土地収用法の一部を改正する法律及び同法律施行法が昭和四二年七月一四日成立し、昭和四二年七月二一日法律第七四号及び第七五号として公布され、同法律に基づき、土地収用法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(昭和四二年一一月一五日政令第三四四号)、土地収用法施行令の一部を改正する政令(同日政令第三四五号)及び土地収用法施行規則の一部を改正する省令(昭和四二年一一月三〇日建設省令第三四号)が制定された。今回の改正法令は、昭和四三年一月一日から施行されるので、これらの運用に当っては、「改正土地収用法の施行について(昭和四二年一二月一五日建設省計総第三〇八号事務次官通達)」に従うほか、特に別記の点に留意されたい。
1 事業の認定について(起業者、都道府県知事)
(1) 土地収用法(以下「法」という。)第一八条第四項の趣旨に鑑み、同項に規定する起業地及び事業計画を表示する図面の縮尺は、一〇〇〇分の一程度以上とすることが望ましい。ただし、起業地の土地の利用度の低い場合には、二五〇〇分の一ないし三〇〇〇分の一で足りる。
(2) 黄と緑による収用と使用の別は、事業のために所有権の取得を要する部分と要しない部分との別であり、現実に収用等をしようとする土地という意味ではないから、既買収地についても、当然着色を要する。したがって、原則として、起業地で無色の部分はない。なお、土地収用法施行規則(以下「規則」という。)の別記様式第五「収用の部分」及び「使用の部分」についても、同様である。
(3) 起業地の表示方法について
起業地内及びその付近における顕著な地形、地物等(おおむね国土地理院発行の五万分の一の地形図に記載されている河川、道路、官公署等の程度)を記載した図面とし、これだけでは起業地の範囲がわかりにくいときは、主要な建物その他固定性の高い物件をも記載すること。
(4) 事業認定申請においては、起業地が即地的に確定している必要はあるが、一筆ごと又は権利者ごとの調査を要するものではない。
(5) 事業の認定後、起業地の変更があった場合の措置について
イ 起業地の範囲が増加した場合は、その部分について事業の認定を新たに受け、その部分の補償額は、この新たな事業認定時を基準とすることになる。(その部分について土則収用等の必要がないときは、新たな認定を受ける必要はない。
ロ 起業地の範囲が減少した場合には、減少部分について、法第三〇条(事業の廃止又は変更)の規定に基づき、都道府県知事は告示を行なう一方、起業者は、規則第一三条の三の周知措置を講じなければならない。
ハ なお、起業地の増減に伴い、法第四七条第二号に規定する事業計画の著しい変更があると考えられる場合は、全体につき改めて事業認定を受ける必要がある。(変更部分について土地収用等の必要がないときも、同様である。)
2 起業地表示図の長期縦覧について(都道府県知事―市町村長)
(1) 法第二六条の二第二項により、市町村長が行なう図面の長期縦覧場所は、市町村役場を原則とする。ただし、土地所有者及び関係人にとって、特に不便である等のときは、他の適当な公共的施設(出張所、公民館等)を選定してもさしつかえない。
(2) 都道府県知事は、市町村長から右記縦覧場所についての連絡を受けて、法第二五条第二項の報告及び送付の際、あわせて、建設大臣に対して、縦覧場所の通知をすること。
(3) 縦覧期間中に、縦覧場所を変更するときは、告示の変更を要するので、あらかじめ、事業認定庁に通知すること。この場合において、建設大臣の認定した事業に係るものについては、都道府県知事を経由すること。
(4) 図面は、事業別に整理し、起業者名、事業の種類及び起業地を表示しておき、また、後で法第三四条の四により図面の追加があったときは、これをも一体として、縦覧に供すること。
3 補償等についての周知措置について(起業者)
(1) 周知措置の方法について
イ 起業者は、あらかじめ周知事項を記載した小冊子を用意し、これを受け取りにきた土地所有者及び関係人に対して配付すること。
ロ 起業者は、小冊子の内容及びイの配付場所を起業地附近に掲示すること。
ハ 起業者がすでに確知している土地所有者及び関係人には、個別に通知するのが望ましい。
(2) 周知措置の内容について
イ 周知措置の内容については、いたずらに羅列せず、おおむね左記程度の重要な点のみを要領よくまとめること。
1) 土地又はその土地に関する所有権以外の権利に対する補償金が、昭和〇年〇月〇日現在で固定され、その日から権利取得裁決まで(補償金の支払請求を行った者については、支払期限まで)について物価の変動に応ずる修正が加えられる旨。なお、権利収用等の場合にもこれに準ずる内容の説明を行なうこと。
2) 法第八条第三項ただし書について
3) 法第四五条の三第一項のうち売買等による承継について
4) 法第八九条(損失補償の制限)について
5) 裁決申請の請求の主体、請求の方法(添付書類を含む。)及びその効果について
6) 補償金の支払請求の主体、請求の方法(添付書類を含む。)及びその効果について
7) 明渡裁決の申立ての主体及びその方法について
8) その他詳細については、土地収用法を参照すべき旨
ロ できるだけ平明に記載すること。
ハ 各人別にその具体的な補償額まで説明する必要はなく、また、標準土地価格の提示も必要ではない。
4 手続保留及び手続開始について(起業者、都道府県知事)
(1) 手続保留及び手続開始の告示は、起業者の申立てどおりに行なうものであり、実質的な審査は行なわれない。しかし今回の改正目的からすれば、起業者としては、予算措置及び用地職員の集中的活用により、できるだけ手続保留を避けるよう運用に努力すべきである。
(2) 手続保留の申立ては、事業認定申請書とあわせてもよく、別冊にする必要はない。
5 裁決手続について(収用委員会、起業者)
(1) 裁決手続開始の決定、登記の嘱託及びこれに伴う分筆については、法務省との協議を終った後、追って通達する。
(2) 手数料について
とりあえず、権利取得裁決に係る損失の補償のみを基準として、手数料を納入することとし、後に移転料等を含めた全体の損失補償額を算定して、手数料に不足があれば、その不足分を追加納入するものとする。
(3) 事業の認定の告示後、仮登記上の権利を有する者、既登記の差押債権者及び仮差押債権者又は既登記の買戻権を有する者となったものの取扱いについて
これらの者は、法第八条第三項ただし書の「新たな権利を取得した者」には含まれないと解されるので、関係人として取扱うべきである。
ただし、これらの権利の基礎となっている権利が、事業の認定の告示後に新たに設定された場合(例えば、事業の認定の告示後地上権を設定し、その地上権について更に譲渡又は抵当権設定の仮登記をした場合)は関係人でない。
(4) 当事者以外に債務者がある場合、例えば、地上権者が支払請求して支払を受けた後、権利取得裁決前に地上権が消滅するに至った場合は、その地上権者は関係人でなくなるが、法第一〇四条の二の効果を受けるから、裁決書は、これらの者にも送達すること。
(5) 明渡裁決は、どんな場合にも必要であり、事業の認定の告示から四年以内に明渡裁決の申立てがないと。事業の認定は失効する。更地などで明渡が簡単な場合は、権利取得裁決と同時に、明渡裁決をするのが望ましい。なお、権利取得裁決後の合意は、和解によるべきである。
(6) 法第九〇条の三「遅滞」及び法第九〇条の四の「怠った」の解釈について
起業者に正当な理由があるとき(例えば、土地所有者が支払請求をした場合において、地上権者又は土地所有者本人等が立入を妨害したため、見積が過小となったとき)は、「遅滞」があり、又は「怠った」ということはできないと解される。
(7) 規則の別記様式第九の二の土地の所在、地番及び地目等の「等」の意義について
この様式は、土地の収用、権利収用等に共通の様式があって、土地収用の場合は、土地の所在、地番及び地目を意味するが、権利収用物件収用及び土石砂れき収用の場合は、法第一三八条第二項に準じて次のように読み替えるものとする。
イ 権利収用の場合
権利の目的であり、又は当該権利に関係のある土地、河川の敷地、海底、水又は立木、建物その他土地に定着する物件のある土地の所在、地番及び地目
ロ 物件収用の場合
立木、建物その他土地に定着する物件がある土地の所在、地番及び地目
ハ 土石砂れき収用の場合
土石砂れきの属する土地の所在、地番及び地目
以上のことは、規則の別記様式第一〇の二及び第一〇の三についても同様である。
(8) 規則第一七条の七第二項の自己が土地所有者又は関係人であることを証する書面は、規則第一五条の二及び第一七条の四の書面と同様の内容であるが、提出先が異なるので省略は認められない。
(9) 端数の処理について
土地収用法施行令第一条の一三の端数の処理は、総合計の四捨五入ではなく、収用地の土地代金、残地補償、移転料等の項目ごとに算定した額それぞれについて、四捨五入する趣旨である。
(10) 裁決手続開始の登記の抹消について
収用又は使用の裁決が、補償金等の不払により失効した場合は、収用委員会は、裁決手続開始の登記の抹消を登記所に嘱託しなければならない。
また使用の裁決で、補償金等の支払があった場合も、収用と異なり、不動産登記法上当然に抹消されないので、同様に抹消を嘱託しなければならない。
(11) 裁決書の送達を郵送により行なうときは、法第一三三条第一項の期間の起算日を明確にするため、配達証明とする等送達の日を明らかにすること。
6 物価修正について
(1) 計算例
右表(指数は架空のものである。)のような物価の変動がある場合には次のように計算する。
イ 補償金の支払請求がない場合
設例:昭和43年7月1日に事業の認定の告示があり、権利取得裁決が昭和44年4月25日になされた。
年
|
月
|
全国総合消費者物価指数
|
投資財指数
|
43
|
5
|
114.8
|
110.5
|
|
6
|
115.0
|
110.4
|
|
7
|
115.3
|
110.7
|
|
8
|
114.5
|
111.1
|
|
9
|
115.7
|
111.3
|
|
10
|
116.4
|
112.9
|
|
11
|
115.6
|
113.3
|
|
12
|
116.6
|
113.1
|
44
|
1
|
117.8
|
112.6
|
|
2
|
118.3
|
112.4
|
|
3
|
118.5
|
112.4
|
|
4
|
118.8
|
112.8
|
|
5
|
118.1
|
112.9
|
|
6
|
117.5
|
113.2
|
令附録の備考によると
1) Pc、Piは上表により昭和43年6月、7月、8月の各指数の相加平均であるから
Pc=(115.0+115.3+114.5)×1/3
Pi=(110.4+110.7+111.1)×1/3
2) Pc′、Pi′は、裁決がされる日の前日(昭和43年4月24日)から前2週間目の日(同年4月11日)においては、両指数がそろって公表されているのは、2月までであるから(後述のように全国総合消費者物価指数は各月の最終金曜日頃に、また投資財指数は各月の12〜14日頃に、それぞれ先月の指数が公表される例である。)12月、1月、2月の各指数の相加平均である。
Pc′=(116.6+117.8+118.3)×1/3
Pi′=(113.1+112.6+112.4)×1/3
3) Pc′/Pc=((116.6+117.8+118.3)×1/3)/((115.0+115.3+114.5)×1/3)=1.023
(まず「1/3」を約分してから割算を行ない、小数点以下4位まで求めて四捨五入し、3位までの数とする。)
Pi′/Pi=((113.1+112.6+112.4)×1/3)/((110.4+110.7+111.1)×1/3)=1.018
4) したがって3)から(修正率)=(Pc′/Pc)×0.7+(Pi′/Pi)×0.3=1.0215
ロ 補償金の支払請求がある場合
イの場合に、昭和43年12月1日に補償金の支払請求があった場合は、支払期限を昭和44年2月1日と考えると、2週間前における最新の指数は11月の分であるから、イの2)の例によって
Pc′=(115.7+116.4+115.6)×1/3
Pi′=(111.3+112.9+113.3)×1/3
(修正率)=(Pc′/Pc)×0.7×(Pi′/Pi)×0.3=0.7056+0.3048=1.0102
(2) 指数の発表方法
イ 全国総合消費者物価指数
発表時期:翌月の最終金曜日頃
公表:小売物価統計調査報告(月報)、小売物価統計調査年報
ロ 投資財指数
発表時期:翌月の一二〜一四日
公表:卸売物価指数(月報)、卸売物価指数年報
なお、当分の間、建設省計画局総務課に電話連絡すれば、その都度教示する。
(3) 加算金の計算例
(1)のロの場合で、起業者は、自己の見積額に物価の変動に応ずる修正率を乗じた額一五〇円を支払ったが、収用委員会の物価修正済の評価額は、一七〇円であった場合
(170万円−150万円)÷170万円=0.11……(したがって加算金は日歩3銭)
加算金=(1,700,000円−1,500,000円)×(0.03/100)×遅滞した期間=20×3×83=4980 4980円(2月1日から4月25日まで)
(4) (1)、(3)の算定にあたっては、計算を事務局の二人にさせて、照合するなど誤りなきように細心の注意を払うべきである。
7 補償金の支払請求について(起業者)
(1) 被収用地について補償金の支払請求があった場合、残地補償は、要求がなくとも、当然起業者が調査した上で、その見積額を支払うべきものである。すでに、残地収用又は使用に代る収用の請求がなされている場合についても同様に取扱うべきものである。なお、これらの請求がなされているかどうかは、収用委員会への問い合せによるべきである。
(2) 規則第一七条の四の補償金支払の請求書に添付する法第四六条の二第一項に規定する土地所有者又は関係人であることを証する書面は、登記簿、契約書、又は土地所有者の証明書であるが、いずれにせよ起業者は、更に調査して真実の権利者であるかどうかを確める必要がある。(たとえば、登記簿には公信力はないので、その真実性、契約後の解除の有無、隠れた賃借権者の存否等を充分調査する必要がある。)
(3) 起業者は、令第一条の九による裁決手続開始決定の通知を受けたときは、間もなく登記がなされるので、法第四六条の四の支払期限を徒過しないように注意されたい。なお、不動産登記法第六一条の嘱託登記の場合の登記済証の交付を待っていると支払期限の待過の危険がある。
8 強制執行等との調整について(収用委員会、起業者)
(1) 裁決手続開始の決定後、強制執行等があったときは、その強制執行等は、裁決手続に影響はないが、裁判所又は税務署等から、収用委員会に通知があることになっているので、その通知を受けた場合においては、裁決若しくは裁決申請の取下げ等があった際又は補償金不払により裁決が失効した際直ちに、その旨を収用委員会から裁判所又は税務署等に通知すること。この場合において、収用又は使用の裁決があったときは、裁決書の写を交付すること。
(2) 収用委員会は、配当手続を実施すべき機関との連絡を密にして、相互の調整に努められたい。たとえば競落許可決定直前には、裁決を中止して待つことが望ましい。
(3) 起業者が、収用委員会の裁決した補償金等の額を不服として、法第一三三条の訴えを提起したときは、すみやかに、配当手続を実施すべき機関にその旨を通知するとともに裁判所の証明書を提出すべきである。裁判所の証明書の提出がなくて出訴期間後一週間を経過すると、配当が実施されてしまうので、十分留意されたい。
(4) 残地収用又は法第七八条及び法第七九条による物件収用の場合にあっては、原則として、裁決手続開始の登記がないから、差押えは起業者に対抗できる。したがって、収用委員会は、裁決前に登記簿を見て、万全を期すことが望ましい。
(5) 特定公共事業につき緊急裁決があった場合において、起業者が仮補償金に不服がある旨を配当機関に申し立て、配当機関から収用委員会にその旨の通知があったときは、収用委員会は、補償裁決をした後直ちに裁決書の写しを配当機関に交付し、裁決書を起業者に送達した日を配当機関に通知すること。
9 経過措置等について(収用委員会、起業者)
(1) 収用委員会は、新法を適用すべき事件と旧法を適用すべき事件を明確に区別し、誤りのないように注意されたい。(たとえば、後者にあっては、法定協議を要し、手数料は従前どおりであり、また裁決の分離も代理人の数の制限もできない。)
(2) 法定協議の廃止について
法定協議廃止の理由は、価格固定に伴い収用手続をできるだけ迅速化するためであるから、任意協議の重要性は、これにより何ら変わるものではない。
(3) 土地収用法の一部を改正する法律施行法第七条によれば、同一都道府県内における起業地が数市町村にわたる場合においては、たとえ手続開始が一市町村のみについて行なわれたときも、当該数市町村すべてについて同条の措置を行なうべきものであるから、念のため。