農住組合法(昭和五五年法律第八六号。以下「法」という。)は、農住組合法の施行期日を定める政令(昭和五六年政令第一六九号)の定めるところにより、本年五月二〇日から施行され、また、農住組合法施行令(昭和五六年政令第一七〇号。以下「令」という。)が同日付けで、農住組合法施行規則(昭和五六年総理府令・農林水産省令・建設省令第一号。以下「規則」という。)等が六月六日付けで施行されたので、左記事項に留意の上、これらの法令に基づく制度の適切かつ円滑な運営に遺憾なきを期せられたい。
第一 法制定の趣旨について
最近における地価の状況を見ると、上昇率には鈍化の傾向がみられるが、三大圏を中心に宅地需要は依然として根強い反面宅地供給は必ずしもそれに伴つていないきらいがあり、今後の地価の動向にはなお警戒を要するものがある。
したがって、今後における土地対策としては、引き続き投機的土地取引の抑制を図りながら、特に三大圏を中心に宅地供給の促進を図ることが緊要であり、そのためには、遊休地の活用、都市再開発の推進等とともに、三大圏の市街化区域内になお相当量存在する農地の住宅地等への適切な転換を促進することが必要である。しかしながら、農地所有者の実情をみると、引き続き営農の継続を希望している者もあり、また、農地を住宅地等へ転換する意思を有していても、個人で宅地造成事業、住宅経営等を行うことについては不安を持つ者も多い。このような状況の下では、これら農地所有者の意向に配意しつつ、これらの者が協同して、一部必要に応じて当面の営農の継続を図りながら宅地造成事業、住宅経営等を行うことができるような措置を講ずることが農地の住宅地等への円滑かつ速やかな転換の促進に資すると考えられる。
本制度は、以上のような状況にかんがみ、特に宅地需給の不均衡が著しいとみられる大都市地域において市街化区域内農地の所有者等が協同して、必要に応じ当面の営農の継続を図りつつ当該市街化区域内農地を円滑かつ速やかに住宅地等へ転換するための事業を行うために必要な組織を設けることができるようにし、その組織の事業活動を通じてこれらの者の経済的社会的地位の向上並びに住宅地及び住宅の供給の拡大を図ろうとするものであり(法第一条)、「農住組合」という同一の主体が、一貫して住宅地等の造成、住宅等の建設及び賃貸等の管理、当面の営農の継続に必要な共同利用施設の設置や土地改良等の事業を総合的かつ一体的に行うことができるということが本制度の大きな特色である。
以上のような本法制定の趣旨等を踏まえ、本制度の周知に努め、農住組合(以下「組合」という。)による事業の積極的な促進に努められたい。
第二 対象地域等について
本法においては、その対象地域を都の特別区の区域及び市町村でその区域の全部又は一部が法の施行の日(昭和五六年五月二〇日)に首都圏の既成市街地若しくは近郊整備地帯、中部圏の都市整備区域又は近畿圏の既成都市区域若しくは近郊整備区域内にあるものの区域に限定しており(法第一条、第二条第一項)、また、組合の設立認可の申請ができるのは法の施行の日から一〇年を経過する日までとされている(法第六七条第三項)。これは、本制度が三大圏における住宅地等の供給を促進することの緊急性にかんがみて設けられたものであることから、対象地域及び期間を限定して集中的かつ強力に組合の設立及び事業の推進を図ることが適切であると考えられたためである。したがって、このような趣旨を十分に踏まえて、組合の設立及び事業の実施が速やかに行われるよう指導されたい。
なお、対象市区町村については、別表を参照されたい。
第三 組合の事業について
組合は、法第一条の目的を達成するため、その地区内において、自ら又は委託を受けて、法第七条第一項及び第二項の事業を総合的かつ一体的に行うことができることとされているが、その実施の指導に当たっては、次の諸点に配慮されたい。
一 法第七条第一項各号の事業については、法第一条の目的を達成するために基本的に必要なものであり、組合が必ず行わなければならない事業(以下「必須事業」という。)とされている。当該事業は、土地区画整理事業等により実施されることとなるが、その実施を確実なものとするため、次に掲げるような措置が講じられているほか、組合員に対し住宅建設等の速やかな実施をその責務として課しているところである(法第八七条)。したがって、必須事業が確実に実施されるよう組合を指導されたい。
1) 都府県知事(指定都市の長を含む。以下同じ。)は、組合の設立認可に当たり、組合の事業の実施により組合の地区内の市街化区域内農地等の相当部分が住宅地等へ転換される見込みが確実でないときは、認可を行ってはならないこと(法第六八条第一項第三号)。
2) 法第七条第一項第一号の事業は、組合の地区内の市街化区域内農地等の全部又は相当部分を含む一団の土地について行わなければならないこと(法第七条第三項)。
3) 組合が正当な理由なしに、成立の日から二年を経過してもなお法第七条第一項第一号の事業を開始しないときは、都府県知事は組合の解散を命ずることができること(法第八四条第一項第二号)。
二 法第七条第二項各号の事業は、組合が必ず行わなければならない事業ではないが、法第一条の目的を達成するため必須事業と併せて総合的かつ一体的に行うことができることとされた事業であり、その実施に当たっては以下の諸点に留意されたい。
(一) 住宅又は利便施設の建設等については、組合が行う場合のほか、地区内の土地の一部について土地を必要とすると認められる者に対して賃貸、譲渡等を行い、これらの者に事業を行わせることにより、これらの者の資金、技術等を活用することが適切である場合等も考えられる。このような見地から、組合は、地区内の土地について更地分譲等を行うことができることとされている(法第七条第二項第二号)が、この場合、当該土地が更地のまま転売される等により投機の対象となることのないよう、その相手方は住宅等を建設することが確実である者に限定されている(令第一条)ので、この趣旨を踏まえ、組合を指導すること。
(二) 法第七条第二項第三号の土地に関する権利の交換分合は、本法により新たに設けられた手法であり、法第七条第一項第一号の事業の円滑な実施を図るため、その前段の事業として実施できることとされている。
この事業は、法第二章第三節の規定により実施されるものであるが、土地に関する権利の移動を集団的に行うものであるので、関係権利者の土地利用に関する意向、交換分合参加者相互の公平に十分配慮して実施するよう指導すること。
(三) 法第七条第二項第八号の農地利用規約は、一団の営農地等に属する農地について当面の営農の継続を希望する組合員が農地の管理等について互いに遵守すべき事項を組合が定めることができるようにし、当該組合員の当面の営農の円滑な継続に資することを目的とするものであり、組合の地区内の一団の営農地等で法第一三条第一項各号の要件に該当するものについては、農地利用規約の制度が有効に活用されるよう指導すること。
(四) 法第七条第二項第八号の農地利用契約の締結についても農地利用規約の設定と同様の趣旨から規定されているものであり、用排水の関係等から認定を受けた農地利用規約の営農地区と一体的に当面の農業上の利用が継続されることが適当であると認められる等農地利用規約の目的を達成するため必要があると認められる場合には、農地利用契約の制度についても有効に活用されるよう指導すること。
(五) 法第七条第二項第四号及び第五号の事業については、組合員が当面営農を継続するのに必要な限度を超えるものであってはならないものとされており(法第七条第四項)、また、同項第五号の事業については客土、暗きよ排水等政令でその範囲が限定されている(令第二条)ので、この点に留意の上、組合を指導すること。
本法における「当面」の期間は、すでに市街地を形成している区域及びおおむね一〇年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域とされている市街化区域の制度の枠内にあることは当然であり、個々具体的には当該地区の周辺の市街化の動向等により判断されるものである。
第四 組合員について
本法では、組合員たる資格を有する者は、1)組合の地区内の土地について所有権又は借地権を有する者及び2)組合の地区内の農地について使用収益権を有する者であって定款で定めるものとされている(法第一五条)。
組合は、基本的には市街化区域内農地を住宅地等へ転換するための事業を行うことを目的とするものであり、このような事業を円滑に推進するという観点に立って、1)に係る組合員は正組合員と、2)に係る組合員は准組合員とされ、正組合員のみが議決権及び役員の選挙権を有することとされている(法第一八条第一項)が、組合の事業の円滑な実施を図るためには、准組合員たる資格を有する者を含め組合の地区内の権利者が積極的に組合に参加することが望ましいので、そのような方向で組合を指導されたい。
第五 組合の地区について
一 法第六〇条の組合の地区の設定は、組合の組合員資格及び事業が行われる地域の範囲を決定するものであり、その地区内における組合員以外の者の行う土地利用を拘束するものではない。したがって、地区の設定に当たっては、関係権利者の意向にも十分配慮し、組合の地区全体の計画的な整備が図られるよう適切な指導を行われたい。
二 組合の地区は、二ヘクタール以上の一団の市街化区域内農地等を中心とする一団の土地について設定されるものである(法第六〇条、令第一三条)が、市街化区域内に存する二ヘクタール未満の小規模に散在する農地についてもその宅地化を促進するため、当該一団の土地に近接する一団の市街化区域内農地等を「飛び農地」として組合の地区に含み得ることとされている(法第六〇条、第六八条第二項、令第一二条)。
また、市街化区域の縁辺部においては、市街化区域内農地の所有者等で今後も長期にわたり営農の継続を希望する者がいる反面市街化区域外の農地の所有者等で宅地化を希望する者がいることも予想されることから、市街化区域外の農地等であつても交換分合が行われることが予定されている場合においては組合の地区に含み得ることとし、市街化区域内農地等の住宅地等への円滑な転換に資することとしている(法第六八条第三項、令第一五条)。
組合の地区の設定に当たつては、以上の趣旨にかんがみ、地域の特性及び関係権利者の意向に十分配慮し、これらの制度が有効に活用されるよう指導されたい。
第六 事業基本方針について
法第六四条の事業基本方針は、組合の地区内において組合員の当面の営農の継続を図りつつ市街化区域内農地を住宅地等へ転換するために組合が行う事業の基本となる事項、すなわち事業の種類及びその実施の方針等を定めるものである(法第六四条第一項、規則第一五条)。ただし、組合の地区内の土地利用について地区区分を行うものではないので、留意されたい。
なお、事業基本方針は、組合の地区内の土地について定められている都市計画に適合するように定められなければならないことは当然である(法第六四条第二項)が、同時に、組合の地区の周辺を含め市街化区域における計画的市街化に資するものとなるよう指導されたい。
第七 指導監督等について
一 本法は、国土庁、農林水産省及び建設省の共同の所管とされており、当該三省庁が緊密に協力しつつ、本制度の運営を行うこととなるが、貴職におかれても、関係部局が多方面にわたることになると思われるので、関係部局間の連絡調整を十分に行う仕組みを設ける等により連絡を密にし、本制度の円滑な運営を図られたい。
二 また、地方自治法(昭和二二年法律第六七号)第二五二条の一九第一項の指定都市においては、指定都市の長が組合の指導監督等の事務を行うこととされているが、交換分合及び土地改良法に基づく土地改良事業に係る事務については都府県知事が行うこととされている(令第一七条)ので、組合が指定都市の区域内でこれらの事務を行う場合には、都府県知事と指定都市の長との間で連絡調整を十分行うこととされたい。
三 なお、組合の事業の実施に当たつては、農業協同組合法(昭和二二年法律第一三二号)第一〇条第一項第一号及び第二号の事業を併せ行う農業協同組合に対し、設立段階において事業基本方針を送付することとされ(法第六五条、規則第一六条)、また、組合の事業に関し必要な助言又は援助を求めることができることとされている(法第九一条、規則第一八条)ので、組合及び当該農業協同組合が相互に十分連絡し、組合の事業の円滑な実施が図られるよう指導されたい。
第八 助成措置等について
組合の事業の円滑な推進を図るため、農地所有者等賃貸住宅建設融資利子補給臨時措置法(昭和四六年法律第三二号)の特例措置(法第八九条、令第一六条)、組合の事業の実施に必要な計画の策定等に要する経費に対する助成、組合の行う特定土地区画整理事業に対する補助、農業近代化資金(令附則第三条)及び住宅金融公庫の低利資金(令附則第五条)の貸付け等の財政上、金融上の助成措置並びに交換分合に係る譲渡所得等の課税の特例、組合の設置する農業共同利用施設に係る固定資産税等の課税の特例等の税制上の特例措置が講じられているところであるので、住宅金融公庫の宅地造成資金貸付け等の既存の助成制度の活用と併せてこれらの措置の積極的な活用が図られるよう指導されたい。