建設管発第八六六号
昭和二六年九月八日

各都道府県知事あて

建設省管理局長通牒


土地収用法による収用委員会の委員の選任について

去る第一〇国会において成立を見た新土地収用法並びに同施行法については、近日中にその施行のために、同法施行令並びに施行規則が公布される予定である。
同法の施行に関しては、条例並びに規則の制定その他諸般の準備を進められたいのであるが、就中新土地収用法第五二条に規定する収用委員会の委員及び予備委員の任命に関しては、特に事前に措置しておくことを適当とするので、同法施行法第八条第一項の規定により法施行前に貴職において人選を進め、あらかじめ都道府県議会の同意を得ておき、新土地収用法施行後、直ちに、委員及び予備委員を任命するよう致されたい。
尚、収用委員会は、旧収用審査会の制度を改め、収用裁決処分を行うに相応しい中立公正な準司法的機関としたものであり、而してその委員の任命権を都道府県知事に委ねることとなったものである。新土地収用法の運用は、同委員会の機能、運営の如何にあるということができ、その適正な運用を期するためには、先ず、真に新法第五二条第三項に規定するような適格者を得ることが最も大事な要点であるが、委員の資格に関する前記条項の立法趣旨は、左の通りであるから、諒承の上同委員並びに予備委員の人選については、万遺憾なきよう格段の配慮を煩わしたい。


収用委員会の委員の人選について

収用委員会の委員の資格については、法第五二条第三項に明記されてある通り「法律、経済又は行政に関してすぐれた経験と知識を有し、公共の福祉に関し公正な判断をすることができる者」に限られるのであるが、その趣旨は次の通りである。
一 「公共の福祉に関して公正な判断をすることができる者」と規定されている趣旨は、委員会は「公共の利益の増進と私有財産との調整を図る」という公共福祉目的を実現し、且つ、私有財産に重要な制限を加わえるところの準司法的行政処分を行うことを使命としているからであって、その機関を構成する委員もまたそれに相応しい者であることが必要である。従って収用委員会の委員は、例えば、労働委員会或は農業委員会の如く利益代表的な委員によって構成する趣旨ではなく、恰も司法機関の如き場合に準じ、公正中立な見解を有ち、且つ、何人にも拘束されず独立に判断を下し得るような者を委員とするにある。例えば次のような者は、委員としては不適当であると解すべきである。

イ 専ら特定の派閥の利益主張に偏する判断をする虞れがあると認められる者
ロ 専ら起業者側本位の立場のみを擁護する判断をする虞れがあると認められる者
ハ 専ら被収用者側の過大な要求或は不当な主張を擁護する判断をする虞れがあると認められる者
ニ その職務の内容が起業者又は被収用者となる公算の多い者の指揮監督を受け、独立して判断をすることが困難な地位にある者

二 「法律に関して」と規定されている趣旨は、収用委員会が準司法的性質を有し、私法と公法と双方にわたり微妙な法律的判断を要する行政処分をする機関であるからである。この種の「法律に関してすぐれた経験と知識を有する」委員としては、私法又は公法その他法律全般について学識経験を有する者若干人の選任が適当であると考えられる。
三 「経済に関して」と規定されている趣旨は、収用委員会の行う行政処分が、不動産その他各種物件の損失補償の適切な評価、土地の適正且つ合理的な利用等国民経済、経営経済等実際上の経済問題に関する健全且つ常識ある判断を必要とする処分であるからである。この種の「経済に関してすぐれた経験と知識を有する」委員としては、若干人の選任が考えられる。
四 「行政について」と規定されている趣旨は、収用が国の行政作用であって、国及び地方公共団体の行政上、公益上の判断を必要とするからである。この種の「行政に関してすぐれた経験と知識を有する」委員としては、若干人の選任が考えられる。
五 法第五二条第二項に規定されている予備委員の資格については、委員と同様であるが、各種委員の選任の割合を考慮して任命することが適当である。

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