公共工事における施工の安全確保については、従来より、設計、積算、工期設定、施工条件の明示及び設計変更等において配慮してきたところである。また、「建設工事の安全対策(平成四年三月二日付け建設省技調発第五四号)」等諸通達により、工事の安全対策の徹底を図ってきたが、今般、第一二三回国会における労働安全衛生法の改正等に鑑み、今後さらに土木工事の安全対策について一層の充実を図るため、事業の執行にあたり留意すべき事項について左記のとおりとりまとめたので通達する。
1 発注にあたっての安全施工への配慮
(1) 熟練労働者の通年確保を図り、施工の安全性の向上に資するため、国庫債務負担行為を活用するなどして、工事の平準化に努めること。
(2) 指名業者の選定にあたっては、工事の安全成績にも留意することとし、工事内容に応じた施工技術力を有する請負業者を選定すること。
(3) 発注の準備は計画的に行い、積算にあたっては必要な工期を確保できるよう配慮すること。用地買収等の遅れにより年度内の完成が不可能となる恐れがある場合は、適切に翌債の手続をとること。また、工事中に施工条件の変化等により、工期が年度末を越える恐れがある場合は、適切に繰越の手続をとること。
2 設計段階における安全施工への配慮
(1) 建設工事は、通常屋外で実施されるため、気候、地形、地質等の自然的条件に大きく左右されるほか、騒音、振動等に対する社会的条件の配慮から施工方法、施工時間等が制約を受けやすい。これらの要因によって、工事現場ごとに仮設工、施工方法等が異なることから、現場の施工条件を十分調査すること。
(2) 工事の施工方法は、工事目的物及び仮設物等により大きく左右されることが多いため、設計段階において施工の安全性に配慮した施工方法を検討すること。
(3) 工事の安全確保を図るため、詳細設計時に施工に係る項目に関して、その内容を十分に精査すること、特に安全な施工に配慮が必要な工事については、設計時における設計審査制度を活用し内容の充実を図ること。この場合、必要に応じて経験豊富な技術者等の助言を受けて、審査内容の充実を図ること。
(4) 積算の前段となる施工計画の策定にあたっては、関係法令、各種技術指針及び要綱等に基づいて実施すること。
また、安全性に配慮した施工計画を立案するためには、特に以下の点に留意すること。
イ 施工方法
現場状況、周辺地域の状況など、現場条件に適した施工方法、建設機械を選定すること。この場合、安全確保、公害防止等に十分留意すること。
ロ 仮設計画
仮設道路、仮締切、土留工、機械設備等の仮設の計画に際しては、現地の施工条件、施工方法等に応じた適切なものとすること。特に、施工中の安全性は、仮設の適否に左右されることが多いため、現場条件にふさわしい仮設計画となるよう十分に配慮すること。
3 適正な積算の実施
(1) 工事の安全かつ円滑な施工を確保するためには、発注者の行う積算において必要な経費が計上されていることが不可欠である。安全を確保するための経費は直接工事費、共通仮設費の安全費、仮設費及び現場管理費に含まれるので、これらの各費用について、適切に計上すること。
(2) 積み上げ計上を行うものは、現場の施工条件を考慮しつつ、必要な事項を特記仕様書等に条件明示を行い、必要な経費を適切に計上するよう十分に注意を払うこと。
特に、直接工事費に計上する足場工、支保工等は、作業条件に密接に関係することから、適切な計上に一層努めること。なお、共通仮設費のうち交通整理員、機械の誘導員等人員の配置に要する費用は、個別に計上する方式となっており、共通仮設費率には含まれていないので十分留意すること。
(3) 積み上げ計上を行う際には、歩掛り、機械損料、労務単価等について最新の基準等を用いるとともに、価格については、市場の需給情勢に応じて月毎等の短い期間に価格が変動する場合があることを考慮し、発注時の実勢価格が十分反映されたものとすること。
4 適切な工期の設定
(1) 適正に工期を設定するため、工事の内容、現場の施工条件等に応じた作業日数及び準備・後片付けに要する日数を算定するとともに、建設労働者の健康保持、災害防止の観点から、休日日数及び降雨等による作業不能日数を加え設定すること。同種の内容・同規模の工事であっても施工条件、施工時期等によって必要な工期が異なることに注意すること。
(2) 工期を設定する際には、休日日数として、日曜・祝祭日、夏期休暇及び年末・年始休暇のほか、平成四年度よりは、作業期間内の全土曜日を見込むこととしたところであるので注意すること。また、降水(降雨・除雪)等による作業不能日数についても、特記仕様書等に明示すること。
(3) 発注に際しては、建設労働者の確保、建設資材の需要の動向等に配慮し、事前に計画的に準備を行うための期間として四か月を越えない範囲内で余裕期間を適切に見込むこと。特に、需給が逼迫している資材を使用する場合等においては、この制度の積極的な活用を図ること。
(4) 工事契約後に、他の関係機関との協議、地元との協議等に時間を要し、工事着手が遅れる恐れがある場合は、協議の成立見込み時期等を施工条件として明示するとともに、これらの条件に変更があり必要があると認められる時は、設計変更により工期を変更すること。
5 適正な仮設工及び施工方法の選定
(1) 工事の発注にあたって、次に示すような施工条件の仮設工については、設計図書において指定仮設とすること。
イ 河川堤防と同等の機能を有する仮締切の場合
ロ 仮設構造物を一般交通に供する場合
ハ 特許工法又は特殊工法を採用する場合
ニ 関係官公署等との協議等により制約条件のある場合
ホ その他、第三者に特に配慮する必要がある場合
(2) 仮設工、施工方法を指定する場合には、事前に現地の調査を十分に行い、設計審査制度、経験豊富な技術者等の助言を活用するなどして指定内容を十分検討し、関係法令、関係技術基準・指針等に沿った施工の安全性に配慮した適切な内容とすること。
6 設計図書における施工条件の明示
(1) 工事の発注にあたっては、事前に現場の施工条件を十分調査し、その内容を積算に反映させるとともに、必要な事項を設計図書に明示すること。
(2) 施工の安全性に配慮し、次に示す場合に関しては、施工条件の明示を行うよう留意すること。
イ 現道交通を確保しながらの施工、または、工事現場に交通整理員等を配置する必要がある場合
ロ 供用中の道路上の工事において、道路交通に対する安全確保の観点から関係機関と協議の上、通行規制を行う必要がある場合
ハ 工事現場に地下埋設物がある場合や鉄道、送電線等に近接して施工する場合で、工法、作業時間、安全対策措置等について管理者と協議する必要がある場合
ニ 土砂や岩の掘削、工事の振動等による落石、雪崩、土砂崩落等に備えて、防護施設を設置する必要がある場合
ホ その他、工事施工の安全確保のため特に施工条件の明示が必要な場合
(3) 施工条件明示の方法としては、図面、特記仕様書等に明記すること。
7 施工条件の変化への適切な対応
(1) 施工途中において予期せざる事態が発生した場合には、工事請負契約書の約定に基づき適切に設計変更を行うものとする。なお、安全施工に関する注意事項として、左記の事項について現場説明において入札参加者に徹底すること。
イ 気象状況等に関して常時十分な注意を払うこと。
ロ 作業時に危険を予知した場合等においては、ただちに作業を中止し、作業員を安全な場所に退避させること。
ハ 異常箇所の点検・原因の調査等は、二次災害防止のための応急措置を行った後、十分注意して行うこと。
(2) 施工途中において予期せざる事態が発生し、必要が認められる場合においては、速やかに工事一時中止の措置を講じること。また、工事の一時中止を行った場合は、工期及び費用について適切に処置すること。
8 請負業者の施工体制及び作業員の安全訓練の充実への配慮
(1) 土木工事の実施に際し、施工の安全確保を図るためには、現場における安全管理の向上を図ることが重要である。このことから、特に公衆災害の防止対策が必要な工事等については、請負業者に対して、施工体制台帳の整備等を図ることにより、安全施工体制の充実を指導すること。
(2) 作業の安全確保を図るためには、直接作業に携わる作業員が安全に対する理解を深めることが重要であるため、請負業者に対して、個々の工事現場の作業内容に応じた安全・訓練活動をとおして作業員の安全意識の高揚を図ることを指導すること。
(3) 積算基準においては、労働安全衛生法等に基づく安全活動の実施とともに、個々の工事において工事着手後、原則として作業員全員の参加により月当たり半日以上の時間を割当てて、定期的に安全に関する研修・訓練等の実施に必要な経費を見込んでいるので、適正に実施されるよう請負業者を指導すること。
(4) (3)の安全に関する研修・訓練等としては左記の項目が考えられるので、この点を十分考慮し、適切に請負業者を指導すること。
イ 安全活動のビデオ等視覚資料による安全教育
ロ 工事内容等の周知徹底
ハ 土木工事安全施工技術指針等の周知徹底
ニ 工事における災害対策訓練
ホ 工事現場で予想される事故対策
ヘ その他、安全に関する訓練等として必要な事項
(5) 訓練等の実施状況については、ビデオ等又は工事情報(工事月報)等により、適切に実施されたかを確認すること。
9 建設現場の作業環境の改善への配慮
現場において、作業員の安全な作業実施に資するため、作業員が健康な身体と精神を保持できるよう現場事務所、作業員宿舎等における良好な作業環境の確保に配慮する。このことから、工事の発注にあたっては、工事内容に応じて作業環境への措置を特記仕様書等において明示するとともに、そのための経費を積算に計上すること。
10 建設現場における連絡体制の充実
(1) 工事を複数の工区に分けて発注する場合は、工事目的物及び仮設物等の機能に影響を及ぼさず、かつ施工上工区間の相互に関係する部分が少なく、工程等の調整が容易に行えるように配慮した工区とすること。
(2) 複数の工事が相互に関連する建設現場において、各工事を安全かつ円滑に実施するため、発注者と請負業者、及び請負業者間の安全施工に関する緊密な情報交換を行うとともに非常時における臨機の措置を定める等の連絡調整の体制を整備すること。
(3) 連絡調整の体制を整備する対象工事は、次の工事とする。
イ 事業間の調整(河川と道路等)を必要とする工事
ロ 複数の請負業者が同一地域で工事を行う場合
ハ 土木工事と機械設備工事等、同時施工となる場合
ニ その他仮設道路等を共用する等の工程調整を必要とする工事
11 工事の安全対策に向けた活動の実施
(1) 工事において発生した事故について、事故に至るメカニズム、原因を技術的に調査、分析し、必要な措置を講じることにより、類似工事における事故の再発を防止するため、事故調査に関する組織の整備を図ること。さらに、これらの調査・分析結果のデータベース化を図り、これをもとに工事の設計、積算、施工方法に係る安全対策の充実を図ること。
(2) 安全施工のための各種施工要領等の策定など一層の充実を図り、毎年施工技術等の変遷に対応するための見直しが必要かどうかの検討を行うこと。
(3) 安全施工技術の開発とその普及促進を図るため、新技術開発に努めること。また、民間などにおいて開発された新技術を容易に事業に反映できるよう、技術活用パイロット事業等の制度を積極的に活用すること。
(4) 工事の安全に関する意識の向上を図るため、労働省等関係官庁、施工業者等との間で安全協議会、安全パトロール等の安全施工に関する活動を実施すること。安全活動を効果的に進めるため外部の組織の活用を図ること。また、この際には労働災害防止関係団体などの活用も考慮すること。
(5) 工事に対する地域住民の理解と協力が得られるよう、説明会の開催などの広報活動を積極的に推進すること。