国土交通 No.145
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11活支援を構想しました。しかし、近いとはいえ風土や言葉、気性、課題意識も異なる各島の人々をまとめるのは至難の業です。そこで平成10年に全島交流を目的とした「島の大運動会」を開催しました。島内外から5000人もの人が集まり、そのとき生まれた横のつながりがNPO法人設立の礎となりました。「既存の縦関係では暮らしは立ち行かない。協力の輪を横に広げ、連携の力で生活支援を行なっています。いわば、第二市役所的な立ち位置ですね」と理事長の鳴本浩二さんは話します。現在は、北木島、白石島、真鍋島でデイサービスを開設し、この他にも暮らしをサポートする事業として買い物支援や有償運送事業、特産品作り、保育園運営、空き家対策など、多様な生活支援事業を展開しています。特産品の一つである笠岡諸島近海のおいしい天然魚介をもっと多くの人に味わって欲しいという考えから生まれたのが、灰干し「魚々干(とっとぼし)」です。北木島の女性たちが生産冷蔵庫でじっくりと水分を抜き熟成中の魚。灰干しに使う灰は三宅島のもので、火山灰被害に悩む三宅島の人との出会いがきっかけになった。旧北木小学校を活用し、島の自然環境を生かした研修活動が行える施設として北木島宿泊研修所(愛称「石いし切きりの杜もり」)を開設。高齢者共同生活住居も兼ねている。島の大運動会特集人が結ぶ離島に携わり、そこで雇用も生まれています。「今後も島に住み続けるためには就業の場が不可欠と考え、さらなる産業の立ち上げや活性化に取り組む必要があります。島民の声に答えて一つずつ取り組むことで活動を広げてきました。足踏みや時期待ちはあっても、中止や失敗はありません。上手くいくまで止めないことが成果につながっています」(鳴本さん)。NPO法人かさおか島づくり海社鳴本浩二 理事長北木島は、靖国神社の鳥居や大阪城桜門などにも使用され、江戸時代から銘石として知られる北木石の産地です。しかし海外産の台頭で最盛期には島内に127カ所もあった採石場も現在は2カ所のみです。明治25年創業の石材会社の4代目を引き継ぐ鶴田さんは、石材業の振興とともに観光にも力を入れています。「製品化は採取の2割に厳選し、品質で勝負しています。美しく粘りがある北木石の魅力を伝えていくため、墓石や建材だけでなく、お土産として持って帰れるコースターなども作っています。また石切唄の伝承をはじめ、採石場に“石切りの渓谷(たに)展望台”を設置し、今年4月に映画館跡や採石跡地をルートに加えた日帰りツアーも始めました。父は『職人は見せ物じゃない』と展望台やツアーに反対しましたが、発信しなければ伝えていけません。この島に根付いた石文化を肌で感じて欲しいです」(鶴田さん)。平成27年度には石の文化全般が「かさおかブランド」に認定されました。ビルの23階にも匹敵する高さから見下ろす展望台での絶景は、新たな観光スポットとして注目を浴びています。鶴田石材株式会社鶴田康範さん展望台から作業場を見下ろす。海面より40m下で石の切り出し作業。瀬戸内海の海岸線よりもはるか下だ。北木島で出会った人笠岡諸島への玄関口である住吉港。島への船を待つ間、港でちょっと小話に花を咲かせてほしい、そんな思いから「みなと・こばなし」の愛称で親しまれている笠岡諸島交流センター。平成29年3月に完成した真新しいスペースは、通勤・通学、買い物などで船を利用する人の待合所として、また地域コミュニティの活動場所としても使われています。八寸勾配の屋根が特徴的なデザインは、岡山県立大学デザイン学部の学生によるもので、若い人も集まる魅力的なランドマークとして、新たな交流拠点としての活用が期待されています。笠岡諸島への新しい玄関口
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