「21世紀の国土のグランドデザイン」 第2部 第4章 第1節


第4章 産業の展開に関する施策


 我が国が今後とも経済の活力を持続し、豊かな生活と雇用の安定の確保を実現していくためには、経済構造や金融システム等の改革を進め、成長が期待される産業を中心として、産業構造の転換、人々のニーズへの的確な対応等を図るとともに、外国企業の対日投資の促進やアジアとの国際分業関係の一層の深化を図る必要がある。経済のグローバル化にともなう国際競争の本格化及びアジア諸国の急成長、情報化の進展、産業構造の変化等を背景として、我が国の地域産業は急激な転換を迫られている。我が国の経済発展を牽引してきた自動車、電機等の量産型加工組立産業や伝統的な地場産地、企業城下町等の工業集積は、国際競争の激化の中で空洞化の懸念が高まっており、地方都市の商業・サービス業についても、輸入品の急速な浸透、流通ネットワークの再編等により厳しい競争にさらされている。さらに、財政構造改革にともなう公共事業の削減により、地域経済に影響が及ぶ場合も予想される。今後の我が国産業を展望すれば、産業機械等の資本財等国際的に比較優位な産業や、医療・福祉、生活文化、情報通信等国民の新しい需要に対応する産業等が発展していくものとみられる。さらに、これらの産業を支える機能を有する、ビジネス支援関連分野、人材関連分野やソフトウェア、企画・設計等の知識財を生産する産業についても、今後の発展が見込まれる。このため、我が国経済構造等の改革を視野に入れつつ、次の施策の展開等を通じて、多様な特性や条件を有する全国各地域において、活力ある地域産業の構築と雇用機会の確保を図るとともに、国際的な立地競争力を高め、我が国に立地する企業の国際競争力の強化を図る。

研究開発・人材育成基盤の飛躍的強化等を通じて知的資本の充実を図るとともに、新たな 産業展開のための支援策の充実や産学官連携・協力の強化を図り、地域における「産業創出の風土」を醸成する。
規制緩和の推進等による自由な事業環境の整備や高コスト構造の是正及び交通、情報通信 基盤の整備等を通じて国際的に魅力ある立地環境を整備する。
農林水産業の新たな展開を図るとともに、多自然居住地域において、これらを基幹とし様 々な分野に複合的に取り組める「新ふるさと産業システム」とも呼べる産業展開や自由時間関連産業の展開を図る。また、高度情報通信の活用による知的生産活動の環境整備を進める。

第1節 科学技術の振興と「産業創出の風土」の醸成


 知識・技術・情報等を創出する研究開発活動等に必要な施設・設備、制度・仕組みや、それらによって育成される創造的な人材等を知的資本ととらえ、これを格段に充実するとともに、新規産業の創出や既存産業の新規分野への事業展開を促進する環境を整備することにより、大都市圏及び地方圏のそれぞれの地域において、地域の内部から自立的に新しい産業の展開を促す「産業創出の風土」を醸成することが必要である。

1 知的資本の充実

 (1) 研究開発施設等の整備充実

 高度な研究開発や教育活動を展開するとともに、国際社会に貢献する独創的・先端的な研究開発の一層の推進を図っていくため、大学をはじめとする高等教育機関や試験研究機関等の教育・研究開発施設の整備を推進する。高等教育機関については、とりわけ、時代の要請に対応した学術研究の一層の進展を図るためには大学院の果たす役割が大きく、先端的・学際的分野を対象とする研究科の新設を促進するなど、その一層の高度化・活性化を図る。また、高性能化・大型化への要請に対応した研究設備の整備を推進するとともに、競争的資金の充実を図るなど、研究開発投資促進のための重点的な措置を講じる。さらに、国公設試験研究機関や民間企業の研究所、研究開発機能を有する工場等の立地の促進及びそれらの研究開発施設・設備等の共同利用の促進を図る。また、研究開発環境の整備充実を図るため、研究開発活動の場における競争原理の導入、制度・慣行・手続上の制約の緩和や弾力化、審査処理期間の短縮化等知的財産制度の整備改善及び地域における特許情報提供体制の整備、基本規格や試験・評価方法等の標準化等を推進する。

 (2) 研究者等人材育成の強化

 次代を担う創造力豊かな研究者等の人材に対する適切な処遇と活躍の機会の確保と、研究・生活環境の充実を図るため、各種の特別研究員制度の拡充等による若手研究者支援の強化や研究費の確保、研究環境の整備、研究評価システムの整備等に努めるとともに、将来の科学技術系人材を確保するため、児童生徒が生命、宇宙の諸現象等に関わる科学技術に親しむ機会の充実や大学・高等専門学校の理工系分野の魅力向上に努める。また、地域の研究機関等において、共同研究の構築・運営等に当たるコーディネーターを重要なスタッフとして位置付け、積極的に活用する。さらに、高度情報化を支える人材の育成・確保を図るため、高等教育機関等における高度な情報技術者・研究者等の育成強化や情報処理教育の充実、地方公共団体や民間企業等における研修制度の一層の充実等を図る。

 (3) 新たな研究開発拠点の整備

 地域の科学技術水準の向上を図るため、地域における先導的・基盤的研究開発等を積極的に推進するとともに、それらを結集することにより世界的水準の研究領域を開拓し、創造的な技術シーズを創出するための研究開発基盤の整備充実を図る。また、産学官の機関のネットワーク化や研究開発投資の重点的な措置により、筑波研究学園都市及び関西文化学術研究都市の整備を推進するとともに、広域国際交流圏の形成の核ともなる国際的水準の新たな研究開発拠点の整備を図る。


2 新規産業創出・新規分野への展開を促進するための環境整備

 (1) 新たな産業展開のための支援策の充実

 新規産業の創出や既存産業の新規分野への事業展開を促進し、地域における雇用の創出を図るため、新製品の開発を行う企業や創業間もない企業に対する資金供給の円滑化を図るとともに、賃貸工場や研究施設の整備を図る。企業の持つ技術シーズと市場のニーズとを結びつける人材の育成・確保やベンチャーキャピタル等の支援制度に関する情報提供や大学、試験研究機関等の有する技術シーズの流通促進等の施策の強化を図る。また、高等教育機関等における創業意欲にあふれる人材の育成強化、企業内ベンチャーを評価する企業に対する支援等を行うとともに、チャレンジ精神を持った起業家を高く評価するなど、意識面からも地域の「産業創出の風土」の醸成を図る。さらに、既存の生産機能の集積や自然、文化等の地域資源を活用した街並みや交流拠点を整備するなど、産業振興とまちづくりを一体的・相乗的に推進することによって地域の個性と魅力を創出し、地域産業の高度化及び既存産業の新規分野への事業展開を促進する。

 (2) 地域内の産学官連携・協力の強化

 地域の研究開発ポテンシャルを結集し、地域における新たな産業の展開に結びつけるため、高等教育機関、国公立の試験研究機関、民間企業の研究部門等の地域内での連携・協力を強化する。公設試験研究機関においては、行政区域を越えた技術情報交換や共同研究、試験研究設備等の相互利用等、広域的な連携の推進を図る。高等教育機関においては、地域の民間企業等との共同研究や受託研究、技術相談や技術教育等を推進するため、資金・研究者等の一層の流動性を確保する。また、研究開発を支援する共同研究センター等の設置を推進するとともに、地域における産学官の連携・協力の促進を図るための協議機関等を設置するなど、人材や施設・設備の整備充実を図る。さらに、地域戦略や企業経営・市場戦略等のコンサルタント機能の強化を図る。一方、専門高校等においても、地域の産業界との連携を推進する。

 また、これらと併せ、情報通信網を活用して、複数の産学官の研究機関等の共同研究や研究交流を促進するための研究開発等を推進する。


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