建設投資の低迷等により建設業を取り巻く環境が極めて厳しいことから、建設業者の財務状況も悪化し、その財産的基礎、金銭的信用の要件の審査や経営事項審査関係事務の取扱いについても、その厳正化が求められているところです。
現在、建設業許可の財産的要件の審査や経営事項審査においては、その申請日の直前の営業年度終了日を基準として審査を行うこととなっていますが、決算日から申請日の間に会社の経営実態が大きく変化しているケースも多く、そのような場合には、より実態に即した審査をする必要があると考えられます。
このため、今般、法的な措置を講ずる等により経営再建中の建設業者に係る建設業法上の事務の取扱いについて、左記のとおり取りまとめましたので、今後は、関係法令、「建設大臣が建設業の許可を行う際の基準」(平成六年九月三〇日付け建設省経建発第二八九号[最終改正:平成一〇年七月一日])、「会社更生手続開始の申立て等を行った建設業者に係る経営事項審査の取扱いについて」(平成一一年六月二四日付け建設省経建発第一七二号。以下「更生会社通知」という。)に加え、この取扱いによられるよう、お願いいたします。
第1 特定建設業の財産的基礎の要件の審査について
1 財産的基礎の要件の判断基準について
申請日の直前の決算期における財務諸表上では、財産的基礎の要件を満たさないが、許可の更新の日までに要件を満たすことになる場合又は申請日までに法的な手続等を開始しており、許可の更新の日以降近い将来に要件を満たす可能性が高いと判断できる場合には、以下の通り取り扱うこととする。
(1) 以下の事由により、許可の更新の日までに、要件を満たすこととなる場合には、各号に掲げる書類の提出をもって、要件の確認をすることとする。
1) 減資を行った場合
ア) 許可の更新の日までに、登記簿謄本により、減資を行ったことが確認できること
イ) 当該減資後において要件を満たすことについて、その会計処理の方法等に関して、弁護士、公認会計士又は監査法人が、格段の異議を述べていないことが文書で確認できること
2) 債務免除を受けた場合
ア) 許可の更新の日までに、関係債権者の同意書等により、債務免除を受けたことが確認できること
イ) 当該債務免除を受けた後において要件を満たすことについて、その会計処理の方法等に関して、弁護士、公認会計士又は監査法人が、格段の異議を述べていないことが文書で確認できること
3) その他財務状況の改善により、要件を満たすことになる場合
ア) 許可の更新の日までに、財務状況の改善措置により、要件を満たすことが確認できること
イ) 当該財務状況の改善措置(不動産処分、増資等)の後において要件を満たすことについて、その会計処理の方法等に関して、弁護士、公認会計士又は監査法人が、格段の異議を述べていないことが文書で確認できること
(2) 以下の事由により、許可の更新の申請日までに法的な手続等を開始しており、許可の更新の日以降近い将来に要件を満たすことが確実であると判断できる場合には、各号に掲げる書類の提出をもって、要件の確認をすることとする。
1) 減資を行うことが確実である場合
ア) 許可の更新の日までに、株主総会議事録、特別決議に必要な株主の同意書等により、減資を行うことが確実であると確認できること
イ) 当該減資の発効の日において要件を満たすことについて、その会計処理の方法等に関して、弁護士、公認会計士又は監査法人が、格段の異議を述べていないことが文書で確認できること
2) 会社更生法、民事再生法による手続きが行われている場合
ア) 会社更生法、民事再生法の手続の開始決定が行われたことが確認できること
イ) 管財人、監督委員又は管財人、監督委員が選任されていない場合にあっては申立者が証明した資料(資料の提出について裁判所の許可を受けたものに限る)により、更生等の見込みがあることが文書で確認できること
(3) 特定調停法に基づく調停の成立等、(1)及び(2)に掲げる理由に準じる理由があると認められる場合には、当該事実を確認できる日以降、速やかに、次の各号に掲げる書類の提出をもって、要件の確認をすることとする。
1) 特定調停法による調停が成立した場合
ア) 特定調停の成立を示す調書の写し
イ) 当該特定調停による債務免除の発効の日において要件を満たすことについて、その会計処理の方法等に関して、弁護士、公認会計士又は監査法人が、格段の異議を述べていないことが文書で確認できること
2) 1)以外の(1)及び(2)に掲げる理由に準じる理由があると認められる場合
ア) 当該事実を確認できる書類
イ) 当該事実の後に要件を満たすことについて、その会計処理の方法等に関して、弁護士、公認会計士又は監査法人が、格段の異議を述べていないことが文書で確認できること
2 許可の更新の留保について
1) 許可の更新の日の直前の決算期において要件を満たす見込みの場合には、当該決算についての財務諸表の提出を受け、要件を満たすことを確認するまでの間、許可の更新を留保するものとする。
2) 許可の更新の申請日までに会社更生手続開始の申立てをした場合には、裁判所の更生手続開始決定がなされるまで、許可の更新を留保する。
3) 許可の更新の申請日までに民事再生手続開始の申立てをした場合には、裁判所の再生手続開始決定がなされるまで、許可の更新を留保する。
4) 特定債務者等の調整の促進のための特定調停に関する法律に基づき、調整に係る調停の申立てをした場合には、当該法律に基づく利害関係の調整を促進する観点から、債権者の当該調停に係る判断が明らかになるまで、許可の更新を留保する。
3 許可条件の付与について
許可を更新する場合には、1に掲げるとおり、許可要件を満たしていることを確認するとともに、近い将来に要件を満たす可能性が高かったにもかかわらず、要件を満たさなくなった場合に許可を取り消すことができるよう、以下の場合には、許可の更新の際に、次の各号に掲げる条件をつけ、その旨を許可通知書に明記する。
1) 減資を行った場合
ア) 減資の発効の日の属する営業年度終了日以降、速やかに、当該営業年度終了日において特定建設業の財産的基礎の全ての要件を満たすことを、財務諸表を添えて許可行政庁に報告すること。
イ) 報告された財務諸表から、当該減資の発効の日において要件を満たしていないことが明らかになった場合には、許可を取り消す。
ウ) 速やかに報告がなされない場合には、許可を取消すことができる。
2) 債務免除を受けた場合
ア) 債務免除の発効の日の属する営業年度終了日以降、速やかに、当該営業年度終了日において特定建設業の財産的基礎の全ての要件を満たすことを、財務諸表を添えて許可行政庁に報告すること。
イ) 報告された財務諸表から、債務免除の発効の日において要件を満たしていないことが明らかになった場合には、許可を取り消す。
ウ) 速やかに報告がなされない場合には、許可を取消すことができる。
3) 会社更生法による手続が行われている場合
ア) 更生計画認可以降、速やかに、更生計画認可の日において特定建設業の財産的基礎の全ての要件を満たすことを、財務諸表を添えて行政庁に報告すること。
イ) 更生手続廃止又は更生計画不認可の決定等、更生計画が策定されないことが明らかになった場合には、許可を取り消す。
ウ) 速やかに報告がなされない場合には、許可を取消すことができる。
4) 民事再生法による手続が行われている場合
ア) 再生計画認可の日の属する営業年度終了日以降、速やかに、当該営業年度終了日において特定建設業の財産的基礎の全ての要件を満たすことを、財務諸表を添えて行政庁に報告すること。
イ) 再生手続廃止又は再生計画不認可の決定等、再生計画が策定されないことが明らかになった場合には、許可を取消す。
ウ) 速やかに報告がなされない場合には、許可を取消すことができる。
5) 特定調停が成立した場合
ア) 特定調停による債務免除の発効の日の属する営業年度終了日以降、速やかに、当該営業年度終了日において特定建設業の財産的基礎の全ての要件を満たすことを、財務諸表を添えて許可行政庁に報告すること。
イ) 報告された財務諸表から、特定調停による債務免除の発効の日において、要件を満たしていないことが明らかになった場合には、許可を取り消す。
4 留意事項について
前記の措置は、建設投資の低迷等により建設業を取り巻く環境が極めて厳しいことに伴う取扱いであり、建設業の経営環境が改善された場合には、見直すものとする。
また、特定建設業の許可に既に条件が付されている建設業者については、前記の措置の対象とはならない。
第2 経営事項審査関係事務の取扱い
以下の取扱いは、会社更生手続開始の申立て等の法的な行為によって、建設業者の経営状況の大幅な事情変更があることを踏まえて、より実態に即した当該建設業者の経営事項審査を行うことを目的とするものであり、公共工事の発注者に対して当該建設業者への建設工事の発注を促すものではない。
1 会社更生手続開始の申立てを行った建設業者の取扱いについて
会社更生手続開始の申立てを行った会社(以下「更生会社」という。)の経営事項審査における取扱いについては、次に掲げる取扱いによること。
(1) 更生会社が、会社更生手続開始の申立ての時(以下「更生手続申立日」という。)以降、その開始決定の時(以下「更生手続開始決定日」という。)までに経営事項審査を申請する場合(例一における期間B)
1) 審査基準日は、更生手続申立日の直前の営業年度の終了の日とする。
2) 会社更生法第三二条第二項六号の規定に基づき、会社更生手続開始の申立書に記載された財産の状況を反映した貸借対照表、損益計算書及び利益処分に関する書類(以下「修正後財務諸表」という。)をもって審査する。
3) 修正後財務諸表の損益計算書については、「当期未処分利益(当期未処理損失)」を貸借対照表と一致させるために、資産や負債の財産評定により生じた損失を、「その他特別損失」で調整することとする。
(2) 更生会社が更生手続開始決定日以降、更生計画認可の時(以下「更生計画認可日」という。)までに経営事項審査を申請する場合(例1における期間C・D)
1) 審査基準日および審査方法等は、更生会社通知による。
2) 更生会社通知記―32)における財務諸表は、修正後財務諸表とする。
3) 修正後財務諸表の貸借対照表において、更生債権等の勘定科目で表示される更生手続開始決定日以前の債務については、固定負債として取扱うものとする。当該勘定科目に有利子負債が含まれる場合には、長期借入金として審査する。
4) なお、更生手続開始決定日前を審査基準日とする経営事項審査は、更生手続開始決定日以降も有効であり、更生手続開始決定日以降を審査基準日とする経営事項審査を受けない場合でも建設業法第二七条の二三第一項違反にはならない。
(3) 更生会社が更生計画認可日以降の日に経営事項審査を申請する場合(例1における期間E)
1) 審査基準日は、更生計画認可日以降の営業年度終了の日とする。
2) 貸借対照表において、更生債権等の勘定科目で表示される更生手続開始決定日以前の債務については、固定負債として取扱うこととする。
2 民事再生手続開始の申立てを行った建設業者の取扱いについて
民事再生手続開始の申立てを行った会社(以下「再生会社」という。)については、民事再生手続開始決定があった時(以下「再生手続開始決定日」という。)や民事再生手続認可の時に営業年度が終了するとの規定はなく、民事再生手続開始の申立て前の決算日と、民事再生手続開始決定日以降の決算日は同一であることが通例であり、更生会社とは異なる。
しかしながら、民事再生手続開始申立ては会社更生手続開始申立てと同様に「債務者が事業の継続に著しい支障を来たすことなく弁済期にある債務を弁済することができない」または「破産の原因たる事実の生じるおそれがある」(民事再生法第二一条第一項、会社更生法第三〇条第一項)ときになされるものであるという点で共通している。加えて、再生会社は、民事再生法第一二四条第二項により再生手続開始決定日の貸借対照表を作成しなければならないとされている。よって、民事再生手続開始の申立ての時以降の経営事項審査の取扱いは更生会社に準じて、以下のとおりとする。
(1) 再生会社が、再生手続開始の申立ての時(以下、「再生手続申立日」という。)以降、再生手続開始決定日までに経営事項審査を申請する場合(例2における期間B)
1) 審査基準日は、再生手続申立日の直前の営業年度終了の日とする。
2) 民事再生規則(平成一二年一月三一日最高裁判所規則第三号)第一三条(三)の規定に基づき、再生手続開始の申立書に記載された財産の状況を反映した修正後財務諸表をもって審査する。
3) 修正後財務諸表の損益計算書については、「当期未処分利益(当期未処理損失)」を貸借対照表と一致させるために、資産や負債の財産評定により生じた損失を、「その他特別損失」で調整することとする。
(2) 再生会社が再生手続開始決定日以降、再生計画認可の時(以下「再生計画認可日」という。)までに経営事項審査を申請する場合(例2における期間C・D)
1) 審査基準日は、再生手続開始決定日又はそれ以降で再生計画認可日前の営業年度の終了の日とする。
2) 審査方法は、更生会社通知記―3に準ずる。ただし、記―32)における財務諸表は、民事再生法第一二四条第一項による財産評定を反映したもの(以下、「財産評定後財務諸表」という。)とする。
3) 財産評定後財務諸表の貸借対照表において、再生債権等の勘定科目で表示される再生手続開始決定日前の債務については、固定負債として取扱うものとする。当該勘定科目に有利子負債が含まれる場合には、長期借入金として審査する。
4) なお、再生手続開始決定日前を審査基準日とする経営事項審査は、再生手続開始決定日以降も有効であり、再生手続開始決定日以降を審査基準日とする経営事項審査を受けない場合でも建設業法第二七条の二三第一項違反にはならない。
(3) 再生会社が再生計画認可日以降の日に経営事項審査を申請する場合(例2における期間E・F)
1) 審査基準日は申請日の直前の営業年度終了の日とする。(再生計画認可日が営業年度終了の日でない場合は、再生計画認可日を審査基準日とすることは出来ない。)
2) 貸借対照表において、更生債権等の勘定科目で表示される更生手続開始決定日前の債務については、固定負債として取扱うものとする。
3 特定調停手続申立てを行った建設業者の取扱いについて
特定調停手続開始の申立てを行った会社(以下「特定調停会社」という。)については、特定調停手続の申立ての時(以下「特定調停手続申立日」という。)や調停条項案の受諾の時(以下「調停条項受諾日」という。)に営業年度が終了するとの規定はなく、特定調停手続の申立て前の決算日と、それ以降の決算日は同一であることが通例であり、更生会社とは異なる。
また、特定調停手続は民事再生手続や会社更生手続における裁判所による手続の開始決定がない。
しかしながら、特定調停手続も支払不能に陥る恐れがある等の企業がその事実を裁判所に申し立てるという点で、会社更生手続や民事再生手続と同様であり、その申し立てられた事実は当該企業の客観的事項として経営事項審査において反映されるべきであると考えられる。
よって、会社更生手続や民事再生手続の場合に準じて、経営事項審査の取扱いを以下の通りとする。
(1) 特定調停会社が、特定調停手続の申立ての時(以下、「特定調停手続申立日」という。)以降、調停条項受諾日までに経営事項審査を申請する場合(例3における期間B・C)
1) 審査基準日は、直前の営業年度終了の日とする。
2) 特定調停手続規則第二条第一項二号(平成一二年最高裁判所規則第二号)の規定に基づき、特定調停手続の申立書に記載された財産の状況を反映した修正後財務諸表をもって審査する。
3) 修正後財務諸表の損益計算書については、「当期未処分利益(当期未処理損失)」を貸借対照表と一致させるために、資産や負債の財産評定により生じた損失を、「その他特別損失」で調整することとする。
(2) 調停条項受諾日以降の日に経営事項審査を申請する場合(例3における期間D・E)
審査基準日は申請日の直前の営業年度終了の日とする。(調停条項受諾日が営業年度終了の日でない場合は、特定調停手続認可日を審査基準日とすることは出来ない。)