建設省計建発第五〇号
昭和五八年三月一六日

地建局長・各都道府県知事あて

事務次官通達


建設工事の入札制度の合理化対策等について

建設工事に関する契約関係の合理化が強く求められている現状にかんがみ、中央建設業審議会は、建設工事の入札制度の合理化対策について調査審議を行い、昭和五八年三月一六日別添のとおり建議したところである。
今回の建議は、今後における建設工事の入札制度の運用の基本となるものであるので、貴職におかれては、この趣旨を十分御理解の上、速やかに貴職発注工事に係る入札制度の合理化対策等について、所要の措置を講ぜられるようお願いする。
なお、貴管下公社等及び市町村に対しても速やかにこの趣旨を徹底されるようお願いする。



別紙

建設工事の入札制度の合理化対策等について

(昭和五八年三月一六日)
(中央建設業審議会)

前文

わが国における公共投資は、建設投資の約四割、二〇兆円を超す規模を有し、道路、河川、上下水道、公園などをはじめ住宅、学校、病院に至るまで国民の生命の安全、健康の保持、快適な日常生活の確保に直結し、また、わが国の産業基盤を支える諸施設の整備に充てられており、このような諸施設を国民の税負担等に基づいて整備する公共工事が適正かつ円滑に実施されることが国民的課題であることは言うまでもない。
また、公共工事を担う建設業は、五〇万に及ぶ建設業者、五〇〇万人を超える就業者を有するわが国の基幹産業であり、その盛衰は、わが国の経済全体に重大な影響を及ぼすものと考えられる。
公共工事に関する契約制度は、右のような諸施設の整備とこれを担う建設業者を具体的に結びつけるものであり、質の高い社会資本を確保するための入口であると同時に、建設業の存立の基盤にかかわる重要な役割を担っている。
公共工事に関する契約制度については、この制度が担っている右のような役割が十分かつ的確に果たされるようにするとともに、その制度の運用をめぐって近年提起された社会的批判・要請に対して配慮する必要がある。このため、特に次のような基本的な視点に立って、制度改善の検討を行ったところである。
(1) 競争契約の本旨とされる適正な競争を確保するとともに、契約事務の厳正な執行を確保する必要があること。
(2) 真に国民の利益となるよう、疎漏工事の防止等による良質な社会資本の整備が確保される必要があること。
(3) 中小建設業者の数が非常に多く、また、建設業者間の経営規模の格差が著しい建設業の市場構造上の特殊性、単品の受注生産に依らざるを得ないという生産構造上の特異性等を十分認識し、建設業の健全な発展に資するものとする必要があること。
(4) 請負契約の基本となる双務性の確保に努めるとともに、発注者及び受注者に著しい事務量、経費の増大をもたらすことのないようにする必要があること。

なお、当審議会においては、建設大臣からの検討依頼の趣旨に応えて、当面、会計法令及び地方自治法令(以下「会計法令」という。)による契約制度を中心に検討を行った。
一方、右に述べたわが国建設業の市場構造上の特殊性、生産構造上の特異性等の実態を考慮すれば、建設業における市場競争の在り方と独禁法との関わり合いについての立法政策を含めた幅広い検討が、極めて重要であると認められる。したがって、この課題に関しては、十分な検討を行う場を設ける等積極的な取組みが必要である。

1 契約方式について

(1) 一般競争契約

会計法令においては、一般競争契約、指名競争契約及び随意契約の三つの契約方式が定められている。
一般競争契約(ここでは制限付一般競争契約をいう。)については、競争参加者が事前に把握されにくいため建設業者間の事前調整を行うことが比較的困難であること、業者指名をめぐる疑惑を生む余地がないこと等の利点がある反面、次のような問題点があり、これが、公共工事については、これまで一般競争契約がほとんど適用されなかった理由であると考えられる。
イ 一般競争契約においては、一定の客観的条件を付することによって、施工能力の劣る、あるいは不誠実な建設業者を排除することが必要となるが、このような条件を示すための建設業者の施工能力の優劣あるいは誠実度に関する客観的な評価基準の整備は、極めて困難である。このため一定の条件を付することによって、とりわけ不誠実な建設業者を排除することは、ほとんど期待することができない。

その結果、疎漏工事、工期の遅延などを発生させるおそれが大きく、公共工事の質の確保が困難となるが、この点については、契約方式を論ずるに当たって、最も重視する必要がある。

ロ 指名が特定の有資格業者に偏しないこととすることにより図られていた受注機会の公平さが、一般競争契約においては、確保できない。その結果、価格競争にさえ勝てば、何時でも、何回でも落札者となり得るため、過当競争、いわゆるダンピングの発生を招来するおそれが大きく、また、一部有力業者による受注の偏りを招きかねない。さらに、下請業者に対するしわ寄せの懸念も大きい。
ハ 指名競争契約の場合に比して一般に競争参加者数が増大するうえ、条件適合性についての資格審査が必要となること、疎漏工事の防止等のための施工監督をより厳格に行わなければならないこと等発注者の事務が極めて膨大なものになり、行政の簡素化の必要性が強調されている折から、このような事務処理に対応することは、極めて困難である。
以上のような一般競争契約の長所・短所を比較衡量し、また、右の問題点の解消が難しいことを勘案すれば、一般競争契約を一般的に採用することは、困難であると考えられる。
なお、一般競争契約の採用については、前記諸問題の解消のほか、わが国建設業の産業構造の現状等との関連を含めて、今後、幅広い検討を行う必要がある。

(2) 指名競争契約

会計法令においては、契約方式の原則は一般競争契約であり、指名競争契約は、特定の場合の方式であるとされているが、公共工事については、その特質に合致した契約方式が選定されるべきである。
指名競争契約については、運用の如何により指名が公正を欠くおそれがあること等の問題点もあるが、施工能力の劣る建設業者あるいは不誠実な建設業者を排除することが可能であり、その結果、疎漏工事の防止等を図ることができること、あるいは特定の建設業者への受注の偏りを防止することができること等の長所がある。このような諸点及び(1)の諸問題を勘案すれば、現状においては、指名競争契約を公共工事に関する契約方式の運用上の基本とすべきである。
しかしながら、指名競争契約の運用に当たっては、同時に、右のような問題点への対応も含めて、前文(1)から(4)までの基本的視点に立った制度の改善を図ることが急務であると認められる。
その具体案は、2以下に示すとおりである。

(3) 随意契約

長期間を要する継続的な大規模工事、特殊な技術を要する工事、本体工事に密接に関連した付帯追加工事などの中には、随意契約が適当と思われるにもかかわらず、指名競争契約が適用されている事例もみられる。
このような形式的な指名競争契約を排除し、的確な随意契約の適用を図るため、工事の種類、特性、規模等を考慮した具体的なガイドラインを発注官庁において作成する必要がある。
また、このガイドラインを一般に公表するとともに、随意契約締結後、ガイドラインの具体的事項を示して、随意契約の理由を公表することも必要である。

2 予定価格、最低制限価格等

(1) 予定価格

予定価格は、標準的な施工能力を有する建設業者が、それぞれの現場の条件に照らして、最も妥当性があると考えられる標準的な工法で施工する場合に必要となる経費を基準として積算されるものである。
予定価格を上回る価格での契約が許されない現行の制度に鑑み、また、公共工事の適正な施工と建設業の健全な発展を図るため、発注者においては、今後とも、より的確な予定価格の設定に努めるとともに、いわゆる歩切りについては、厳にこれを慎むべきである。
また、予定価格と最低入札価格との開差が大きく、落札者がない場合には、予定価格の設定自体が的確でない場合も含まれるものと思われるので、このような場合においては、発注者は、予定価格の設定が的確に行われているか否かを点検し、適切に対応するよう努めるべきである。
なお、予定価格を上回る価格での契約を認める途を開くことについては、これが予定価格の在り方、性格そのものをはじめ、契約制度全般と関連する問題であり、また、国、地方公共団体等における予算管理を困難にするおそれがあるが、このような問題点についての研究は、今後とも行われるべきであろう。
また、予定価格の事前公表は、公表された予定価格にとらわれて建設業者の真剣な見積り努力を失わせ、あるいは建設業者間の価格調整を誘発するおそれが大きいので、実施すべきではない。
事後における公表は、以後に発注される同種の工事の予定価格を類推させることとなり、結局は、事前公表と同様の問題を招来するので好ましくない。

(2) 積算基準の公表

受注に際しての適正な競争を確保するためには、予定価格が的確に設定されるとともに、受注者が的確な見積りを行うことが基本である。
このため、積算の基本的な考え方や標準歩掛り等の積算基準をできる限り公表し、積算基準そのものの妥当性を世に問うとともに、受注者によるより的確な見積りに資し、あわせて、開かれた行政への要請に応えることが必要である。

(3) 最低制限価格制度等

ダンピング(原価割れ受注)の防止を図ることは、疎漏工事の防止等公共工事の適正な施工の確保のためにも、また、建設業の経営基盤の確保のためにも必要である。
現行の低入札価格調査制度及び最低制限価格制度は、一定の基準価格を下回った入札があった場合に、その入札価格で適正な工事の施工が可能であるか否か等を審査し、あるいは、そのような入札を失格として排除する制度であって、右の目的を達成するために適当な仕組みであると考える。
特に、低入札価格調査制度は、個別原価を審査するところから、より望ましい制度であるが、審査体制の整備を必要とするという問題もあるので、発注者は、審査体制の整備状況等の事情を考慮のうえ、これらの制度のいずれかを積極的に活用する必要があると考える。
また、これらの制度の基本となる基準価格については、右の目的が十分達成されるよう設定されるベきである。

3 指名審査等

(1) 有資格業者の資格審査

発注者による有資格業者の資格審査は、業者指名の基礎をなすものであり、より優良な建設業者を公共工事に参加させるためには、資格要件をより厳しくするとともに、資格審査をより厳格にする必要があると思われる。
現在、一般的には、法令に違反する行為の有無、経営状況等の要件によって不良業者の排除が図られているところであるが、発注者においては、今後とも可能な限り、資格審査の厳格化に努めるべきである。

(2) 指名審査の厳正化

指名が公正かつ的確に行われることが指名競争契約の基本であることは、言うまでもない。
発注者は、公正かつ的確な指名が行われるように指名手続の厳正化に努める必要があり、少なくとも建設業者の指名及び受注の状況、経営状況、手持工事の状況等に関する合理的な指名基準を整備するとともに、小規模な工事を除き、指名審査会などの合議制の機関によって指名審査を行うべきである。
なお、指名基準は、公表されるベきである。

(3) 指名業者数

昨年来、発注者の過半が指名業者数の相当な増大を図っているが、このような措置に伴って、次のような問題点が発生している。
イ いわゆる数合せ的な運用によって、受注意欲のない建設業者さらには施工能力の劣る建設業者まで指名されるようになっている。また、このような運用により、他地域業者が参加し、地元中小業者の保護に欠ける結果となっている。
ロ 建設省の調査からも、いわゆるダンピングの多発の傾向がみられ、公共工事の適正な施工、建設業の健全な発展に悪影響を及ぼすおそれがある。
ハ 発注者、受注者双方において事務量等が増え、特に受注者の経費増が著しいものとなっている。
指名業者数の増大は、競争性の拡大を図ったものであるが、右のような問題を生んでいるのでこのような問題の解消を図るため、工事の種類・規模、地域の事情などの要素を十分考慮して、適切な数となるよう見直しが図られるベきである。

(4) 指名停止等

発注者による指名停止等の措置については、同様の事例について停止期間等の取扱いに大幅な相違があるなど不合理と認められる場合がみられる。
したがって、指名停止基準等については、措置の対象となる事故等の範囲、地域あるいは指名停止の期間等について合理的なものになるよう見直すとともに、これに基づいた適切な運用が行われることが必要である。

(5) 入札辞退

指名を受けた建設業者が入札を辞退した場合に、発注者が以後の指名について不利益な取扱いをすることは、形式的な入札参加を招来することとなって適当でないので、発注者は、入札辞退の自由の観点から、このような取扱いを改めるベきである。

4 その他

(1) 発注機関相互の連絡調整の強化

合理的かつ調和のとれた各種の基準の作成をはじめとして、契約制度の運用の合理化を推進するためには、公共工事の各発注機関が、十分に意思の疎通を図り、協力し合うことが必要であるので、連絡調整のための体制を整備すべきであると考える。

(2) 権利義務関係の明確化

建設業の健全な発展を図るためには、建設業者間における合理的な契約関係の確立が不可欠であるので、特に、元請・下請関係、共同企業体の形成に際して、相互の間の権利義務関係を明確にするよう、今後とも努力すべきである。

おわりに
以上のように、当審議会は、現行制度のもとにおいて可能な改善策を中心に結論を取りまとめたが、今後、建設業における市場競争の在り方等を踏まえた建設産業政策についての検討の進展と相まって、本建議においても指摘した予定価格の在り方・性格についての研究を含め、現行制度そのものの見直しが必要となる場合も予想されるので、このような課題について、中・長期的に検討する努力を怠ってはならないものと考える。
また、昨年三月に行った当審議会の建議に基づいて入札結果等の公表の措置が多くの発注者によって採られたように、今回の建議内容が十分実施に移されることを強く要望するとともに、公共工事の執行が、世の指弾を浴びることなく、適正かつ円滑に行われるためには、発注者による契約事務の厳正な処理と建設業者による関係法令の遵守が何よりも大切であり、基本であることを指摘するものである。


All Rights Reserved, Copyright (C) 2003, Ministry of Land, Infrastructure and Transport