社団法人日本不動産鑑定協会会長あて
記
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<付録> 鑑定評価対象不動産の対比表
(注) 本対比表は、監査委員会報告第69号による時価と、鑑定評価額との関係を参考として、便宜的に示したものであり、監査委員会報告第69号による時価は、ここに示した単純な算式によるものではなく、公認会計士等の判断によって行われるものである。
1) 開発を行わない不動産又は開発が完了した不動産の評価
<監査委員会報告第69号による時価の算定方法>
販売用不動産の時価=販売見込額−販売経費等見込額
<鑑定評価で求める価格>
販売見込額
2) 開発後販売する不動産の評価(造成計画又は建築計画に実現性があると判断された場合)
<監査委員会報告第69号による時価の算定方法>
開発事業等支出金の時価=完成後販売見込額−(造成・建築工事原価今後発生見込額+販売経費等見込額)
<鑑定評価で求める価格>
開発事業等支出金の時価(ただし鑑定評価上の不動産の範囲(建築中の建物がある場合は原則として土地のみ)の時価(注))
<鑑定評価で求める価格と監査委員会報告第69号による時価との関係>
(造成中の土地等)
開発事業等支出金の時価=鑑定評価で求める価格±造成・建築工事の進捗度合いに応じた経済価値の割合と造成・建築に係る支出の支出割合との差額+開発事業等支出金のうち鑑定評価上の不動産の範囲外のもの(注)
(注) 現況の不動産の造成・建築工事の進捗度合いに応じた経済価値の増加度合いと、開発事業等支出金のうち特に造成・建築に係る支出の支出割合とは一致しないことが多い(造成・建築に係る支出は、分割払いされるが、工事進捗度合いとの関係では、一部が先払いや後払いとなっていることが多い)。この場合は、現況の不動産の経済価値をあらわしている鑑定評価額は、この点で開発事業等支出金の時価とはその対象が異なることとなることに留意する。対象不動産の開発完了後の経済価値に対する現況の経済価値の割合の判断の参考までに、価格時点における開発前の素地の価格と開発完了後の価格を鑑定評価額以外のものとして、依頼者に提示することも可能であるが、この割合と支出割合との調整は会計上の問題となるので、依頼者等の判断によって行われるべきものである。
(建築中の建物がある場合)
開発事業等支出金の時価=鑑定評価で求める価格+開発事業等支出金のうち建築工事原価等(支出済みの建築費等)
(注) 造成計画又は建築計画に実現性がないと判断された場合は、1)に準ずる。
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【参考1】 販売経費等見込額について
I 分譲を想定する不動産(開発が完了した不動産又は開発後販売する不動産)
1 直接販売の場合
(1) 販売準備費用
1) 重要事項説明書、売買契約書等の作成費用
2) 購入申込書、請求書、領収書、諸案内状、アンケート等の作成費用
3) 弁護士等への相談費用
4) 現地駐在費用
(2) 広告費等
1) パンフレット、リーフレット、看板、垂れ幕等の作成費用
2) 新聞、雑誌、ダイレクトメール、宅配等による広告・宣伝費用
3) インターネット費用(データ入力、媒体費等)
4) モデルルーム、モデルハウス等の建設費用及び解体費用
5) モデルルーム、モデルハウスの家具等展示品購入費用
(3) 販売業務費等
1) 通信費
2) 案内費用
3) 現地派遣社員等の人件費
4) 備品費用
5) 販売事務所、モデルルーム、モデルハウス、未売却住戸の水道・光熱費
6) 登録抽選費用
7) 購入申込費用
(4) 売買契約等締結費用
1) 印紙代
2) 案内状等発送費用
3) 売買契約締結に必要な施設費
4) 請求書等送付費用
5) 手付金等保証料
(5) その他
1) 内覧会・引渡費用
2) 売買契約書等保管業務費用
3) 諸販売集計業務費用
4) 商品管理業務費用(引渡未了土地・建物の維持管理費、各種保険料)
2 間接販売(委託販売)の場合
(1) 販売手数料
(2) 広告費等
1) パンフレット、リーフレット、看板、垂れ幕等の作成費用
2) 新聞、雑誌、ダイレクトメール、宅配等による広告・宣伝費用
3) インターネット費用(データ入力、媒体費等)
4) モデルルーム、モデルハウス等の建設費用及び解体費用
5) モデルルーム、モデルハウスの家具等展示品購入費用
(3) 付帯費用
1) 重要事項説明書、売買契約書等の作成費用
2) 購入申込書、請求書、領収書、諸案内状、アンケート等の作成費用
3) 弁護士等への相談費用
4) 現地駐在費用
5) 販売事務所、モデルルーム、モデルハウス、未売却住戸の水道・光熱費の一部
6) 印紙代
7) 請求書等送付費用
8) 内覧会・引渡費用
9) 売買契約書等保管業務費用
10) 諸販売集計業務費用
11) 商品管理業務費用(引渡未了土地・建物の維持管理費、各種保険料)
注) (1)販売手数料に含まれるものもある。
II 分譲を想定しない不動産(開発を行わない不動産又は開発が完了した不動産)
(1) 仲介手数料
(2) 売買契約等締結費用
・印紙代等
(3) その他
・抵当権抹消登記等にかかる費用
・実測売買で、実測未了の場合の実測費用
・特に売主が合意した広告宣伝費等
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【参考2】 販売用不動産等の強制評価減の会計上の位置づけ
1 取得原価主義と時価主義(図1参照)
現在、わが国の制度会計においては、資産の評価を取得時の価額をもってする「取得原価主義」を採用している。「企業会計原則」第3貸借対照表原則五の中で、(資産の貸借対照表価額)として、「貸借対照表に記載する資産の価額は、原則として、当該資産の取得原価を基礎として計上しなければならない。」とされている。
一方、「取得原価主義」に対して、「時価主義」とは、資産を決算期末時点の時価で評価し、財務諸表に反映させる会計制度であり、国際会計基準(IAS)において採用されている。
「取得原価主義」のもとでは、昨今のような資産価値の下落局面において、取得価額と時価の乖離が大きくなり、貸借対照表の資産価額が、企業の保有資産の本来の資産価値を反映するものとはいい難く、企業の経営を取得価額のみに基づいて判断できなくなるおそれがある。
2 棚卸資産の評価基準としての原価基準と低価基準
わが国が、「取得原価主義」を制度として採用していることは、上記のとおりだが、その「取得原価主義」会計においても、資産を時価で評価される可能性がまったくないわけではなく、資産のうちでも棚卸資産・有価証券などは、時価で評価されることもあり得る。
「企業会計原則」第三貸借対照表原則五Aの中でも、「たな卸資産の貸借対照表価額は、時価が取得原価よりも下落した場合には時価による方法を適用して算定することもできる」旨の規定がある。
このように低価基準とは、資産の取得原価と時価を比較して、いずれか低い価額を期末資産の評価額とする資産の評価基準である。
この評価基準では、時価が取得価額を超える場合には時価で評価ができないので、評価損は実現することになるが、評価益は認識されない。
一方、「取得原価主義」会計で原則とされる原価基準とは、資産の価額をその取得に要した支出額により評価する評価基準であり、この評価基準では、期末の時価に関係なく評価が行われるため、時価が取得価額より低い場合においていわゆる含み損が内在することになる。
3 「取得原価主義」における棚卸資産の強制評価減の意義
資産の評価基準として原価基準を採用していれば、資産は常に取得原価で評価されることは、上記のとおりであるが、原価基準のもとでも、一定の条件にあてはまれば、時価で評価されることもあり得る。資産についての、いわゆる強制評価減が適用される場合である。
企業会計原則では、棚卸資産と有価証券についてその旨規定している。棚卸資産に関して、企業会計原則第三貸借対照表原則五Aのただし書きにおいて、「時価が取得価額より著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額としなければならない」としている。
また、商法では、第285条の2において、「流動資産ニ付テハ其ノ取得価額又ハ製作価額ヲ附スルコトヲ要ス但シ時価ガ取得価額又ハ製作価額ヨリ著シク低キトキハ其ノ価格ガ取得価額又ハ製作価額迄回復スルト認メラレル場合ヲ除クノ外時価ヲ附スルコトヲ要ス」と規定されている。
4 販売用不動産等の強制評価減の必要性
バブル経済が崩壊した後、長期間にわたる地価下落は、総合建設会社、不動産開発会社、商社等が保有する販売用不動産等にも大きな影響を与え、それらの資産の時価が取得価額よりも著しく下落している状況にもかかわらず、資産の時価算定が一般に困難である、あるいは土地については物理的な陳腐化がなく回復の見込みがあるとの理由等から、その販売用不動産等の評価損計上が先送りされてきた。
販売用不動産等は、直接的にあるいは開発した後販売する目的をもって保有される資産であるため棚卸資産に該当し、流動資産に分類されるため、時価が著しく下落し多額の含み損を抱えている場合に、それらの不動産を取得原価で評価することは、企業会計原則、商法の規定からみても、適正な処理とは言い難く、強制評価減の要件にあてはまるのであればそれを行い、販売用不動産の評価を時価に引き直し、含み損を損益計算上実現させる必要がある。
5 強制評価減による時価評価と低価基準の違い
強制評価減による時価評価は、棚卸資産の評価基準について原価基準を採用している場合に、毎期末に取得価額と時価を比較して時価が取得価額から著しく下落して、その回復見込がないとき(回復が疑わしい場合・回復が不明の場合も含む)は、その時価で評価を強制するものであり、毎期末に取得価額と時価を比較してそのいずれか低い価額で評価する低価基準とは異なる。
基本的には、棚卸資産の評価基準について原価基準を採用している場合に強制評価減による時価評価が行われることになる。
6 強制評価減による時価評価と時価主義の違い
会計制度として時価主義が採られた場合には、棚卸資産は取得価額に関係なく毎期末の時価で評価されるので、時価が取得価額より著しく低く、かつ回復見込みがない場合のみ時価で評価される強制評価減による時価評価とは、同じ時価による評価でも会計上の趣旨が異なることに留意する。
7 販売用不動産等の強制評価減適用による企業経営へのインパクト(図2参照)
販売用不動産等に強制評価減が適用されると、その取得価額と時価との差額が販売用不動産評価損等の科目で、通常の場合、損益計算書に特別損失として計上される。
この会計処理によって、企業の当期利益はその分減少し、あるいは黒字から赤字になるケースもあり得ることになる。
また、その評価損の金額が企業の自己資本額より大きくなる場合には、いわゆる債務超過の状態になり、企業の資金調達、株価、取引関係等、企業信用力に甚大な影響を及ぼすことに留意する。
<別添資料>![]() 8 会計上の用語の説明
次にかかげる各用語の定義は、「監査委員会報告第69号」及び「会計学大辞典第四版、森田哲彌、岡本清、中村忠編集代表、中央経済社」を基に作成した。
監査:何らかの行為あるいは、ある行為の結果を示す情報などについて、それらについて独立の立場にある第三者が検査することによって、その真実性、妥当性などを確かめ、その結果を関係者に報告することである。
今日の会計監査における代表的な監査としては、公認会計士による財務諸表監査があげられる。監査人は、財務諸表の適正性について監査意見を表明するが、その意見の形成・表明は、一般に認められた監査基準(わが国では大蔵省企業会計審議会が設定)に準拠してなされる。適正性意見は、当該財務諸表が財政状態及び経営成績を適正に表示していることに関する意見であり、情報利用者の意思決定に役立つことを意図している。
財務諸表:企業が、その利害関係者(株主、債権者、課税当局、従業員等)に対して財政状態(資産、負債及び資本の状態)及び経営成績(収益、費用等の内容)に関する会計情報を提供するための手段である。また、財務諸表には、企業の利益の分配又は損失の処理に関する書類も含まれる。なお、企業が作成する財務諸表の体系は、一般に次のようになっている。
{/(1) 貸借対照表/(2) 損益計算書/(3) 利益処分計算書又は損失処理計算書/(4) 附属明細表/
棚卸資産:直接又は間接に販売を目的として保有される財貨又は用益を指す。固定資産が長期的に保有されるのに対して、棚卸資産は短期的に保有されるので、流動資産に分類される。
棚卸資産は、動産に限定されず、業者が販売の目的で所有する土地、建物等の不動産も棚卸資産となる。
したがって、本留意事項に述べる販売用不動産等も棚卸資産に該当する。
棚卸資産の評価:大きく分けて次の2種類があげられ、通常(2)の評価を意味する。
{/(1) 取得時の評価/棚卸資産の取得原価を決定するという意味での評価/(2) 決算時の評価/
貸借対照表価額を決定するという意味での評価
現行の企業会計制度では、原則として原価法を適用すべきとされており、例外的に低価法を選択適用することが認められている。また、棚卸資産の時価が取得原価より著しく下落したときは、回復する見込があると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額としなければならないとされており、これが、本留意事項及び運用指針で取り上げる強制評価減である。
原価法:資産の評価を原価ですべしとする方法。原価とは、資産の取得に要した支出額であり、購入した資産は購入価額、製造した資産は製造価額である。なお、わが国の企業会計原則や商法は、原価法を資産の原則的な評価方法としているが、諸外国では、棚卸資産や流動資産としての有価証券の評価方法は、低価法を採用しているものも多くみられる。
低価法:期末の棚卸資産について、その原価と時価(本件では正味実現可能価額)を比較していずれか低い価格で評価する方法。したがって、原価が時価より低い場合には原価によって評価され、時価が原価より低い場合には時価で評価される。
販売用不動産:開発を行わない不動産又は開発が完了した不動産をいう。
開発事業等支出金:開発後販売する不動産のうち、開発計画が実現可能な開発予定の不動産、あるいは開発計画が実現可能な開発途中の不動産(建築途中の建物等を含む)、及び原価算入されている費用等(金利、費用等)をいう。
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【参考3】 監査委員会報告第69号
販売用不動産等の強制評価減の要否の判断に関する監査上の取扱い
(平成12年7月6日)
(日本公認会計士協会)
1 はじめに
我が国の経済は、バブル崩壊後長期間低迷しており、現在も回復の手懸かりを模索している状況にある。その間、住宅業界、建設業界、商社等が抱える不動産についても動きが鈍く、事業採算の目処が立たずに長期間滞留しているものが見受けられる。また、バブル崩壊後地価が著しく下落したことにより、これらの業界は、大幅な含み損を抱える不動産を多く保有する状況となっている。
このような現状に鑑み、日本公認会計士協会(以下「当協会」という。)は、総合建設会社を巡る会計・監査の実態を調査し、これら総合建設会社の監査に関与する会員の業務支援及び環境改善あるいは同業界を巡る市場の信用改善に資するために必要な措置を検討することを職務として、監査問題特別調査会を設置した。そして、調査の結果、総合建設会社、不動産業に属する会社や商社等に共通する問題として、これらの会社及びその関係会社が、会社の事業又はその付帯事業に関連して取得した販売用不動産及び開発事業等支出金(未成工事支出金等で処理されているものを含む。)(以下「販売用不動産等」という。)については、著しい価格の下落に対応して評価減を適時に実施する必要があるにもかかわらず、資産の時価の算定が一般に困難であるとの理由等から、強制評価減が適時に実施されず、資産の処分時まで損失計上が先送りされる傾向にあることが見受けられた。このため、同調査会では、現行会計基準の下で、長期滞留たな卸資産の評価などについて強制評価減を適時に実施する必要があることを、会員に注意喚起するとともに、会社が強制評価減を実施する際の監査上の判断基準として、ガイドラインを当協会として用意する必要があることを提言した。
本報告は、前述の提言を受けて作成されたものであり、会社の業種に関係なく、会社が保有する販売用不動産等について強制評価減を実施するか否かの判断に関して、監査上留意すべき事項を実務指針として取りまとめたものである。
2 強制評価減に関する法令等の規定
(1) 企業会計原則
企業会計原則は、第三「貸借対照表原則」五A(たな卸資産の評価)のただし書きにおいて、「(たな卸資産については、)時価が取得原価より著しく下落したときは、回復する見込があると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額としなければならない。」と規定している。販売用不動産等は、営業循環過程で販売又は開発して販売する資産であるため、たな卸資産に該当し、前述のただし書きの規定が適用される。
なお、財務諸表等規則第15条では流動資産に属する資産の範囲を規定しており、同条第1項第5号「商品(販売の目的をもって所有する土地、建物その他の不動産を含む。以下同じ。)」及び同項第9号「仕掛品及び半成工事」の規定により、販売用不動産等は流動資産に含まれることとなる。
(2) 商法
商法では、第285条の2(流動資産の評価)において、「流動資産ニ付テハ其ノ取得価額又ハ製作価額ヲ附スルコトヲ要ス但シ時価ガ取得価額又ハ製作価額ヨリ著シク低キトキハ其ノ価格ガ取得価額又ハ製作価額迄回復スルト認メラルル場合ヲ除クノ外時価ヲ附スルコトヲ要ス」と規定している。販売用不動産等は、企業会計原則と同様に、商法上もたな卸資産として扱われ流動資産に計上されるため、この規定が適用される。
3 販売用不動産等の時価に関する基本的考え方
(1) 時価の一般的な概念
時価の一般的な概念について、企業会計原則及び商法とも明確には規定していないが、「企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書」第四の記載及び法人税法の規定によれば、時価には、正味実現可能価額(売価からアフターコストを差し引いた価額)と、再調達原価(当該資産の再取得のために通常要する価額)の二つが考えられる。すなわち、正味実現可能価額は、当該資産の売却を前提とした売却時価が資産の評価額の基礎となるのに対して、再調達原価は、当該資産の購入予想額が資産の評価額の基礎となる。
(2) 販売用不動産等に適用する時価
前述のように、時価には正味実現可能価額と再調達原価が考えられるが、販売用不動産等に強制評価減を適用する場合の時価としては、販売用不動産等は通常の営業循環過程において販売することを目的としている資産であるため、売却時価を資産の評価額の基礎とする正味実現可能価額の方が妥当と考えられる。この考え方に基づいて、販売用不動産等の正味実現可能価額、すなわち、時価を算定するための算式を掲げると次のとおりとなる。
販売用不動産の時価=販売見込額−販売経費等見込額
開発事業等支出金の時価=完成後販売見込額−(造成・建築工事原価今後発生見込額+販売経費等見込額)
(3) 販売見込額の客観性
販売用不動産等の時価が適切に算定されているか否かの判断に当たっては、当該不動産等の販売見込額や造成・建築工事原価今後発生見込額等が適切に見積もられていることを検討する必要がある。特に、土地は、その自然的、人為的特性のために適正価格を形成する市場がなく、また地域性という特性により、他の一般の資産と異なる価格特性が生じていることに留意する必要がある。このように、販売用不動産等の時価の算定においては、見積りや主観的な判断に依拠する場合が多い。したがって、販売用不動産等の時価の算定に当たっては、その客観性及び合理性、開発計画の実現可能性並びに開発主体の実績などを慎重に考慮する必要がある。
なお、販売見込額の基礎となる土地の時価としては、不動産鑑定士による鑑定評価額が適切と考えられるが、公示価格、都道府県基準地価格、路線価による相続税評価額、固定資産税評価額を基にした倍率方式による相続税評価額等も妥当と考えられる。また、近隣の取引事例から比準した価格も、ある程度客観性を備えた価格と考えられる。
(4) 専門家の業務の利用
不動産価格が鑑定評価によって求められている場合には、監査基準委員会報告書第14号(中間報告)「専門家の業務の利用」に記述されている手続に従って、不動産鑑定士の採用した方法、仮定及びそれらの適用の適切性・合理性を理解し、その業務の結果が監査証拠として十分かつ適切であるか否かを検討する必要がある。
4 時価の著しい下落の判断基準
販売用不動産等に対して強制評価減を適用する場合、時価が著しく下落したか否かの判断基準が重要となるが、時価の著しい下落の定義については、企業会計原則及び商法とも明確に規定していない。時価が著しく下落しているか否かの判断基準は、必ずしも数値化できるものではないが、本報告では、個々の販売用不動産等の時価が、取得価額に比べて、おおむね50%以上下落している場合には、販売用不動産等の時価が著しく下落しているものとして取り扱うこととする。
この場合には、監査人は、会社が強制評価減の検討対象としていることを確かめる必要がある。
なお、時価が取得価額より著しく下落したか否かの判断は、通常は、前述の下落率を基準として個々の販売用不動産等について行うことになるが、個々の販売用不動産等の時価がおおむね50%以上下落していない場合であっても、全体の含む損の金額に重要性があり、会社の財政状態及び経営成績についての判断を誤らせるような事態を招くと認められる場合には、前述した判断基準以外の他の適切な基準を検討する必要がある。
5 時価の回復可能性に関する判断指針
企業会計原則及び商法の規定ともに、たな卸資産の評価に当たり原価法を採用している場合には、時価が取得価額より著しく下落したときには、回復する見込みがあると認められる場合を除き、時価をもって評価しなければならないとしているため、販売用不動産等の強制評価減の要否の判断に当たっては、時価の回復可能性の判断が重要となる。
この回復可能性の具体的判断に当たっては、日本経済や地域経済の状況、地価の動向等のマクロな要因だけでなく、対象となっている販売用不動産等の具体的個別的な回復可能性の検討が必要である。例えば、当該不動産に関する土地利用規制の解除、開発計画の認可、計画道路や鉄道等の具体的計画が確認できるため、相当の期間内に時価がおおむね取得価額以上となる見込みがあることが必要である。
また、このほか、開発計画の実現可能性(後述7参照)及び近隣の開発環境、不動産を取り巻く状況の変化(例えば、震災や風水害、環境汚染等)等の要因も考慮する必要がある。
なお、監査人は、会社が実施した回復可能性の具体的判断や前年度における判断の妥当性について、慎重に検討する必要がある。
6 販売用不動産等の評価の妥当性に関する判断指針
監査人は、会社が実施した販売用不動産等の評価及びそれに基づく強制評価減の要否の妥当性について検討することとなるが、会社が、次に示した方法によって時価を算定しており、監査人がその算定方法の合理性を認めた場合には、その評価額は監査上妥当なものとして取り扱うこととする。ただし、販売用不動産等の状況によっては、ここに示した方法によって評価することが必ずしも合理的でない場合があるため、その場合には、会社が実施した評価が、当該販売用不動産等の実態に応じて合理的であるか否かを検討する必要がある。なお、会社にとって重要な販売用不動産等の評価については、その監査に当たり、不動産鑑定士等の専門家の意見を求めることが適切と考えられる。
(1) 開発を行わない不動産又は開発が完了した不動産の評価
1) 対象となる不動産
・山林・田畑・雑種地等
・宅地(更地及びその利用又は売却に際して除去する必要のある建物等が存在する土地を含む。)
・新築住宅、新築ビルディング
・中古住宅、中古ビルディング
(注) 当初より販売を目的として取得した販売用不動産であるが、一時的に賃貸を行っているものを含む。
2) 時価の算定方法
販売用不動産の時価=販売見込額−販売経費等見込額
3) 販売見込額
(ア) 販売公表価格又は販売予定価格がある場合
当該販売公表価格又は販売予定価格を販売見込額とする。ただし、販売公表価格又は販売予定価格で販売する見込みが乏しい物件については、販売可能見込額による。
(イ) 販売公表価格及び販売予定価格がない場合(適切でない場合を含む。)
次の評価額を基準にして販売可能見込額を見積もる。
a 鑑定評価額
b 一般に公表されている地価又は取引事例価格
・公示価格、都道府県基準地価格から比準した価格
・路線価による相続税評価額
・固定資産税評価額を基にした倍率方式による相続税評価額
・近隣の取引事例から比準した価格
(注) いずれの場合も、時点修正、規模、地形、道路付等の要素を比較考慮する必要がある。
c 収益還元価額
当初より販売を目的として取得した販売用不動産であるが、現在賃貸中のもの、又は一時的に賃貸に供した後に販売する目的で保有するものについては、収益還元価値に基づく評価額によることができる。
4) 販売経費等見込額
販売手数料及び広告宣伝費等を見積もる。
(2) 開発後販売する不動産の評価
1) 対象となる不動産
・造成計画のある未造成土地(造成中の土地を含む。)
・住宅、ビルディング等の建築計画のある土地(建築中の建物を含む。)
(注) いずれの場合も、計画が実現可能な物件に限る。
2) 時価の算定方法
開発事業等支出金の時価=完成後販売見込額−(造成・建築工事原価今後発生見込額+販売経費等見込額)
3) 完成後販売見込額
(1)3)の開発を行わない不動産又は開発が完了した不動産の評価における販売見込額の見積方法に準ずる。
4) 造成・建築工事原価今後発生見込額
過去の実績、工事の難易度、工法等を斟酌して、造成工事、建築工事原価の金額を見積もる。
5) 販売経費等見込額
販売手数料及び広告宣伝費等を見積もる。
6) 開発計画の実現可能性について
開発計画の実現可能性が認められない販売用不動産等については、開発利益を見込めないため、原則として、(1)の開発を行わない不動産として評価する。
なお、本報告の【付録1】に、販売用不動産等の評価額の例示、及び【付録2】に、一般に公表されている地価の概要を要約したので、実務上の参考とされたい。
7 不動産開発計画の実現可能性に関する判断指針
(1) 開発計画の合理性の検討
不動産開発事業は、土地等をそのまま販売するのではなく、宅地の造成分譲、マンションの分譲、地域の再開発、ゴルフ場の造成等のような開発行為を実施することにより、付加価値を高めて投下資金を回収し、開発利益を得る事業である。これらの開発計画は、その着工から開発工事等の完了までに長期間を要し、また土地等の取得、造成、建築等に多額の資金を必要とする場合が多い。
したがって、この開発計画の合理性を判断するためには、その客観性、具体性及び採算性について検討する必要がある。また、開発計画は、開発期間中にその開発目的を変更する場合があるが、その場合にも、変更後の開発計画の合理性を検討する必要がある。
(2) 開発計画の実現可能性の検討
開発計画の実現可能性の検討に当たっては、開発許可の取得可能性並びに用地の買収計画、造成建築計画、販売計画及び資金計画等の客観性や具体性を検討する必要がある。
また、不動産開発事業は、その開発に長期間を要することから、当初予想し得なかった種々の原因により、開発計画、開発計画の延期又は中断が生じる場合があるが、この場合には、例えば、次の延期又は中断に至る原因に留意して、その実現可能性の検討を行う必要がある。
(ア) 開発事業を取り巻く経済環境の変化により、開発利益が見込めないこと
(イ) 官公庁による転用許可、開発許可等が得られないこと
(ウ) 買収及び造成・建築等の開発資金が不足すること
(エ) 開発予定地域の重要な地区に地主の反対があること
(オ) 埋蔵文化財の発見による調査が必要となったこと
(カ) 開発工事に伴う近隣対策が必要となったこと
これらの原因のうち、通常(ア)から(エ)は、開発事業を継続する上で重要な障害要因となり、短期間でこれらの原因が解決することにより、買収の完了、開発工事の着工等が行われることは困難な場合が多い。また、(オ)及び(カ)は、開発工事の延期又は中断の一時的な原因となり、調査の完了や近隣の同意が得られれば、開発工事に着工したり工事を再開することができる場合が多い。
したがって、監査人は、開発計画の延期又は中断の原因を検討し、その原因が開発計画の実現のために重要な障害となるものか又は一時的なものかを確かめる必要がある。
また、長期間にわたり延期又は中断している開発計画は、一般的には、重要な障害要因によるものと判断されるため、その実現可能性については、慎重に検討する必要がある。
(3) 開発計画の実現可能性についての具体的指針
開発計画が、その立案時及びその後の状況の変化により、明らかに合理性がないと認められる場合は、その時点で開発計画の実現可能性はないものと判断する。また、開発工事が一定期間延期又は中断され、次の状況にある場合には、通常、今後短期間にそれらの原因が解決し、買収の完了や開発工事の着工等が行えるとは見込めないことから、原則として、開発計画の実現可能性はないものと判断する。
1) 開発用の土地等の買収が完了しないため、開発工事の着工予定時からおおむね5年を経過している開発計画
2) 開発用の土地等は買収済みであるが、買収後おおむね5年を経過しても開発工事に着工していない開発計画
3) 開発工事に着工したが、途中で工事を中断し、その後おおむね2年を経過している開発計画
(4) 開発事業の規模への配慮
不動産開発事業は、通常、大規模な開発計画になればなるほど、その計画の完了までに相当の長期間を要し、その間、種々の原因で延期又は中断が生じる場合が多い。このため、監査人は延期又は中断している開発計画の実現可能性を検討する場合には、開発計画の規模についても留意する必要がある。
8 販売用不動産等の強制評価減に適用する時価評価の方法の選択と継続性
(1) 時価評価の方法の選択
販売用不動産等の時価評価の方法は一つではなく、特に、土地については、その価格形成の特殊性を考慮すれば、複数の時価評価の方法の中から特定の一つの方法を選択することとなり、画一的にすべての土地に対して同一の時価評価の方法を適用することには限界がある。
したがって、本報告においては、販売用不動産等の時価評価は個別物件ごとに実施することとし、適用する時価は、評価時点における販売用不動産等を取り巻く諸条件の下で、販売公表価格、鑑定評価額、公示価格、路線価による相続税評価額等の時価の中から、会社が最も適切と判断する時価を選択できるものとする。監査人は、当該時価が合理的に算定されていると認めた場合には、妥当な時価評価の方法と認めるものとする。
(2) 時価評価の方法の継続性
特定の販売用不動産等に対する時価評価の方法は、毎期継続して適用し、評価のための前提条件に変更がない限り前年度と同一の方法により評価を行い、その評価額に基づき強制評価減の要否を判断する必要がある。
なお、販売用不動産等の評価に影響を与えるような事象又は状況の変化に起因して時価評価の方法を変更したり、また、状況が変化していなくても、より正確な時価の算定を意図して不動産鑑定評価を実施するなど、時価評価の方法を変更することに合理的な理由があると認められる場合には、当該変更は監査上妥当なものとして取り扱うことができるものとする。
一方、販売用不動産等を取り巻く事象又は状況に変化がないにもかかわらず、実質的に、強制評価減の適用を回避することを意図して、他の時価評価の方法に変更したと認められる場合には、その変更は合理的な理由による変更とは認められないものと判断する。
(3) 時価評価の実施の頻度
販売用不動産等の評価は、財務情報の適切な開示の必要性に鑑み、1事業年度に最低一回は実施する必要がある。また、中間会計期間においても、地価の変動率を考慮した簡便的な方法等によって再評価を実施する必要がある。なお、中間会計期間においても、販売用不動産等の評価額に著しい影響を与える要因(例えば、開発計画の実現可能性に対して重大な障害となる原因の発生等)が生じた場合には、適切な方法によって適時に再評価を実施する必要がある。
9 強制評価減を実施しなかった販売用不動産等の開示
商法計算書類規則第14条第1項において、「重要な流動資産につきその時価が取得価額又は製作価額より著しく低い場合において、取得価額又は製作価額を付したときは、その旨を注記しなければならない。」と規定している。販売用不動産等で、その時価が取得価額より著しく下落しているが、その時価が回復すると見込まれるため、強制評価減を実施せず取得価額を付したときは、その旨を注記する必要がある。この注記に当たっては、強制評価減を実施せず取得価額で評価している販売用不動産等の金額も記載することが望ましい。
なお、証券取引法に基づく財務諸表(中間及び連結を含む。)においても、同様の注記を行うことが望ましい。
10 販売用不動産等の保有目的変更への対応
従来販売目的で保有していた不動産を、賃貸事業目的あるいは自社使用の不動産とする場合には、保有目的の変更に該当するため、当該不動産の帳簿価額を流動資産としての販売用不動産等から固定資産としての投資不動産あるいは有形固定資産に振り替えることとなる。
監査人は、販売用不動産等の保有目的の変更に際しては、変更時点において取締役会等によって承認された具体的かつ確実な事業計画が存在していることを確かめるとともに、その変更理由に経済的合理性があるか否かを検討する必要がある。
したがって、例えば、別荘やゴルフ場等の開発計画の実現可能性がなくなった山林等を、実質的には利用が見込まれない会社の保養施設用地としたり、都心の商業地域にある土地を、賃料水準から判断して経済的に引き合わないにもかかわらず、賃貸用の駐車場用地とすることによって固定資産等に振り替える場合には、仮に取締役会等によって承認された具体的かつ確実な事業計画が存在していたとしても、経済的合理性がないと判断されるため、時価まで評価減を実施している場合を除き、保有目的変更の会計処理は認められないものとする。
なお、販売用不動産等の保有目的の変更が、会社の財務諸表に重要な影響を与える場合は、追加情報として、その旨及びその金額を貸借対照表に注記することが必要である。
11 経営者への確認
販売用不動産等の強制評価減の要否の検討においては、会社が行った見積りや主観的な判断に依拠する場合が多い。したがって、販売用不動産等の評価が財務諸表に重要な影響を及ぼすと認められ、監査人が必要と認めた場合には、開発計画の実現可能性や時価の回復可能性などについて、経営者確認書に記載を求めることとする。
12 適用
本報告は、平成12年4月1日以後開始する事業年度に係る監査から適用する。
以上
【付録1】
販売用不動産等の評価額の例示
1 開発を行わない不動産又は開発が完了した不動産
2 開発後販売する不動産
【付録2】
一般に公表されている地価の概要
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