国土審議会政策部会・土地政策審議会計画部会 「21世紀の国土計画のあり方」について −21世紀の新たな要請にこたえ得る国土計画体系の確立を目指して− 平成12年11月16日 まえがき 平成10年3月に閣議決定された「21世紀の国土のグランドデザイン」では、国土計画の理念の明確化、地方分権等の諸改革への対応、指針性の充実等により、21世紀に向けた新たな要請にこたえ得る国土計画体系の確立を目指すこととされた。 審議に当たっては、これまでの国土計画に関する評価を踏まえつつ、IT(情報技術)革命を伴ったグローバル化の進展、人口減少・高齢化の進行、地球環境問題等、我が国が直面する様々な課題に的確に対応できる21世紀の新たな国土計画のあり方を検討することとした。 今回の報告では、このような認識の下、構築されるべき新たな国土計画体系の基本方向を示すとともに、今後の新たな制度の確立に当たって検討すべき課題を広い範囲にわたって指摘した。平成13年1月以降の新体制の下では、一つの基本計画を統合的に示す等の本報告の考え方を踏まえ、また、中央省庁等改革の基本理念に則り、関係方面の密接な連携の下、新たな制度の確立に向けた審議が一層深められることを期待する。 また、こうした新たな国土計画体系の明確化等の検討と合わせ、時代の要請に応える観点から、各種の地域振興計画等の国土計画に関連する諸計画や、関係法制度のあり方についての検討が行われることを期待する。地方公共団体の国土計画をめぐる制度についても、そのあり方についての検討がなされることを期待する。 平成12年11月16日
〇国土計画の経緯、成果と問題点 昭和25年の国土総合開発法制定時の国土計画には、戦中における国土の荒廃を修復し、多発する自然災害から国民の生命、財産を守るとともに、食料増産により国民生活を安定させ、さらに電力供給の増大等により産業発展を促進し、我が国経済の復興と自立を実現することが要請され、この目的のために特定地域総合開発計画が全総計画に先立って推進された。その後、我が国の経済復興、高度成長の過程で三大都市圏に人口や経済諸活動が集中し、その生活環境が悪化する一方、地方圏の経済的な停滞が懸念された。このため、全総計画の中心的な課題は、大都市圏集中の弊害を是正し、地方圏の発展を促すことによって、国土全体で予想を上回る経済の拡大・発展を受け止め、我が国の発展力を高めながら「国土の均衡ある発展」を実現することに求められた。戦後50年余を経た今日、人口や経済諸活動の分布が東京と太平洋ベルト地帯に偏った一極一軸構造はなお是正されていないが、全総計画は地域間所得格差、生活格差の是正等に関しては相当の成果をあげてきた。(参考資料3) 「国土の均衡ある発展」の実現は、5次にわたる全総計画を貫く基本課題であり続けたが、我が国の戦後の急速な発展とそれに伴う経済社会情勢の変化に対応して、全総計画の課題も、総合的な生活環境の整備のように次第に広範なものとなり、地域の発展のあり方についても、地域格差是正を重視したものから、地域の自主・自立、個性の発揮等を重視する方向へと移ってきた。また、公害や自然破壊等の開発に伴う弊害に対処し、自然環境を保全することも、第2次全国総合開発計画(昭和44年)以降重要視されてきたが、国民の自然享受指向の高まりに加え、地球環境問題への対応が要請される今日、資源循環型で環境共生的な国土形成を図ることが国土計画の重要な課題となっており、「21世紀の国土のグランドデザイン」(平成10年)は、こうした考え方を重視したものとなっている。(参考資料4) 国土基盤整備については、全総計画が、各地域の要望を踏まえつつ、必要性の高い事業等を全国的な構想の中に位置付ける場となったが、厳しい財政事情の中、計画内容が広範になる傾向があることに対し、重点的かつ効率的な国土基盤整備に向けた指針となり得ていないとの批判もある。 一方、昭和40年代後半には、開発に伴う地価高騰、乱開発による土地利用の混乱等に対処し、計画的な開発を進めるため、特定総合開発地域制度や土地取引規制制度を備えた新たな国土総合開発法案が策定された。しかし、折からの地価高騰への対処を特に重視する観点から、昭和49年に、国土利用の基本方針を示す国土利用計画、土地利用基本計画制度や土地取引規制制度等を定めた国土利用計画法が制定され、国土総合開発法は従来通り存置することとされた。こうした経緯から、我が国の国土計画は、国土の総合的な利用、開発及び保全によって望ましい国土の実現を構想する全総計画と、実体的な土地利用調整等の運用の指針として国土利用の基本方針を示す国土利用計画が並立する体制となっている。 国土利用計画法には、その制定の経緯から、地価高騰や乱開発による土地利用の混乱等の防止、是正に資することにより、望ましい国土利用の実現を図ることが期待された。同法制定以降、我が国経済の高度成長期が終焉したこともあり、概して開発需要は沈静化したが、昭和60年代のバブル期には地価高騰が再燃し、同法に基づく監視区域制度等がその対処方策の一環として活用された。また、平成元年には土地基本法が制定され、公共の福祉を優先した適正かつ計画的な利用等の土地に関する基本理念が定められ、国土利用計画はこの基本理念実現の役割を担うものと位置付けられた。(参考資料5) さらに、国土計画をめぐっては、大都市圏計画、地方開発促進計画や地域振興諸法に基づく計画等の関連した計画が多数にのぼるとともに、国土総合開発法に基づく地方総合開発計画等の実際には使われていない計画制度が存置しているなど、国土計画制度が国民にとってわかりにくいものとなっているとの指摘がある。国の行政評価の観点からは、各種計画とそれに基づく施策による地域への総合的な効果をわかりやすいものとすることが必要である。こうした観点から、わかりやすく簡素な国土計画のあり方が求められている。(参考資料6) 〇諸状況の転換と国土計画への要請 第一に、IT革命を伴ったグローバル化の急速な進展、地球規模での競争激化の下で、経済社会の発展のあり方、すなわち、地域の発展のあり方が大きな変化を迫られている。欧米先進国へのキャッチアップを中心としたこれまでの経済発展過程においては、地域の発展方向の重点は、成長産業の地方への誘導や配置と、そのための基盤整備に置かれてきた。しかし、多様な知恵が作り出す新しい価値が発展を支え、国際競争力ともなる今後の経済社会にあって各地域の活力を高めていくためには、地域住民が創造的な力を発揮し、国内のみならず世界の企業や人々にとって地域を魅力あるものとすることが必要である。このためには、地域発展の戦略を国が主導し、全国一律的に示すのではなく、新たな価値を生み出す個性ある地域が、そこに住む多様な人々の創意工夫によって形成されなければならない。国境を越えた人、モノ、資金、情報等の移動が拡大する中で、各国との分業と相互協力を深め、国際社会とともに繁栄し得る活力に満ちた国土の有り様を内外に示すとともに、急速に進展するIT革命が拓く発展可能性を各地域の個性的で多様な発展に結び付け、日本型IT社会を実現し、我が国全体の発展力を高めていくことが、国土計画に求められている。 第二に、我が国人口の急速な減少と高齢化の進展が見込まれる中で、中山間地域等の一部では、すでに地域社会の維持継続が困難となりつつある。今後、こうした事態がさらに深刻化すれば、各地域の誇りとして人々の心の絆ともなってきた地域固有の生活、文化、景観等が失われ、国土を形成する地域の多様性が損なわれることとなる。また、都市の人々に憩いの場を提供するとともに生態系の維持にも不可欠である森林、農地等の自然環境の維持が困難となり、ひいては自然災害等に対する国土の脆弱性が増すことともなる。一方、大都市部においても人口減少が見通されることに加え、産業構造変化により生ずる低未利用地の拡大等の中で、活力に富み、ゆとりと潤いのある大都市を再生することが求められている。こうした状況に対処するため、国土全体を各地の特性に応じて適切に利用し、それぞれの地域に固有な生活、文化、自然等を次の世代へと継承することにより、多様性に富み、安全で美しい国土を維持、発展させることが、国土計画に求められている。 第三に、地球規模での環境問題への対応が迫られている。地球温暖化や、地球規模での食料、資源、エネルギーの供給制約の高まりが懸念される中で、今後の国土計画は、近隣諸国との協力・連携をも図りつつ、地球全体の持続的な発展と調和した国土のあり方を構想するものでなければならない。同時に、自然の保全と享受に対する国民意識も高まっており、これまでの全総計画及び国土利用計画も、自然環境の保全と調和した地域の発展による良好な居住環境の創造を目指してきた。今後はこれにとどまらず、地球規模での物質循環等も視野におき、食料、資源、エネルギーの確保に努めつつ、それらの消費や廃棄において環境負荷の少ない循環型の地域発展を目指すとともに、生態系の多様性を維持しつつ人間の諸活動と生態系が共生し得る、環境共生型の国土形成を図ることが、国土計画に求められている。 〇国土計画の目的、基本目標 もとより、我が国は、国民の自由な経済活動を基調とした市場経済の国であり、そのもとで戦後の飛躍的な経済的発展も実現した。しかし、その一方で、我が国の地勢、気候等の自然条件の地域的差異が大きいことも影響し、市場経済は、過密・過疎等、国土利用の不均衡や、公害、自然破壊、地域的な社会資本整備の格差等の問題をももたらした。国土計画は、市場経済がもたらすこれら諸問題に対処し、土地をはじめとする自然資源や、資本ストック、人材等、地域資源の適切な利用を促進することにより、国民全体の福祉向上を実現するものである。 戦後の経済復興から今日までの欧米へのキャッチアップの過程においては、国民生活の豊かさや利便性の向上のために国土を「開発」することに重点が置かれる傾向があった。これに対して、今後の国土計画では、人口減少・高齢化の進展や環境、資源の制約の高まり等が予想される中で、望ましい国土の姿を実現するため、これまでに蓄積されたストックの利活用、自然の回復や既存集積地の再開発等も含め、適切な利用、開発及び保全を行うことにより、国土をより良い状態で次世代に継承していく「国土管理」の考え方を重視する。 また、既述の国土計画に対する新たな要請を踏まえるならば、今後の国土計画には、@各地域の特性を生かした個性ある発展により、地域の活力を再生・伸長し、地域の自立を促進すること、A各地域の生活、文化、自然等を活かし、多様性に富み、かつ、安全で美しい国土を次世代に継承すること、B地球社会の持続可能な発展に資する国土の形成を目指すこと、が求められる。これら経済、社会及び環境の三面の目標が調和した国土の形成、すなわち、地域の自立の下で、地球社会の持続可能な発展を担う安全で美しい国土を実現し、継承することを国土計画の新たな基本目標とする。
国土は、現在及び将来の国民のあらゆる活動のための共通の基盤である。したがって、国、地方公共団体、事業者及び国民は、基本的な政策の立案から日常的な活動に至るまで、それぞれの立場と役割に応じて国土の適切な管理に努め、上記の基本目標に示した望ましい国土を実現する責務を共に負っている。このような基本認識の下で、地域の自主性を尊重しつつ、望ましい国土の実現に向けた各々の役割を十全に果たし得る、国と地方公共団体の国土計画のあり方が求められている。(参考資料7、8) (1)全国計画 〇全国計画の役割 全国計画は、国土をとりまく諸状況の展望の下に、時代の要請を踏まえた国土全体の有り様、発展の方向等のビジョンを内外に広く示す。これは、行政にとっての的確な指針となるばかりでなく、我が国の進むべき道に関する国民各層の情報共有や合意形成にも資するものとなる。また、国際的な相互依存関係がますます深まり、地球環境問題等の各国共通の課題への対処も求められる時代において、諸外国との調和を基本とした繁栄を目指す日本国民の意思を全国計画で明らかにし、国際社会の理解を深めていくことも重要である。 全国計画は、ビジョンの実現に向け、全国を一体として進めることがより適切な施策について、その基本方向を示す。すなわち、国土全体を通じた多様な交流と連携を支える広範なネットワーク基盤の整備を始め、全国的な視野に立って効率的に行うことが必要な施策の基本方向を国の計画として示さなければならない。また、地球温暖化や資源・エネルギーの供給制約の高まりへの対応等、国土の適切な管理に関し、地球的あるいは全国的観点から対応が必要な事項についての施策の基本方向を示すことも全国計画の役割である。 さらに、国土全体に多様な地域を存続させ、その固有の生活、文化、自然等を次世代に継承するなどの社会的目標を掲げ、その実現に必要な施策の基本方向を示し、国民の合意形成を図ることが全国計画に求められる。 〇国土管理の基本計画としての全国計画 このため、広域交通ネットワーク基盤の整備等、国が主導的な役割を果たすべき施策については、その必要性や基本方向をできるだけ具体的に示すとともに、国としての施策の優先度を明らかにする。生活環境整備等の地方公共団体が主体的に進めるべき施策については、地域の選択と責任の下で行われることが基本であることから、望ましい国土を実現していく観点で、その地域づくりの施策に期待される方向性を示す(後出「(4)国土計画における指針性の充実」参照)。 また、全国計画の内容を、環境等の国土に密接に関係する分野にかかる国の各種の基本計画や、経済財政の運営を始めとした政府全体としての方針と一貫性、整合性が確保されたものとすることが必要である。 〇全国総合開発計画と国土利用計画全国計画の統合 (2)地方公共団体の計画 〇地域の選択と責任による個性ある発展 これまでも地方公共団体は、条例等に基づきその行政の全体にわたる総合計画を自主的に策定しており、今後とも、都道府県や市町村が、計画の策定を通じ、地域住民の総意を結集して、自らの地域のあるべき姿とそのための施策の基本方向を示していくことが必要である。また、計画の策定過程にとどまらず、「計画、実施、評価」の計画プロセス全体を通じた地域住民の適切な参加を促進するとともに、計画の合理的かつ効率的な推進に向けた制度の充実等が望まれる。 〇国と地方公共団体の調和・調整 そうした国と地方公共団体の計画間の新たな関係の下で、全国計画を実現するためには、国と地方公共団体間の密接な意思疎通、双方向の意見交換、言わば不断の意見の対流がこれまで以上に重要である。このため、@全国計画策定における地方公共団体の参加の機会を充実し、その意見を計画に反映することを明確化する一方、参加を通じ全国計画への地方公共団体の理解を深める。A望ましい国土を実現していくために地方公共団体等の施策に期待される方向性等を全国計画に明示し、その施策に反映されるよう努める。B全国計画の具体化の過程で、国と地方公共団体の計画意図の調整を進める仕組みを明確化する。C新たな計画評価手法の開発等により全国計画の進行管理機能を高め、評価過程及び結果を地方公共団体に発信する。また、意思疎通を深める前提として、国、地方公共団体双方での十分な情報公開が不可欠である。 (3)広域計画 〇ブロック計画等、行政区域をまたがる広域計画の現状 現在、国が策定する広域計画として、全総計画とは別に、地方ブロックを計画圏域とする地方開発促進計画と、三大都市圏を計画圏域とする大都市圏計画(以下これらを合わせて「ブロック計画」という。)が策定されている。一部のブロック計画は昭和37年の全総計画に先行して策定され、その地域の発展の構想を提示した。また、それ以降も、ブロック計画は、全総計画を踏まえつつ、関係地方公共団体の協力の下、各地域の独自の発展構想を示し、地域の発展に向けた諸力の結集に役割を果たしてきた。 しかし、これらブロック計画については、その計画圏域と国民の生活・経済圏域等の実態との適合性や、計画目的・内容等について、改めて検討することが求められている。また、全総計画の内容とブロック計画の内容の重複が生じていることなどから、相互の役割をより明確にすることが必要になっている。さらに、関係地方公共団体による計画に盛り込む内容の案の作成等、計画策定過程の改善が求められている。 一方、ブロック計画とは別に、多くの市町村が参加する地域連携軸構想、流域における交流・連携活動の推進、地域における生態系ネットワークの形成、県境山岳地域の天然林保護のための連携等、様々な地理的規模で、各種の機能領域に関し、地方公共団体や民間団体等が自発的に複数の行政区域を対象とした計画や構想の策定を始めており、適切な国土管理の観点からも、今後ますますその重要性が高まると思われる。 なお、基礎的自治体である市町村が三千余に分かれ、総合的な行政を担うことが困難な極めて規模の小さい地方公共団体が多数存在する現状を是正することも重要である。現在、一部事務組合や広域連合等の広域行政の仕組みが導入されているが、効率的な地域づくりを促進する観点から、上記のような市町村等の連携を促進するとともに、市町村合併を今後さらに推進することが望まれる。 ○総合的な広域計画による施策の具体化、総合化と調整 第一に、広域的な圏域における施策の基本方向の具体化と総合化である。既述のように、全国計画は、国の各部局や地方公共団体に分掌された個別施策を通じて具体化されることとなるが、それらの施策が展開される地域においては、住民の生活や生産の場が一体的かつ効率的に整備される必要がある。もとより、これまでも都道府県や市町村は、その行政域に関する各種の個別施策を総合化する機能を果たしているが、国民の諸活動の広域化に対応し、複数の都道府県にわたる広域的な圏域においてこれらの施策を総合化することがこれまで以上に重要となっている。 第二に、国や関係地方公共団体の計画意図の調整である。国際物流・交通施設の整備等、全国計画の具体化は、全ての地域の発展のあり方や具体的な土地利用に大きな影響を及ぼすこととなる。したがって、国と関係地方公共団体が、当該圏域の望ましい整備の基本方針と主要施策の方向について十分な調整を図る必要がある。 上記の要請にこたえる観点から、地方公共団体、とりわけ都道府県をまたがる総合的な広域計画のあり方、その新たな国土計画体系における位置づけ等について一層の検討を進める。この際、@国と地方公共団体又は地方公共団体相互の調整に関する責任の所在を明確にし、調整結果を実効あるものとする観点から、関係地方公共団体の十分な参画のあり方や、最終的な責任ある策定主体としての国の役割について、A計画策定過程等におけるNPOや地域協議会等の多様な主体の参加のあり方について、B国及び各地方公共団体の役割分担を明確にする意思決定過程の構築と、地方公共団体相互の調整を促進・支援する仕組みについて、C通勤・通学等の日常的活動やレジャー等の非日常的活動など、国民の活動範囲やその内容の多様性に留意した計画圏域のあり方について、今後十分な検討を行う。 ○課題に応じた自発的な連携による広域計画 〇ブロック計画の検討 (4)国土計画における指針性の充実 〇「計画、実施、評価」全過程一体での指針性向上 第一に、計画内容については、その重点化を図るため、内容の記述基準等を定める。すなわち、国土計画の新たな理念に照らして効果の大きい事項に記述内容を重点化すること、施策の熟度に応じ、計画期間に実施するものと検討を進めるものの区別を明示すること、可能な限り施策実施主体を明示すること等の記述基準を定め、計画内容がいたずらに総花的となることを避ける一方、戦略的な構想を実現するための新たな措置を示すことなどにより、施策の重点、優先度等に関するメッセージを明確化する。また、計画内容の明確化を図るため、計画フレーム、目標、施策の基本方向等をできるだけ定量的に表現する。 第二に、計画策定過程については、その活性化、透明化を図るため、意見聴取や情報公開等の手続を明確化する。これまでも全総計画の策定に際し、都道府県知事等の意見を聴取するほか、一日国土審議会の開催等のように、国民各層の意見を聴取する試みがなされてきたが、今後は、全国計画策定時の地方公共団体からの意見聴取、計画実施過程における各方面からの継続的な意見聴取、広く国民の意見を求めるパブリックインボルブメント等の手続を明確化する。 第三に、計画評価については、評価指標等を充実し、計画評価のシステムを整備するほか、評価結果を計画実施過程等にフィードバックする仕組みを構築する。国土計画は長期にわたる計画であるため、計画策定後の実施段階における状況の点検はもとより、国土の現状や諸情勢の変化の中で、計画の内容の妥当性が失われていないか等を分析・評価し、それに基づき、以降の計画実施等を改善することが必要である。これまでも国土審議会の審議等を通じて全総計画の点検が行われてきたが、「計画、実施、評価」というマネジメント・サイクルの一環としての計画評価とそのフィードバックの仕組みを計画制度として明確化する。このため、3〜5年毎に全国計画等を総合的に評価し、その結果をいわゆる整備計画等、施策の方向をより具体的に示す計画に適切に反映させることを検討する。 計画評価は、国の各部局における施策の改善を促すだけでなく、地方公共団体等への指針ともなり、さらには行政の国民への説明責任を果たす役割も担うものである。したがって、計画評価の情報は、計画目標に対応した具体的で明確な評価基準に基づくこと等により、客観的かつ国民にわかりやすい形で示される必要がある。このため、国土管理の基本計画としての全国計画の性格に鑑み、個別施策の評価とは別に、行政分野を横断する総合的な分析・評価の枠組みを構築し、これに沿った国土計画独自の計画評価指標や評価手法を充実させる。また、計画評価の客観性を確保するための体制を整備し、評価過程に関する情報公開を徹底するなどにより、計画評価の信頼性を高める方途を検討する。 以上のような改善により、全国計画の実施手段である個別施策に対する指針性を高める。さらに、計画実施にとって特に重要な手段である国土基盤整備と土地利用について、以下のような検討が必要である。 〇国土基盤整備の重点化・効率化に対する指針性の充実 第一に、国土計画の新たな理念に即した整備、評価の基準を構築する。これまでの全総計画においては、地域の経済的発展や近代的で快適な居住環境の整備等を目標に国土基盤の整備基準が設定され、その水準をいかに少ない投資で効率的に実現するかに評価の基準が求められた。これに対し、今後の国土計画においては、経済、社会及び環境の三面の目標が調和した国土の実現を目指す視点から総合化された、新たな国土基盤の整備基準や効率性評価の枠組みが必要である。(参考資料12) 第二に、国土基盤整備の分野別、地域別配分等の重点化に対する指針性の向上を図る。国土基盤整備は事業が長期間にわたるため、計画期間を通じた社会的ニーズを展望し、今後重要となる国土基盤整備の分野等を全国計画に明確に示すことにより、長期的な重点化・効率化の方向性についての指針性を高めることが必要である。また、国と地方公共団体それぞれの投資を密接に連携させ、地域全体としての効率的な国土基盤整備を図るために、全国計画は、こうした調整の前提となる、国として進めるべき国土基盤整備の重点を示すものでなければならない。 以上の要請にこたえるため、「総合的国土基盤整備・評価指針」を全国計画に定めることとし、その内容、同指針の関連国土基盤整備計画や総合的な広域計画への反映の方途について検討する。 〇土地利用に対する指針性の充実 これまでの国土利用計画全国計画は、相対的に強い開発需要が続く中で、行き過ぎた経済諸活動の展開による土地利用の混乱や地価高騰等の開発に伴う弊害に対処するため、国土全体としての農用地、森林、道路、住宅地等の「利用区分別国土利用」のあり方等を示すことにより、国土に展開される諸活動と土地利用の調和ある姿の基本方向を示し、土地利用に関する関係主体の指針となるものとされてきた。しかし、工業用地等の開発需要が鎮静化する一方、環境共生型の地域づくりが求められるなど、土地利用に関連する新たな要請が生じている。 このため、今後の国土計画においては、「利用区分別国土利用」を含め、全国計画の土地利用に関する計画内容について、経済、社会及び環境の三面の目標が調和した国土の実現を目指す観点から見直し、国の行政機関や地方公共団体等に対する的確な指針を示す。 具体的、即地的な土地利用のあり方については、それぞれの地域に固有な要因が重要であり、今後とも都道府県や市町村が中心的役割を担い、各地域の実情を踏まえて計画を立案、運営することが基本であるが、このような地方公共団体の土地利用計画が、総体として国土全体の望ましい姿の方向性と調和したものとなることも必要である。このため、現在進められている地方公共団体の総合的な土地利用計画の整備・充実に関する検討と連携しつつ、上記のような全国計画の指針性を高める等の措置の検討が必要である。 こうした観点も含め、幅広い視点から、新たな国土計画体系における全国計画と地方公共団体の総合的な土地利用計画等との計画間の関係についても、国と地方公共団体が各々の役割を尊重しつつ、必要な事項について調和・調整を図るという考え方を基本に、一層具体的な検討を進めることが必要である。また、望ましい土地利用の実現に向けた地方公共団体の計画制度についての検討が望まれる。 〇総合的な国土計画情報の整備、提供 |