最近公共事業に必要な用地の取得が困難となるにつれて、公共事業の起業者において、当該事業の用に供する土地を土地収用法に定める手続によって取得する事例が漸次増加の傾向にある。
しかしながら、土地収用法施行以来満七年を経過した今日においても、公共の利益と私有財産との調整を図る同法の立法趣旨は、起業者及び利害関係人の両当事者間に徹底していないうらみがあり、いまなお旧土地収用法に対する従来の観念にとらわれて、起業者においては土地収用法による土地の取得を必要以上にためらい、土地所有者等の関係者においては同法の円滑な運用を阻止する事例が少なからず認められることは、はなはだ遺憾なことである。
土地収用法の適正な運用を一層推進するためには、起業者及び利害関係人を含めてひろく国民一般の同法の立法趣旨についての十分な理解がなければならないが、同法の施行に権限を有する都道府県知事及び市町村長並びに収用委員会においてもその責務の重大であることを一層認識しなければならない。当省においては、収用委員会に要する経費の国庫負担制度の創設、損失補償基準の確立、収用委員会運営規則の整備、土地収用法施行担当職員の訓練等の措置を実現すべく目下努力しているところであるが、貴職においても、左記事項の後留意のうえ土地収用法の適正な運用に御尽力いただきたい。
一 収用委員会の運用について
収用委員会の運用にあたっては、公正妥当な裁決を迅速に行い、公益と私権との調整の機能を十分果しうるよう次の諸点につき特段の配慮をされたい。
(1) 収用委員会の会議の重要性にかんがみ、委員の出席等についても収用委員会の会議開催に支障ないよう特段の配慮を払うこと。
(2) 裁決処分は私権の消滅又は制限の効果をもつものであるから、その審理にあたっては、正当な議論については十分真意を尽さしめ、鑑定人による鑑定、あるいは参考人の審問等の方法を活用し、公正な判断を得ることに努めるとともに、手続の遅延を目的とする審理妨害については、会長の審理指揮権を発動して、運用の迅速化をはかること。
(3) 収用委員会の庶務は、都道府県の部局の職員をして兼務せしめているが、そのために収用委員会の事務処理の公正を疑わしめたり、事務の渋滞を来たしたりすることのないよう留意すること。
二 事業認定その他の手続運用について
土地収用法が事業準備のための土地立入から収用の裁決に至る複雑な手続規定を置いている趣旨は、私権を十分に保護するところにあるが、これらの各手続が迅速に処理されないために収用手続に長時日を要する事例なしとしない。土地収用法の運用の迅速化については、各方面強い要望もあるので、次の諸点につき特段の配慮をされたい。
(1) 土地収用法によって市町村長、都道府県知事及び収用委員会の執行に属せしめた事項のすべて国の機関委任事務であるので、それぞれの手続のもつ意味と収用手続全体の法律の趣旨にかんがみ法律に定める国の利害に反して執行の遅延を来たし、さらには事務執行を拒否することによって、手続の進行を阻害することのないよう留意すること。
(2) 事業認定の本質については、いまだ国民一般に十分な認識がなされているとはいいがたい事情にあるので、事業の認定に当っては、申請書の縦覧、現地調査、公聴会開催等の機会を利用して、努めてその趣旨徹底に努力するとともに、起業者に対しては、強権の発動であるかのごとき言辞を用いないよう留意させ、早期に事業の認定の申請をするよう指導すること。
(3) 収容委員会と国との連絡調整の緊密化について土地収用法は、施行以来満七年を経過したが、収用委員会に係属した事件数はいまだ少なく、個々の収用委員会が土地収用法の適用に関して有する経験もまだ浅い。
土地収用法の公正かつ迅速な運用を行うためには、各収用委員会と国との事務連絡を一層緊密にし、地区別収用委員会々長会議、全国収用委員会々長会議等の方法により、情報、資料、研究成果等の一層の交換を図るとともに、意見討議の機会を積極的に設け、土地収用法に関する知識の不断の集中に努力されたい。