国土交通 No.146
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15などを行ない、定期的な避難訓練を開催することで、万一の事態に備えています。こうした安全対策を助言することも職員の仕事です。自然との共存を目指し急斜面を補強・緑化立山カルデラ内を見渡すと、至る所で崖面崩壊が見られます。当然、法面の保護が不可欠となりますが、ここは景観重視の国立公園内。全てコンクリートで固めるのは景観だけでなく環境にも望ましくありません。そこで、立山カルデラ内での法面保護対策は鋼製ネットと植生基材吹付工を行っています。この植生基材には立山カルデラ内にある在来植物の種子が入った土を吹き付け、固有の生態系に配慮した工事を行ってきました。「有峰下流左岸山腹工事」もその一つです。斜面上部に足場を組み、そこからロープで降りながらネットを広げ、アンカーで固定していきます。目がくらむほどの高さの崖面ですが、5年前より順次施工した部分は年ごとに緑が濃くなり、自然に溶け込んでいる様が分かります。「昨年までの現場試験で種が周りから飛んできて自然に発芽すると分かったので、今年から吹き付ける土に種を入れないことにしました」(谷保)。現場試験や追跡調査などから効果を確認し全体に取り入れていく─そうした積み重ねにより、立山カルデラの砂防工事技術は日進月歩で進化してきました。その取り組みは今も続いています。近代から未来へと続くたゆみない砂防の歴史取材中も谷保の携帯電話には建設事業者から頻繁に連絡が入り、工事現場では気さくに声を掛け合います。その様子は立場の違いを超え、砂防という目的を同じくする仲間そのもの。「監督というより、事業者が安全・快適に工事を進められるよう環境を整えることを意識しています。気軽に相談してもらえるよう信頼関係は大事ですね」(谷保)。そうした谷保らをバックヤードで支えているのが事務係長の小林夏樹です。出張所の事務用備品の発注、立山カルデラ内への入域などの申請書類の受付や工事用道路通行許可証の発行手続きなどの事務作業に加えて賄いさんの対応まで、ほぼ全ての後方支援を一人で担っています。現場に出ることは少ないものの、「現場運営のために必要な情報を一番把握しているのは彼かもしれない」と谷保が評するほどです。「技術職員からの課題に対し、正確に対応することを意識しています。裏方として仕事の進捗をサポートするのが自分の役割。また作業される人たちの心情を思いながら、業務に当たることを心掛けています」(小林)。現在進行中の工事だけでなく、昭和初期に建造された白しらいわ岩砂防堰堤や泥どろだに谷砂防堰堤群など既存の砂防施設も、現在の砂防計画の礎として今も効力を発揮しています。長年にわたって営々と積み上げられてきた砂防の歴史は、本年もまた引き継がれ、未来へとつながっていきます。業務密着ルポシリーズFILE 47現場に赴き、積極的に情報収集や意見交換をする谷保出張所内での事務作業が多い小林だが、SNSでの情報発信担当として現場に同行することもある。また砂防工事専用軌道(トロッコ)で運ばれる食材の管理・納入も大事な仕事。国の重要文化財にも指定されている白岩砂防堰堤。立山カルデラのシンボル的存在。事務係長小林 夏樹写真下部が工事している箇所。すでに工事が終わった部分(写真上部)は一見するととても人の手が加わったと思えないほど植生が進んでいる。国土交通省 北陸地方整備局 立山砂防事務所 提供有峰下流左岸山腹工事

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