収支を把握します。「地球温暖化や気候変動のメカニズムを解き明かすためには、このような高精度の観測データを長期間蓄積することが非常に重要です」天候不順時は泊まり込みも観測は2交替 時間体制こうした観測データは気象棟において24時間監視・分析されます。「越冬隊員が生活する居住棟から気象棟まで50mほどなのですが、ブリザードになると気象棟の影すら見えなくなるときもあり、建物間を移動するのも大変危険です。そこで交替時には両棟に渡したロープを頼りに伝い歩きして行きます。悪天続きで交替できず、缶詰めになることもありました」蓄積された気象データに精密な1年分のデータを積み重ねていく第56次南極地域観測隊(越冬隊)気象庁 観測部 計画課 南極観測事務室 馬場 祐介24極寒の中では装置の設置や保守作業も可能な限り短時間で効率的に行う必要があります。「日本では簡単なことも、南極の非常に低温な環境や激しい風雪の中では命懸け。それでも今までの蓄積を途切れさせず『自信を持って出せる観測データを納得のいくまで取りたい』という一心でした」
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