砂防

21世紀の土砂災害対策を考える懇談会

資料1

安全で美しい国土づくりに向けて
~21世紀型土砂災害対策の推進~

中間報告(案)


第1章 従来の土砂災害対策

第2章 現状の課題と今後の視点
 1.災害を取りまく自然環境の変化と財政状況の視点
 2.都市と地域の視点
 3.高齢者等災害弱者の視点
 4.環境の視点
 5.土地利用規制と警戒避難体制等ソフト対策の視点
 6.住民参加の視点

第3章 安全で美しい国土づくりに向けた今後の施策
 1.安全・安心の確保
 2.魅力ある都市と個性ある地域づくりの支援
 3.安心して暮らせる高齢者等の生活の実現
 4.豊かな環境の社会の実現
 5.ソフト対策の充実、強化による総合的な土砂災害対策の推進
 6.住民参加・連携の推進

第4章 今後検討していくべき課題
 1.今後の土砂災害対策のあり方、進め方等の転換
 2.調査・研究の一層の推進




第1章 従来の土砂災害対策

 わが国は、豊かな自然環境に恵まれている一方で、急峻な地形、脆弱な地質のもとに、台風や豪雨、豪雪に見舞われやすく、地震や火山活動も活発であるなど厳しい気象・自然条件のもとにおかれている。20世紀を振り返ってみても、豪雨、地震、火山噴火など、常に自然の驚異にさらされており、毎年のように洪水や土砂災害が全国各地で発生し、国民の生命、財産に甚大な被害をもたらしている。
  これら頻発する洪水や土砂災害に対し、21世紀に至るまで、「砂防法」、「地すべり等防止法」、「急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律」(以下、「急傾斜地法」という。)等に基づき土砂災害対策を実施してきた。
  これまでの土砂災害対策の制度の歴史を振り返ると、禿げ山における緑の復元や有害行為の禁止・制限を図り、土砂の生産を抑制し、流出する土砂を扞止調節することによって災害を防止する、いわゆる治水上砂防を目的とした「砂防法」が明治30年に制定されて以来、昭和32年の熊本県、長崎県の土砂災害を契機に地すべり等による災害を対象とした「地すべり等防止法」が昭和33年に制定され、さらに、砂防法や地すべり等防止法で対応できないがけ崩れ災害を対象とした「急傾斜地法」が昭和44年に制定されている。
  その後、平成11年の広島県における土砂災害を契機に、立地抑制策と警戒避難体制の整備を柱とした「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」(以下、「土砂災害防止法」という。)が平成12年に制定されソフト対策の充実、強化が図られることとなった。
  今後は、これら4つの法律を基本に、土砂災害対策を総合的に進めていく新たな時代を迎えている。
  21世紀においては、温暖化による気候変動等地球規模の問題をはじめ、日本国内においても、厳しい財政状況、産業構造や土地利用の変化、人口の減少、少子高齢化の進展、IT社会の到来等様々な問題を抱えることとなり、これらを踏まえた適切な対応が求められている。
  このような21世紀が直面する様々な問題等を踏まえ、土砂災害対策が抱える現状の課題と今後の視点を明らかにし、今後の施策の考え方や当面の方向について以下にとりまとめている。


第2章 現状の課題と今後の視点

1.災害を取りまく自然環境の変化と財政状況の視点
  近年においても、平成11年の広島豪雨災害や平成12年の東海豪雨災害に見られるように局所的集中豪雨等が発生し多大な被害をもたらすなど、全国各地で洪水や土砂災害が発生し、依然として後を絶たない現状にある。また、平成3年の雲仙・普賢岳、平成12年の有珠山や三宅島の相次ぐ火山噴火災害、平成7年の阪神淡路大震災など大規模災害が発生し、甚大な被害をもたらしている。
  従来より、砂防事業、地すべり防止事業、急傾斜地崩壊対策事業により土砂災害危険箇所の安全性を向上するための対策が進められ、その結果、人的被害、経済的被害の軽減等に着実に効果をあげてきた。
  しかし、全国で毎年約千件もの災害が発生し、自然災害における死者・行方不明者数の占める割合も高い状況にあり、また、依然として新規の住宅立地などにより土砂災害危険箇所は増加傾向にあり、これらに対する整備水準は20%台と低く、未だ安全性が十分確保されているという段階に至っていない。これら土砂災害危険箇所の安全性を向上させていくためには、仮に現在の整備ペースを上げて取り組んだとしても、非常に多くの時間と経費を要することになる。
  また、21世紀においては、温暖化等に伴う地球規模の気候変動による異常気象のもとでの台風や集中豪雨の発生をはじめ、中長期的には地震や火山噴火災害などの大規模災害の発生等が懸念されており、これら異常気象、火山噴火や地震による災害に対する安全性の確保も求められている
  一方、経済・財政状況に目を転じてみると、国・地方の財政の悪化・逼迫等を背景に公共投資の抑制の方向が打ち出され、また、本格的な少子高齢化社会の到来による投資余力の減少が見込まれている。
  このような中で、厳しい財政的な制約のもと、安全面における行政サービスの水準の維持、確保に努めるため、事業費のコスト縮減等を図り、効率的かつ効果的な対策の実施に努める必要がある
  また、これまで整備している施設等の機能について、より一層効果を発揮させるため、既存施設の有効活用、機能増進を図るなど、既存施設の維持管理を重視した対策も必要である
  なお、土砂災害対策は、防災対策としての安全確保の責務を果たすために着実に整備を進める必要があること、施設整備等には時間を要することなどから、近視眼的、場当たり的に対応すべきものではなく、中長期的な観点から計画的かつ着実に対策を進める必要がある。

2.都市と地域の視点
 昭和30年代より高度経済成長期とともに、国土の均衡ある発展を目指し、社会資本の整備等を進めてきたことにより、安全、交通、生活をはじめ様々な面で利便性、快適性など国民生活の質の向上に貢献してきた。
 しかし、その一方で、都市部における人口集中、市街地の外縁部へのスプロール化、緑の空間の減少など環境問題、地方における過疎化の進行等による生産力の低下、高齢化の進展等に起因する地域の活力の低下など様々なひずみや問題をもたらしている。
 今後の土砂災害対策を進めていく上で、これら問題を踏まえ、生活、産業、歴史、文化、自然環境など都市や地域が有する個性に配慮し、魅力ある都市づくりを支援するとともに、地域の創意工夫により自立し地域間連携を図り多様性のある地域の個性の創出と活性化を支援する視点が重要である
 特に、地域の個性ある発展を支援する上では、地域の固有の伝統、歴史、文化等を育み、観光産業や地場産業等産業経済の基盤を守ることも重要である。また、地域間交流や産業活動等を支える上で必要な幹線道路や主要な鉄道などライフラインを保全することにより、地域にとって壊滅的な被害を回避することも必要である
 一方で、過疎化の進展、地域活力の低下は、特に水源地域や中山間地域など上流域において、間伐、徐伐等の手入れが行き届かない森林や棚田等の耕作放棄地の増加等は、地域の災害ポテンシャルの増加をまねき、土砂流出の観点から国土保全上問題がある。さらに、地域内のコミュニティが分断されたり、コミュニティが失われることにより、高齢者をはじめ災害弱者の迅速な警戒避難が確保できないなど様々な弊害をもたらすことが懸念されており、上流域などの過疎化地域の保全をはじめ地域の活性化の支援についても十分考慮すべきである。

3.高齢者等災害弱者の視点
 日本の人口は2006年頃にピークを迎え、その後人口は減少していくものと予想されている。
 特に、人口構成については、少子化の進展により年少人口(14歳以下)が減少する一方で、老齢人口(65歳以上)は増加の一途をたどるものと見込まれている。
 そのため、今後の高齢者世帯の増加に伴い、特に一人暮らしの高齢者や介護の必要な高齢者の増加が懸念されており、一層の高齢者福祉の充実を図り、高齢者が生き生きと暮らせる安全・安心な生活環境の創造が重要となっている。

4.環境の視点
 昨今、地球規模の環境問題の顕在化等により環境に対する関心は高まりをみせ、特に、二酸化炭素等温室効果ガス濃度の上昇によって引き起こされる温暖化問題は、気候変動に伴う異常気象や生態系等自然環境に対し様々な影響をもたらすものと予想されている。そのため、政府をはじめ京都議定書の約束履行への貢献、緑化推進によるCO2吸収源の確保などの対策や配慮が求められている。
 また、国土は人間生活を営む上で基礎をなすものであり、その国土の上に自然環境や生活環境が形成されているといえる。山紫水明の美しい国土づくりを目指し、よりよい環境を後世に継承していく上で、生態系、景観等環境に配慮し環境への負荷をできるだけ抑え、良好な状態で持続的に維持していくことが必要となっている。
 とりわけ、自然環境や生活環境に対する国民意識は高まりを見せており、森林の保全、里地里山の保全・復元、美しく良好な環境の保全と創造に向けた取り組みに対する社会的要請は高いため、今後とも、これらの視点からの適切な対応が求められている
 なお、開発途上国を中心として、異常気象や森林破壊等による自然環境の変化を背景に洪水や土砂災害が頻発しており、21世紀はこれら災害への対応が重要な課題の一つとなっている。そのため、グローバル化の進展を背景に、開発途上国等より、日本の土砂災害に関する取り組みに対し、国際協力の要請は高い。このような状況を踏まえ、国際貢献の観点からも今後とも引き続き、最先端を誇る「SABO」技術の技術協力・交流を一層推進することが必要である

5.土地利用規制と警戒避難体制等ソフト対策の視点
 高度経済成長期の急激な都市化、市街化の進展は災害に対し脆弱な都市構造を生み出してきた。特に、市街地のスプロール化は山麓周辺部において顕著であり、その結果、土砂災害危険箇所及びその周辺に住宅、災害弱者関連施設、教育施設、産業関連施設、重要交通網等の立地が進むなど、土砂災害の危険性の増大に拍車をかけることとなった。特に、急傾斜地の危険箇所は山麓周辺部の新規開発等に伴う市街地のスプロール化による土地利用の変化と密接に関係していることに留意すべきである
 平成11年の広島県における土砂災害の例に見られるように、都市の山麓周辺部が一旦土砂災害に見舞われた場合、甚大な被害をこうむる危険性が高い。そのため、施設整備等によるハード対策に併せて、被害想定区域内に人家等がある土砂災害危険箇所の増加抑制等のための土地利用規制や危機管理体制の整備等によるソフト対策を総合的に推進することが極めて重要である
 土地利用規制に関しては、砂防指定地等の指定を促進するほか、特に平成12年に制定された土砂災害防止法に基づく土砂災害警戒区域等の指定の円滑な推進が必要であり、また、都市計画法、宅地造成等規制法、建築基準法などの関係法令等との適切な連携が求められる
 さらに、今後においては、民間事業者等の新規の開発意欲が低下している現状等を踏まえつつ、土砂災害防止の観点のみならず、市街化の進展がもたらす緑の空間の減少などに配慮し、今後の都市と山麓の境界領域における国土保全のあり方について総合的に検討することが必要である
 なお、このような新規に住宅が立地している地域においては、災害の経験の乏しい新住民に対し、土地利用規制等はもとより、土砂災害の危険性など災害に関する情報の一層の普及・浸透を図り、地域の防災意識の高揚を図ることが重要である
 また、住民にとって災害は普段意識することが少なく、ともすれば忘れがちである。また、災害に関する情報は受け取り難い情報である。そのため、情報提供にあたっては、「危険を強調する」視点から「興味を覚える」視点に立ち、分かりやすい情報提供に努めるなど工夫が必要である
 阪神・淡路大震災や米国の同時多発テロ事件をはじめ危機管理に対し国民意識が高まっている中で、警戒避難体制の整備等ソフト対策の充実、強化が求められている。迅速な警戒避難を実現する上で、土砂災害情報の果たす役割は非常に大きい。
 昨今の情報の分野は目覚ましく進歩を遂げ、アナログ時代から本格的なデジタル時代を迎え、携帯電話、パソコンやモバイル端末等の爆発的な普及により、メール、インターネットの利用等が日常生活の中で欠かせないものとなっており、現在では従来考えられなかった高速・大容量の情報を伝達することが可能となっている。
 今後、e-Japan重点計画を戦略的に推進し、世界最先端のIT国家の実現に伴う本格的なIT(Information Technology:情報通信技術)社会を迎える中で、情報通信分野の技術革新、各種情報基盤整備を背景に、大きくライフスタイルが変化するものと予想されることから、土砂災害対策等においても、これらの環境に適切に対応し、行政と住民を結ぶ双方向の迅速かつ質の高い情報通信ネットワークの構築が求められている。
 土砂災害による被害を最小限に止めるため、砂防設備の整備等によるハード対策に併せ、地域住民の日常的な防災意識の向上はもとより、災害時の迅速な状況の把握、土砂災害情報の迅速かつ的確な収集・提供・伝達などを可能にする的確な危機管理体制の整備等のソフト対策を今まで以上に強力に推進することが求められる
 なお、既存の情報提供手段の整備状況とそれら手段のメリット、デメリット等を踏まえ、地域の実状、地域のニーズ等に対応し、効果的な情報提供に努めることが必要である。

6.住民参加の視点
 公共事業に対する国民の意識の高まり等を背景に、行政の情報公開や説明責任が求められている。今後とも、国民の理解を促し、円滑な合意形成に努めるため、今まで以上に説明責任を適切に果たすことが重要である。
 現在、緑の回復、復元に向け、上流域における植樹活動等が実施されている事例に見られるように、着実に住民団体やNPO等と連携した取り組みが進められつつある。地域住民やNPO等による活動の活発化に伴い、今後とも地域住民やNPO等と適切に連携を図ることが必要である
 また、昨今の国民の価値観の多様化、意識の変化等とともに、増大する余暇の充実に対するニーズが高まりをみせており、また、女性や高齢者の社会的活動等への参画に対する要望も高まっている。このような中で、一層の砂防事業等への関心や参加意識の高揚を図り、防災の観点から地域内のコミュニティの維持、形成を促進するために、住民参加の機会の創出や確保が求められている
 さらに、小・中学校等における総合学習、体験学習の場や機会を有効に活用し、学校教育の段階からの土砂災害に対する理解を深めるための取り組みについても必要である


第3章 安全で美しい国土づくりに向けた今後の施策

 21世紀を迎え、頻発する土砂災害に対し、国民の生命、財産を守るためにも、施設整備等に併せ、土砂災害防止法等に基づく土砂災害危険箇所の増加抑制や警戒避難体制の整備等によるソフト対策を強力に推進していく必要がある。
 しかし、一方では、第2章において述べたように、将来にわたる厳しい予算の制約など今日的課題をはじめ、今後生起するであろう様々な社会経済情勢の変化や自然現象等がもたらす諸課題に適切に対処し、解決していくことが求められる。
 今後においては、これら諸課題に対応する中で、行政が対応することのできる範囲や限界を国民に示しつつ、効果的かつ効率的に対策を進めていくことが重要となっている。
 以上を踏まえ、21世紀における安全で美しい国土づくりに向けて、将来にわたり国民が安心し快適な生活を享受するため、以下の施策を総合的かつ強力に推進することが重要である。

1.安全・安心の確保
 土砂災害における安全・安心の確保は国土づくりの基本であるとの認識に立ち、従来より実施している土砂災害危険箇所の対策はもとより、異常降雨、地震・火山噴火等大規模災害にも配慮し適切な対策を講じるものとする。特に、火山噴火災害対策においては、当面危機管理等における初動体制の整備を重点的に推進する必要がある。具体的には、リアルハザードマップ等の作成・公表、防災訓練等の取り組みを行うことが必要である。
 また、火山噴火対策をより確実に進めていくために火山砂防対策の充実を図る必要がある
 今後の厳しい財政状況を踏まえ、事業箇所の優先度づけなど予算の重点化、事業の峻別等を図り、住民に対して行政による対策の限界を示しつつ、一層計画的かつ効果的に事業を推進する必要がある。同時に限られた予算を有効に活用するため、現在の事業着手ペースの確保、質の高い社会資本整備を推進するなどの観点から、一層のコスト縮減等に向けた新技術・新工法の開発・導入を積極的に取り組むことが重要である

 一方、既設砂防堰堤のスリット化をはじめ既存施設の有効活用の観点から機能増進を一層推進し、維持管理の充実、強化を図る必要がある。なお、植樹等による樹林帯の整備において、住民団体やNPO等と連携を一層図り、維持管理作業への住民参加の仕組みを構築する必要がある。

2.魅力ある都市と個性ある地域づくりの支援
 魅力ある都市や個性ある地域づくりを支援するため、都市山麓周辺部における安全で良好な都市環境を創出することを目的としたグリーンベルト整備事業をはじめ、まちづくりと一体となった砂防事業、地すべり防止事業、急傾斜地崩壊対策事業による土砂災害対策を総合的に推進を図る必要がある
 また、都市や地域の有する歴史、文化等に配慮した対策や観光産業等地域の産業基盤等の安全性を確保するために、重点的に対策を進めることが重要である。その際、山村、中山間地域等の集落を結ぶ数少ない重要交通網等ライフラインの保全等にも十分配慮することが必要である
一方、危険な斜面について、まちづくりや景観等に十分に配慮し、斜面の安全性を確保し安全な斜面の創出・活用を支援する対策についても引き続き推進する必要がある。
 また、水源地域、中山間地域の棚田等耕作地の放棄等に関し、土砂災害における防災上の観点から、これら地域の保全を目的とした対策を実施することも必要である

3.安心して暮らせる高齢者等の生活の実現
 土砂災害による死者・行方不明者に占める高齢者等災害弱者の割合が高い中で、高齢者等災害弱者施設が増加傾向にあることや、高齢者世帯数や一人暮らしの単独世帯の増加、寝たきり等介護が必要な高齢者の増加が見込まれることなどから、まちづくり・地域づくりにおける各種高齢者対策との連携を図り、これら対策の一環として、高齢者等災害弱者を対象とした土砂災害対策を重点的に実施することが必要である
 さらに、高齢者等が土砂災害の危険な地域に住まわざるをえない現状等を整理、分析した上で、関係機関と連携を図り、災害弱者施設等が土砂災害危険箇所及びその周辺に新規に立地することのないよう土砂災害防止法に基づく土砂災害特別警戒区域の指定等の促進を図ることが重要である
 また、警戒避難体制の整備等を支援するソフト対策を進めるにあたり、高齢者等災害弱者の生活実態等を踏まえ、受け取りやすい手段で、わかりやすい情報の提供に努める必要がある

4.豊かな環境の社会の実現
 土砂災害対策を進めていく上で、環境への負荷をできるだけ抑制し良好な状態で持続的維持、形成を図っていく視点が重要である。
 そのため、従来にも増して、樹林帯、山腹工、斜面緑化工等の対策により、緑の創出、維持等を通じ、生態系・景観等の復元、保全を進めるとともに、間伐を促進し、間伐材を有効活用することにより、緑の機能の向上等に努める必要がある
 また、流水や土砂の連続性を確保するため、新設・既設の砂防堰堤のスリット化や魚道の設置等を推進するとともに、土砂移動に関し問題が顕在化している流域においては、流域一貫となった総合的な土砂管理を推進することが必要である
 さらに、近年の土砂とともに流出する流木による影響が問題となっていることから、このような流木の発生や流出等が見込まれる地域等においては、流木対策の強化を図るとともに、砂防指定地の指定促進とその適切な管理を行うことが必要である
 一方、近年失われつつある市街地周辺の里地里山の保全、復元に寄与するため、砂防林、山腹工ほか伝統的な工法により対策を実施するとともに、森林の質の向上を図るなど、地域の環境に配慮した多様性に富む樹林帯の整備、形成に努める必要がある
 特に、生活の場と密着している都市周辺の斜面においては、生活環境や景観等に配慮し、貴重な緑の創出、保全により緑の連続性を確保した、斜面対策を一層推進する必要がある。
 さらに、名勝、旧跡、文化的価値を有する寺社等の施設や景観及び貴重な自然環境の保全を図るとともに、歴史的・文化的な価値を有する砂防施設を「地域の宝」として後世に継承していく必要がある
 なお、管理の行き届かない森林での質的変化による影響や土砂流出に伴い発生する流木への対応等については、森林や緑が有する土砂移動に関する効果や効用等について適切に考慮した上で、対策を講ずる必要がある
 また、地球規模の異常気象や森林の減少等による環境の変化等を背景に、開発途上国等で頻発する土砂災害に対し、広く海外から日本の土砂災害対策に関する国際協力の要請が高いことから、より一層の技術協力や支援、海外砂防情報ネットワーク化等を推進する必要がある。

5.ソフト対策の充実、強化による総合的な土砂災害対策の推進
土砂災害対策は、「砂防法」、「地すべり等防止法」、「急傾斜地法」に基づく原因地対策としての「砂防指定地」、「地すべり防止区域」、「急傾斜地崩壊危険区域」の指定促進と各々の事業の推進に併せて、被災地対策としての「土砂災害防止法」による土砂災害警戒区域等の指定促進が相まった施策の展開が基本である。
土砂災害危険箇所の増加と市街化の進展による土地利用の変化は密接に関している。既に、六甲山系等においてはグリーンベルト整備構想を策定し、各種法令による規制と連携し、計画的に事業を進めているところである。
このように、安全で良好な都市環境を有する都市山麓部周辺を形成するという理念のもとに、都市と山麓の境界領域において、広域的・面的に捉え、国土の保全という観点からビジョンを描き、関係機関や地域住民等が連携を図り各種対策を推進していく枠組みを拡充していくことが重要である。なお、土砂災害の発生や危険性が増大する要因に関しては、大きく、自然条件に起因する自然的要因と急激な都市化の進展による土地利用の軋轢がもたらす社会的な要因に分けられる。これらの要因について整理、分析した上で、必要な措置を講じる必要がある。土地利用に関しては、砂防指定地等の指定を促進するほか、各種法規制等との連携を図り、土砂災害防止法に基づく土砂災害警戒区域等の指定を推進し、被害想定区域内に人家等のある土砂災害危険箇所の増加の抑制等に努める必要がある
また、行政の「知らせる努力」と住民の「知る努力」の取り組みを進める上で、土砂災害に関する防災情報は非常に重要な役割を果たしている。
今後とも、積極的にハザードマップの作成、公表を一層推進するものとし、作成にあたっては、早い段階から住民と情報の共有化を図ったり、災害が発生した場合の状況等について視覚的かつ現実感のある表示方法で示すなど情報の充実を図り、住民に理解しやすいハザードマップの作成、公表に努める必要がある
一方、本格的なIT社会の到来に向けて、国、都道府県等が構築した土砂災害情報の収集、伝達体制のもとに得られた各種情報について、気象庁等関係機関やマスメディア、民間事業者等と適切に連携を図り、土砂災害の予警報の体制の整備を推進する必要がある。さらに、住民と行政との双方向性を確保した土砂災害情報ネットワークの整備を進め、情報提供等による被害の最小化のための「情報防災」を積極的に推進する必要がある
なお、情報提供にあたっては、緊急時、平常時における通信手段・機能等を十分に踏まえ、情報提供先である受け手に配慮した適切な情報内容とするとともに、これら情報が有効に機能し、活用されるため、膨大な情報の中から、信頼できる正確な情報を取捨選択、判断することのできる人材の確保及びこれらを支援する体制の整備が必要である
さらに、土砂災害対策として、地域の土砂災害にまつわる言い伝え、地名、祭りをはじめ歴史・文化遺産等の情報を次世代へ伝承することが必要であり、また、高齢者・子供にとって理解しやすい内容となるよう情報のバリアフリー化等の工夫が必要である
これらの取り組みをより実効性のあるものとするため、国、地方公共団体、国民などが適切な役割分担のもとに実施していくことが必要である。

6.住民参加・連携の推進
 砂防事業等においても、早い段階から事業に関する情報提供を行うなど行政サービスの水準の向上を図る必要がある
 その際、従来の施設整備の観点からの説明に止まることなく、国民の視点に立った、事業の効果などについて分かりやすい指標(アウトカム目標)の設定、公表などにより、興味を覚える情報提供に努めるべきである。なお、これら情報に関しては、必要に応じ意識調査を実施し、それらの結果を踏まえた情報提供内容、手段等の改善が必要である

 一方、住民参加に関しては、災害復興に際しまちづくりや植樹等維持管理作業など既に取り組まれているところであるが、このような住民参加の取り組みを支援するための参加機会の創出、確保が必要である
 また、行政と地域の連携を一層推進するために、住民やNPO等の防災に関する地域活動を支援するとともに、地域住民の参加意識を醸成するため土砂災害に関する情報伝達、避難等の防災訓練の実施も必要である。さらに、小・中学校を対象とした、学習教材の充実、体験学習の場の創出・確保等を図るなどの取り組みも重要である


第4章 今後検討していくべき課題
1.今後の土砂災害対策のあり方、進め方等の転換
厳しい財政状況を踏まえ、今後の防災対策の進め方に大きな転換が求められている。例えば、科学的・技術的な検討を通じ、重点的、優先的に対策を実施する地域を決める手法など、限られた予算の中での今後の防災対策のあり方、進め方等について検討することが必要である
 さらに、社会経済情勢等の大きな変化が予想される新たな21世紀の時代を迎え、流域での総合的な土砂管理対策や火山噴火対策などについて、新たな制度や枠組みについての検討が必要である。また、生命のみならず、財産まで含めた総合的なリスクマネージメントの導入についても併せて検討する必要がある
 また、古くから造成されている斜面都市について、人工斜面の取り扱いについて整理し、今後の都市再生に向けた新たな斜面都市対策のあり方について検討するとともに、今後の土砂災害対策の参考とするため、20世紀に災害を経験している斜面都市の町並み等を調査、分析することも必要である。
 加えて、山林所有者の相続等に起因する山林の分割が進展した場合、山林管理者が多くなり、管理が行き届かなくなることなどによって、土砂災害対策上の弊害や支障を及ぼす可能性が指摘されているため、これらに対処するための手法等についても今後検討を行う必要がある

2.調査・研究の一層の推進
 異常気象等に伴い発生する複雑な土砂災害等発生メカニズム等未解明な現象を明らかにしていくために各種調査、研究を一層推進するとともに、ハザードマップにおける土砂災害危険箇所の被害の及ぶ地域の想定など一層の技術レベル、精度の向上に努める必要がある
 また、森林の質的変化を含む緑の効果等については、土砂移動の観点から、科学的に、定量的な評価、検討を行うことが必要である。これらを踏まえた上で、現在の森林に顕在化する問題を明確にし、今後予想される問題等に対し、砂防事業による対策の必要性や役割等を整理する必要がある
 さらに、グリーンベルト施策に関しては、国土保全や都市における緑の保全等の観点から、総合的な施策として体系化を図るよう検討を行う必要がある


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