「21世紀の国土のグランドデザイン」 第3部 9


9 九州地域


−アジアと一体化して発展する九州−



 (1) 地域整備の基本方向

 九州地域は、アジアとの地理的・文化的な近接性が高く、歴史的にも我が国とアジアとの交流において重要な役割を果たしてきており、21世紀に向けて成長が期待されるアジアへのゲートウエイとしての優位性を持っている。同時に、工業を始め農業、水産業、観光等様々な局面において、周辺諸国との厳しい地域間競争に直面している地域でもある。また、相当規模の都市が適度な間隔で立地する一方、自然環境に恵まれた離島、半島部、山間部等を有し、都市の利便性と豊かな自然を併せ持つ地域である。さらに、地域づくりの先導的な取組が行われてきた地域でもあり、近年は地域連携による新たな試みが進められている。

 このような地域を取り巻く状況や特性を踏まえ、本地域は、我が国のアジアへのゲートウエイにとどまらず「アジアと一体化して発展する九州」を目指す。

 このため、隣接地域をも視野に入れ、アジアを強く意識した広域国際交流圏を形成し、アジアとの経済、文化等の幅広い交流と連携を推進する。また、域内の一体的発展に配慮しながら、我が国の食料・木材供給基地として重要な役割を果たす多自然居住地域の創造と個性的で魅力的な都市圏の整備を進めるとともに、多様な交流と連携を行う地域連携軸を展開し、都市の利便性と豊かな自然とを同時に享受できる地域を全域に拡大することを目指す。これらを通じて、長期的に、本地域を幅広く覆う太平洋新国土軸が形成されていき、また、本地域が西の起点となる日本海国土軸及び西日本国土軸の形成にともない、西日本における国土軸の結節点になっていく。


 (2) 施策の展開方向

 福岡・北九州、熊本、鹿児島、長崎、大分等の中枢拠点都市圏・中核都市圏において、安全で快適な都市環境の整備、各都市圏の規模、特性に応じた中枢管理、研究開発、高次の教育・文化等の高次都市機能の集積を図るとともに、各都市圏相互の機能分担と連携を進める。

 地理的・歴史的特性を生かした広域国際交流圏の形成を促進する観点から、国際的な文化拠点やコンベンションホール等の交流施設の整備を進めるとともに、域内の特色ある国際交流の取組を推進する。さらに、着実に増大かつ多様化している国際旅客・物流需要動向等に対応するため、本地域のゲートとなる国際空港機能の強化方策について十分調査検討を行うとともに、北部九州諸港における耐震性の高い国際海上コンテナターミナル群、及び志布志港等の整備を推進するなど国際交流・物流の拠点となる基盤の強化を図る。加えて、これらの利便性を高めるためアクセスのための交通基盤の整備等を進める。

 また、アジアを始めとする諸外国との幅広い交流を基礎として、経済、文化等に係る諸活動の高度化、多様化を図る。新規産業の創出や既存産業の国際競争力の向上を図るとともに、アジアにおける研究開発や技術研修等の拠点としての機能を強化するため、電子・機械産業等の既存の産業集積を活用した産学官の連携、高等教育機関、試験研究機関等の知的資本の充実及びそれらのネットワーク化等により研究開発機能の強化を図る。あわせて、アジアとの国際分業の一層の深化を視野に入れ、外資系企業の立地促進の視点を含め産業立地環境の整備を進める。さらに、先進的な環境技術の移転等の技術協力プロジェクトを支援するとともに、留学生、研修生等の受入体制の構築、国際会議、国際競技大会の開催等による幅広い交流を進める。特に、近年、近隣アジア諸国からの観光客が増加しているのを受けて、世界遺産の屋久島を始めとした美しい自然環境、豊富な温泉、有形、無形の文化財等を十分に生かして、国際的な観光地としての環境整備と周遊型の広域観光ルートの整備を進め、観光を通じてアジアを始めとする諸外国の人々との交流を深める。

 一方、九州中央山岳部等の都市機能の集積から離れた地域は、農林水産業、観光等の振興を通じた多自然居住地域の創造を目指し、交通基盤等の整備により域内外との連携の強化を図るとともに、生活基盤、高度な情報通信基盤の整備や中小都市等の都市機能の充実等を進め、活性化を図る。また、これらの地域は、自然環境に恵まれている反面、洪水、土砂流出、雲仙・桜島等の火山活動等による自然災害に見舞われやすいことから、災害に強い地域づくりや海岸の保全を進めるとともに、医療・福祉の充実を図り、安心で快適な生活空間を創出する。さらに、適切な国土管理を行うため、森林の持つ国土保全機能等に着目し、その十分な発揮に向けた間伐の推進等諸施策の展開を図る。

 また、自然条件に恵まれた多様な農業生産、収穫段階に達する豊富な森林資源、豊かな水産資源等を生かした農林水産業の新たな展開や担い手の育成を図る。あわせて、我が国の食料・木材供給基地としての重要な役割を果たすため、生産・加工・流通基盤の整備・高質化による生産性の向上、コストの低下を図り国際的な競争力を高めるとともに、生産技術等のノウハウの交換等を目的とした交流と連携の推進を図る。また、グリーン・ツーリズムや体験農園等の推進を通じて、多自然居住地域と都市圏との交流の促進を図る。

 各地域が相互に交流と連携を図ることにより、それぞれの地域の多様な豊かさを共有し、活力ある地域づくりを進めるため、地域連携軸を縦横に展開する。

 九州北部地域において、ダム群連携等による総合的な水資源対策の推進に留意しつつ、先進的な国際交流の一層の促進を図るため、研究学園都市や歴史回廊等アジアとの文化・学術・研究面での交流拠点を形成するなど国際色豊かな一体的圏域の形成を図る。また、東九州地域においては、都市機能、工業集積、観光資源等の集積間の遠隔性を克服し、そのポテンシャルを生かした地域の更なる発展を図るため、交通体系や流通拠点の形成等により魅力ある産業、文化軸の形成を図る。一方、西瀬戸地域においては、中国、四国地域との交流と連携を進める観点から、産業、観光等において、海を介した様々なネットワークの形成を図る。

 九州中央の諸都市が縦に連なる地域では、高次都市機能の広域的な享受、産業連携の強化等を目指した交流・連携の一層の推進を図る。また、中九州地域において、交通体系の形成を図りつつ、恵まれた自然を生かした広域観光ルートの強化や菊池川、大野川等における流域連携等域内の多様な交流・連携軸の形成を図る。さらに、有明海・八代海の沿岸地域においては、沿岸域の防災対策の推進に留意しつつ、域内各拠点を有機的に結ぶ循環型ネットワークの形成やアジアとの交流・物流拠点の機能強化を図るなど地域の一体的発展を目指した圏域の形成を図る。一方、東シナ海に面する地域においては、アジアへの近接性や豊かな自然環境、海洋資源等を生かし、水産業や観光を始めとする地域の発展を図るため、九州西岸地域の各拠点を有機的に結ぶ連携軸の形成を図るとともに、西岸北部諸都市の都市間連携を進めるなど交流・連携の推進を図る。

 南九州地域においては、重要な食料供給地域としての高付加価値農業地域の形成、多自然・滞在型の広域観光ルートの形成を目指した魅力ある交流圏の形成を図る。また、南九州から南の海洋に連なる地域においては、産業、観光において海を通じた交流・連携の推進を図る。

 このような地域の連携を支援する観点から、九州横断、東九州、西九州、南九州西回り自動車道の高規格幹線道路、有明海沿岸道路、中九州横断道等の地域高規格道路の整備や在来線の高速化を進めるとともに、新北九州空港等の空港、港湾の整備を図る。九州新幹線鹿児島ルートについては、政府・与党検討委員会検討結果に基づき、船小屋・西鹿児島間について着実に整備を進めるとともに、それ以外の区間及び九州新幹線長崎ルートについては、所要の事業を進める。また、九州北部から中央部を経て南部に至る九州を縦貫する地域の交流、連携の強化のための交通体系について既存ストックの利活用を含め検討する。さらに、長期的な視点から、四国との広域的な連携を図るための交通体系について検討する。豊予海峡道路、関門海峡道路、島原・天草・長島架橋の構想については、長大橋等に係る技術開発、地域の交流、連携に向けた取組等を踏まえ調査を進めることとし、その進展に応じ、周辺環境への影響、費用対効果、費用負担のあり方等を検討することにより、構想を進める。これらの交通基盤に加え、高度な情報通信基盤の整備を図るとともに、交流と連携を促進するソフト施策を展開する。


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