国土交通省no143
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13局所的かつ突発的な土砂災害に備え被害を最小化する案内されたのは研究所内の実験棟にある二つのジオラマ。「ザザザザー」という水の激しい音とともに、土砂災害の実験が始まりました。山から町に流れる川に大量の水と土砂が流れ込み、橋や建物を押し流していきます。シミュレーションとはいえ思わず息をのむ光景です。これが現実なら、多くの命や財産を奪う甚大な災害になるでしょう。しかし、もう片方では同様に大量の土砂が流れ込むものの、スリット状の堤防※1などでせき止められ、被害は小さく抑えられています。「日本は急斜面が多く、山の近くまで住宅地が広がっている地域が多くあり、地盤の弱い地域は、土砂災害が発生しやすい環境となります。そこで、あらかじめ災害が想定される場所を見定め、土石流を防ぐための砂防えん堤などの対策を施し、さらにはそのメンテナンスを継続的に行うことで、被害を最小化しようとしています。この“砂防”における技術研究や基準作りが、私たちの仕事です」と語るのは、国土技術政策総合研究所(国総研)土砂災害研究室長の野呂智之です。しかし相手は自然。どこでどのように発生するか、予測の難しさは砂防においても変わりません。特に豪雨や地震などによる土砂災害の恐ろしさは、局所的かつ突発的に発生することにあります。災害被害を最小化するためには、継続的に地形や土砂の様子を監視・把握し、中長期的に施策を講じるだけでなく、土砂の変化から危険を察知して迅速に避難などの対策をとることも大切です。人工衛星や航空機などで空からも危険箇所を検出土砂災害の多い場所は、ひとたび災害が発生すると道路が寸断されることも多く、二次災害の危険もある中で現場に近づけないこともあります。一方、土砂の堆積により形成され、河川の流れをせき止めてしまう「河か道どう閉へい塞そく(天然ダム)」(以下、天然ダム)も、決壊すると大きな災害となる可能性が高く、早急な発見・対策が欠かせません。そこで注目を集めているのが、人工衛星や航空機、ヘリコプターなどを用いた“空から”の監視・観測の技術です。例えばJAXA※2の人工衛星「だいち2号」や海外の人工衛星から発せられる電波(SAR)を利用した地表観測技術は、天候や昼夜を問わず、人が行けない地域にも素早く広く観測できることから、早期の実用化が期待されています。試験段階ながら、すでに平成23年の台風第12号による紀伊半島大水害より実際に活用され、ヘリコプターでの調査ができない悪天候時や夜間でも7カ所もの天然ダムを見つけ出しました。また、天候回復後のヘリコプターによる調査活動の効率化にも役立ち、迅速な災害状況の把握と二次災害の防止に大きく貢献しました。他にも平成28※2国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構※1砂防えん堤の形式の一つ。左の写真のように、通水部がくしの形に開いており、ここから水が流れ土砂だけがせき止められる業務密着ルポシリーズFILE 44対策を何も施していない川。土砂が一気に流れ込み、家が…土砂災害研究室長野呂 智之平成23年台風第12号による天然ダム砂防えん堤を整備した川は、土砂がせき止められ安全! 水だけが川を流れていく。
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