土地収用法等の一部を改正する法律は去る七月三日付け官報で公布され同日施行されたが、改正後の土地収用法(以下「法」という。)等の運用に当たっては左記の点をご注意いただきたい。なお各起業者あての通知を参考までに別添します。
1 第四八条の改正について
(1) 土地所有者又は関係人の氏名又は住所が不明であることにより改正後の法第四八条第四項ただし書の規定に該当することとなった場合には、土地所有者又は関係人の氏名又は住所を不明と記載して裁決する。なお、この場合において二以上の土地所有者又は関係人がそれぞれ所有権又は権利の帰属を争っている場合には、争いに係る二以上の土地所有者又は関係人の氏名及び住所を併記する。
例 土地所有者 不明(ただし、甲野太郎―住所○○○又は乙野次郎―住所○○○)
(2) 改正後の法第四八条第五項の規定による裁決方法は次の如きである。
イ 存否不明の権利が二以上ある場合においてそれらの権利が互に併存し得るものであるとき
例 土地所有者 甲野太郎 住所○○○ 四〇〇万円
ただし、乙野次郎の借地権がないものと確定した場合 八〇〇万円
丙野三郎の地上権がないものと確定した場合 六〇〇万円
乙野次郎の借地権及び丙野三郎の地上権がいずれもないものと確定した場合 一、〇〇〇万円
借地権者 存否不明
ただし、乙野次郎の借地権があるものと確定した場合
乙野次郎―住所○○○に 四〇〇万円
地下鉄道設置のための地上権者 存否不明
ただし、丙野三郎の地下鉄道設置のための地上権があるものと確定した場合丙野三郎―住所○○○に 二〇〇万円
ロ 存否不明の権利が二以上ある場合においてそれらの権利が相互に併存しえないものであるとき
例 土地所有者 甲野太郎―住所○○○ 七〇〇万円
ただし、乙野次郎の借地権がないものと確定した場合 八〇〇万円
丙野三郎の耕作権がないものと確定した場合 七〇〇万円
乙野次郎の借地権及び丙野三郎の耕作権がいづれもないものと確定した場合 一、〇〇〇万円
借地権者 存否不明
ただし、乙野次郎の借地権があるものと確定した場合
乙野次郎―住所○○○に 三〇〇万円
耕作権者 存否不明
ただし、丙野三郎の耕作権があるものと確定した場合
丙野三郎―住所○○○に 二〇〇万円
ハ なお、イの場合において起業者が供託すべき金額は六〇〇万円、ロの場合においては三〇〇万円である。
ニ 併存し得ない権利とは、同一の土地に設定するとすれば相互の権利の性質から法律上併存し得ないもの又は事実上一方の権利が成立すれば他方の権利の行使が不能となるものをいい、例えば二個以上の地上権若しくは二個以上の借地権又は借地権と永小作権若しくは借地権と賃借耕作権等をいう。
(3) (1)、(2)において土地所有権又は土地に関する所有権以外の権利の帰属又は存否について争いがある場合とは、裁決の時期において当事者間に権利の帰属若しくは存否について裁判上の争いがある場合又は裁判外の争いがあり社会通念上権利関係を明確に定め得ない場合をいう。なお、権利の存続期間又は地代等に係る争いで当該権利の存否自体には争いがない場合は、これに当たらないから注意を要する。
2 指名委員について
(1) 指名委員には個別的に調査又は審理を委任する場合のほか、事件単位で包括的に事務を委任する場合もあって差支えない。
(2) 収用委員会が指名委員を指名し、当該指名委員に行なわせる事務の範囲を決定し又は委任に係る事務の結果の処理等を行なう場合には、法第六〇条第二項の規定により会長及び(当該指名委員をも含めて)三人以上の委員の出席を要する。なお、会長も指名委員となることができる。
(3) 審理又は調査に関する事務の一部を複数の指名委員に委任する場合においては、当該委任に係る事務は指名委員の全員によって処理されなければならない。なお、指名委員を置くことなく審理を行なう場合には、従来どおり会長及び三人以上の委員の出席を要すると解されるから注意されたい。
3 審理の促進等について
法第四六条の改正により裁決が遅延することのないよう努めるべきこととされたが、常勤委員及び指名委員制度の活用等により審理の促進方を図られたい。なお、都市計画事業に係る収用事件については都市計画法第二〇条の改正に伴い一括して収用委員会で処理することとなったので念のため申し添える。