1.マラッカ・シンガポール海峡をめぐる現状と取組み
マラッカ・シンガポール海峡*は、船舶交通が輻輳する世界有数の国際海峡であり、我が国にとっても輸入原油の約9割が通航する極めて重要な海峡です。このため、同海峡の利用国として唯一我が国は、関係民間団体を通じて、これまで同海峡沿岸3カ国(インドネシア、マレーシア、シンガポール)への灯台及び灯浮標など航路標識の整備、設標船及び集油船の寄贈、水路調査の実施並びに航路標識の維持管理・修繕などの国際協力を行ってきました。
しかしながら、近年、アジア諸国の経済発展に伴い日本以外の国の船舶の海峡利用が増加しており、また、同海峡の通航量は今後も増加していくと予想されることから、安全航行等の確保を沿岸国と我が国のみで担うことは困難となってきているため、新たな協力の枠組みを構築することが急務となっています。また、米国における9.11同時多発テロ以降、海上セキュリティに対する懸念も高まり、平成16年6月のIMO*理事会においてIMO事務局長のイニシアティブとして重要なシッピングレーンの保護について検討されることとなり、平成17年9月、IMOとインドネシア政府の共催により「ジャカルタ会議」が開催されました。同会議は、国際的に大きな関心を呼び、34ヶ国、国際機関及び関係団体の参加があり、マラッカ・シンガポール海峡の航行安全、セキュリティ及び環境保護の推進に関し、沿岸国及び利用国の国際的協力の枠組み作りに向けた定期的な協議の場の設置等について参加国間で合意する「ジャカルタ声明」が採択されるなど、大きな成果を上げました。また、中国、韓国、米国等の主要な利用国からも積極的な協力の意思表示がありました。我が国からは、丸山国土交通審議官他が出席し、同海峡に関する我が国のこれまでの貢献、今後の新たな国際的協力の枠組み構築の必要性などを訴え、会議の成功に貢献しています。
我が国は、ジャカルタ会議の成功により生まれた機運の高まりを踏まえ、平成18年1月に我が国の主催により開催した「国際交通セキュリティ大臣会合」においても、同海峡の問題を取り上げ、参加国が「必要に応じ、ジャカルタ声明に対応して、必要な行動を採ることを決意する」こと等を盛り込んだ「国際海上交通分野のセキュリティに関する大臣声明」を取りまとめました。
また、我が国は、同海峡の船舶通航実態の把握にも貢献しており、平成17年度には2004年の通航量調査を実施しています。この調査の結果、同海峡の通航において、我が国が受益していることも事実ですが、沿岸国、東アジア諸国、欧米諸国及び産油国などその他の幅広い国々が、船舶所有国や仕出国・仕向国として様々な形で受益していることが明らかになりました。我が国は、平成18年3月、航行安全及び環境保護の分野における沿岸国と利用国の協力のあり方について協議するためシンガポールで開催された「TTEG※と利用国の協力に関する会合」において、この調査結果を公表するとともに、関係国が協力して新たな国際的協力の枠組み構築を早急に行うべきことを訴え、参加国から広い支持を得ました。また、同会合においては、TTEGが協力プロジェクトの提案及び内容を整理して、マレーシアで開催される「ジャカルタ会議のフォローアップ会議」(本年9月開催予定)に提出することが決まりました。
? 同海峡の航行安全対策等の国際協力については、今後も沿岸国の主権を尊重しながら、沿岸国と企業等海事関係者も含めた利用国との合意のもとに検討を進めていく必要があります。我が国としては、主要利用国として、同海峡に係る新たな国際的協力の枠組みの構築に向けて、国際会議等における今後の議論の進展に積極的に貢献していくこととしています。
[※TTEG(Tripartite Technical Experts Group):海峡沿岸三カ国技術専門家会合]
2.マラッカ・シンガポール海峡の船舶通航量調査
本通航量調査は、LMIU社(Lioyd’s Marine Intelligence Unit)から入手したデータ(2004年)を基礎にして、「各港間の船舶の動静データ(606,911隻)」を作成した後、各港間の船舶動静データについてマ・シ海峡を通航するか否かを1件ごとに判定し、「マ・シ海峡を通航した船舶の動静データ(93,755隻)」を作成しました。この通航船舶動静データを基に、次の2つの方法で解析を行いました。
1 船舶の持ち主(所属)に着目したアプローチ[実質船主(*1)所在国別通航量]
2 港の出入量に着目したアプローチ[仕出国(*2)、仕向国(*3)別出入港量]
*1:「実質船主」とは、もし船舶が全損になった場合、保険会社から支払いを受ける会社又はその船舶を売却や処分する権利やその船舶の株を譲渡する権利を有する個人又は法人。
*2:「仕出国」とは、マ・シ海峡を通航する直前に出港した港の所在国。
*3:「仕向国」とは、マ・シ海峡を通航した直後に入港した港の所在国。
実質船主所在国では、東アジア、沿岸国、欧米の海運国が多く、また、仕出国・仕向国では、沿岸国、東アジアの経済大国、産油国が多くなっています。結果詳細は、以下のとおりです。
マラッカ・シンガポール海峡通航量の調査結果



《参考資料》
◎ 報道発表資料
○ IMO・インドネシア共催ジャカルタ会議の結果
○ 国際交通セキュリティ大臣会合の結果概要
○ マラッカ・シンガポール海峡通航量調査(2004年)
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