

10国土地第三四二号
平成一〇年一一月一八日
国土庁土地局長通知
不良債権担保不動産の適正評価手続における不動産の鑑定評価に際して特に留意すべき事項について(その二 デフォルト状態にない不良債権の担保不動産)
平成一〇年一一月一七日付けで報告のあった標記については、先に平成一〇年九月二二日付けで報告のあった「不良債権担保不動産の適正評価手続きにおける不動産の鑑定評価に際して特に留意すべき事項について」とともに、不動産鑑定士等が不良債権担保不動産の鑑定評価を行うに当たって実務上の指針となるものと考えられるので、平成一〇年九月二五日付け10国土地第二六六号をもって通知した「不良債権担保不動産の適正評価手続における不動産の鑑定評価に際して特に留意すべき事項について」の記1及び2に留意の上、貴協会所属会員に対しその趣旨、内容等の周知徹底を図られるとともに適正な鑑定評価の推進に努められたい。
不良債権担保不動産の適正評価手続における不動産の鑑定評価に際して特に留意すべき事項について(その二 デフォルト状態にない不良債権の担保不動産)
平成一〇年一一月一七日
I 評価対象
1 本留意事項の性格
我が国の現下の緊急課題である金融機関の不良債権問題の解決を図るためには、その不良債権の担保となっている不動産の評価においても的確、適正な鑑定評価を行いながら、その実質的な処理を進めていくことが強く要請されているところである。
このため、(社)日本不動産鑑定協会(以下「当協会」という。)においては、先の九月二二日に、「不良債権担保不動産の適正評価手続における不動産の鑑定評価に際して特に留意すべき事項について」(以下「留意事項(その一)」という。)をとりまとめ、まずは、デフォルト状態にある不良債権の担保となっている不動産の鑑定評価に際して留意すべき事項について、研修会を開催するなど当協会各会員にその周知徹底を図ったところである。
担保不動産の鑑定評価については、当協会は、平成元年にその鑑定評価に当たっての留意事項を「担保不動産の鑑定評価」という形でとりまとめている。ここでの鑑定評価の主な対象としては、融資時において担保に供される不動産を念頭に置いたものであり、その求める価格も現況重視の正常価格とされている。
このうち、「担保としての安全性を考慮することが特に要請される場合」については、コンサルタント価格(意見価格)を求める場合に当たるとして整理されていたが、その後平成二年の不動産鑑定評価基準の改訂においては、「特定価格を求めることができる場合」として規定されたところである。しかし、その鑑定評価手法については、そのような評価要請もなかった事情もあり実務上の指針としては特段整理されてこなかったものである。評価上の基本的な考え方としては、収益還元法による収益価格を中心に求めるものとされていたものの、詳細な手法については、各不動産鑑定士に委ねられていたものといえる。
本留意事項は、不良債権の担保不動産のうち、先のデフォルト状態の不良債権の担保不動産についての鑑定評価に際しての留意事項に続いて、デフォルト状態にない不良債権の担保不動産の鑑定評価において特に留意すべき事項についてとりまとめたものであり、上記の不動産鑑定評価基準に定める特定価格を求める場合における「担保としての安全性を考慮することが特に要請される場合」の範疇に属する鑑定評価についての留意事項といえる。留意事項(その一)の対象となった、デフォルト状態の不良債権の担保不動産の鑑定評価は、その担保権の実行段階(債務者の意思にかかわらず直ちに換価することにより債権回収を行う段階)を念頭に置いたものであるが、今回は、融資後において債権が不良債権化し、デフォルト状態に陥る可能性が生じている債権の担保不動産についての鑑定評価において特に留意すべき事項を明らかにしたものである。
2 本留意事項の対象となる不動産
本留意事項の対象は、「デフォルト状態にない不良債権の担保となっている不動産」であり、不良債権そのものではない。また、今回デフォルト状態にない不良債権の担保不動産の鑑定評価についての留意事項としてとりまとめる対象は、次の範囲のものとする。
1) 不良債権の早期処理という社会的要請に基づいて、担保不動産を評価するに当たり、債務の返済に懸念があり、安全性を考慮することが特に要請されている不良債権(現在時点においてはデフォルト状態にないもの)の担保不動産を、不良債権の早期処理のための債権回収の中で早期に任意売却する場合の鑑定評価。
2) 前記1)と同様の不良債権を、前記要請に基づいて不良債権処理のために債権を売却等する場合の担保としての不動産の鑑定評価。
なお、不良債権そのものの適正な評価は、本留意事項に基づいた担保不動産の評価および債務者が有する不動産以外のすべての資産等の評価を行うことによって初めて明らかになるものと考えるが、これには、不動産以外の他の資産等の評価の専門家と不動産鑑定士等との協同作業が必要であると考えていることを付言する。
3 不良債権の状態と価格の種類の判断について
本留意事項で対象としているデフォルト状態にない不良債権における、債権の状態等による対象不動産の早期売却の必要性の程度等の判断については、依頼者(債権者等)に委ねることとし、必要に応じて公認会計士の判断を求めて決定することとする。
この場合、不動産鑑定士は、早期売却の必要性の程度等の確認とそれに応じた鑑定評価の手法の選択肢について説明し、求める価格の種類が、正常価格(本留意事項の適用外)または特定価格のいずれにすべきかについて協議し、決定する。(決定した経緯、事情については、鑑定評価書に明記しておく必要がある)
なお、不良債権の状態については、債務者の財務状況、資金繰り、収益力等によりその返済能力をもって判定することになるが、債務者についてのその状況等による区分については、「早期是正措置制度導入後の金融検査における資産査定について」(平成九年三月五日蔵検第一〇四号、後記注参照)において定められている「正常先」、「要注意先」、「破綻懸念先」、「実質破綻先」、「破綻先」の五区分の考え方を参考とする。本留意事項の対象となるデフォルト状態にない不良債権は、この区分のうち「要注意先」、「破綻懸念先」に相当する部分が多いと考えられる。
(注) 債務者区分
1) 正常先…業況が好調であり、かつ、財務内容にも特段の問題がないと認められる債務者をいう。
2) 要注意先…金利の減免、棚上げを行っているなど貸出条件に問題のある債務者、元本返済若しくは利息支払いが事実上延滞しているなど履行状況に問題がある債務者のほか、業況が低調ないし不安定な債務者又は財務内容に問題がある債務者など今後の管理に注意を要する先をいう。
3) 破綻懸念先…現状、経営破綻の状況にはないが、経営難の状態にあり、経営改善計画等の進捗状況が芳しくなく、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者をいう。具体的には、現状、事業を継続しているが、実質債務超過の状態に陥っており、業況が著しく低調で資出金が延滞状態にあるなど事業好転の見通しがほとんどない状況で、自行(庫・組)としても消極ないし撤退方針としており、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる先をいう。なお、自行(庫・組)として消極ないし撤退方針を決定していない債務者であっても、当該債務者の業況等について、客観的に判断し、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる場合は、破綻懸念先とする。
4) 実質破綻先…法的・形式的な経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状況にあると認められるなど実質的に経営破綻に陥っている債務者をいう。具体的には、事業を形式的には継続しているが、財務内容において多額の不良債権を内包し、あるいは債務者の返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し、実質的には大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており、事業好転の見通しがない状況、天災、事故、経済情勢の急変等により多大な損失を被り(あるいは、これらに類する事由が生じており)、再建の見通しがない状況で、元金又は利息について実質的に長期間延滞している先などをいう。
5) 破綻先…法的・形式的な経営破綻の事実が発生している先をいい、例えば、破産、清算、会社整理、会社更正、和議、手形交換所の取引停止処分等の事由により経営破綻に陥っている債務者をいう。
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4 評価に当たっての基本的姿勢
前記21)の任意売却のための評価の場合については、早期売却の必要性があることにより買い主が限定され一般的な市場を考慮することが適当でないので、求める価格の種類は留意事項(その一)と同様の性格を持つ特定価格である。また、早期売却の必要性の程度により、正常価格に近いものから留意事項(その一)の特定価格に近いものまでの価格範囲があり得る。
前記22)の担保としての評価の場合は、担保として安全性を考慮することが特に要請される場合の鑑定評価が基本となり、デフォルト状態にある不良債権の担保不動産のように直ちに確実に換価できる最低価格を査定するということではないが、担保として、万一デフォルト状態に陥った場合に対象不動産を市場で確実に換価することにより回収できる額を見積もり査定することが必要になる。したがって担保としての安全性(市場性、価格および収益の変動リスク等)を特に考慮する必要があり、現在時点での売却において想定する一般的な市場性のみを考慮することが適当でないので、正常価格を求める評価方法とは異なる手法を適用する必要があり、求める価格の種類は特定価格となる。
本評価の基本的な姿勢は、1)対象不動産が有している収益力を価格に的確に反映させることを基本とし、2)詳細な調査に基づくより確実なデータを前提とした合理的なものとすることが必要不可欠であるとともに、3)早期売却の必要(売却の場合)、換価困難といった減価の必要性を的確に価格に反映させ、4)調査によって判明しない部分については、原則として価格に対して保守的な評価、すなわち判明しない部分をリスクとして評価し、結果として早期売却の必要性の程度に応じた、または担保としての安全性を考慮した対象不動産が有する収益力を的確に反映した価格を求めて評価することとなるものである。
なお、工場抵当法等による工場財団等について本留意事項の対象として鑑定評価を求められる場合には、工場財団を一体として処分できる場合はゴーイング・コンサーン価格とし、また企業倒産により企業の継続ができない、または対象となる工場の閉鎖の懸念が相当高いと考えられる場合には、担保として評価する場合もすでにそのような状態になっている場合と同様に処分価格として求めるものとする。
5 その他
不動産鑑定評価基準と本留意事項との関係は、留意事項(その一)と同様に一般則と特別な留意点という関係にある。したがって、本留意事項に定められていない部分については、原則として、「不動産鑑定評価基準」の適用があることはいうまでもなく、また前掲「担保不動産の鑑定評価」等についても、本留意事項に定めのない部分については、本留意事項の基本的考え方に反しないかぎり、これを参考とすることは差し支えないものである。
また、本留意事項は、その性格上、留意事項(その一)とともに不良債権の早期・実質処理といういわば喫緊の課題に対応するために緊急に短期間で検討されたものであり、現段階における検討作業の成果として理解されるべきものである。今後現実に、本留意事項に基づいて不良債権の担保不動産の評価作業が行われる過程で、より的確な評価を目指して修正が必要となった場合には、随時、修正・改善が加えられるべきものであることは言うを待たない。また、本留意事項は、本来的に、現在の不良債権の処理が終了することをもってその主たる役割をほぼ終えるという暫定的性格を有しているが、これとは別に、不動産の有する本来の収益力を的確に評価する必要のある不動産の証券化等の場合の評価については、本留意事項とは別途に検討を進めており、早期にとりまとめを行う予定である。
ところで、本留意事項に基づく評価過程は、留意事項(その一)と同様に不動産鑑定士等にとって、これまでの通常の鑑定評価と異なり、極めて多くの事項についての詳細な調査と慎重な評価作業を必要とし、未経験の判断を伴うものになることが予想されるとともに、その結果については重い責任を負うことになることも予想される。このため、当分の間、本留意事項に基づく鑑定評価の依頼に対しては、他の数人の不動産鑑定士等との意見交換をふまえて行うことが望ましいことを付言する。
II 調査統括表
本評価に当たって必要となる調査事項については、留意事項(その一)と同じ内容の調査統括表を作成するものとする(該当しない項目は削除してもよい)。なお、本表の各調査項目は概ねの例示であり、必要に応じて適宜追加する。
調査不能または不確実な事項については、調査責任を明確にするため、その旨およびその理由を明記する。また、専門家として可能な限りの調査を徹底して行ったことを証明するため、調査日時、確認資料、確認先等を明記する。調査事項によっては、弁護士、公認会計士、建築士等他の専門職業家の調査・判断を要する場合があり、この場合には、その意見を尊重する。たとえば、賃貸不動産についての、テナントの財務諸表の分析等に基づく賃料支払い能力の判断、賃借人の立ち退きを予定するときの賃貸借契約上の諸問題の解決について、公認会計士、弁護士等の調査および判断を要する場合がこれに該当する。また、調査統括表に調査等を依頼した専門家等を記載し、その調査結果の概要を記載するとともに、意見書等を添付する。
なお、依頼者の意向(調査期間、費用による制約も含む)により、調査項目や、その精度が制約される場合は、調査範囲の責任を明確にするため、該当項目にその旨を記載する。
III 適用手法
1 原則
担保としての評価は、以下に記載の各手法により求める。
担保としての評価に当たっては、対象不動産が有している的確な収益力を価格に反映させることを基本とする前記の評価の基本姿勢から、原則として、買い主側の価値判断としての、対象不動産の生み出す収益に基づく手法である収益還元法を採用する必要がある。
一方、地域の特性として一般に収益性を前提としないで取引されており、適切な賃料等の収益把握が困難と判断される戸建住宅等については、市場性等の減価要素を十分織り込んだ取引事例比較法等によることが適当である。
なお、収益還元法を原則として採用する場合においても、他の手法から求めた価格による験証および調査資料として、取引事例比較法または原価法等による試算も行うこととする。
また任意売却のための評価は、評価に当たっての基本的姿勢が早期売却を除き共通している本留意事項による担保としての評価の場合の適用手法、適用数値等を準用してこれを標準とし、正常価格およびデフォルト状態の不良債権の場合の特定価格を求める場合のそれぞれの適用手法、適用数値等を勘案して、早期売却の必要性の程度(対象不動産の通常成約に必要な期間と債権等の状態等により許容される(前提としている)市場滞留期間との関係等)に応じて評価することとする。
(1) 有期還元手法
収益還元法は、対象不動産が将来生み出すと予想される純収益の現在価値の総和をもって対象不動産の評価額とする評価手法である。
評価額の正確性を期すには、確実性の高い収益予測ができる期間とやや確実性の劣るその先の期間とを区別した方が妥当なことから、本評価で用いる収益還元法は、前者の期間を保有期間とし、各年度毎の現実的なキャッシュフローを分析した還元手法(ディスカウンティッドキャッシュフロー法(DCF法))が適当である。
これを数式で表すと次のとおりである。
V=
(ak/(1+r)k)+((R・P)/(1+r)n)
V:対象不動産の価格
a:毎期の純収入
r:還元利回り(ゴーイングレート、以下同じ)
R・P:復帰価格
n:aの予測が比較的確実な期間(保有期間)
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(2) 一定期間の収益(期間収入)の求め方
期間収入とは、保有期間中の各年度の純収入(純キャッシュフロー)の総和をいう。
純収入は、総収入から運営支出と資本的支出とを控除して求める。収益より現金収支の方が計算方法による影響を受けず客観性が高いため、原則として、通常の損益計算と異なり、収入および支出の査定に当たって、その固定化(平準化)は行わない。したがって減価償却費は含めず、資本的支出としたものについては支出した年度の支出として計上し、一時金は入出金のあった年度の収入または支出とする。
また、収入および支出の各項目の変動予測については、原則として各年度毎に査定することとする。
詳細は、後記3(1)1)の「期間収入の現在価値」で記載。
(3) 復帰価格の求め方
復帰価格は、保有期間(予測可能期間)終了時(n年末)の転売予測価格から売却費用を控除して求める。詳細は、後記3(1)2)「復帰価格の現在価値」で記載。
転売予測価格は、次の三つの方法のうち、本評価においては、担保の安全性確保という観点から、収益性を重視しているiおよびiiの方法を原則とし、iiiの方法を参考として求める。なお、留意事項(その一)で記載した絶対額で求める方法は担保としての評価では実際の売買は想定していないので採用しない。
i 求める価格(未知数)に予測価格変動率を乗じて求める方法
R・P=V(1+g)
g:n年間の対象不動産の予測価格変動率(ただし(1+g)<(1+r)n)
ii n+1年以降の純収入の現在価値の総和として求める方法
R・P=
(ak/(1+rT)k−n)
rT :転売時還元利回り(ターミナルレート)
iii 収益還元法以外で求められた価格時点の価格に、n+1年までの予測価格変動率を乗じて求める方法
iの方法は、元本価値の変動と純収入の変動が必ずしも一致しない不動産(地域、種類)の場合や、将来予測の不確実性が高いため、比較的短期の予測にとどめた方がよい場合で、n+1年以降の収支予測や利回り想定が困難なため、n+1年までの価格変動を直接予測する方が、今後の価格の下落予測を反映させやすく、より確実性が高い転売価格が得られると考えられる場合に採用する。また、この方法は、期間収入に見合うキャピタルロスから価格時点の価格を算定する方法といえる。ただし、期間中において多大な臨時支出等がある場合や新規物件等で正常な入居率に達していない場合等は、期間収入がマイナスになったり、きわめて低くなることにより、適切な価格が求められないので、標準的な収支の査定により求めた転売価格を基準として査定し、本方法による価格は参考価格とする。
一方、iiの方法は、地価および純収入等が安定(または上昇)していると判断できる不動産(地域、種類)の場合や、n+1年までの価格変動率の予測がn+1年以降の収支予測や利回り想定よりも困難な場合に採用する。なお、還元利回り等の査定に当たっては、純収入の変動に一致しない価格変動(下落)を十分反映しうる査定をしなければならない。
2 本手法適用上の留意事項
(1) 評価条件
不良債権担保不動産の評価であることから、原則として現況を所与の条件として評価し、想定条件はつけないものとする。なお、本評価の過程で種々の減価を行うための、当該減価要因がないものとする想定は当然可能である。
現況を所与の条件としてとは、物理的および権利関係の状況を中心として現況に基づく評価を原則とするものの、担保としての安全性を考慮した(早期売却の必要性の程度に応じた)評価額を求めるという目的から当然に加えられる想定条件を排除するものではない。ただし、ここで付される想定条件は、保守的に評価を行うという目的に添って、合理的・現実的に許容されるものでなければならない。すなわち、関係当事者等の他者との合意を必要とせず、保有期間や対象不動産の価格からみて許容しうる一定の期間とコストをかければほぼ確実に達成できるものについては想定が可能であるが、虫食い土地等での隣地等との併合や一体開発は原則として想定しないものとする。具体的には、次のようなものは本留意事項においても想定可能である。
イ 更地等での建物想定、または容易に取壊し建て替えができると判断される場合の取壊し建て替え想定
ロ 事務所ビルにおいて、自社ビルを賃貸ビルとして、自用部分を賃貸する想定
ハ 賃貸不動産において、現所有者との関係で市場賃料と比し割高の賃料を支払っている借家人についての適宜賃料の想定(割安の場合には保守的な判断を基本とする本評価の趣旨に留意のうえ判断)
ニ ホテル等の事業用不動産(自用)を賃貸不動産とする想定
ホ 容易に行える、店舗ビルを事務所ビルとする、または事務所ビルやホテルをマンションとする用途変更の想定
ヘ 最悪でも法的整理による強制的手段により解決できることを前提とした、将来における、権利関係の整序や妨害行為の除去の想定
(2) 保有コストに見合う収入の得られない不動産の評価
不良債権担保不動産には、地上げ途上のいわゆる「虫食い土地」や狭小土地、あるいはリゾート地の過剰投資のホテル等、現状では全く収入を得られないか、多少得られるとしても、保有税や管理費等の保有コストに見合う収入の得られない不動産が見受けられるが、このような不動産の評価については、後記三「種類別の評価上の留意事項」をふまえ、各類型に応じた評価を行ったうえで、次のような考え方により評価する。
1) 保有コストに見合う収入の得られない不動産(虫食い土地等)
通常の鑑定評価の場合は、虫食い土地や無道路地、狭小土地であっても、併合や一体開発の可能性等により、相応の価値を認め、評価を行うこととなる。しかし、本評価では、その性格上、担保としての安全性を考慮した価格を求めることを目的としているため、保有期間や対象不動産の価格から許容しうる一定の期間とコストをかければほぼ確実に達成できるものを除き、併合や一体開発を考慮すべきでなく、現況を前提とした評価をするものである。したがって、現況で通常想定できる収入が保有コストを下回る場合には、担保価値がないものとして評価する。この場合、評価額の欄に「担保価値なし」と記載する。なお、比準価格等も比較考量する低・未利用地についても、個別的要因を中心に担保適格性を判断し、市場性が十分あると判断できないものは担保価値がないものとする。
なお、不動産の売却の場合は、早期売却の必要性の程度を勘案して、投資価値の有無を判断する。
2) 用途転用しても保有コストに見合う収入の得られない事業用不動産等
通常の経営能力をもってしては赤字経営になるホテル(特にリゾート系)や大規模工場または周辺環境と不適合となっている賃貸不動産等で、建て替えを含め他の用途に転用しても、転用および保有コストに見合う収入の得られないと判断される(他の専門家等の意見を聴取する必要がありうる)場合は、前記1)と同様に担保価値がないものとして評価する。
3 種類別の評価上の留意事項
対象不動産の種別、類型等に応じて、以下に掲げる評価上の留意事項を考慮して評価を行う。なお、本留意事項においては、(1)商業用賃貸不動産(オフィスビル等)、(2)事業用不動産、(3)住宅、(4)現状は低・未利用の状態にある不動産、を主な種類として挙げる。
用途の転用が容易に、転用した方が明らかに収益性が著しく高いと判断される場合は、転用後の用途に基づく種類にしたがって評価し、転用に必要なコストと期間に応じて減価する。また、現存の建物をすぐに建て替えることを想定する場合は、後記(4)「低・未利用の状態にある不動産」として評価する。
なお、種類別の、対象不動産に内在する減価要因の留意事項は、IV五「種類別減価要因」に記載する。
(1) 商業用賃貸不動産(オフィスビル等)
商業用賃貸不動産とは、事務所、店舗を中心とする商業用途(一部に居住用途が混在しているものも含む)を目的として賃貸されている、貸家及びその敷地または借地権付建物(建物賃貸)あるいは区分所有建物及びその敷地(建物賃貸)をいう。なお、同用途の自用の建物及びその敷地(自社ビル等)も含む。
商業用賃貸不動産(オフィスビル等)は、前記1(1)「有期還元手法」により、評価するものとする。ここでは、事務所用途の不動産(オフィスビル)を中心として説明する。
1) 期間収入の現在価値
i 期間収入の求め方
前記1(2)「一定期間の収益(期間収入)の求め方」による。
ii 総収入
総収入は、可能総収入から空室・貸し倒れ損失を控除し、一時金、共益費等およびその他収入を加算して求めるものとする。その査定に当たっては、対象不動産の総収入に影響を与えると判断される賃貸市場の動向分析を極力詳細に行って判断する。
(a) 可能総収入
満室の状態で、賃借人が賃料を契約どおり全額支払っている場合の総賃料収入をいう。
a 賃料
原則として実際支払い賃料(賃貸借契約書記載どおりでないことも多いことに留意)により、空室分は当該部分の募集賃料も参考にして賃貸事例比較法により求める。なお、この場合、賃料比準と価格比準とは異なることは当然であるが、採用する賃貸事例の地域的な範囲を適切にとらえるとともに、次のような点に特に留意する。(実際賃料と比準賃料との開差を判断するときも同様とする)
イ 賃料と賃貸面積の大きさ(単価と総額)との関係
ロ 賃料算定の根拠となる契約面積と実際に賃貸される有効面積との関係
ハ 貸賃期間、一時金の額等賃料の額に影響を及ぼす事項の異同
ニ 表面上の賃料と実質的な賃料との差異(賃料以外の名目での負担の存否)
ホ 立地条件による差異(最寄り駅、ターミナル駅への時間距離、地域のネームバリュー)
ヘ 建物のグレード(築後年数、新耐震規制の前後の別、基準階の面積、エレベーターの数、駐車場の有無等)
ト 管理の内容の差異(管理会社、二四時間使用可能か否か等)
チ OA化対応等の設備の程度(電気容量、床加重、床配線および個別調節可能な空調か否か等)
リ オーナー会社および管理会社の規模、評価等の信頼度
b 変動予測
過去の実際賃料の推移等を考慮しつつ、原則として個々の賃貸借契約毎に年毎の予測を行わなければならない。なお、周辺の地域における同類型物件の賃料推移と予測に留意する。ただし、同一の賃借人の賃貸面積や賃料が、一定水準以下のものは、慎重を期しつつ、賃貸条件の同一性があるものごとに一括して予測することができるものとする。
また、賃料の予測に当たっては、次の点に留意する。
イ 賃貸借契約は、通常二年であり、しかもその期間内でも賃借人側からの六カ月前の予告で解約できるため、契約の安定性等に欠け、長期間の契約慣行のある欧米に比べ、賃料予測のリスクが大きいこと。
ロ 継続率は、現在の賃借人の状況や過去の実績も考慮して賃貸市場の動向予測により見積もること。
ハ 賃料は、原則として賃貸借契約の規定に基づき、通常、元本価格の変動、公租公課等の増減、近隣の類似不動産の賃料水準の変動等によって改定されることとなっているが、実際には、物価スライド、公租公課等の増減等によって改定されることが多いこと。賃料は、元本価格の上昇時には必ずしも同率で変動しない反面、下落時は比較的変動することがありうること。
ニ 賃料が下落傾向にあるときは、賃料改定時期もふまえ、それを適切に反映した各年度の予測を行うこと。
ホ 対象不動産の所在する地域の発展性や競合する物件の動向をよく勘案すること。
ヘ 周辺の賃料水準から比準した賃料に比べ実際賃料が高水準にあるものは、改定時期毎に周辺の市場の水準に収斂していくことに留意すること。特に我が国では二年契約等により安定性等にかけるため、賃料調整は比較的早く進むこと。
(b) 空室・貸し倒れ損失
a 空室損失
現に空室である割合を十分考慮するとともに、建物の経過年数や設備の状況や賃料水準による空室率への影響を、地域の賃貸市場の動向、特に競合する他の賃貸不動産との関係もふまえ十分に考慮する。建物老朽化、設備の陳腐化等は、一定時期を超えると急速に空室率を高める要因となることにも留意する。また、一棟貸しやサブリース等の賃貸借契約内容による空室率への影響(一棟貸しは解約されると空室率百%になる)も十分に考慮する。
なお、賃借人の交代時の空室期間(解約予約によりカバーされるものは除く)は、過去の実績をふまえ、適切に判断する。また、大規模修繕時には長期休業を要する場合もあることにも留意する。
b 貸し倒れ損失
賃借人の信用状況や特性を精査し、過去の実績もふまえ、貸し倒れ損失の可能性を適切に見積もる。また、賃借人として不適格な賃料延滞者がいることによる、空室率の増大、賃料水準の低下、賃料延滞者の増加等の、他の賃借人への影響も考慮する。
(c) 一時金
権利金は収受時期とその額、保証金は収受時期とその額、返済時期、返済方法、更新料は収受時期とその額等を確認し、キャッシュの出入りベースで把握し(一定期間に平均化しない)、受け入れ年度(現預金で引き継ぐときは初年度)の収入に計上し、支払い年度の支出とする。なお実際の運用益を考慮する場合は、一時金を全額収入として入金後運用元本分を支出として、その後の運用利息分を各年に収入として計上する。また一時金を賃借人からの借入金としてとらえる場合は、他の収支と区分して、利回りも別途(借入金等として)査定した上で各年度の収支としてとらえる。
取得時および転売時の返還債務と現預金の引継内容に留意する。
(d) 共益費等
賃借人から建物賃貸借に関連して賃料以外に共益費等として収受しているものである。これは、賃借人から徴収する実額とし、通常は賃料相当額分以外は計上しないが、水道光熱費、冷暖房費、清掃費等の実費相当分も含めて支出の共益費と両建てで計上する。過去の実績に基づき、変動予測を行うが、支出上昇以上の上昇は見込まない。
(e) その他収入
建物賃貸借関連以外の収入で、駐車場収入や広告看板収入等がある。これらは、過去の実績に基づき査定し、借家部分の入居率および当該施設の稼働率等を考慮して変動予測を行う。
(f) 留意事項
なお、総収入の査定に当たっては前記の他、次の点に留意する。
イ 賃貸借契約書や建物修繕履歴資料等は、実態と合致していない場合も想定されるので、その信憑性に留意する。
ロ 賃貸借契約の安定性の観点から、賃貸借契約の残存期間、更新可能性に留意する。
ハ 次のような内容についての典型的契約からの乖離に留意する。
イ) 契約期間が短期の場合、安定性・継続性に欠け、空室リスクが高くなる。
ロ) 賃料水準と支払い方法については、比準賃料との開差程度を把握し、その継続性を判断する。
ハ) 賃料等の改定方法については、改定時期、方法により、賃料改定予測に留意する。
ニ) 一時金の額と授受方法については、多額の一時金ではないか、返還方法はどうか等により将来の支出予測に反映させる。
ホ) 共益費の負担内容については、実質賃料相当分の有無を判断し、賃料水準の把握等に反映させる。キャッシュフロー法では両建てで計上する。
ヘ) 原状回復内容については、賃貸人側に不利または有利ではないかを判断し、賃借人交代時の支出予測に反映させる。
ニ 店舗等の用途の場合は、賃借人の売り上げ等の比率により賃料決定をしている場合も多いが、この場合、売り上げ等の対応部分については、過去の実績をもとに、売り上げ動向を適切に査定して判断する。
iii 運営支出
運営支出とは、管理費、修繕費、公租公課、損害保険料等の賃貸不動産を運営していくために必要な支出である。なお、建物の用途により大きく異なることに留意する。
(a) 管理費
対象不動産の物的な維持管理費や賃借人管理費とともに、賃貸経営に係る管理費(アセットマネジメントフィー)も計上する。アセットマネジメントとは、物的な維持管理者や賃借人管理者を統括し、賃貸経営に係る高位の意志決定(賃借人の選択等の賃貸戦略、売却時期に係る判断等)に関する管理をいう。
賃貸経営に係る管理費は、たとえ自己管理が想定される場合でも第三者に委託するものとして計上する。また、管理者(物理的管理、賃借人管理、賃貸経営管理とも)により対象不動産の収支が大きく異なることもあることに留意する。なお、賃貸経営に係る管理費の単独の把握が困難な場合は、賃借人管理費の一部として把握する。
実際の契約に基づく支払額を原則とするが、契約内容の標準的なものからの乖離(特に貸し主に有利なもの)に留意する。また、変動予測は、賃料に応じて変化する部分とそうでない部分があることに留意する。さらに、管理内容の変更が予想される場合は、変更による増減額を考慮する。
また、賃借人の賃料支払い状態、あるいは賃借人の数、または賃借人の業種や営業時間等によっても管理費は大きく異なることに留意する。
(b) 共益費
水道光熱費、冷暖房費、清掃費等であり、収入と両建てで計上する。通常過去の実績に基づき査定し、入居率等を考慮して変動予測を行う。
(c) 修繕費
過去の修繕実績および今後の修繕計画に基づき査定し、支出予定年度に割り振って計上する。修繕すべきものが行われていない場合は、この分も計上する。
(d) 公租公課
実額を調査のうえ計上し、変動予測は、課税標準や税率の変化の予測に従う。
(e) 損害保険料
実額を計上するが、付保額が過大または過小でないか確認を要する。過小と判断される場合は、適切な付保額とした場合の保険料を計上する。
(f) 賃借人募集経費
賃借人を募集するために支出する仲介手数料や広告費等である(賃借人管理費の中に計上している場合は計上しない)。賃貸借契約の終了(更新される場合は除く)時期を予測し、それに応じた金額および支払時期を査定する。
(g) その他支出
その他収入に係る支出(建物賃貸借と一体として前記支出で計上しているものは除く)や借地権付建物の場合の地代等である。その他収入に係る支出については、過去の実績に基づき査定し、稼働率等を考慮して変動予測を行う。また、地代については実際の契約に基づく支払額を原則とするが、契約内容の標準的なものからの乖離に留意する。
iv 資本的支出
資本的支出とは、賃借人の交代に伴う建物の改修費、賃貸競争力維持のための改修費や、建物の物理的価値を維持するための大規模補修費等の賃料水準維持のための支出ならびにそれにより明らかに賃料が著しく上昇すると判断される場合、たとえば設備の改善、建物の改良および用途変更を想定した場合(賃借人の同意が必要な場合は除く)の支出である。修繕費より多額のもので、通常は減価償却の対象となり、費用としては計上しないものである。
これは、建物(躯体および設備)の状態や修繕経緯および計画ならびに、競合する不動産の状況をはじめとする地域の賃貸市場の動向等により、支出の時期および金額を査定し、その支出する年度に計上する。
v 期間
各年度のキャッシュフローの査定期間は、通常は一〇年を中心に五〜一五年程度であるが、現在の日本の不動産をめぐる状況(標準的な賃貸借契約期間が二年を基準として考えられていること、先行き不透明のため価格変動率および収支の予測可能範囲は短いこと等)を考慮し、五年程度を標準として対象不動産の収支等の予測確実性の程度により判断する。(正常価格を求める場合より予測の確実性を厳しくみて予測確実性の高い期間は短めとする。また、デフォルト状態にある債権の場合のような短期転売を図る投資家のみを想定対象とはしない。)
本評価においては、個々の依頼者等の提示する個別の期間によらず、前記の五年程度を標準とする予測確実性の高いと判断される期間によるが、依頼者より特に要望がある場合は、前記観点からみて妥当と判断される範囲内で、短縮または延長できるものとする。
vi 還元利回り
還元利回りの査定は次のとおり行う。
イ 土地・建物別個のものではなく、不動産全体としての利回りとしてとらえることが、妥当である。
ロ 安全性の高い長期債券(投資期間に見合った期間のもの)の市場の取引利回り等に不動産としての特性(安全性、流動性、管理困難性等)を勘案し、さらに価格変動リスク等を考慮して地域別、類型別に標準的なものを査定し、対象不動産の各種のリスクプレミアムを加味して求める。
ハ 類似性の高い不動産に対する市場における不動産の取引利回りおよび類似性の高い不動産への投資を行っている投資家へのヒアリング結果により験証を行う。なお、取引利回りは、不動産の価格がその収益力を重視せずに決定されている地域等では、取引事例比較法等による価格を追認することになるので参考にとどめる。
当分の間、社団法人日本不動産鑑定協会において、個別に検討された数値に基づき決定することとする。
vii 期間収入の還元方法
投資期間中の期間収入の現在価値は、各年度の純収入(純キャッシュフロー)をそれぞれ還元利回りで割り戻したものを合計して求める。
2) 復帰価格の現在価値
i 転売予測価格
(a) 予測価格変動率から求める価格
前記1(3)iの、求める価格(未知数)に予測価格変動率を乗じて求める方法における予測価格変動率は、対象不動産の存する地域や対象不動産の種類、築年数等に応じ、予測の確実性が高いと判断される範囲で査定する。予測の確実性が劣る部分については、変動がないものとして査定する。
(b) 純収入を還元して求める価格
前記1(3)iiのn+1年以降の純収入の現在価値の総和として求める方法を適用する場合は、n+1年度以降の半永久的な純収入を転売時還元利回り(ターミナルレート)で還元することとなる。しかし、n+1年度以降の半永久的な純収入の各年度ごとの把握は困難であるので、n+1年以降の純収入を固定化して、修正純収入として把握し、これを永久還元して価格を求める。つまり、n+1年度以降の各年度の純収入のうち、純収入がかなり正確に把握できる期間については変動のパターン予測に応じた固定化の手法で平均化し、純収入の変動予測があまり正確に行えない期間については、純収入は不変として、これを永久還元して求めるものとする。この場合直後に大きな収入や支出(多額の一時金の出入りや大規模修繕等)が見込まれるときは、同じく固定化の手法を採用してn+1年度の純収入を適切に補正する。
修正純収入(a’)の求め方
1) 不変の場合
a’=an+1
2) 一定率g’変動の場合
a’=an+1×(1/(rT−g’))×{1−((1+g’)/(1+rT))n’}×{rT+(rT/((1+rT)n’−1))}=an+1×元利逓増年金現価率×年賦償還率
n’=∞のとき
a’=an+1×(rT/(rT−g’))
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また、転売時還元利回りについては、保有期間以降の予測収支は保有期間中の予測収支に比べ信頼性が劣ること、および建物等が老朽化し収益稼得能力が現在時点より劣ることなどの理由により、期間収入の還元利回りより高めに設定する必要がある。なお、金利水準自体が確実に予測できる場合にはこの変動も加味することができる。さらに、純収入の変動に一致しない価格変動をも十分考慮した利回りとする。
また、これも当分の間、社団法人日本不動産鑑定協会において、個別に検討された数値に基づき決定することとする。
ii 売却費用
仲介手数料と印紙税等の契約書作成費等である。仲介手数料は宅地建物取引業法に定める報酬額上限をもってその額とする。
iii 還元利回り
復帰価格を現在価値に割り引くときの利回りは、期間収入の還元利回りと同率とする。
3) 買い主としての購入にかかる費用
買い主としての購入にかかる費用(仲介手数料、取得税、登記費用等)は、買い主の総投資額を構成するので、担保としての安全性確保の観点からこれを1)と2)を加算した価格から控除する。
(2) 事業用不動産
事業用不動産とは、商工業用として、通常、事業設備等の他の生産要素(不動産に化体されているもの以外の資本、労働、経営または組織)と一体となって収益をあげることを目的とする、自用の建物及びその敷地または借地権付建物(建物自用)あるいは区分所有建物及びその敷地(建物自用)をいう。不動産鑑定評価基準にいう一般企業用不動産と同義である。
賃貸用不動産を除く収益用不動産すべてが含まれるが、例示すれば、ホテル、旅館、デパート、物販店舗、各種飲食店、パチンコ店、ゴルフ場、ボーリング場、風俗営業店、大工場、病院等があげられる。
1) 評価の基本方針
原則として、現状の業種の継続経営による企業収益に基づいて不動産に帰属する純収入を求め、これによる収益還元法(DCF法)(不動産残余法)により求めるものとする。前記のような用途の不動産であっても、賃借人により運営されており、現に賃貸中であるときは、賃貸用不動産として前記(一)「商業用賃貸不動産」による。また、用途転用により賃貸用不動産として想定できる場合も多いことに留意する。
事業用不動産は、賃貸用不動産と異なり、他の生産要素との比較における不動産の収益に対する貢献度は、業種によりまちまちである。ホテルのように一般的に、企業収益に対し、立地や建物等の不動産に関する部分が大きく影響する場合もあるが、不動産以外の要素の影響がかなり大きいものもある。また、不動産以外の生産要素(たとえば経営主体の経営能力や技術力等)が計量困難である結果として、不動産への帰属収益の判定が困難である場合も少なくない。したがって、不動産の企業収益に与える度合いが比較的大きく、かつ何らかの便法を用いながらも他の生産要素への帰属収益の配分が可能な場合に限って、企業収益に基づく収益価格を求めることが可能となる。しかし、企業収益に基づく収益価格を求めうる場合でも、賃貸用不動産に比して、採用した資料の規範性・信憑性、予測の確実性等の観点から、その信頼性は高くないことに留意すべきであり、現実的には、過去数年にわたる決算報告書等の財務関連諸資料が得られる場合や標準値のデータが得やすい業種に限り可能となる。
買い主として想定できるのは、同業者がほとんどで、さらに用途の特殊性が強いほど市場が限定される性格を持つので、オフィスビル等に比べ、市場性が劣ることに留意する。
不良債権担保不動産の中に見られる事業用不動産は、当該事業の継続を前提とする場合の投資価値が極端に低い場合も多く、現実的に想定できる他の用途に基づく投資価値との比較において、次のi、iiの場合に分けて評価する。
i 当該事業の継続を想定するに足る事業収益をあげている、またはあげ得ると判断される場合
この場合には、2)以下の留意事項をふまえ、現状の業種の継続経営による企業収益に基づいて不動産に帰属する純収入を求め、これによる収益還元法(DCF法)(不動産残余法)により求めるものとする。
不良債権担保不動産の中に見られる事業用不動産として、この方法により評価できるケースは限られていると予測される。具体的には、被担保債権が不良化した主な原因が当該事業そのものに無く、例えば所有者による当該事業以外への経営の多角化等である場合や、単に当該事業に対する経営能力不足の場合、または対象不動産等への過大投資が原因となっている場合等が考えられる。これらの場合には、対象不動産に関与する事業のみを他の事業から切り離して、または当該業種に関し標準的能力を有する経営者に交代することを前提として、判断することになる。
前記のとおり、本留意事項にしたがい評価すべき対象は担保不動産であって被担保債権ではないが、事業用不動産においては、その事業が継続可能か否か、当該事業として担保価値があるか否かにつき、現所有者による過去の事業実績と被担保債権が不良化した主な原因がその重要な判断材料となるため、これに留意する。
ii 収益をあげていない、またはきわめて低収益の状態にある不動産
(a) 転用が可能な不動産
収益をあげていない、またはきわめて低収益の状態にある事業用不動産は、まず、建物の軽微な改築等で他の用途への転換が想定できないかを検討することとする。たとえば、ボーリング場を改築して量販店とする、ホテル型経営のウィークリーマンションを賃貸用マンションとする等である。これにより、明らかに企業収益または賃料が著しく上昇すると判断できる場合には、これに基づく収益還元法を適用する。
次の段階として、建物を取り壊して実現しうる最有効使用との関連で把握される価値を検討する。たとえば、工場等を取り壊してマンションや戸建住宅として分譲する等である。この場合には後記(4)1)「追加投資により、そのままで建物建築や用途変更が可能なもの」の評価手法による。
(b) 転用が困難な不動産
前記2(2)「用途転用しても保有コストに見合う収入の得られない事業用不動産等」による。
2) 純収入等
企業収益は決算報告書等に基づいて検討されるが、次の点で留意する必要がある。
イ 各項目の明細がわからないことも多い。
ロ 企業収益のうち、不動産に帰属する部分と、それ以外のものに帰属する部分との分類はかなり困難なものが多い。したがって、期間収入および転売予測価格の把握が困難な場合が多い。
ハ 実態と合致していない場合も想定されるが、信憑性の評価が鑑定士では十分にできないことが多い。
ニ 不良債権担保不動産となった経緯を検討し、不動産の収支予測に反映させる。
i 土地建物以外の備品、初期必要投資額等について
これらは、担保権がおよぶ場合もしくは、一体として評価を求められている場合を除き、評価対象からはずすこと。控除方法としては純収入から控除する方法と、これらを含めた純収入に基づく収益価格から当該投資額を控除する方法がある。備品等に帰属する収入の把握は困難と考えられるので、後者による方法がよい。
ii のれん、経営手腕等について
これらは、不動産に帰属する部分ではないので、一体として評価を求められている場合を除き、純収入から控除する。これらに帰属する収入を把握するのは非常に難しいが、次の方法が考えられる。
のれんの評価は、対象不動産に係る企業収益と他の同業種の類似企業の企業収益とを比較して、超過収益の存否を確認し、著しく超過収益が認められる場合にそれをもとに査定する方法が考えられる。その他、ホテル等のフランチャイズ、各種の無体財産権や利用権等についても同様に考えられる。
経営手腕については、同水準の経営手腕を持つ経営者への役員報酬または標準額を上回る人件費を純収入ベースでとらえて、支出として査定する方法が考えられる。
3) 還元利回り
前記(1)「商業用賃貸不動産」の還元利回りに関する留意事項の他、次の点にも留意する。
それぞれの事業の危険性は不動産も負うこととなるので、還元利回りの査定においては事業の安定性等を十分に考慮する。
また、市場における不動産の取引利回りのほか、営業利益に対する有形固定資産の比率データを分析して査定する方法も参考となる。
4) 復帰価格の現在価値
前記(1)「商業用賃貸不動産」の復帰価格に関する留意事項の他、予測価格変動率や純収入の予測に当たっては、通常の賃貸用不動産等に比べ市場性が劣ることや、地域の状況に加え当該業種の状況をも十分考慮する。
(3) 住宅
住宅とは、居住の用に供されている自用の建物及びその敷地または貸家及びその敷地、借地権付建物あるいは区分所有建物及びその敷地で、戸建住宅、アパート、マンション等のことをいう。
1) 原則的手法
戸建住宅や郊外のファミリー型マンション、テラスハウス等では、最終的な購入者として、近傍類似の取引価格を取引指標とする自己使用目的の最終需要者が多数想定され、地域の特性として一般に収益性を前提としないで取引されており、合理的な市場での賃貸を想定することが困難な不動産が多いので、原則として取引事例比較法および原価法、開発法を適用して求めるものとする。ただし賃貸が想定できるとき、および現に賃貸中であるときは、前記(1)「商業用賃貸不動産」の手法による。
手法の適用に当たっては、担保としての安全性(市場性、および価格の変動リスク等)の観点から、市場性の減価要素を十分織り込む必要がある。なお、開発法を適用する場合を除き、取引事例には買い主の購入費用が織り込まれているので、この費用をさらに控除する必要はない。
中古の戸建住宅の場合は、土地価格を中心に価格形成がされている場合が多いことに留意し、建物の経済的な残存耐用年数を短期で想定するか、建物除却を想定する。特に建築時期が古い場合や仕様・設備等が旧式である場合、および建物と敷地との不適応、環境との不適合の場合には、維持管理状態も考慮のうえ、前記観点から適切に評価する。
2) 上記(1)の手法による場合
i 投資物件としての市場が成立している不動産
ワンルームマンションや都心の賃貸用の高級マンション等、投資物件としての市場が成立している不動産の評価は、合理的な市場での賃貸を想定することができるので、前記(1)「商業用賃貸不動産」の手法に準ずる。
ii 現に賃貸中である、戸建住宅や郊外のファミリー型マンション等
現に賃貸中である、戸建住宅や郊外のファミリー型マンション等では、前記(1)「商業用賃貸不動産」の手法に準ずることとするが、そのうちの転売予測価格については、取引事例比較法または原価法を中心とすることが妥当である。ただし、賃貸が継続しているものとして、相応の減価を行う。
(4) 現状は低・未利用の状態にある不動産
現状が、対象不動産の最有効使用や近隣地域の標準的使用に比べてかなりの低利用の状態にあるか、全く利用されていない、農地を除く全類型の不動産である。これらは、その状況に応じて次の方法で評価する。
1) 追加投資により、そのままで建物建築や用途変更が可能なもの
現状は、低・未利用の状態にあるが、利用条件がよく、追加投資により、そのままで建物建築や用途変更により標準的な収入を得ることが可能な不動産とすることができるもの(容易に除却等ができる建物等が存するものも含むが、現にこれが賃貸中である場合は、賃借人の立ち退きが確実である場合以外は含まない)は、対象不動産の最有効使用に応じ、前記(1)または(2)の用途の建物を想定し、建築後転売することを想定して、それぞれの手法を適用した収益価格を標準とし、市場性の減価要素を十分織り込んだ比準価格等を比較考量して求める。この場合、建物建築費はすべて支出項目として把握し、期間収入および転売収入で回収するものとする。また、建築期間の未収入期間を考慮する等次の事項について留意する必要がある。前記(3)で収益還元法を適用する住宅についても同様とする。
なお、他の用途から分譲を目的とする住宅への転用、および収益を想定することが妥当でない住宅地については、面積、形状等に応じて、前記(3)1)の手法を適用する。
i 土地建物一体としての期間収入の把握
イ 賃料は、新規賃料であり、継続賃料ではないこと
ロ 空室損失等は、賃貸開始年以降しばらくの間は、相当大幅に発生し、数年を経て平常の空室率になる場合が多いこと
ハ その他収入も、賃借人の入居率に応じて、段階的にしか増加しないこと
ニ 一時金は、当初相当額が一時に入金になること。なお、実際の入出金のあった年度に計上すべきことは、原則通りである
ホ 運営支出のうち、保険料のように期初に多額の支出を要するものがあること。さらに、賃貸開始前にも支出があること
ヘ 資本的支出は比較的少ないこと
ト 現に建物が存する場合は、その除却費用と期間を適切に見積もること
ii 建物に関する支出
建物に関する支出により、対象不動産を購入後、賃貸開始までの期間は、マイナスのキャッシュフローになることに留意する。
イ 建築費の支払い時期は、標準的には、請負契約時、上棟時、竣工時に区分して支払われることに留意すること
ロ 支払い時期が、価格時点に近いため、その期間は、年次計算よりも月次計算で計測することが望ましい場合もあること
ハ 建築期間中についても、賃貸事業運営の管理費用等の運営費が必要である点に留意すること
iii 投資期間
低・未利用の状態にある不動産については、買い主が建物を建築したうえで、収益物件として転売することが想定され、前記(1)「商業用賃貸不動産」のように、一定期間保有し、その間の収入も価値判断の中心となるような投資は、本留意事項の条件のもとでは、あまり想定されない。したがって、保有期間は、前記(1)「商業用賃貸不動産」と異なり、対象不動産取得後建物の賃貸開始までの期間と販売期間との合計の期間となる。賃貸開始までの期間の査定は、対象不動産の取得から、設計期間、建築確認申請期間、建築期間につき、特に障害が無い場合に通常想定しうる期間を設定する。
iv 還元利回り
前記(1)「商業用賃貸不動産」の還元利回りに関する留意事項の他、次の点にも留意する。
現在、低・未利用の状態にあり、買い主が建物を建築したうえで、転売することとなるので、前記(1)「商業用賃貸不動産」の対象となる、すでに稼働中の不動産に比べその事業リスクが高くなるので、これを還元利回りの査定に当たり十分考慮すること。すなわち、同等の賃貸ビルが想定できる場合には、低・未利用の状態にある不動産の方が、リスクがある分還元利回りが上昇し、価格は低くなる。
v 復帰価格の現在価値
当初に建築費の支出があり、期間中の純収入はマイナスになるため、再販売価格の査定に当たっては、純収入を永久還元して求める方法を中心とする。ただし、前記のとおり、賃貸収支が標準的なものとなるには一定の期間が必要であるので、転売時の純収入を永久還元するのではなく、標準になるまでの期間の収支とその後の収支とを区分計算し、前者については個別計算、後者については標準的収支になってからの純収入を永久還元する。
vi その他留意事項
開発法の適用については、「開発法に係る鑑定評価手法に関する研究について」(平成九年三月社団法人日本不動産鑑定協会)を参照。
2) 当面、有効な建物建築想定が困難なもの
立地条件や画地条件等により、建物建築が困難または建築しない方が収益性があると判断できるものは、駐車場や資材置き場等の土地の賃貸を想定して収益還元法(DCF法)を適用する。一般に収益性を前提としない住宅地域に存する場合でも、住宅としての利用が困難な場合は、同様に収益還元法(DCF法)を適用する。
還元利回りについては、その事業リスクと市場性等に留意して査定する。
3) 不整形地等
分割が容易な不整形地で、分割して使用収益した方がよいと判断できる場合は、分割後の最有効使用に応じ、前記1)または2)に区分して、それぞれの手法を適用し、求められた評価額を合計して評価する。
一体開発や隣地との併合等や対象不動産内の水路や赤道の付け替え等について、保有期間や対象不動産の価格からみて許容しうる一定の期間とコストをかければほぼ確実に達成できると判断される場合(すでに隣地所有者等との合意があり、これを引き継げる場合等)は、実現までのキャッシュフロー(マイナスとなることが多い)と実現後のキャッシュフローに基づき、その実現に要する費用等を考慮して評価する。この場合、隣地買収等に要するコスト額を想定する価格は、取引事例比較法等による価格を前提として併合によって生じる利益のすべてを隣地に与えることとした価格(すなわち買収価格としての合理的な最大値)とする。
4) 余剰土地
余剰土地とは、現況の建物に対して敷地規模が大きいため、当該建物の敷地以外の用途として使用収益可能(単独の不動産として投資価値がある)な部分があるときの、当該土地部分をいう。
余剰土地は、建物敷地部分と分割して、その最有効使用に応じ、前記1)または2)に区分して、それぞれの手法を適用する。
こうして得た価格を、建物の敷地部分に当たる主たる用途の不動産の価格に加算して、対象不動産全体の評価を行う。
IV 減価要因
1 減価要因の評価への反映方法
ここでは、本評価の減価要因として特に留意すべき事項について記載する。
通常の不動産鑑定評価においては、減価要因は主に原価法において積算価格を求める際に考慮されるのに対し、本評価においては、対象不動産自体が持つ減価要因のほか、対象不動産をめぐる、現況に基づく各種事情による減価要因を広く把握し、これを適切に評価に反映させる必要がある。
各種減価要因を評価に反映させるに当たっては、できる限り個別に数値化して評価することとする。個別に数値化できない減価要因は、還元利回りを構成するリスクプレミアム(危険性、流動性、管理の困難性等)の中で勘案して反映させる。
なお、各種減価要因の査定においては、実質的にみて同一要因と判断できるものについて二重の減価にならないように留意する。
本評価において、通常の鑑定評価と異なる考慮すべき減価要因としては、権利関係錯綜等の換価困難性ある場合(短期賃借権の存在、関係者間での紛争の存在等)が考えられる。また、売り主(所有者)は現在時点では通常瑕疵担保責任負担能力を必ずしも失ってはおらず、売り主の瑕疵担保責任負担能力による減価は原則として行わないが、依頼者(債権者等)より現所有者に瑕疵担保責任負担能力がないと判断されている場合は、減価要因として考慮する。
なお、担保としての評価を行う場合はデフォルト債権の場合ほどの換価の緊急性はないので、早期売却による減価の験証は行わない。
一方、任意売却のための評価の場合は、デフォルト状態にある不良債権の担保不動産と同様に、債権者にとって合理的な価格であることの験証のため、競落想定時点における予想最低売却価額を、保有リスク等を織り込んだ還元利回りで割り戻した価格から管理コストの現価を差し引いた価格との比較を行う。
2 換価困難性についての評価
現在金融機関等で競売等の法的整理手続に至る前の不良債権の担保物件の中で回収が進まない物件には、利用権等の権利関係が錯綜しているもの、不法占拠等の妨害行為がなされているもの等、一般的な不動産に比して何らかの換価を阻害する要因を有しており、その利用のためには権利関係の整序や妨害行為の除去を必要とするものが多いものと推定される。
(1) 減価の考え方
上記のような換価困難性のある不動産については、最悪でも法的整理による強制的手段により解決できることを前提として、それに要する期間とコストを考慮して減価額を判定する方法を採用する。
このような問題解決にかかる期間とコストについての評価は、不動産鑑定士としては困難なことも少なくないので、こういった場合は、弁護士、公認会計士等の他の専門家へのアウトソーシングが必要となる。この評価は、関係当事者の特性や不動産をめぐる利害と感情錯綜の度合いの判断が必要であり、これらは、主に弁護士等の他の専門家による、難易度の「ランク付け」に基づく割り切った判断によらざるを得ない。したがって、当該ランクにしたがった不動産鑑定士の総合的判断により、解決(整序)に要する「期間とコスト」を判定し、この要因による減価額を査定せざるを得ないと考えられる。これは、減価についての理論的思考の貫徹は期し得ないとしても、「ランク付け」によるランク相互間のバランスへの配慮がなされるので、一応の合理性は認め得るものと考えられる。
(2) 換価困難性の内容
対象不動産の換価を困難にする要因としては、次のようなものが想定される。
イ 対象不動産の全部または一部に対して不法占拠者が存在している
ロ 対象不動産に用益権等が(妨害意図をもって)付着せしめられている
ハ 暴力団関係者による、買受人に対抗可能な賃借権による占有等がある
ニ 留置権、詐害的短期賃借権、仮装の賃貸借等がある
ホ 賃借人や地主等と係争中の事項がある
ヘ 借地権付建物で地代不払い等によってその敷地利用権原(借地権)を失っている
ト 区分所有建物でその敷地利用権原が不明確である
チ 関係人の中に失踪している者がいる
リ 画地の中に赤道、水路、畦畔等の国・公有地が介在している
(3) 減価額の算定
事実上の障害および法律上の障害に基づく減価額は、弁護士や専門業者等にその障害の程度等の判断を仰ぎ、次の項目により、キャッシュフローの算定上反映させるが、それが困難な場合はその困難性、実現可能リスクの評価ランクに応じた減価を一括して行う。
イ 法的措置に必要なコスト(訴訟費用、執行費用、弁護士報酬等)
ロ 立ち退き料や和解金等の関係者に支払うコストおよびその関連コスト
ハ 支払い時期および法的措置にかかる期間
コストについては、通常想定しうるものを想定する。また、時間的コストとしては、障害がないものとした評価が実現できる時点からの割り戻し率から把握する。この利回りは、期間収入等の還元利回りに比べ、リスクが大きいので、このリスク分を障害除去の実現性等に応じ(ランク付け等)、適切に反映させなければならない。
この場合、コストを増加させることにより、処理にかかる時間的コストの削減が図れることが明確に判断できる場合もあるので、その適正な減価額の把握に努めること。なお、これらの減価評価は、買い主のリスク分を適正に評価するものであって、妨害者等の主張を容認するものではない。
3 種類別減価要因
対象不動産の類型、用途に応じ、調査統括表に基づいて各種減価要因を把握し、その内容に応じて、担保の安全性(市場性、価格および収益の変動リスク等)確保の観点から適切に減価額または減価率あるいは利回り格差を査定する。
(1) 賃貸用不動産
1) 賃貸借契約関係
i 賃借人の状況
賃借人の安定度や延滞の可能性を、入居経過期間や過去の賃料の支払い実績とともに、その経営内容(業績、将来性、信用力)等から判断する。また上場企業の入居割合や他の賃借人に対し大きな影響を持つと思われる団体等が入居していないか、そしてそれがどの程度の影響があるかということにも留意して必要な減価を行う。
また、現在の賃貸人との関係で、縁故関係等はないか、紛争はないか、そしてそれが他の賃借人へどういう影響があるかということにも留意する。
ii 賃料水準
周辺の賃料水準から比準した賃料に比べ実際賃料が高水準にあるものは、その理由を考慮して、適切な水準への低下予測に基づいて減価する。これを期間収入の推移として把握可能な場合は、期間中の各年度の賃料収入の推移としてとらえ、転売価格に反映する必要があるときは、収入の相当分を減価する。一方、低い場合は、原則として適切な水準への引き上げは想定しないものとし、実際の賃料を前提として評価を行う。なお、契約対象範囲や共益費等の実質賃料相当分に留意する。
iii 賃貸借契約の内容
典型的契約からの乖離(契約期間、賃料水準と支払い方法、賃料等の改定方法、一時金の額と授受方法、共益費の負担内容、原状回復内容等)の程度に応じ必要な減価を行う。
2) 建物関係
i 設備の状況
設備の物理的、機能的、経済的な状態による賃貸用不動産としての競争力への影響を十分に勘案して、相応の減価を行う。賃料水準の低下や空室率の上昇、あるいは維持管理費や修繕費の増加として反映する。
ii 修繕経過
過去において適切な維持修繕が行われてきたかについて調査し、行われていない場合にはそのために今後必要と見込まれる追加費用を費用としてその相当分を減価する。具体的には、原則として、初年度の修繕費の加算として計上するものとする。
iii 構造等
主要構造材や内装、外装また貸室等の配置状態等に加え、耐震性が新基準に合致しているかどうか、アスベスト使用等の環境規制の不適合はないか等についても、賃貸不動産としての競争力への影響が大きいことを十分に勘案して、相応の減価を行う。賃料水準の低下や空室率の上昇、あるいは維持管理費や修繕費の増加として反映する。
iv 賃借人負担の造作部分等
賃借人が負担して行った造作部分(借地借家法第三三条の造作および民法第六〇八条の必要費または有益費)は、その経済価値の寄与度合いにより将来の買い取りまたは費用請求の対象となりうるので、その必要額を支出として計上する。なお、この買い取りによる賃料水準の上昇は、明らかに上昇すると判断できる場合を除き、原則として想定しないものとする。
v 違法建築等
対象建物が既存不適格である場合は、その収入の継続性を収支の算定に適切に反映させることとする。また容積超過、竣工検査未済等の違法建築である場合は、直ちに使用制限や除却等の命令を受け、違法状態を解消させることを前提として収支の算定を行うとともに、違法建築であることにより市場が劣ることによる減価を行う。
3) 土地関係
i 面積、形状
(a) 対象不動産の面積がその地域の標準的なものと比べて狭小または過大であるとき
対象不動産の面積がその地域の標準的なものと比べて狭小または過大であるときは、利用上の制約や有効率等を収支の算定に適切に反映させるとともに、収益性の低さや利用上の制約、あるいは総額が大きいこと等により市場性が劣ることによる減価を行う。
(b) 実測(境界確認あり)または現地測量ができない場合
実測(境界確認あり)または現地測量ができない場合で、登記簿等の面積と実際の面積とが異なることによる面積減少のリスクが生じるときは、確認できる資料をもとに相応分を減価する。地籍測量が行われている地域や、区画整理が行われた地域は、ほとんどこのリスクは無いと考えられ、また市街地においては、比較的このリスクは少ないが、分筆経緯等によっては、大きな差異があることがあるので留意する。
ii 境界
対象不動産の境界が確定していない場合は、確定の難易度に応じ、面積減少のリスクと確定にかかる費用、期間を基に減価を行う。確定の難易度は、隣接地所有者の特性や過去の交渉経緯、近隣の確定状況等によって異なる。特に、現に境界紛争がある場合には注意が必要であり、相手の主張する境界を前提とした評価を行うこととする。なお、これは、買い主のリスク分を適正に評価するものであって、相手の主張を容認するものではない。
iii 地勢、地盤
対象不動産の地盤が軟弱であったり、地盤沈下の可能性がある場合は、維持管理費や修繕費等を多く見積もるとともに、このことによる利用上の制約等により市場性が劣ることによる減価を行う。
iv 埋設物等
産業廃棄物は近隣環境への影響も大きく、その除却コストが多額になることが多いので、このコストを収支算定に適切に反映させる。また、除却後も影響が残るので、収益性の低さや利用上の制約等により市場性が劣ることによる減価を行う。工場地や工場隣接地は、その存在の可能性に特に注意を要する。また、対象不動産に隣接地の上下水道やガス等の配管がある場合も注意が必要である。
4) 権利関係
i 所有権等
登記簿等の土地と建物等との所有者が一致していない場合は、それぞれの真実の所有者の確認を行うとともに、一致していない理由と建物等の土地利用権原を確認する。その内容に応じ、対象不動産の使用収益の制約度合いを判定して、収支の算定に適切に反映させるとともに、これにより市場性が劣ることによる減価を行う。
ii 使用収益権
賃借権、通行地役権等の使用収益権は、登記されていないものが多いので調査上注意が必要であり、区分地上権等も含め、その内容に応じ、対象不動産の使用収益の制約度合いを判定して、収支の算定に適切に反映させるとともに、これにより市場性が劣ることによる減価を行う。
iii 正当な権原のない占有等
(a) 正当な権原のない、または詐害的な占有や定着物がある場合
正当な権原のない、または詐害的な占有や定着物がある場合は、前記4「換価困難性についての評価」記載の方法により、減価を行う。
(b) 隣接地等からの越境物がある場合
隣接地等からの越境物がある場合は、これによる使用収益の制約度合い、または除却費用を判定して、収支の算定に適切に反映させるとともに、これにより市場性が劣ることによる減価を行う。
5) 地域要因等
i 交通接近条件
対象不動産から駅等までの距離、商業中心部との距離、利便施設への距離により、利用形態や空室率等が異なるので、対象不動産の用途、地域の状況に応じて、これを収支の算定に適切に反映させる。また、収益性が低い場合は、これにより市場性が劣ることによる減価を行う。
ii 環境条件
対象不動産の近隣に利用の障害となる嫌悪施設等が存在する場合は、これを収支の算定に適切に反映させる。また、収益性が低い場合は、これにより市場性が劣ることによる減価を行う。
iii 地域の動向
対象不動産の存する地域が衰退傾向にあると判断される場合は、現状の用途の継続性も勘案してこれを収支の算定に適切に反映させる。また、収益性が低い場合は、これにより市場性が劣ることによる減価を行う。
iv その他
土地と建物の適応状態や周辺環境との適合状態が劣る場合も、現状の利用形態を前提として、収支の算定を行う。
(2) 事業用不動産
事業用不動産は、前記(1)「賃貸用不動産」に掲げた減価要因のほか、次の要因についても調査統括表に基づいて各種減価要因を把握し、その内容に応じて適切に減価を行う。
1) 建物関係
i 標準的設備等との乖離(物理的、機能的、経済的)
事業用不動産は、設備等の収入に与える影響が大きいので、特にその状態を詳しく調査し、修繕、取り替えの必要性およびその時期とコスト、ならびに収入への影響をふまえ、減価する。
ii 用途の転換の必要性
用途の転換が容易で、転換した方が収益性があると判断される場合は、転換後の収入に基づく価格から、転換に必要なコストと期間を考慮して減価する。
2) 地域要因等
対象不動産の存する地域における当該業種の動向や立地条件等が、今後当該事業の運営にとって厳しくなることが予想される場合は、現状の用途の継続性も勘案してこれを収支の算定に適切に反映させる。また、収益性が低い場合は、これにより市場性が劣ることによる減価を行う。
(3) 住宅
住宅は、前記(1)「賃貸用不動産」に掲げた減価要因のほか、次の要因についても調査統括表に基づいて各種減価要因を把握し、その内容に応じて適切に減価を行う。
1) 収益還元法を適用しない住宅
建物等への投資額は大きいものの、特殊性が強いものについては、市場性の減価を十分配慮する。
i 間取り、内装、外観
住宅は、商業用用途の不動産に比べ、居住性や見栄え等が価格に与える影響が大きいので、間取りや内装、外観等が劣る場合は、商業用用途の不動産以上の減価が必要である。
ii 日照、通風、環境
住宅は、商業用用途の不動産に比べ、日照、通風等の環境条件が価格に与える影響が大きいので、特に道路方位や隣接建物との距離等により、これらが劣る場合は、商業用用途の不動産以上の減価が必要である。また、これらは、対象不動産の存する地域の敷地規模や居住者層等によっても、減価幅は異なることに留意する。
2) 収益還元法を適用する住宅
1)の要因に加え、賃料水準、賃借人の賃料支払い能力(賃料上昇の可能性も含む)、契約の継続性や、賃貸経営上望ましくない賃借人(暴力団関係者等)の退去可能性を判断し、これらの条件が劣るときは、これを収支の査定に適切に反映させる。また、収益性が低い場合は、これにより市場性が劣ることによる減価を行う。
3) マンション(区分所有建物及びその敷地)
マンションは、一棟の建物の一部であるというその権利態様から、他の共有者との関係等で次のような要因についても調査統括表に基づいて各種減価要因を把握し、その内容に応じて適切に減価額を査定する。なお、商業用途の区分所有建物及びその敷地も同様である。
i 敷地利用権の内容
敷地利用権が共有でないもの(借地権の準共有や分有等)は、権利の安定性や将来の紛争可能性等で、共有であるものより劣るので、市場性が劣ること等による減価を行う。
ii 管理規約の内容、管理組合の運営状況
管理規約の内容が、居住や賃貸経営上制約となるものは、それによる居住性上昇等も勘案して、必要な減価を行う。また、管理組合の運営に問題がある場合は、全体の建物管理に支障がでる可能性が高いので、必要な減価を行う。
iii 管理費、修繕積立金の内容
通常必要な管理費や修繕積立金が徴収されていない場合や、修繕積立金残高が今後の修繕に必要と判断される額に達していない場合は、日常の管理内容が劣ることによる住環境の悪化や建物の維持状態の悪化が予想され、将来多額の修繕費が必要となったり、必要な大修繕が行えない可能性があるので、必要な減価を行う。
iv 管理会社
管理会社の管理内容や、管理会社の経営状態等によっても、将来の費用負担に差異が生じる可能性があり、また管理会社の信頼性も対象不動産の市場性に影響があるので、これらの要因が劣るときは、必要な減価を行う。
v 専用使用権の内容
同種の不動産に通常ある専用使用権が無い場合や、その使用料が内容に比べ標準的なものより高額であるときは、必要な減価を行う。
vi 他の入居者や所有者の状況
他に住環境に悪影響を及ぼすような居住者がいる場合は、マンション自体の市場性が劣ることも勘案のうえ、必要な減価を行う。また、自己居住者が多いマンションに比べ、賃借人が多いマンションは、管理状態に劣る場合が多いことに留意する。
(4) 低・未利用地
低・未利用地および余剰土地等の建物建築を想定する不動産については、前記のうち土地に関するもののほか、次の要因についても調査統括表に基づいて各種減価要因を把握し、その内容に応じて適切に減価を行う。
1) 土地関係
i 面積、形状
形状が不整形であるものは、利用上の制約や有効率等を収支の査定に適切に反映させるとともに、収益性の低さや利用上の制約等により市場性が劣ることによる減価を行う。
ii 地勢、地盤
(a) 対象地に傾斜地、法地、または対象地内に高低差がある場合
対象地に傾斜地、法地、または対象地内に高低差がある場合は、利用上の制約や有効率等を収支の査定に適切に反映させるとともに、収益性の低さや利用上の制約等により市場性が劣ることによる減価を行う。崖地等の場合に、擁壁の状況によっては、多大な補修工事費が必要であったり、建築制限があるので、これらを評価に十分に反映させる。
(b) 地盤が軟弱であったり、地盤沈下の可能性がある場合
地盤が軟弱であったり、地盤沈下の可能性がある場合は、建築費や維持管理費や修繕費等を多くするとともに、利用上の制約等により市場性が劣ることによる減価を行う。
iii 埋設物等
対象地内に、旧建物の地中基礎等利用の障害となる地中構造物や、地中埋設管等がある場合には、利用上の制約や有効率、建築費用の増加(除却費用含む)等を収支の査定に適切に反映させるとともに、利用上の制約、管理のわずらわしさ等により市場性が劣ることによる減価を行う。また、対象不動産が文化財等の調査を要する、またはその可能性のある地域に存する場合は、そのコストと期間を勘案して減価を行う。出土内容により、建築が大幅に遅れたり、当初の利用ができなくなる可能性もあることに留意する。
iv 接道状況
(a) 対象地の面積に比べ間口が狭い場合
対象地の面積に比べ間口が狭い場合は、建築可能面積や用途等に制約を受けるので、利用上の制約や有効率等を収支の査定に適切に反映させるとともに、収益性の低さや利用上の制約等により市場性が劣ることによる減価を行う。
(b) 接面道路との方位、高低
接面道路との方位、高低により、建築可能面積や収益性、用途等に差異が生じることが多いので、これを収支の査定に適切に反映させる。
(c) 建築基準法等の規制による敷地後退の必要性がある場合
建築基準法等の規制による敷地後退の必要性がある場合は、建築可能面積や利用上の制約、有効率等を収支の査定に適切に反映させる。
(d) 対象不動産の接する道路の数および態様
対象不動産の接する道路の状況(幅員等)ならびに数および態様(一方路地、中間画地、角地、二方路地等)により、建築可能面積や利用形態、有効率等が異なるので、対象不動産の用途、地域の状況に応じて、これを収支の査定に適切に反映させる。他人所有の私道のみに接する場合は、将来の費用負担や再建築時の制約等の可能性に留意する。また、収益性の低さや利用上の制約等がある場合は、これにより市場性が劣ることによる減価を行う。
2) 地域要因等
i 公法規制
(a) 日影規制
日影規制は、道路方位や、北側の用途等の指定状況、北側隣接地との地盤の高低等により、かなり建築可能面積が異なるので、対象不動産の用途、地域の状況に応じて、これを収支の査定に適切に反映させる。
(b) 土地利用規制の動向
対象不動産の所在する地域において、今後、土地利用規制が厳しくなる可能性がある場合は、これを収支の査定に適切に反映させる。
ii 交通接近条件
対象不動産から駅等までの距離、商業中心部との距離、利便施設への距離により、利用形態や有効率等が異なるので、対象不動産の用途、地域の状況に応じて、これを収支の査定に適切に反映させる。また、収益性が低い場合は、これにより市場性が劣ることによる減価を行う。
4 調査によって明らかにできない事項があるときの減価の取り扱い
対象不動産の調査・確認に当たっては、原則として、現況に基づく調査を重視するが、不良債権担保不動産の調査においては、所有者、占有者等の協力が得られないこともあること、逆に妨害行為も想定されること、一方、評価人に強制的な調査権限がないこと等により、対象不動産の立ち入りをはじめとする調査・確認が不能となる事項が生じる恐れも大きいと考えられる。このため、誠意をもって調査・確認作業を行ったものの、なお調査・確認できない事項がある場合は、内容不明であることによる減価を行うとともに、その旨を評価書に明記し、調査・確認事項の限界を明らかにしておく必要がある。
(1) 評価方法
調査・確認できない事項については、担保の安全性(市場性、価格および収益の変動リスク等)確保の観点から、合法性、合理性を有する現実的な最低、最悪の場合を想定した(たとえば収支の査定においては「最小限の収入、最大限の支出」)条件を設定したうえで評価する。さらにこの想定によっても、なおさらなる負担が懸念される減価可能性があるときには、適切な一定率の減価もしくはリスクプレミアムの加算により減価を行う。勝手な推測や、単に標準的なもので代用することは、事実と異なっていた場合にその評価について責任を追求されることとなるのでしてはならない。
(2) 評価書への記載方法
本調査において、誠意を持って確認作業が行われたにもかかわらず、法律関係、収支関係、土地・建物関係等について明確な確認が行われなかった事実については、その確認作業の経緯を依頼者に報告するとともに、調査統括表および評価書にその前提条件を明示する。さらになお想定しえないリスクがある場合は、その可能性を留保する旨を評価書に明記する。
1) 記載例
「本件調査において、判明した事実関係の調査結果については調査統括表記載のとおりでありますが、対象不動産についての法律関係、収支関係、土地・建物の物的関係の資料について、適正評価手続きを前提に、その調査結果を評価に適切に反映させることを目的として誠意をもって一連の精査確認作業を行ったところでありますが、残念ながら以下の事項について〇〇〇(資料が得られなかった、不十分だった、占有者の協力が得られず立ち入りできなかった等)ため、事実関係が判明しない部分がありました。したがって、以下の事項は調査統括表記載のとおりの内容として評価を行いました。」
2) 調査によって明らかにできない事項の例
i 収支関係
イ 賃貸借契約内容が不明
ロ 内容不明な多額の一時金返済義務の可能性がある
ハ 賃借人の特性や支払い能力が不明
ii 法律上の事実関係
イ 占有者が不明
ロ 対象土地上に対象外建物が存在する場合に、その権利関係が不明の場合
ハ 区分所有建物でその敷地利用権原が不明確
iii 土地関係
イ 境界未確定
ロ 実測と公簿の面積に大きな開差が想定される場合の現地測量不能の場合
ハ 立ち入り困難により建物内部や敷地奥部分の確認ができない場合
ニ 産業廃棄物の存在、土壌汚染の可能性があるが、調査不能の場合
ホ 埋蔵文化財の状況が不明
iv 建物関係
イ 建物の構造、主要設備の内容が不明
ロ 建物の特殊造作等の内容が不明
ハ 建物の修繕経過が不明
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V 評価額の決定
1 原則
1) 担保として評価する場合
鑑定評価額は、対象不動産が賃貸用不動産および事業用不動産である場合には、原則としてキャッシュフローを重視した収益還元法による収益価格から求めた価格(各種減価要因による減価後)を評価額として決定する。
また、地域の特性として一般に収益性を前提としないで取引されており、適切な賃貸等の収益把握が困難と判断される戸建住宅等および同用途の住宅地については、比準価格および積算価格等から求めた価格(各種減価要因による減価後)を評価額として決定する。
低・未利用地等については、追加投資により、そのままで建物建築や用途変更が可能なもの(前記住宅地を除く)は収益価格を標準とし、比準価格等を比較考量して決定するものとし、建物建築が想定できないものは、収益価格を評価額として決定する。
2) 任意売却の場合
鑑定評価額は、前記III1で述べたように、評価に当たっての基本的姿勢が早期売却を除き共通している前記1)の担保として評価する場合の適用手法、適用数値等を準用してこれを標準とし、早期売却の必要性の程度に応じて、正常価格およびデフォルト状態の不良債権の場合の特定価格を求める場合のそれぞれの適用手法、適用数値等を勘案した、適切な手法や数値等を適用して評価し決定することとする。なお早期売却の必要性の程度の判断および鑑定評価額の決定に当たっては、次の点に留意する。
イ 債権等の状態により、依頼者(債権者等)が許容しうる(前提としている)市場滞留期間等。
ロ 所在地域の状況(地域の発展性や競合不動産の状況等)や対象不動産の種別、類型、換価困難性等に基づく、通常の売買取引において想定される対象不動産の市場滞留期間。
ハ 評価の前提となっている市場滞留期間と通常の売買取引において想定される市場滞留期間との関係。
2 例外
収益価格を評価額として決定するに際しては、験証手段として求めた比準価格、積算価格等との比較を行い、収益価格よりも比準価格または積算価格等が低い価格となる場合は、いずれか低い方の価格をもって評価額とする。ただし、比準価格または積算価格等について、採用すべき適切な取引事例等が極めて少ない等によりその規範性が大きく劣る場合は除くこととする。
これは、担保の安全性(市場性、価格および収益の変動リスク等)確保等の観点から、現実の不動産市場における取引価格が収益価格より低水準に形成されているときには、その価格での換価しかできないと考えられるからである。
比準価格または積算価格が収益価格より低い価格となる場合は、次のような場合が考えられる。
i 買い控え等により不動産の市場機能が不全の状況にある場合
価格の変動に比べ収益の変動は小さいため、先行き不透明な中で下落が続いている状況では、需要が大幅に減退し、不動産の持つ収益力を下回る価格で取引されることとなりうる。
ii 価格時点の対象不動産の賃料が割高な状況にある場合
割高部分は賃料下落予測等で修正していくこととなるが、保有期間等によっては十分修正しきれない場合がありうる。
iii 建築費が相対的に低水準にある場合
VI 評価書の様式および必要的記載事項
本件調査および評価における成果は、鑑定評価書として、別紙の調査統括表を添付して依頼者に提出することとする。鑑定評価書には通常の必要的記載事項に加えて次の事項も記載することとする。
・対象不動産の種別・類型
・現地調査立会人
本鑑定評価書の作成に当たっては、依頼者その他第三者に対して、その調査内容および評価額の決定理由について十分説明しうるものとする。
なお、本留意事項で求める価格は特定価格なので、評価条件等の異なる正常価格を明示することにより、無用の混乱を避け、鑑定評価の信頼を損なうことのないようにする必要があるので、正常価格の付記が必要である。
VII 将来時点の評価方法について
今回の不良債権の担保不動産の評価については、債務者の状況が、デフォルト懸念の程度の相当高い等の状況では、将来におけるデフォルト状態を前提とした評価を依頼してくる場合も予想されるところである。またデフォルトの予測にかかわらず、債権評価の関係で将来時点の売却可能価格を査定することが要請されることも考えられる。
このような場合の基本的姿勢については、「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」にも記述されているように、「将来時点の鑑定評価は、対象不動産の確定、価格形成要因の把握、分析及び最有効使用の判定についてすべて想定し、又は予測することになり、また、収集する資料についても鑑定評価を行う時点までのものに限られ、不確実にならざるを得ないので、原則として、このような鑑定評価は行うべきではない。」とされているところであり、また前掲「担保不動産の鑑定評価」においても「現況重視の観点から価格時点は、原則として実査日現在とすべきである。…将来時点の場合は、一般的要因・個別的要因の変動が的確に予測できないことから、現況主義の原則に則り、鑑定評価を行うべきではない。」としているところである。
本留意事項においても、この基本的姿勢を貫くこととし、将来の予想時点において換価できる価値の評価を求められる場合にも、その評価は鑑定評価として行うべきではない。
以上
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