建設産業における生産システムの合理化については、「建設産業における生産システム合理化指針について」(平成三年二月六日付け建設省厚発第三八―二号)により設計図書(現場説明書等)に指針の遵守に係る事項を記載することにより、請負業者の指導の徹底を求めているところである。このうち、下請契約における代金支払が適正に行われることはもとより重要な課題であるが、特に不良債権処理が加速され、セーフティネットの充実が極めて重要となっている現在の情勢下では、着実に取組まなければならない課題であり、左記の事項について現場説明書の指導事項に記載し、引き続き指導の徹底を図られたい。
工事の適正かつ円滑な施工を確保するため、「建設産業における生産システム合理化指針」において明確にされている総合・専門工事業者の役割に応じた責任を的確に果たすとともに、適正な契約の締結、代金支払い等の適正化(請負代金の支払をできる限り早くすること、できる限り現金払とすること及び手形で支払う場合、手形期間は一二〇日以内でできる限り短い期間とすること等)、適正な施工体制の確立及び建設労働者の雇用条件等の改善等に努めること。(「建設産業における生産システム合理化指針」別添)
建設産業における生産システム合理化指針(別添)
第1 趣旨
建設産業の生産活動は、総合的管理監督機能(発注者から直接建設工事を請け負って企画力、技術力等総合力を発揮してその管理監督を行う機能)と、直接施工機能(専門的技能を発揮して工事施工を担当する機能)とが、それぞれ相互に組み合わされて行う方式が基本となっている。
これらの機能を軸とした分業関係を基本とする建設生産システムの下、基幹産業として活力に溢れた建設産業の実現を図るとともに、発注者の信頼に応えうる適正かつ効率的な建設生産を確保するためには、すべての建設業者が技術と経営に優れた企業への成長を目指しつつ、その分担する分野において、役割に応じた責任を的確に果たすことが不可欠である。
本指針は、総合的管理監督機能を担う総合工事業者と直接施工機能を担う専門工事業者が、それぞれ対等の協力者として、その負うべき役割と責任を明確にするとともに、それに対応した建設産業における生産システムの在り方を示したものである。これは、建設生産システムの合理化を進める上での行政による指導の指針であり、建設業者の取組の指針となるべきものである。
第2 総合工事業者の役割と責任
総合工事業者は、総合的管理監督機能を担うとともに、建設工事の発注者に対して契約に基づき、工事完成についてのすべての責任を持つという役割を有している。
また、総合工事業者が、発注者との間で行う請負価格、工期(工事着手の時期及び工事完成の時期)の決定等は、自らの経営はもとより、専門工事業者の経営の健全化にも大きな影響をもたらすものである。
このため、次の責任を果たすべきである。
ア 経営計画の策定、財務管理及び原価管理の徹底等的確な経営管理を行いうる能力の向上に努めること。また、常に合理的な請負価格、工期による受注に努めるとともに、専門工事業者への発注に当たっては、請負価格、工期、請負代金支払等の面で、適正な契約を締結すること。
イ 業種・工程間の総合的な施工管理を的確に行うため、技術者に対する研修の充実等により、管理監督機能の向上に努めること。
また、効率的かつ高度な建設生産を確保するため、技術開発の推進、施工の合理化に努めること。
ウ 優良な専門工事業者の選定を行うため、専門工事業者の施工能力、経営管理能力等を的確に把握し、評価できる体制の確立に努めること。
エ 優秀な建設労働者を確保するため、労働時間の短縮、休日の確保、労働福祉の充実、安全の確保及び作業環境の整備等に努めること。
第3 専門工事業者の役割と責任
専門工事業者は、直接施工機能を担っており、建設生産物の品質、原価に対し実質的に大きな影響を与えるものである。
また、近年においては、建設生産システムにおける専門工事業者の担う役割が増大しており、特に、専門的技術・技能を有する建設労働者を直接に雇用する等の点において、今後の建設産業の発展に大きな役割を有している。
このため、次の責任を果たすべきである。
ア 教育訓練等の充実や、技術・技能資格等の取得の奨励等により、施工能力及び経営管理能力を向上させるとともに、常に合理的な契約条件による受注に努め、企業基盤の強化を図ること。
イ 専門工事業者の役割の高度化という要請に応え、分担する工事分野において、直接施工のみならず施工管理をも自らが行いうる体制の確立に努めるとともに、各々の能力に応じて部分一式等多様な業種・工程を担うことができるよう努めること。
ウ 優秀な建設労働者を確保するため、直用化の推進等による雇用の安定、月給制の拡大、職能給の導入、労働時間の短縮、休日の確保、労働福祉の充実、安全の確保及び作業環境の整備等に努めること。
第4 適正な契約の締結
(1) 契約締結の在り方
建設工事の施工における企業間の下請契約の当事者は、契約の締結に当たって、次の事項を遵守するものとする。
また、建設工事の内容や工期・工程において、変更又は追加の必要が生じた場合における契約の締結についてもこれに準ずるものとする。
ア 建設工事の開始に先立って、建設工事標準下請契約約款又はこれに準拠した内容を持つ契約書による契約を締結すること。
イ 契約の当事者は対等な立場で十分協議の上、施工責任範囲及び施工条件を明確にするとともに、適正な工期及び工程を設定すること。
ウ 請負価格は契約内容達成の対価であるとの認識の下に、施工責任範囲、工事の難易度、施工条件等を反映した合理的なものとすること。
また、消費税相当分を計上すること。
エ 請負価格の決定は、見積及び協議を行う等の適正な手順によること。
オ 下請契約の締結後、正当な理由がないのに、請負価格を減じないこと。
(2) 代金支払等の適正化
下請契約における注文者(以下「注文者」という。)からその契約における受注者(以下「受注者」という。)に対する請負代金の支払時期及び方法等については、建設業法に規定する下請契約に関する事項のほか、次の各号に定める事項を遵守するものとする。
なお、資材業者、建設機械又は仮設機材の賃貸業者等についてもこれに準じた配慮をするものとする。
ア 請負代金の支払は、請求書提出締切日から支払日(手形の場合は手形振出日)までの期間をできる限り短くすること。
イ 請負代金の支払は、できる限り現金払とし、現金払と手形払を併用する場合であっても、支払代金に占める現金の比率を高めるとともに、少なくとも労務費相当分については、現金払とすること。
ウ 手形期間は、一二〇日以内で、できる限り短い期間とすること。
エ 前払金の支払を受けたときは、受注者に対して資材の購入、建設労働者の募集その他建設工事の着手に必要な費用を前払金として支払うよう、適切な配慮をすること。特に、公共工事においては、発注者(下請契約における注文者を除く。以下同じ。)からの前金払は現金でなされるので、企業の規模にかかわらず前金払制度の趣旨を踏まえ、受注者に対して相応する額を、速やかに現金で前金払するよう十分配慮すること。
オ 建設工事に必要な資材をその建設工事の注文者自身から購入させる場合は、正当な理由がないのに、その建設工事の請負代金の支払期日前に、資材の代金を支払わせないこと。
第5 適正な施工体制の確立
(1) 施工体制の把握
建設業法に基づく適正な施工体制の確保等を図るため、発注者から直接建設工事を請け負った建設業者は、施工体制台帳を整備すること等により、的確に建設工事の施工体制を把握するものとする。
(2) 一括下請の禁止等
ア 一括下請は、中間において不合理な利潤がとられ、これがひいては建設工事の質の低下、受注者の労働条件の悪化を招くおそれがあること、実際の建設工事施工上の責任の所在を不明確にすること、発注者の信頼に反するものであること等種々の弊害を有するので、建設業法において原則として禁止されているところであるが、発注者の承諾が得られる場合においても、極力避けること。
イ 不必要な重層下請は、同様に種々の弊害を有するので行わないこと。
(3) 技術者の適正な配置
ア 工程管理、品質管理、安全管理等に遺漏が生ずることのないよう、適切な資格、技術力等を有する技術者等の適正な配置を図ること。特に、指定建設業監理技術者資格者証に係る建設業法の規定を遵守すること。
イ 建設業者が工事現場ごとに設置しなければならない専任の主任技術者及び監理技術者については、常時継続的に当該工事現場において専らその職務に従事する者で、その建設業者と直接的かつ恒常的な雇用関係にある者とすること。
(4) 適正な評価に基づく受注者の選定
注文者は、受注者の選定に当たっては、その建設工事の施工に関し建設業法の規定を満たす者であることはもとより、
ア 施工能力
イ 経営管理能力
ウ 雇用管理及び労働安全衛生管理の状況
エ 労働福祉の状況
オ 関係企業との取引の状況
等を的確に評価し、優良な者を選定するものとする。
この場合においては、少なくとも別表1に掲げる事項のすべてが満たされるよう留意するものとする。
第6 建設労働者の雇用条件等の改善
建設業者は、建設労働者の雇用・労働条件の改善等を図るため、安定的な雇用関係の確立や建設労働者の収入の安定等を図りつつ、少なくとも別表2に定める事項について措置するものとする。
また、発注者から直接建設工事を請け負った建設業者は、建設労働者の雇用の改善等に関する法律及び労働安全衛生法の遵守、労働者災害補償保険法に係る保険料の適正な納付、適正な工程管理の実施等の措置を講じるとともに、この建設工事におけるすべての受注者が別表2に定める事項について措置するよう指導、助言その他の援助を行うものとする。
この場合、発注者から直接建設工事を請け負った建設業者以外の注文者は上記の指導、助言その他の援助が的確に行われるよう協力するものとする。
第7 遵守のための体制づくり
(1) 建設業者は、その役職員に対する本指針の周知徹底に努めなければならない。特に、総合工事業者にあっては建設生産システムの合理化を積極的に推進する体制の整備・拡充に努めるとともに、その請け負った建設工事におけるすべての建設業者に対して本指針の第4及び第5の遵守についての指導に努めるものとする。
(2) 建設業者団体においては、会員企業に対する本指針の周知徹底に努めるとともに、本指針の遵守について団体としての取組の体制を確立するものとする。
(3) 本指針に基づき、真に合理的な建設生産システムを確立するためには、総合工事業者と専門工事業者のそれぞれが果たすべき役割と責任についての理解を共有することが不可欠である。このため、建設業者団体が主体となり、総合工事業者、専門工事業者のそれぞれが対等な立場に立って協議を行う場を設け、適正な契約関係の形成のためのルール、建設労働者の雇用・労働条件等の改善及び技術・技能の向上に係る役割分担に関するルール等を確立するものとする。