国土交通 No.147
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8国内屈指の大手海運会社として、130年余りの歴史を誇る日本郵船株式会社。同社が中心となって進めている「船舶の衝突リスク判断と自律操船に関する研究」は、i-Shippingの支援対象事業として本年で2年目を迎えます。同社ではi-Shipping に関わる複数の研究を進めており、中でもこの研究は、船の安全運航に直接関わるものです。研究プロジェクトには、日本郵船グループほか航海計器メーカー3社が参画しています。同グループ企業の一つ、株式会社MTI 船舶技術部門長の安藤英幸さんは、プロジェクトの背景について「船舶衝突のリスク回避は事故防止の軸となるテーマですが、関連する周辺の技術研究を並行して進めることで、航行の安全技術のレベル全体を向上させようという考え方が基本にあります」と語ります。現在の主要テーマは「船上での状況認識の支援」です。航海中は乗組員が24時間体制で、他船の動向や海上の設置物・浮遊物を見張り、衝突の可能性を判断していますが、人間の仕事である以上どんなに注意しても衝突事故の可能性がゼロになるわけではありません。「人工知能を搭載した高度な自律航行の実現には、まだかなりの時間を要します。船舶会社としていきなり高度な自律航行の世界を目指すのではなく、今ある現場に目を向け、操船や見張りにあたる人間を機械がサポートし、衝突回避のための状況認識や判断の精度を向上させようと考えました」と語るのは、日本郵船株式会社海務グループ航海チーム長の桑原悟船長です。具体的な研究の一つが、「接近アラームの改良」です。現在も、他船の接近を検知して知らせる仕組みはありますが、その接近を危険と判断して衝突回避行動をとるかどうかは、船長が自分の経験に照らして決定しています。桑原船長は「船長個人に委ねられている衝突回避の判断を、共通基準として整備していこうと研究を進めています。この基準を日本発の危険回避基準として世界に発信し、国際的な航行安全の水準アップに貢献したいと思っています」と語り、この取り組みが、将来的には海運業界における国際競争力の強化にもつながるとしています。また安藤さんも、「航行業務の中で、機械やシステムが肩代わりできる部分を増やしていけば、海運業における働き方改革=労働衛生環境の改善や人手不足の解消という面でも、私たちの研究はお役に立てると確信しています。そのためにもブロードバンド通信による船と陸の協業体制づくりを、今回のプロジェクト期間内で達成したい」と意気込みます。3年後のゴールに向けてさらに船脚を速めていきます。人間の判断力を機械がサポートして衝突事故を未然に回避する仕組みの研究開発日本郵船株式会社i-ShippingOperationⅠ.衝突リスク判断方式の研究開発Ⅱ.遠隔操船に関する研究開発Ⅲ.コンピュータビジョンを利用した 航海支援ツールの研究開発【期待される効果】・遠隔操船技術による航海当直体制の見直しが可能・陸上オペレーションセンターにおける運航経験者の雇用機会提供【期待される効果】・順位付け可能なリスクの表現による避航判断の負担軽減【期待される効果】・見張り精度の向上・陸上での遠隔操船時における周囲状況の的確な把握画像認識技術を利用した見張り支援シミュレータを利用したリスクパラメータの比較衛星通信技術を用いた陸上オペレーションセンターからの遠隔操船支援日本郵船株式会社桑原悟 船長株式会社MTI安藤英幸さん本年10月に実施された、遠隔で操船シミュレータの航行ルートを編集している試験の様子。事 例研究開発の概要
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