「21世紀の国土のグランドデザイン」 第2部 第2章 第2節

第2節 地域の個性を生かす新しい文化の創造と発信


1 個性あふれる新たな地域文化の創造と発信

 地域の風土や生活の中で育まれてきた伝統文化は、新しい文化を創造する基礎ともなるものである。したがって、今日においてその価値を改めて認識し、時代の新しい流れの中でさらに豊かに育て、地域のアイデンティティの基礎となる個性豊かな地域文化を創造し、発信することは重要な課題である。そのため、地域における文化活動の環境整備を図り、新しい文化の創造に資する施策を展開するとともに、地域の特性を生かした個性豊かな地域づくりを推進する。

 (1) 地域における文化活動の環境整備

 個性豊かな地域文化を創造し、発信するため、各地域で受け継がれてきた伝統文化を再認識し、新たな芸術文化活動が生き生きと人々の生活の中に展開されるような環境整備を図ることが重要である。このため、文化会館や美術館等の文化施設について、地域住民の自主的な文化活動の場等に積極的に活用するなど、地域固有の魅力の形成と発信の場として、地域特性を生かした環境整備を進める。その際、我が国の文化に関する情報のデータベース化、内外からのアクセス機会の確保等を進めるとともに、ジャンル別専用ホール等の特色ある文化施設を効率的に活用するため、地域連携による広域的観点からの整備及び運営を進める。また、施設等の整備の進展に比して、指導的スタッフや企画制作のノウハウの不足等により、自主公演や企画展が十分でないなどソフト面での基盤が脆弱であることを踏まえ、今後、文化施設の運営や芸術家・芸術団体の活動を支えるアート・マネージメントに係る人材育成の強化等ソフト面の施策に重点を置きつつ、その整備を推進する。さらに、健康的で活力に満ちた地域づくりが行われるよう、指導者や団体の育成や施設整備、地域レベルの大会や講習会の支援、コンクールの開催等を通じて、地域住民が継続的に文化・スポーツ活動に参加できる環境を整備する。

 (2) 地域特性に応じた新しい文化の創造

 農山漁村を始めとする地方圏においては、豊かな自然環境等を生かして国内外の芸術家等が滞在して創作活動を行ったり、農山漁村の生活文化に触れる機会を拡充するなど、個性豊かな文化風土の醸成を図る。また、中枢拠点都市圏等においては、既存の人口や情報等の集積を生かして、文化的重層性を持つ国際的な情報と文化の拠点となることを目指し、国際的水準の文化活動拠点の整備、国際交流基盤の整備を進めるとともに、快適な都市の賑わいを創出する文化性の高い空間の形成、都市景観やデザイン性等に配慮した建築設計等により都市の象徴となる空間の形成等を通じて新しい都市文化の創造を図る。


2 芸術文化に彩られる豊かな生活の創造

 優れた芸術は世代を超えて多くの人々に様々な感動や喜び、やすらぎを与え、豊かな日常生活の支えとなるものであり、芸術文化活動への参加や鑑賞機会の拡充を図る必要がある。同時に芸術は国際社会における相互理解を促進していく上でも大きな役割が期待されるものであり、積極的にその水準の向上を図っていくことが必要である。

 (1) 芸術に触れる機会の拡充

 創作性の高い公演や企画展等が依然として大都市圏に集中し、住民の芸術鑑賞機会には大きな地域間格差が存在する状況を踏まえ、全国各地域において質の高い芸術を鑑賞する機会を拡充することが必要である。このため、文化施設相互の連携を促進し、ソフト面での施策の推進を図るとともに、地域の芸術文化団体等の活動の促進に努める。また、地方公共団体において、広域的な地域連携により、巡回事業の活用を含めた円滑な公演、展示活動等により鑑賞機会の拡充を図るとともに、美術館等の開館時間の延長の検討を含め、地域住民が優れた芸術文化を楽しむことができるよう努める。さらに、地域住民の文化活動への参加を促進し、地域における文化団体等の自主的な活動の充実や地域文化振興への協力体制の充実を図る。

 (2) 芸術文化の水準の向上

 国際的水準の芸術文化の創造と発信が都市文化の洗練や「小さな世界都市」の形成につながるものであることを踏まえ、国際的にも評価され得る多様な芸術創造活動の推進を図るとともに、芸術家、芸術文化団体等の地域に根ざした芸術創造活動を促進する。また、優れた映画芸術の製作や新しい技術を活用したメディア芸術の振興のための施策を推進する。


3 国際交流・協力の推進

 学術、文化、スポーツ等における国際交流・協力は、世界の様々な文化を持つ人々が互いに理解しあう上で大きな役割を果たしている。我が国が新しい世界文化の創造と発展に積極的に寄与するとともに、それぞれの地域において世界に開かれた交流を通じた地域の活性化を図るためにも、積極的にその推進を図っていくことが重要である。

 (1) 国際交流の推進

 学術分野において、研究者の交流の増加に対応した受入れ体制の整備を推進するとともに、体系的な留学生受入れ数の増加のための計画を総合的に推進する。その際、滞在する地域や教育機関の内外において、日本人との暖かいふれあいの生まれる環境を整備する。また、地域における日本語教育等への需要の増大に対応する。

 文化分野において、地域の文化財等の海外交流展や舞台芸術の海外公演等が計画的、継続的に実施されるよう努めるとともに、地域における国際的な芸術フェスティバルの開催を推進する。また、諸外国の文化財保存修復協力への期待にこたえ、現地の専門家の人材育成等に対する協力や国際的な保存修復機関との交流、協力等を行う。

 スポーツ分野において、国内各地で開催予定の国際競技大会の準備に対し必要な協力を行うとともに、これらの大会の開催等を通じた地域活性化や国際交流の推進を図るため、施設の整備、運営に対し必要な協力を行う。

 また、今後、地域間、個人同士での国際交流が進む時代を迎えることから、地域における民間主導の国際交流への支援を進めるとともに、地方公共団体における国際的な人材育成のための方策等を促進する。

 (2) 国際的な交流拠点の形成

 広域国際交流圏において、交流・発信活動の拠点の整備を推進する観点から、美術館、博物館等の展示・研究機能や国際化に対応したサービス機能の向上を図るとともに、各地域の国公私立博物館・美術館相互の連携、協力を推進する。国際化、情報化に対応した国立博物館、美術館等の整備を推進し、国際的な文化拠点を整備する。また、国際会議等を開催できるコンベンションホールやスポーツ施設等の交流施設の整備を推進する。


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