「21世紀の国土のグランドデザイン」 第3部 4

 

4 中部地域


−先端的産業技術の世界的中枢としての役割を果たし、全世界を対象に多様な交流が活発に行われる地域−



 (1) 地域整備の基本方向

 中部地域は、人口重心に代表されるように我が国の中央に位置し、全国を対象とする物流、交流機能が立地する上で最も有利な条件を備えている。自動車、精密機器、電子機器、航空宇宙やファインセラミックス等の先端的な工業・技術集積、先進的な農林水産業を有する。日本を代表する美しい自然や歴史的蓄積等に恵まれるとともに、これらが多くの都市圏と近接しているという特徴も持つ。

 以上のような特性を生かし、中部地域は「先端的産業技術の世界的中枢としての役割を果たし、全世界を対象に多様な交流が活発に行われる地域」となることが期待される。名古屋圏については、既存の産業集積を核に世界的なレベルの産業技術中枢圏域としての役割を高めるとともに、対外的には世界を対象とする諸活動の拠点、対内的には、我が国全体を視野に入れた人流・物流の拠点となり、国内外との密度の濃い交流を通じて21世紀社会を切り拓く知恵や価値が創造される圏域となることを目指す。内陸、南部地域は、豊かな自然に恵まれた多自然居住地域と小さいながらも特定分野で最先端の技術を持つ都市とが織りなす、美しさと知的な機会に満ちた圏域となることを目指す。東部地域は、産業創出の風土の下で独創性のある多彩な産業が育まれるとともに、地域産業と関連した分野の文化活動等を通じた交流が活発に行われる、世界に開かれた自立性の高い圏域となることを目指す。

 このため、国土の中央部を広く被う広域国際交流圏を形成する。また、名古屋圏においては、リノベーションを推進し、中部山岳地域や東紀州、三河湾等の自然の豊かな地域においては、多自然居住地域の創造を推進する。さらに、域内外に地域連携軸を展開し、地域の自立と活力ある地域形成を促進する。加えて、東海地震等への備えを充実させる。

 これらを通じ、長期的に、中部山岳地域及び内陸部に日本海国土軸及び北東国土軸が、東紀州から伊勢湾沿岸に至る地域及びその周辺地域に太平洋新国土軸が、太平洋ベルト地帯とその周辺地域に西日本国土軸が形成されていく。


 (2) 施策の展開方向

 名古屋圏、静岡・浜松を核とする中枢拠点都市圏及び長野を中心とする地方中核都市圏においては、中部国際空港、伊勢湾諸港における耐震性の高い国際海上コンテナターミナル群や清水港等及びこれらへのアクセスのための交通基盤の整備等を進めるとともに、都市の規模や特性に応じて、物流拠点、コンベンション等の国際交流機能、研究開発機能等の集積を高める。また、世界遺産に登録された白川郷・五箇山の合掌造り集落等の歴史・文化遺産、産業遺産や文化の域にまで達したモノづくりを観光資源として活用し、外国人観光客の誘致を含む、国際・国内観光の振興に向けた施策を実施する。さらに、2005年日本国際博覧会等の開催により交流の機会を積極的に創出する。これにより、中部地域とその周辺を広く覆う広域国際交流圏を形成する。

 名古屋圏においては、良好な居住環境の整備、名古屋市内における老朽木造密集市街地の解消を図るとともに、大規模低未利用地を活用した既成市街地の土地利用転換や基盤整備、伊勢湾の水質改善等を伊勢湾の湾岸地域が一体となって進め、加えて、都市内交通の円滑化に資する名古屋環状2号線を含む自動車専用道路の整備、通勤・通学の混雑緩和を図るための都市鉄道の整備等によりリノベーションを推進する。中心都市である名古屋を取り巻いて比較的分散して配置されている諸都市を結び、これら都市間の連携と機能分担の下、教育・文化、国際交流等の高次都市機能の強化と先端的な産業技術、デザインに関する研究開発拠点の整備を図る。これらを支援するため、東海環状自動車道等の整備を進める。また、大都市圏間の円滑な交通に資するため、第二東名、第二名神高速道路の整備を進める。

 静岡・浜松を核とする中枢拠点都市圏においては、名古屋圏、東京圏との適切な機能分担と連携の下、中枢管理、研究開発、情報、国際交流等の高次都市機能の強化及び基礎研究、応用研究の産学官の連携による新規分野の開拓等の産業集積の高質化を図る。長野を中心とする地方中核都市圏においては、高速交通体系を通じた東京圏とのアクセスを生かし、商業・サービス、教育・文化等の都市機能の充実を図る。また、エレクトロニクス、精密工業等の分野において特色ある世界水準の技術集積を持つ地方中心・中小都市においては、周辺地域及び他の都市圏との連携を強化するとともに、自然との調和を図りながら研究開発施設の立地や産業集積地域における立地環境の整備等を促進し、産業の活性化を図る。

 東海地震等大規模地震等による災害に備えるため、防災施設の整備や防災体制の強化を図るとともに、交通体系への重大な影響を回避するため、幹線交通の集中している地域において災害対策を推進するほか、交通ネットワークの多重化、多元化を図る。

 多自然居住地域の創造に向け、日本アルプス等の中部山岳地域や富士山周辺地域等の山岳系の自然環境と熊野灘から相模湾までの沿岸地域に断続的に広がる海洋性の自然環境、古来より東西文化交流の回廊としての役割を果たす中で育まれてきた貴重な文化遺産等を保全、活用して、個性が光る魅力的な地域づくりを推進する。このため、圏域の拠点となる中小都市の整備、地域内交通基盤や生活環境の整備及び自然とふれあうための条件整備を行うとともに、特色ある農山漁村の美しい景観の維持、個性ある地域文化の醸成を図るなど、美しくアメニティに満ちた地域づくりを進める。また、農林水産物の生産・加工・流通基盤の整備、木材の供給体制の整備、水産資源の管理・増養殖等に加え、果実、野菜等の品種改良やブランド化、多産業複合経営化等による付加価値の高い農林水産業の振興を図るとともに、観光ルートの創設や温泉等をテーマにしたイベントの共同開催等、観光地間の連携による地域資源の活用を通じて、地域相互や都市との交流による自由時間関連産業の活性化を図る。あわせて、高度情報化により立地面で自由度が高まった産業の誘致を進める。さらに、大井川・安倍川、矢作川等の流域での連携を推進し、上流地域の活性化や森林の整備、自然環境や水質の保全を図るとともに、洪水や土砂流出等の自然災害への対応、海岸の保全等を図る。

 産業創出の気風に満ちた諸都市と豊かな自然を有する地域を含む地域連携軸を域内外に展開する。東三河、遠州、南信州において異業種間での技術や人材の交流により地域の新しい活力を創出するとともに、都市機能と自然の調和により新たなライフスタイルを可能とする地域連携軸、名古屋圏と北陸地域の国際交流拠点を連結することにより我が国の中央という位置条件を生かす地域連携軸、異なる自然や国際交流機能を相互に利用しあうとともに、防災面での地域協力を推進する、駿河湾と甲信を結んで東京圏を環状に取り巻く地域連携軸の一翼を担い、さらに上越まで伸びる地域連携軸、太平洋、琵琶湖、日本海の三つの「うみ」を生かし、環境保全活動の連携や多彩な食文化を魅力とする観光を通じて、三重、滋賀、福井を結ぶ地域連携軸、北アルプス、日本海の豊かな自然と伝統文化等を生かした広域観光ルートを形成する、山梨を起点とし長野中央部から飛騨を経て福井へ至る地域連携軸、伊勢志摩、吉野熊野、瀬戸内の豊かな自然と古代から近世に至る歴史遺産を結びつけることで、より魅力的なくつろぎの場を提供する地域連携軸等の形成を図る。

 このため、高規格幹線道路については、沿岸部と内陸部を結ぶ東海北陸、中部縦貫、中部横断、三遠南信自動車道の整備を進めるとともに、半島地域において近畿自動車道紀勢線、伊豆縦貫自動車道の整備を進める。また、小松白川連絡道路について事業の具体化を図るなど地域高規格道路の整備を進める。紀伊半島の東岸から西岸に至る東海、南海を結ぶ地域での連携推進を図るための交通体系の強化について検討する。伊勢湾口道路の構想については、長大橋等に係る技術開発、地域の交流、連携に向けた取組等を踏まえ調査を進めることとし、その進展に応じ、周辺環境への影響、費用対効果、費用負担のあり方等を検討することにより、構想を進める。あわせて、北陸新幹線については、政府・与党検討委員会検討結果に基づき、長野・上越間について着実に整備を進めるとともに、静岡空港を新設するなど、広域的な交流を支える高速鉄道、空港、港湾、高度な情報通信基盤の整備を図る。


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