

建設省中建審発第一九号
平成四年一一月二五日
中央建設業審議会会長通知
入札・契約制度の基本的在り方について
公共事業における入札・契約制度の点検・見直しが必要とされている現状にかんがみ、中央建設業審議会は、入札・契約制度の基本的在り方について調査審議を行い結論を得たので、所要の措置を講ぜられたく、別紙のとおり建設業法第三四条第一項の規定に基づき建議する。
(知事あてのみ)
なお、貴管下市町村の長に対する建議については、貴職をわずらわせたく、建議書の回付方をお願いする。
はじめに
公共事業に関する入札・契約制度については、従来より当審議会の建議を受け、建設省をはじめ関係機関において対応されてきたところであるが、公共事業の円滑な執行及びこれを担う建設業の健全な発展を図るため、常に時代の変化に対応した幅広い視点から検討を行うことが必要である。特に近年、外国企業の参入等による国際化の進展、建設市場における公正な競争の確保の要請、良質な住宅・社会資本整備の計画的かつ着実な推進の要請、民間の技術開発の進展等、新たな社会経済情勢の展開が見られつつあり、このような状況に的確に対応することが必要となっていることから、入札・契約制度の基本的在り方について幅広く検討を行うことが現在強く求められている。
1 現行の入札・契約制度の概要及び制度の沿革
入札・契約制度の基本的在り方を検討するに当たり、まず現行の入札・契約制度の概要及びそれが採用されるに至った経緯等について概観する。
(1) 現行の入札・契約制度の概要
1) 入札・契約方式の種類
現在、会計法令及び地方自治法令(以下会計法令等という)においては、次の三方式を定めている。
イ 「一般競争」とは、競争入札に付する工事の概要等を示した公告をして入札参加を希望する全ての者により競争を行わせ、最も低い価格の入札者を落札者とする契約方式である。
なお、この一般競争について事前に競争参加希望者に対して資格審査を実施し、一定の資格を有する者に限り入札に参加させる方式を「制限付一般競争」という。
ロ 「指名競争」とは、発注者があらかじめ競争参加希望者の資格審査を実施して有資格業者名簿を作成し、個別の工事発注前にその名簿の中から発注工事等級、技術的適性、地理的条件等の指名基準を満たしていると認められる有資格業者を多数選定したうえで、指名して競争入札を行う契約方式である。
ハ 「随意契約」とは、発注者が請負業者を選定するのに競争入札の方法ではなく個別に選定した特定の者を契約の相手方とする契約方式である。
2) 運用の状況
会計法令等においては原則として一般競争を採用することとされているが、公共事業の入札・契約については一般競争はほとんど採用されず、指名競争が主な契約方式となっている。
また、随意契約については会計法令等において限定的に採用することとされ、実際にも災害復旧等緊急に施工する必要がある場合等特に理由がある場合に限って採用されている。
(2) 入札・契約制度の沿革
明治二二年に会計法が制定され、一般競争入札方式を原則とすることが明示されたが、不良不適格業者の排除の徹底等を図ることを目的として、明治三三年勅令により一般競争入札方式の例外として指名競争入札方式が創設された。
その後、大正一〇年に一般競争入札方式の原則を緩和する改正が行われ、一般競争入札方式によることが不利となる場合には各省大臣の認定により指名競争入札を採用することが可能とされた。
第二次大戦後、日本国憲法の制定に伴い、昭和二二年に会計法の全面的改正が行われたが、入札・契約制度については従前の内容をほぼ引き継いだ。その後、昭和三六年には、指名基準の根拠規定の挿入等の改正が行われ、現在に至っている。
2 入札・契約制度の基本的在り方を検討する視点
入札・契約制度の基本的な在り方については、以下の五つの視点から検討を行うこととする。
(1) 国際化の進展及びより開かれた行政に対する要請を踏まえた透明性の確保
現在、日米建設協議、ガット・ウルグアイ・ラウンドの場での多国間協議が進行しており、建設市場の国際化は今後着実に進むものと考えられ、また、近年より開かれた行政に対する要請が強くなってきている。
したがって、手続き面等を中心に現行の入札・契約制度を点検し、できる限り透明で明確なものにする必要がある。
(2) 競争性の確保
国際化への対応をはじめとする建設産業の発展及び質の高い住宅・社会資本を整備するためには、個々の建設業者が自ら努力することが必要であるが、特に技術と経営に優れた企業の成長を促すとともに、経済的、効率的な事業執行を図るため、適性な競争が確保されることが必要である。さらに、独占禁止法違反事件を契機に公正な競争の確保への要請が強まっており、このような観点から入札・契約制度を見直すことが重要である。
(3) 契約に当たっての対等性の確保
公共工事の契約に当たっては、発注者と受注者とが請負契約の基本である双務性を確保するだけではなく、契約に至るまでの手続きも含め対等性を確保することが必要である。このため現行の指名競争入札制度の手続きの面の改善も含め、幅広く入札・契約制度の点検を行うことが必要となっている。
(4) 計画的に良質な住宅・社会資本整備を進めるに当たっての信頼性の確保
我が国の住宅・社会資本整備は欧米諸国に比べ依然として立ち遅れているが、本格的な高齢化社会が到来すると予測される二一世紀までの残された期間は、着実な住宅・社会資本整備を図るための特に貴重な期間である。このため、「公共投資基本計画」等に基づき住宅・社会資本整備を効率的かつ着実に推進しなければならないが、特に公共工事は国民の税金等で賄われており、疎漏工事を防止し、良質な工事施工を確保する必要がある。
(5) 民間の技術開発の進展等を背景とする民間技術力の積極的な活用
我が国の建設業界においては、研究・技術開発に対し着実に投資を行ってきたこともあり、建設技術の高度化、技術力の向上が著しい状況にある。
一方、住宅・社会資本整備に対するニーズは高度化、多様化してきており、良質な住宅・社会資本ストックを形成するためには、現在これらの民間技術力を積極的に活用することが特に求められている。
3 欧米主要国の入札・契約制度の概要
欧米主要国の入札・契約制度について得られる情報の範囲内で概観する。
(1) アメリカの入札・契約制度
連邦政府と各州政府では入札・契約方式は異なっており、連邦調達規則により連邦政府の入札・契約制度を見ると、入札参加については完全公開での一般競争の原則をとっているものの、一定金額以上の契約について入札ボンド、履行ボンド及び支払ボンドなどの保証を義務付けており、この与信を保証(ボンド)会社から受ける際に行われる経営能力等についての審査が、実質的に事前の資格審査の機能を果たしている。
一方、州政府の入札・契約制度を見ると、基本的には連邦政府の入札・契約制度に準じているものの、事前資格審査制度を併用している州が多い。
(2) イギリスの入札・契約制度
地方政府はもとより中央政府においても入札・契約に関する法律による体系的な制度は存在しないが、一九四六年にまとめられたバンウェル委員会報告書を契機として指名競争入札方式が一般的になっている。
このバンウェル委員会報告書においては以下の理由により指名競争入札を採用することが適当であるとしている。
イ 一般競争入札は価格のみに比重を置き過ぎて、工事の仕上がり具合に注意を払わないという問題があり、工事は低廉であるということ以上に仕上がりの質が求められなければならない。そのためには誠実でかつ当該工事の施工に関して十分な資質と能力を持った相手方と契約をする必要がある。
ロ 一般競争入札を採用した場合、万一の場合に備えて履行保証制度を採用していれば良いと言う議論もあるが、履行保証制度では、不良工事の手直しや未完成工事を継続するのに相当の不便や時間のロスが生じることとなる。
イギリスで広く採用されている方式は指名競争入札方式の一つの形態であり、入札に際して、施工業者の入札意向を確認すること(意向確認方式)、落札後に価格入り数量明細書を提出させ審査を行うことが特徴となっている。
(3) フランスの入札・契約制度
フランスの入札・契約制度は公共契約法典により定められているが、相手方選定に当たり考慮される要素が、価格のみの方式と価格以外のものも考慮する方式とに分かれ、さらにそれぞれの方式について入札参加者を制限する方式としない方式がある。
この中で最も多用されている方式は制限付きの提案募集による契約(アベルドッフル)で、上限価格を弾力的に設定し、入札価格のみではなく、維持費、技術的価値、工期等も勘案して落札者を決定する方式である。
(4) ドイツの入札・契約制度
ドイツの入札・契約制度は、建設工事請負契約施行規則により、公開入札、制限競争入札等が定められており、公開入札が原則であるが、実際には制限競争入札がかなり行われているといわれている。
この制限競争入札は、入札参加希望者を募る場合と募集を行わずに発注者が指名を行う場合とがあるが、過去の工事実績、技術等を審査のうえ、入札参加者の選定を行い、落札者の決定に当たっては、価格だけでなく技術的な要請等を満たし適当と考えられる条件を提示した者とする方式である。
(5) 欧米主要国の主な特徴
以上に述べたことから欧米主要国の入札・契約制度に関し総じて見られる特徴としては、次の点が挙げられる。
イ 欧米主要国での公共工事の入札・契約方式は、一般競争を採用している国、指名競争を原則とする国等、各国の特色があって一様ではない。
ロ 一般競争入札方式を採用しているアメリカは、長年の歴史を有する保証(ボンド)制度を基に、入札参加者の資格審査を実質上民間の保証会社に委ねるという仕組みを有している。
ハ イギリスのバンウェル委員会の報告にあるように「誠実で、十分な資質と能力を持った」業者により良質な工事が確保されるよう各国とも何らかの制限を設けている。
ニ 落札者を決定する際には、イギリスのように工事費の内訳や見積条件等の入札内容の詳細な審査を行う国もあり、また、フランス、ドイツのように価格のほかに入札者の技術提案の内容を含め総合的に評価する方式を採用している国もある。
公共工事に関する入札・契約制度は、各国が様々な制度を導入しているが、どのような制度を導入すべきかは、その国の制度採用の歴史、住宅・社会資本に対して求める質の確保の方法、不良工事発生による損失に対する考え方等により異なるものであり、諸外国の制度の特色を踏まえつつ、わが国に適した制度を導入すべきである。
4 契約方式の基本的考え方の検討
現行の入札契約方式は1(1)で記したように三種類存在するが、そのなかで、まず原則的な方式といわれている一般競争入札方式、特に制限付一般競争入札方式については、以下のように検討を行う。
(1) 制限付一般競争入札方式の検討
1) 一般的に適用すると仮定した場合
入札条件に何ら制限を課さない完全な一般競争入札方式は、三で触れたように欧米主要国においても現実には存在せず、施工が確実になされるためには入札条件に何らかの制限を課すことが必要となる。例えば、ランクの特定を行い制限を課すことが考えられる。しかし、ランク別の業者数は、一部の発注者における上位ランクを除けばかなり多く、入札に関する審査の事務量が入札者の数に応じて著しく増大するのみならず、このような条件だけでは不誠実な業者等を排除することが困難となることから、疎漏工事の防止等のための施工監督等をより厳格に行わなければならず、業務の量が極めて膨大となる。
また、一般競争入札では、価格競争にさえ勝てば何回でも落札者となり得るため、過当競争、いわゆるダンピングの発生を招来するおそれが多い(昭和五八年中央建設業審議会建議)ばかりでなく、同じランクの中で上位にある建設業者が下位業者に対し優位に立つことにより、中小企業の受注機会の確保という点に支障を及ぼすおそれが多いと考えられる。
2) 一部限定的に適用すると仮定した場合
一方、比較的数の少ない上位ランクの建設業者を対象に制限付一般競争入札方式を導入すると仮定した場合でも、工事施工が適切になされるためには、入札参加業者のランクの特定を行うとともに、工事施工能力を担保する一定の条件を設定することが必要である。
疎漏工事を排除し、一定水準以上の安全で確実な施工を行う業者を選定するためには、当該工事の各種施工条件(地形、地質等の自然的条件、近隣の状況等の社会的条件)等に応じた施工実績の有無、経験を有する技術者の状況など、詳細な条件についても選定の条件として採用することが必要である。
さらに、技術と経営に優れた企業の発展を促進するためには、長期的に良質な工事を持続しようとする努力を企業の信頼性として評価し、業者の選定に反映することが望まれるが、そのためには過去の工事成績についても選定の条件とすることが必要である。
しかしながら、制限付一般競争入札において条件設定を行う場合は、できるだけ幅広い入札参加を許容するという一般競争入札の趣旨から、参加資格の有無が明確に判断し得る客観性を有していなければならず、過去の類似工事の実績等に関し、客観的に判断し得る明確な条件でなければならない。
したがって以上のような詳細な選定条件は、制限付一般競争入札において入札参加業者の資格を規定する客観的な条件としてはなじみにくく、これらの条件は、むしろ指名競争入札において、指名業者を選定するための審査基準にふさわしい性格のものである。
(2) 契約方式の基本的考え方
したがって、制限付一般競争入札方式を現状において導入することは困難であり、公共工事の入札・契約方式としては、従来通り指名競争入札方式を運用上の基本とすべきである。
制限付一般競争入札方式の導入については、以上のように入札審査、施工監督等の事務量の増大のほか、疎漏工事を排除するための客観的条件の付け方について技術的に検討すべき課題が存在するなど、導入に当たっての条件整備を行う必要があることから、今後引き続き幅広い検討を重ねることが必要である。
工事施工の質を確保するため、信頼し得る施工業者を選定するという観点からは、指名競争入札方式がより優れていると判断されるが、一方、一般競争入札方式は入札参加意思のある業者に対し、広範な参加機会の確保を図るという利点を有している。こうした利点を活かすため、幅広く施工業者の技術力等の情報を集めるなど、指名競争入札方式についても以下で検討するように引き続き的確な改善を行うことは必要である。
また、住宅・社会資本整備に対する近年の国民の多様なニーズに対応するためには、特に民間技術の活用が望まれるが、このような技術開発の積極的な活用のための入札方式をはじめ多様な入札・契約方式を導入することが必要である。
なお、現行の契約制度のもとでは、一般の物品と建設工事請負等の契約方式について同様の取扱いがなされているが、工事請負については、その目的物が国民共有の資産として早期に供用されることが期待され、かつ、長期に効用を発揮する特性を持つことなどから、落札者の決定に当たっては、価格以外の評価すべき様々な要素が存在すると考えられる場合があり、例えば一部の工事については品質、工期、デザイン、施工の安全性等の重要な要素と価格を総合的に評価し決定することがより適切な場合もあると考えられることから、今後このような課題についても検討することが必要となろう。
5 現行の指名競争入札方式の改善
4(2)で触れたように、指名競争入札方式及びその運用については改善を行う必要があるが、まず二で示したように、(1)透明性の確保、(2)競争性の確保、(3)対等性の確保の視点等から、現行の指名競争入札方式について検討を行い、以下のような事項について改善を図ることが必要である。
(1) 透明性の確保
1) 現行指名基準のより一層の具体化
指名基準の制定及びその公表を徹底するとともに、現行の指名基準について、可能な範囲で、より具体的な適用基準を策定することを検討すべきである。その際、工事の技術的適性等を考慮に入れた建設業者の施工実績等に関するデータベースの整備を行い、指名に際しての企業評価に関する情報の充実を図る必要がある。
2) 非指名者、非落札者に対する対応
ガットにおける議論の推移を見つつ、一定の工事について指名されなかったあるいは落札者とならなかった建設業者に対し、その要請に応じ、その理由を説明することとするとともに、苦情の処理が適切に行われるよう検討すべきである。
3) 指名業者、入札結果等の公表
指名業者、入札結果については、入札・契約制度の透明性を確保するため、昭和五七年中央建設業審議会建議により公表するとされているが、いまだに公表を行っていない発注者は速やかに公表を行うとともに、入札結果については、全入札者及びその入札金額を公表することが望ましい。
なお、同建議においては、指名業者については指名通知後なるべく早期に公表するものとされている一方で、独占禁止法等の違反防止のために指名業者の公表を入札後に行うことが適当であるとの意見があるが、開かれた行政が強く望まれていること等から、現段階においては、指名通知後なるべく早期に公表することとする。
(2) 競争性の確保
1) 技術力の的確な評価、反映
通常より高度な技術力を要する工事については、入札参加希望者から技術情報を収集する等により、各建設業者の技術力をより的確に評価し、反映させる入札・契約制度を検討し、技術と経営に優れた企業の一層の発展を図ることが必要である。
2) 工事費内訳書の提出
入札者の見積り根拠を明確にするため、一定の工事の入札に際し、工事費内訳書の提出を義務付けることを検討する必要がある。
3) 入札参加資格に係る審査の見直し
技術力、工事の安全成績、労働福祉の状況等の事項の評価を的確に行い、技術と経営に優れた建設業者の成長を促すため、入札参加資格の審査項目、評価手法の見直しが必要である。また、発注機関が入札参加資格審査申請者に対して経営事項審査を受けることを義務付けることとすべきである。
(3) 対等性の確保
1) 適正な予定価格の設定等
イ 刊行物等を活用し、市場価格の実勢を迅速かつ的確に反映した設計単価を設定するとともに、安全対策、環境対策等の実施に対応し得る機動性のある積算体系を整備する必要がある。
ロ 適正な工期の設定について一層の徹底を図るとともに、設計書金額の一部を正当な理由なく控除し予定価格を作成するいわゆる歩切りについては、厳に慎むべきである。
2) 工事希望の反映
指名に当たり、建設業者の入札参加意欲が反映されることが望ましいことから、指名に至る段階で工事希望を徴し(意向確認)、この中から、あるいはこれを優先して、指名する制度について、3(2)で触れたイギリスの入札・契約制度等を参考に、一定の工事について導入を図るべきである。
3) 入札辞退の自由
指名を受けた者は入札手続きのあらゆる段階において辞退できる旨を徹底する。
4) 見積期間の確保
見積期間については、週休二日制の定着を勘案しつつ、建設業者が適正に見積ることを可能とするため、土曜、日曜、祝日を除いた期間で適正な見積期間が確保されるよう努めるべきである。
(4) その他
1) 指名業者数の取扱い
指名業者数については、予算決算及び会計令において、「なるべく一〇人以上指名しなければならない」とされており、原則はあくまで一〇社以上の指名であるが、過疎地等の地域的な要因、工事施工に要する技術力の特殊性等によりこれに満たないこととなる場合における指名業者数の取扱いについては、有効な競争の確保に十分留意しつつ、画一的な運用を行うことなく適正に運用を図ることが必要である。
一方、昭和五七年当時なるべく二〇社とする措置を導入したことを受け、現在でも一〇社に比べかなり多い数値を設定している場合があるが、これについても適正な運用を図ることが必要である。
2) 共同企業体制度の取扱い
共同企業体制度については、昭和六二年の共同企業体の在り方に関する中央建設業審議会建議等を受けてその徹底に努めているところであるが、特に地方公共団体における運用に関して小規模な工事の共同企業体による施工等必ずしも趣旨に沿った運用がなされていない状況にあり、建議等の徹底に向けてさらに努力する必要がある。
なお、共同企業体の在り方に関する建議が出されてから五年余りが経過したことから、その後の実態も踏まえ、共同企業体の在り方について別途検討を行うことが必要である。
3) 参加資格審査手続の簡素化等
契約参加資格審査手続については、経営事項審査結果通知書の効率的活用、申請手続の簡素化等を行うなど、審査手続に関連する事務負担の軽減化を図るべきである。
4) 発注標準の見直し
発注標準の公表を徹底するとともに、工事の質の向上、建設業の施工能力の向上等に伴う発注規模の拡大に適切に対応し、建設業の生産性の向上にも資するため、工事の規模及び特性を考慮し、発注標準について適切な見直しを行うべきである。
5) 工事完成保証人のあり方
工事完成保証人を選定する場合における相指名業者に限定することのない幅広い選定措置の徹底、その他工事完成保証人の全般的なあり方についての検討を行う必要がある。
6) 入札回数の見直し
不落札の場合、入札事務の簡素化を図るため、入札回数は二回を限度とする方向で見直しを行うべきである。
7) 発注機関と建設業界との意見の交換
入札・契約制度について、建設業界の理解を促進させるとともに、その運用実態を的確に把握し、制度のより一層の適正な実施を確保するため、地方においても発注機関と建設業界との意見の交換に努めるべきである。
6 多様な入札・契約方式の検討
公共工事の入札・契約方式については、指名競争入札方式における的確な改善を行うに当たり、五で述べた事項に加え、建設業者の技術に関する適切な競争を確保するとともに、入札参加意欲のある建設業者に対し、できるだけ広範な参加機会を確保することが望まれる。
また、民間の技術開発を促進するとともに、公共工事においてその成果を積極的に活用していくことが必要となっている。
このため、これらの観点を重視した入札・契約方式として以下のような多様な方式の導入の検討が必要である。
(1) 技術力を重視した入札方式(技術情報募集型指名競争入札方式)
近年、建設技術の高度化、多様化等が急速に進展していることから、技術的に高度な工事の実施に際しては、企業の技術力等の評価を的確に行うことが重要になっており、指名を行うに際し、発注者が事前に技術情報を募集する手続きを導入すべきである。
具体的には、
1)対象ランクの登録業者に対し、事前に掲示を行い、類似工事の実績、配置予定の技術者、当該工事の施工計画等の技術情報を幅広く募集し、
あるいは、
2)あらかじめ、発注者が対象ランクの登録業者の中から相当数の業者を選択し、技術情報の提出を求めることにより、
提出された技術情報を参考にして指名を行う方式等である。本方式を採用することにより、企業の技術力のみでなく、参加意欲についても反映することが可能となる。
なお、本方式は、幅広く技術情報を収集し審査を行い、当該工事の施工能力を判断することから、指名業者数の取扱いについて、競争性の確保に配慮しつつ、画一的な運用を行うことなく適切な運用を図ることが必要である。
(2) 参加意欲を重視した入札方式(意向確認型指名競争入札方式)
指名競争入札の参加者を決めるに当たっては、5(3)2)で触れたように建設業者の入札参加の意欲が的確に反映されることが望ましいことから、参加意欲があるかどうかを確認する方式を導入することが必要となっている。
したがって、技術情報募集型指名競争入札方式に準ずるような技術力を必要とする工事について、対象ランクの登録業者の中から相当数の業者を選択し、選択された者のうち、参加意欲及び配置予定の技術者等を参考に指名を行う方式等を導入すべきである。
なお、この方式は3(2)で触れたイギリスの入札・契約制度の考え方に近いものである。
(3) 民間の施工に関する技術開発を活用した入札方式(施工方法等提案型指名競争入札方式)
民間の技術開発の進展が著しい分野の工事においては、技術開発の積極的活用及び促進のため、施工方法等に関する独自の提案を募り、施工に反映させる方式を導入すべきである。
具体的には発注者が指名の際、施工方法等に関し提案を求める範囲及び標準的な内容を提示し、入札参加者は、独自の提案が有る場合は発注者に対し提案を行い、審査を経て入札し、最低価格の入札者を落札者とする方式等である。
本方式は(1)の技術情報募集型指名競争入札方式の一環として、技術情報の募集の手続きに組み込んで実施することもできる。
なお、本方式はVE(Value Engineering)制度の考え方(同等の性能、機能を確保しつつ、投資コストを削減するための改善提案を認める考え方)のうち、いわゆる契約前のVE制度の考え方に近いものであるが、契約後に代替案の提案を認める契約後のVE制度については、落札者に対する利益の還元方法の法的位置付けなどについて、今後幅広い検討が必要である。
(4) 技術提案の内容を加味し選定を行う入札方式(技術提案総合評価方式)
民間技術のノウハウを活用することにより特に優れたデザイン、施工方法等を採用し得る可能性が高い工事の分野については、建設業者の技術提案を募集し、発注者が審査を行い、最適な提案を行った業者を落札者とする方式の導入を図ることが必要となっていると考えられる。
具体的には入札参加者が、発注者の提示する指示書に基づき施工実績、技術者経歴及び設計、施工方法等に関する技術提案並びに価格を同時に入札し、発注者は入札価格に加え、技術提案の内容を品質、工期、デザイン、施工の安全性等の観点から総合的に評価し、落札者を決定する方式等である。本方式の導入のためには、総合評価における評価要素の抽出及び的確な算定方式の構築、実施に当たっての手続などについて十分な検討が必要である。
なお、この方式は3(3)で触れたフランスなどの入札・契約制度の考え方に近いものである。
(5) 建設工事の総合管理方式
本方式は、CM(Construction Management)方式といわれ、発注者の代理人として事業全体にわたり、設計の検討、工程管理、品質管理、費用管理などプロジェクトのマネージメントを行う方式である。
日本の公共事業の場合、発注機関の技術者が、コンサルタントを活用しながら設計業務、管理業務を行っていること、総合工事業者が施工段階におけるマネージメント機能を既に果たしていること、工事に関わる地域住民、関係機関との調整については建設業者だけでは対応が困難であること等から、CM方式を直ちに導入する状況にはないが、今後本方式については、発注者との役割分担の明確化、法制度との調整などに関し幅広い検討が必要である。
7 公共工事発注機関相互の連絡、協調及び支援体制の強化
公共工事については、地方公共団体発注工事のウエイトが高く、特に市町村については発注件数が多いことから、入札・契約制度の的確な運用、事業の円滑な執行に当たっての地方公共団体、とりわけ市町村の果たすべき役割は大きい。
したがって、以下のように国、都道府県、市町村等の公共工事発注機関相互の連絡、協調等の体制を強化するとともに、特に都道府県における組織の充実を図り、市町村への指導、連絡体制を強化する必要がある。
なお、地方公共団体における事業の円滑な促進を図るため、請負契約の議会議決対象額について引上げを図るよう努めるとともに、議決手続きについても専決処分の活用等が講じられるよう努めることが必要である。
(1) 公共工事発注機関における技術者不足と支援体制の強化等
現在、特に市町村においては技術者が不足しており、積算を含む適切な発注体制に支障をきたす状況も生じているので、例えば都道府県における建設技術センターの新設、拡充(既設二九都道府県)を促進し、同センターが市町村における技術者不足を補完・支援する体制を整備することが必要となっている状況にある。
なお、積算、施工管理等技術管理業務の適正かつ円滑な執行のためには、地方レベルでの各県、市町村等の技術管理担当者が相互に情報交換等を行うことが重要である。
(2) 公共工事発注機関相互の連絡、協調体制の強化
現在、公共工事に関する契約制度の運用の明確化、合理化のため、国、公団等から構成する中央公共工事契約制度運用連絡協議会(中央公契連)が設立されている。一方、地方レベルの組織として、地方公共工事契約業務連絡協議会(地方公契連)及び都道府県公共工事契約業務連絡協議会(県公契連)が設立されており、平成三年度には、全国の都道府県、市町村等が地方公契連又は県公契連に加入することとなった。
現在、中央公契連では、随意契約、指名停止等のモデル作成、各種の申合せ等を行っているが、今後は国、地方が一体となった連絡調整を行う必要が生じている。
このため、国、地方からなる全国的レベルでの公共工事発注機関相互の連絡、協調体制の強化を図ることが必要である。
おわりに
以上のように、当審議会は入札・契約制度の基本的在り方に関し検討を重ね、結論を取りまとめたものである。現在、良質な住宅・社会資本整備等を通じ、安全でゆとりとうるおいのある国民生活と活力ある経済社会を実現することが強く求められており、また、住宅・社会資本整備を担う建設産業の発展のためにも、入札・契約制度を適切に維持していくことが必要である。
また、特に近年独占禁止法違反事件を契機に公正な競争の確保への要請が強まっているが、独占禁止法等に違反する行為の防止については、基本的には公正な競争が建設業界の健全な発展にも資するという認識のもとに、入札・契約制度を適切に維持することに加え、関係法令の周知について研修等により啓発、指導を継続的に行い、法令遵守の徹底に努めるとともに、違反の事実が明らかになった場合は、建設業法に基づく監督処分、発注に当たっての指名停止措置等により厳正に対応することが必要である。
以上の要請に応えるため、指名競争入札方式の適切な改善及び多様な発注方式の導入など本答申の内容が的確に実施されることを強く望むとともに、入札・契約制度の運用に当たっては、制度に求められる透明性、競争性、対等性等の視点に立ち、絶えず適正な方向に導くよう努力することが必要であると考える。
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