■講習会名
地域管理構想に取り組む地域が「語る」意見交換会について
講習会詳細(PDF形式)
■概要
地域管理構想の取組を進める3つの地域の方をパネリストに迎え、地域管理構想の策定のきっかけや検討のポイント、地域ごとで行っている課題解決に向けた取組の状況などについて情報提供いただくとともに、今後の管理構想への期待などについて意見交換を行って頂きました。
■開催日時
令和6年2月1日(木)14時~16時
■参加者
コーディネーター:
広田純一岩手大学農学部名誉教授
パネリスト:
長野県長野市中条地域 大日方氏、新井氏
山形県天童市田麦野地域 東海林氏、土井氏
兵庫県宝塚市西谷地域 二井氏、平井氏
■意見交換会の概要
【テーマ1:各地域における地域管理構想のご紹介】
Q.なぜこの取組を始めましたか?
・【中条地区】人口減少・高齢化が進行し、ここの集落も、将来無くなってしまうのではと、漠然たる不安感を持っていた。
・【田麦野地区】高齢化率が65%近くになる地区であり、これからの将来に対する不安があったが、地域管理構想によって違った方向性が見えてくるのではないかと思った。
・【西谷地区】西谷地区では15~16年前から管理構想と同じような取組を始めている。将来に対して危機感を持っていた。管理構想の取組を進めるうちに熱が入ってきて、良い取組だと感じている。
Q.管理構想のどのような効果にあったと思われますか?
・【中条地区】みんなが共有できる価値観(山里の景観)を認識できたことが大きい。山里に点在する地域であり、大規模営農は難しい中で、圃場整備ができた2カ所を中核に据えて守っていきたいと思った。農業を続けることが、景観を守ることにも繋がるという意識づけにつながった。
また、私たちの子供世代が中心となり、栃倉の棚田を守る会を新しく立ち上げた。耕作者の半分は地区外から通っている状態であり、抜本的な解決には至っていないが、今後10年間は耕作できるのではないかという見通しが立った。
・【田麦野地区】取組に当たり、地区内全世帯に対してアンケートを取り、一人ひとりが何を考えているかを確認した。それによって、何を最優先に対応するかを決めることができた。何をするか共有できたことが一番の成果だ。
・【西谷地区】今まで加わってなかった人も入ることによって、共有できたことがいろいろある。年寄りばかりでやってきたところに若い人が入ってきてくれるようになった。また、年齢を重ねた者がいつまでも農業をできないということを認識し直した。いかに次の代に渡していくかを考えるようになった。
【テーマ2-1:地域管理構想図の作成ヒストリー(旧中条村)について】※全国初めての管理構想
管理構想では、今後の土地利用のあり方を共有するため、「地域管理構想図」を作成することになる。中条地区の地域管理構想図では、地域の土地利用を3色で色分けをされた。具体的には、現状どおり維持できる土地は「水色」に、従来どおり維持することが難しく別の土地利用を考える土地は「黄色」に、人手をかけないまたは放置もやむなしという土地は「緑色」に、それぞれ塗り分けていった。
中条地区における特徴としては、こうした将来の土地利用の色分けする際に、将来の想定について、「明るい将来想定」と「現実的な想定」の2種類から考えたこと。
「明るい未来想定」では、今後の担い手の状況はさておき、集落の近くなど耕作ができる可能性があるところを最大限に選び、現状どおり維持できる土地(水色)にした。
他方、「現実的な想定」では、明るい未来想定と比べて、現状どおり維持できる土地(水色)の部分が減って、従来どおり維持することが難しく別の土地利用を考える土地(黄色)や、人手をかけないまたは放置もやむなしという土地(緑色)の部分が多くなった。
なお、話し合いは複数の班に分かれて検討したが、エリアによっては色付けの判断が分かれたところがあり、その違いは統合せず、そのまま図に残す形とした。
Q.構想策定後の地域の状況はどうですか?
・【中条地区】策定から5年以上が経過した。策定当時は、土地利用として「明るい将来想定」と「現実的な想定」の2種類を想定したが、5年経ってみると、実際は、「現実的な想定」に近いと感じている。
栃倉の棚田は維持できている状況だ。耕作者の半分は地区外居住者である。小区画ではあるが、圃場整備によって機械が入れられるため、通い耕作でもなんとかなっている。この景観をなんとか守りたいというのが地域の共通認識になっている。ここが荒れると、住める環境でなくなり、地域の人の気持ちも萎えてしまうだろう。
また、栃倉の棚田を守る会が発足し、中山間等直接支払いを復活させ、共同作業をしつつ、将来的には電気柵の導入も視野に入れて活動を続けている。メンバーはやる気もあって、頑張って草刈りを続けている。保存会のメンバーのうち、半分くらいは地区外から来ている。
従来どおり維持することが難しく別の土地利用を考える土地(黄色)については、現状は放置が進んでいる。こうした土地については、「飼料作物を植える」、「ヤギを放牧する」などのアイディアも出たが、担い手の問題もあり、現実的にはうまくいかなかった。
(他地域からの質問)
Q.新規就農者はあるか。
・【中条地区】現在はない。空き家バンク等の取組を通じて紹介しているが。今年度、1件入居者があった。土地を手放す方としては農地・山林も含めて買ってほしいが・・・。また、標高600~850mに位置する高低差のある位置にあるので、その環境が良いと感じて移住されるのであればいいが、生活には不便であるのは否めない。空き家もあるが貸し出せるものは少ない。
【テーマ2-2:地域課題の解決に向けた取組】
<山形県天童市 田麦野地区>
Q.どんな話題から検討を始めたか?
・【田麦野地区】田麦野地区での検討は、地区としての困りごとは何かという点から始まった。その後、地区の方にアンケートを取り、優先的に取り組むテーマ3つ(空き家、生活環境、農地)を選び、そのテーマごとに分科会を立ち上げて検討を進めることとした。
Q.それぞれの分科会では、どんな話し合いをしているのか?
・【田麦野地区】空き家分科会では、空き家は所有者のものであるという中で、地域として何ができるかを話し合うところから始めた。そのため、まずは所有者に対してアンケートを実施し、その思いを確認することにした。その結果、所有者の何名かからは、「空き家を使っても良いですよ」とか、「活用する方向で考えたい」という方がいた。現在は、こうした方に対して、どのようなサポートができるかを考えている最中である。
・【田麦野地区】生活環境分科会では、医療、高齢者支援、除雪、交通、買い物など多岐にわたるが、そういった一つひとつの課題に対して、行政側が様々対応をしてくれている。こうした中、地区として自分たちで出来るものは何かを考えた。「生きがいづくり」が大切だと感じ、マルシェや産直を開催する方向で動いている。本業でも家庭菜園でも作物を作っている人が販売できる場あるといいという話は前から出ていた。また、産直をすることで外部から人を呼び込み、ゆくゆくは移住につながるかもしれないとも考えた。
この秋には、「田麦野展‼」と題したイベントを開催した。このイベントは地域管理構想の検討と並行にして実施したため、この取組のイメージが分科会で検討しているマルシェにもつながってきていると思う。
・【田麦野地区】農地分科会では、市が実施する地域計画のアンケートをもとに話し合いをスタートすることとしたため、12月に話し合いを始めたばかりである。地域管理構想と地域計画は一体で考えていく予定だ。
(他地域からの質問)
Q.空き家活用において家の片づけなどはネックになると思う。空き家を紹介するにあたって片付け等の支援として何か動いてものはあるか。
・【田麦野地区】片付けを業者に頼む方が、お金がかかる。分科会では、そこに対して地域で手伝うことも必要ではという意見が出ている。
Q.秋のイベントには何人くらい参加したか。
・【田麦野地区】会期が10日間ほどだったがメイン会場の来場者が約300人だった。当日は、地域とも関わりのある東北芸術工科大学の卒業生も、横浜など遠くからも来てもらった。
<兵庫県宝塚市 西谷地区>
Q.西谷地区では、構想策定前からさまざまな取組を進めてきていると伺っている。その具体的な内容を教えてほしい。
・【西谷地区】西谷地区では、管理構想の取組を始める約15年前から危機感を抱いていた。特に下佐曽利地区では、楽農組合をつくり、耕作放棄地の管理などを進めてきた。
そうした中でも放棄地になってしまったものもあったが、放棄地のうち10区画程度を、貸農園として貸し出す取組も行った。結果、この貸農園の取組を通じて新規就農者が4名出てきて、耕作放棄地になりかけの農地を貸してほしいという話も出てきている。その後、利用者が西谷に住みたいという声もあり、4年ほど前から移住施策(スモッカ)にも取り組んできた。
・【西谷地区】西谷地区には空き家が50~60件程度あるが、貸してもらえない家も多い。一方で、西谷地区は都市部に近いという立地条件もあり、スモッカへの登録者が既に40組いる。また、先日空き家見学ツアー(2回目)を開催し、17名が参加された。空き家の解消と居住者を増やす、放棄地を増やさないことをセットで取組を進めている。地域管理構想の取組については、はじめは農地の問題が出発点だったが、空き家も関係することで2つのテーマを設定して話し合いを進めてきた。
Q.地域管理構想があったことで、これまでの取組にも何か変化があったか?
・【西谷地区】管理構想の話し合いの中から栗園再生プロジェクトという取組が生まれた。
Q.地域管理構想図の作成状況を教えてください。
・【西谷地区】農地検討は、下佐曽利地区では現状と将来の土地の色分けができたが、中部地区は検討途上である。
西谷の子供たちはまちが近いのでほとんど地区から出て行ってしまう。後継者として自分たちの子供に任せることは難しいと判断せざるを得ないところまで来ているので、逆に新規就農やまちから入ってもらうことに力をシフトしていく。西谷地区の生産は自家用米が中心だが、今の若者たちは米でなく野菜など儲かる農業でないとだめだという考えであり、私たちの世代とは考えが違うので、その点は意見を聞いていかないといけないだろう。
(他地域からの質問)
Q.空き家活用の取組(スモッカ)は、実施主体は誰か?
・【西谷地区】田舎のルールを伝えたり、田舎への入り方などの調整は、まちづくり協議会が行っている。具体の契約は提携している不動産業者にお願いしている。
Q.子供連れの家族も来られているか?
・【西谷地区】昨年2組あった。
【テーマ2-3 今後の管理構想への期待】
・【中条地区】管理構想は、地域の意識が変わるという点が重要であると思う。これがないと、共通認識が持てなかった。一つ一つ潰していくことによって理解が進んだ面もあった。ただ、手間がかかり、コーディネーターがいないと難しい取組であるとも感じる。
・【田麦野地区】管理構想をやるのであれば、若い人がいるうちにやった方がよい。その方が、将来性が見込める。田麦野地区でいえば、管理構想の名前のもとで地域がまとまってくれた。これをもとにどのようにも盛り上がっていけるかを、自分たちのものにしていくことが大事だと感じた。
・【西谷地区】管理構想を通じて地域の意識が高まり、共有ができた、まとまった。最初は、わかりにくいところもあると思うが、取り組むことで、地域のことを知るということや、次世代に繋いでいけるという点が大事だと思う。この取組をぜひ広げていってほしい。
・【西谷地区】西谷地区に関しては、この取組を地区内の他の地区にも広げていきたい。また、この取組をきっかけに、空き家などでまちづくり協議会と自治会と連携するという発想の転換もあった。
【全体総括 岩手大学広田名誉教授のコメント 】
・3地区共通して指摘されているのは、地域の現状や課題を地域の方が共有できるメリットで、そこが管理構想の一番いいところだと思う。
・その共有した課題を解決するために何をしていったらよいかを話し合い、できる人たちが形にしていくというレールを敷けるのが、地域管理構想のもう一つの利点だと思った。
・3地域以外でも、人口減少や少子高齢化、空き家の増加、耕作放棄地などの共通の課題を抱えていると思う。住んでいる人も漠然と感じていると思うが、地域の人が集まってこうした課題をみんなで共有することが非常に重要である。
・何もしなければなし崩し的に人口減少や集落の衰退が進んでいくところを、地域管理構想を入れることによって、少しでも歯止めになるのだということを知ってほしい。その先どこまでいけるかは地域の頑張り次第だが、そのきっかけを作るためにも地域管理構想は有力な手段だと感じた。