港湾地域強震観測とは何か

港湾地域強震観測は1962年に始まる長い歴史を有する強震観測です.そもそも強震観測とは,被害を伴うような強い揺れが来ても振り切ることがなく, かつ壊れることもない,丈夫な機器を用いて行う地震観測のことです.地震の揺れがどのようなものであるかを知ることは,安全な社会基盤施設を整備 する上で欠かせませんが,港湾地域強震観測が開始された当時は,被害を伴うような強い揺れが波形として残された例は我が国では皆無に近く,兎にも角にも, 強い揺れを記録するという目的を持って,観測が開始されたのです.

強震観測とは,いつ発生するかもわからない大地震に備えて,長期にわたり観測網の維持を行っていく必要のある,息の長い作業です.港湾関係諸機関は, 緊密な連携の下,長年にわたり観測網の維持を行い,その結果,1968年十勝沖地震による強震記録の取得を始めとする多くの成果を挙げてきました. 1968年十勝沖地震の際の八戸港の記録は現在でも超高層ビルの耐震検討に用いられることがあります.

時代が流れ,地震の揺れに関して,港湾地域強震観測の開始当初と比較すれば遙かに多くのことがわかるようになってきました.また,他機関の取得した 記録との比較などを通じ,同じ地震でも,地下構造の影響により,場所によって揺れ方にかなりの違いがあることがわかってきました.都市の中心部よりも 港湾の方が大きく揺れるケースや,またその逆のケース等が存在することが明らかになってきたのです.このことを私たちはサイト特性と言っています. 従って,港湾で起きた地震被害を正しく理解するためには,港湾で生じた揺れを正しく把握する必要があり,また,港湾の施設の耐震検討を行うためには, 港湾のサイト特性を踏まえた上で,将来の地震による港湾での揺れを精度良く推定する必要のあること等がわかってきたのです.これらのことから, 重要な物流機能が集積する港湾で地震観測を行うことのことの重要性が再認識されるようになってきました.

現在,港湾地域強震観測は以下ような目的を持って実施されています.

1.被害を伴う地震が発生した場合,構造物被害のメカニズム解明や復旧工法選定の参考資料として用いるための強震記録を取得すること.
2.港湾毎に異なる地震動特性を解明すること.
3.将来の大地震による揺れの予測に役立つような中小地震の観測記録を得ること.
4.地盤の地震応答特性を解明すること.
5.港湾構造物の地震応答特性を解明すること.

下の図は,このうちの2.について例を挙げて説明したものです.この図はフーリエスペクトルと言って,得られた地震波にどのような周波数成分が 多く含まれているかを示したものです(周波数は周期の逆数です).それによると,過去に八戸港で得られた記録は周期2.5秒程度の成分を強く含んでおり,また,釧路港で得られた 記録は周期1.5秒程度の成分を強く含んでいることなどが分かります.地震動の卓越周期と構造物の固有周期が一致した場合には構造物が揺れやすくなることがわかっていますから, ここに得られた情報は,各々の地点で安全な社会基盤施設を整備していく上でも有用な情報であると言えます.


港湾地域強震観測には次に示す各機関が参画しています.

国土交通省港湾局 国土交通省北海道開発局 国土交通省東北地方整備局 国土交通省関東地方整備局  国土交通省北陸地方整備局 国土交通省中部地方整備局 国土交通省近畿地方整備局  国土交通省中国地方整備局 国土交通省四国地方整備局 国土交通省九州地方整備局 内閣府沖縄総合事務局  東京都港湾局 静岡県港湾総室 大阪市港湾局 宮崎県港湾課  国土技術政策総合研究所 独立行政法人港湾空港技術研究所 

港湾地域強震観測についてより詳しくお知りになりたい方は独立行政法人港湾空港技術研究所 地盤・構造部 耐震構造研究チームにお尋ね下さい.

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     地盤・構造部 耐震構造研究チーム