この計画は、目標年次2010-2015年までの計画期間中に、国土構造転換への道を切り拓き、長期構想「21世紀の国土のグランドデザイン」実現の基礎を築くことを目標に、時代に適合した課題を設定し、戦略的に施策を展開する。
国民意識の転換が進み、少子化、高齢化にともなう人的、財政的制約が増すこの計画期間中の国土づくりには、各地域の個性的で主体的な地域づくりへの取組とともに、国、地方公共団体に加え、民間企業、ボランティア団体、地域住民等多様な主体の責任ある積極的な参加と、各主体の資質を生かした相互の連携がこれまで以上に求められる。この計画は、地域の選択と責任に基づく主体的な地域づくりを重視して、多様な主体の参加と相互の連携によって国土づくりを進める新たな指針を示すものである。
- (自立の促進と誇りの持てる地域の創造)
第1に、地域が自ら将来の展望を切り拓くことが可能となるよう、地域の自立を促進し、自然や文化を重視した誇りの持てる地域を創造する。
多軸型の国土構造を形成し、人々の価値観に応じた暮らしの選択可能性を高め、多様性に富んだ美しい国土を実現していくためには、各地域において、質の高い生活と就業を可能とし、歴史や風土、文化的蓄積等の地域の特性を生かした自立的な地域づくりを進めていくことが重要である。この地域づくりは、各地域の選択と責任による主体的な取組を基本として行われるべきである。
地域の自立を促すため、地方分権の推進等の制度的な条件を整えるとともに、生活に必要なサービスを提供する生活基盤と地域の自助努力による発展を可能とする国土基盤を一定の条件内で整備するなど機会の均等化を進める必要がある。このような条件整備の下で、各地域は創意と工夫によって、地域の特性を生かしつつ、魅力ある地域づくりを進めていくことが期待される。
- (国土の安全と暮らしの安心の確保)
第2に、大規模な地震を始めとする様々な自然災害等に対し国土の安全性を向上するとともに、長期的に見込まれる人口減少・高齢化、世界的な気候変動や地球資源の減少に対し、暮らしの安心を確保する。
阪神・淡路大震災を契機に、改めて災害に対する安全の大切さが認識され、国土の安全性の確保や危機管理体制の充実が一層強く求められている。我が国の国土が自然災害を発生しやすい特性を有していること等を踏まえ、自然との共存や国土構造上の災害対応力の向上という視点も含め、災害に対し粘り強く、かつ、しなやかに対応していくことが重要である。阪神・淡路地域の復興については、これを着実に進めるとともに、今後の高齢化時代における安全な国土づくり、地域づくりのモデルとして生かしていく必要がある。
また、少子化、高齢化とともに、国民の価値観、生活様式の多様化が進む中で、性別、年齢にかかわらず社会に参加し、生きがいを持って安心して暮らすことのできる豊かな地域社会を実現することが求められる。さらに、世界的な気候変動や食料・エネルギー需給の逼迫が懸念される中で、日々の生活に欠くことのできない水、食料、エネルギー等の安定的確保に取り組む必要がある。
- (恵み豊かな自然の享受と継承)
第3に、人類の生存基盤である環境と資源の有限性を認識し、精神的、物質的な恵みをもたらす豊かな自然を持続可能な形で享受しつつ、将来に継承する。
国土の自然環境は、国民がゆとりと美しさに満ちた暮らしを営む上で不可欠な精神的、物質的恵みをもたらす存在であるとともに、人類共通の生存基盤である地球環境と一体をなすものであり、自然と人間との豊かなふれあいを保ちつつ、これを美しく健全な状態で将来世代に引き継いでいくことが求められる。
このため、自然環境の量的減少と質的劣化の進行に対し、今後、生物の多様性の確保という視点も含め、望ましい国土構造を支える自然のネットワークを重視して、美しい田園、森林、河川、沿岸等において自然環境の保全と回復を図るとともに、人の活動と自然とのかかわりを再編成していくことが重要である。地球環境を損なうおそれのある大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済社会活動や生活様式を見直し、自然の再生能力や浄化能力を活用しつつ、資源・エネルギーの循環的、効率的利用を進め、自然界の物質循環への負荷の少ない諸活動の営みを可能とする循環型の国土を形成していく必要がある。
- (活力ある経済社会の構築)
第4に、国内外の地域間競争が厳しさを増す中で、豊かな生活と雇用の安定を確保できるよう、経済構造改革を進め、活力ある経済社会を構築する。
経済のグローバル化の進展及びアジア地域の経済的な急成長にともない、国境を越えた地域間競争が一層激化し、企業が国や地域を選ぶ時代を迎えている。また、今後、我が国の少子化、高齢化の進行にともない、経済活力の低下が懸念されている。こうした中で、望ましい国土構造実現の基礎を築くためには、地域の資源を生かしつつ付加価値の高い産業を育成し、また、新しい生活様式に対応する新たな産業を創出することにより、活力ある経済社会を構築していくことが求められる。
このため、規制緩和の推進等による自由な事業環境の整備を進めるとともに、高コスト構造の是正や、物流、情報通信、国際交流等の基盤とそのソフト面も含めた充実等を図ることによって、国際的にも魅力ある立地環境を整備し、我が国に立地する企業の国際競争力を高めていくことが重要である。また、研究、技術開発や人材育成機能を充実するとともに、産学官の連携と協力等により新規産業の創出と既存産業の高度化を促すことが重要である。
- (世界に開かれた国土の形成)
第5に、全国各地域がそれぞれの特性を生かして国際的役割を担い、世界と交流し、国土の隅々までが世界に開かれる状況を創出する。
国境を越えた経済、学術、文化、スポーツ、観光等多様な分野における地域間交流が活発化し、しかも、日本企業や日本人が海外に進出するのみならず、外国企業や外国人が日本を訪れ、活動する機会が一層増えると見込まれる。このような地球時代において、世界に誇り得る我が国のアイデンティティを確立できるよう、全国各地域が地球社会を構成する一員であるという認識に立ち、各地域の持つ資源、魅力を生かして国際的な役割を担うことができるよう条件を整え、アジア・太平洋地域を始めとする世界に開かれた国土構造実現の基礎を築いていく必要がある。
このため、国際交流を促す制度的取組や国土基盤の整備とともに、我が国において整備される世界的な水準の学術、医療等の基盤が、我が国の利用のみならず、アジア・太平洋地域を始めとする世界の人々の利用にも供せられるよう整えていく視点が重要となる。さらに、環境、防災等地球規模で対処すべき課題に対して、我が国の技術や経験を生かしながら、国及び地域が国際的活動に積極的に参画し、協力していくことが求められる。