今般、土地収用法の一部を改正する法律(平成一三年法律第一〇三号。以下「改正法」という。)が平成一三年七月一一日に公布され、土地収用法施行令等の一部を改正する政令(平成一四年政令第一八四号)、土地収用法第八八条の二の細目等を定める政令(平成一四年政令第二四八号)及び土地収用法施行規則の一部を改正する省令(平成一四年国土交通省令第八五号)とともに、平成一四年七月一〇日から施行されることとなったので通知する。
第一 事業認定に関する手続の見直しについて
一 事前説明会について
(一) 法第一五条の一四の説明会その他の措置(以下単に「説明会」という。)において説明するべき事項は、同条に規定する「事業の目的及び内容」である。したがって、説明会を開催しようとする時点において、その事業の計画がその内容が説明し得る程度に固まっている必要はあるが、同条の規定に従って説明会をしたからといって事業認定の申請をする義務が生ずるものではないから、起業者において事業認定の申請をする明確な意思をもって行う必要はない。
このため、説明会の開催の公告等において「土地収用法に基づくこと」等を標榜することを要件とはしていない。
(二) 法第一五条の一四が規定するように、「事業の目的及び内容」を説明すべき相手方は、「事業の認定について利害関係を有する者」であるから、例えば、参加者を地元自治会、地権者等に限定して行った説明会は、同条の規定による説明会とはならない。
(三) 土地収用法施行規則(昭和二六年建設省令第三三号。以下「規則」という。)第一条の二第一項第二号に規定する「事業の施行を予定する土地」とは、起業地となることが予定されている区域のことをいう。
なお、これと異なる土地の区域によって事業認定の申請をすることは、事前説明会を実施していない事業についての事業認定の申請をすることとなり許されないこととなるから注意が必要である。このため、早期段階で説明会を実施しようとする場合などにおいては、必要に応じて複数案又は幅のある起業線に基づく土地の区域を「事業の施行を予定する土地」として、その複数案又は起業線の変更が見込まれる状況を含めて説明会において説明することとすれば、その範囲内である限り再度の説明会を実施する必要はない。
二 公聴会について
(一) 法第二三条第二項の規定による公聴会の開催の請求は、同項の主語が「国土交通大臣又は都道府県知事」であり、かつ、規則第四条の定めるところにより、事業認定庁あてに提出しなければならないこととされているが、意見書の提出先と混同して都道府県知事あて提出されるようなことも想定される。そのような提出先を誤って提出されたものがある場合には、直ちに適切な提出先に回付することとされたい。
また、意見書として都道府県知事に提出された者のうちに、規則第四条に規定する事項が適切に記載されているものがあるときは、提出先を誤って提出したものと同様に、法第二三条第一項の規定に基づく請求として取り扱われたい。
(二) 公聴会を開催する場合において、結果として、公聴会に出席して意見を述べようとする起業者及び意見を述べることを希望する者のいずれもがいない場合があり得るが、そのような場合でも現に公聴会を開催する必要がある。
その場合には、公聴会の開会宣言をして、直ちに、閉会宣言をして終わることとなる。これによって、規則第一一条の四第一項の規定による「打切り」ではなく、公聴会を開催したこととなる。もっとも、その閉会後に傍聴人が来場することが予想されるから、同条第二項に準じて公述を希望する者が一人もいないため公聴会を閉会した旨を、当該公聴会の会場又はその付近の適当な場所に掲示することが適当である。
第二 収用委員会の裁決に関連する手続の見直しについて
一 土地調書及び物件調書(以下「土地調書等」という。)の作成の合理化について
(一) 市町村長は、法第三六条の二第三項の規定により土地調書等作成の特例手続の申出書を受け取った場合においては、当該申出書の記載事項からの範囲で同項の要件を満たしているかという点のみを審査すれば足りる。同項が「申出書を受け取つた場合は」と規定し、「申出書を受理した場合は」としていないのは、市町村長において実体的な審査を行わず、同条第一項の申出書としての体裁をなしている限り、直ちに公告及び縦覧を行わなければならないという趣旨である。
(二) 市町村長が法第三六条の二第三項の規定により縦覧に供するべき書類とは、同項の「その書類」であるが、これは特例手続の申出書のことである。土地調書等の写しは、特例手続の申出書の添付書類であるから、その土地調書等の写しのみでは足りず、起業者から提出のあった書類全体を縦覧に供しなければならない。
(三) 起業者は、法第三六条の二第五項の規定により土地調書等に氏名及び住所が記載された者に対し通知をする場合における当該通知については、施行令第六条第一項本文の適用があるから、必ず書面により行わなければならない。なお、同条第二項の対象ではないから、書留郵便により行う必要はない。
(四) 起業者が、法第三六条の二第一項に規定する特例手続により土地調書等を作成した場合においては、別記様式第八又は同様式第九中立会人欄の記載がないこととなるが、これが記載の不備と混同されることを避けるために、起業者の署名押印の次に「土地収用法第三六条の二の規定により土地調書を作成する」等の表示することが適当である。
(五) 土地調書等の様式の改正は、引用条項の表示を改めるという形式的な改正であるため経過措置を規定していないが、改正法の施行前に適法に作成された土地調書等については、施行後にあっても当然に適法な土地調書等である。
二 収用委員会の審理手続における主張等の整理について
(一) 法第四三条第三項及び第六三条第三項は、収用委員会の審理の現状にかんがみ、解釈上の疑義はないが、審理指揮の発動を容易にするため、明文をもって確認的に規定するものである。各収用委員会におかれては、このような規定を置くこととした国会の意思を十分に踏まえて、審理指揮等に当たられたい。
三 代表当事者制度の創設について
(一) 代表当事者は、法第六五条の二第一項に規定するように「収用委員会の審理において当事者となるべき者」であるから、収用委員会の審理が終結した後においてまで選定者を代表するものではない。
したがって、裁決に当たっては、土地所有者及び関係人のすべてを名宛人として裁決書に記載し、その送達もそれぞれの土地所有者及び関係人に対して行わなければならない。
四 補償金等の払渡しの合理化について
(一) 法第一〇〇条の二第一項に規定する「政令で定める一定の期間」は、施行令第一条の二一により一三日と定められたところであるが、具体の期間の算定に当たっては、権利取得の時期と発送の日の間に、中一三日を置くものとして計算する。
なお、当然のことながら、明渡裁決の場合も同様である。
(二) 法第一〇〇条の二の規定に基づく書留郵便が受取人の受領拒否により還付されても、通常の払渡しの場合とは異なり法第一〇〇条の規定によって裁決が失効することはない。したがって、起業者は補償金等を受けるべき者の請求を待って払渡しを行えばよく、法第九五条第二項(法第九七条第二項において準用する場合を含む。)の規定による供託をする義務はない。もっとも、権利取得の時期又は明渡しの期限以前であれば、これらの規定に基づき供託をすることを妨げない。
一方、権利取得の時期又は明渡しの期限の後にあっては、法第九五条第二項(法第九七条第二項において準用する場合を含む。)の規定による供託はできないこととなるが、民法第四九四条の規定に基づき供託をすることができる(法務省民事局と協議済)。
(三) 法第一〇〇条の二の規定により発送した書留郵便が、受取人の不在を理由に還付された場合には、現実には、受取人が一時的に不在である場合に限らず、転居等により不在となっている場合もあり得る。
前者であれば、法第一〇〇条の二の規定が働く結果、裁決が失効することはないから、問題がない(この場合の供託の取扱いは、(二)と同様)。
ところが、後者の場合には、「受けるべき者の住所にあてて」発送したことにはならず、払渡しを完遂しないまま権利取得の時期又は明渡しの期限を徒過すると裁決が失効することとなる。
したがって、起業者は、受取人の不在を理由に還付された場合には、直ちに補償金等を受けるべき者の住所を調査するべきである。そして、後者である場合(厳密には、発送の時において、書留郵便の宛先たる住所にいないとき)は、権利取得の時期又は明渡しの期限に間に合うよう法第九五条又は第九七条の規定によって払渡し又は供託をしなければならない。
このようなことがあるから、起業者は、法第一〇〇条の二の規定により払渡しを行うときは、法定の発送期限より十分な余裕をもって書留郵便を発送するのが賢明である。
五 収用委員会等の行う送達方法及び通知方法の合理化
(一) 書類の送達の方法について定めた施行令第四条の規定を適用する場合の留意事項は、次のとおりである。なお、施行令第六条についても同様である。
ア 施行令第四条第一項第一号又は第二号のいずれによってもよい。
イ 施行令第四条第一項第二号による場合の「書留郵便」は、通常の書留郵便を用いることとし、特別送達を用いないものとする。「簡易書留」も「書留郵便」であるからこれを用いても差し支えないが、郵便法(昭和二二年法律第二六五号)第五八条第四項第二号の規定により配達証明の取扱いをすることはできないこととされている。
ウ 施行令第四条第二項において準用する民事訴訟法(平成八年法律第一〇九号)第一〇五条又は第一〇六条の規定によることができるのは、施行令第四条第一項第一号の規定により職員が交付してする場合に限られる。郵便法第六六条の特別送達を用いることはできない。
エ 施行令第四条第二項において準用する民事訴訟法第一〇七条の規定による場合(以下「付郵便送達」という。)の留意事項は、次のとおりである。
(ア) 付郵便送達によることができるのは、ウによる送達が不奏効であった場合に限られる。したがって、イによった場合に、それが不奏効であったときには、更に一度以上、ウによる送達を試み、それが不奏効であったときに初めて行うことができる。
(イ) 施行令第四条第二項において準用する民事訴訟法第一〇七条の「書留郵便」についても、イと同様である。
(ウ) 書留郵便は、真正な住所にあてて発送しなければならない。その発送の時以前に転居している等の場合には、施行令第四条第二項において準用する民事訴訟法第一〇七条の効果は発生しないこととなる。このため、ウの際に、真正な住所を確認しておく必要がある。
(エ) 例えば、収用委員会の審理の期日を通知する等の場合にあっては、郵便物の留置期間(通常七日)中に当該期日が到来するような時期に発送しても施行令第四条第二項において準用する民事訴訟法第一〇七条の効果は発生しないと解されるおそれがあるので、特に注意しなければならない。
オ 施行令第四条第三項の規定による通知には、施行令第六条第一項本文の適用があるから、文書によりしなければならない。なお、この通知は、郵便受箱等受送達者の支配領域下に達しなければその目的が果たせないので、書留郵便を用いてすることは適当でない(この通知は、送達の効力発生要件ではないから、配達証明を取る必要はない。)。裁判所の実務においては、はがきをもって普通郵便により行うことが多い。
第三 仲裁制度の創設について
(一) 仲裁はあっせんと異なり、仲裁に付するか否かという点において都道府県知事の裁量がない。もっとも、これは、仲裁の申請が適法なものであることが所与の前提であるから、不適法な申請があったときは、補正が可能なもの(例えば、申請書の記載事項に不備があるもの、正しい手数料の納付がないもの)については補正を命じ、その補正に応じないとき及び補正になじまないもの(例えば、対償以外の紛争があるもの、事業認定告示以後に申請があったもの)であるときは、当然に、その申請を拒否しなければならないこととなる。この拒否については法及び施行令には特段の規定がないが、申請者に書面で通知することとするのが適当である。
(二) 収用委員であることは仲裁委員の任命の要件に止まらず、その在職の要件でもあるから、仲裁委員が収用委員の身分を喪失したときは、仲裁委員としても失職することとなる。
(三) 仲裁委員が、忌避、回避、辞職、失職等により欠けた場合には、都道府県知事は、後任の委員の推薦を収用委員会に求め、収用委員会の推薦する収用委員をその後任として任命しなければならない。この場合において、後任の委員を任命したときは、施行令第一条の七の三の規定による仲裁委員の氏名の通知をしなければならない。当初の任命及び後任の任命のいずれも、法第一五条の八の規定による仲裁委員の任命だからである。
第四 補償基準の細目について
一 細目政令の趣旨
(一) 土地収用法第八八条の二の細目等を定める政令(以下「細目政令」という。)は、従前、「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」(昭和三七年六月二九日閣議決定。以下「要綱」という。)が、起業者の用地取得の際の基準であるとともに、収用委員会の損失の補償に関する裁決の基準ともなっていたが、改正法第八八条の二の規定により、収用委員会の損失の補償に関する裁決の基準(補償基準に関する細目)については政令で定めることとされたため、定められたものである。
したがって、細目政令は、政令の形式で条文化したことに伴い一部要綱と規定振りの異なる部分もあるが、細目政令に定められた基準の内容自体は、要綱に定められた基準の内容と基本的に同一である。
二 細目政令第一条について
(一) 細目政令第一条は、収用する土地の相当な価格の算定について定めたものである。また、都市計画区域内の土地についての相当な価格の算定に当たっては、地価公示法(昭和四四年法律第四九号)第一〇条の規定により、公示価格を規準として算定した当該土地の価格を考慮しなければならないこととされており、これは、細目政令第一条に規定する算定方法の当然の前提である。なお、この場合における公示価格を「規準」とするとは、収用する土地及び地価公示標準地の位置、地積、環境等の諸要因についての比較を行い、その結果に基づき、当該標準値の公示価格と当該収用対象の土地の価格との間に均衡を保たせることをいう。
(二) 細目政令第一条第三項第一号においては、収用する土地の相当な価格を算定する場合に、当該土地に工作物があるときは当該工作物がないものとして算定する旨を規定している。一方、工作物以外の物件があるときについては個別の事案ごとに判断して算定方法を決するべきであり、工作物以外の物件があるときはすべての場合において当該物件があるものとして算定するという反対解釈をする趣旨ではない。なお、本条項は、土地の収用に伴い工作物を移転する場合並びに土地及び工作物を同時に収用する場合の双方について適用がある。
三 細目政令第一一条第一項について
(一) 細目政令第一一条第一項においては、使用する土地の相当な価格の算定について、近傍類地の使用に関する契約の事例をもとに算定する旨定めているが、この規定は、使用する土地そのものの使用に関する契約の事例が収集できるときは、これも踏まえて算定することを否定する趣旨ではない。
四 細目政令第一七条第二項について
(一) 細目政令第一七条第二項の「物件の改善に要する費用」には、土地等の収用又は使用がなかった場合に法令の規定に基づき改善が必要となる時期以前に、当該土地等の収用又は使用に伴い当該物件の改善を行うことが必要となることにより通常生ずる損失(法令に基づく施設改善費用に係る運用益損失額)は、含まれない。なお、この損失について補償することが相当である揚合には、法第八八条の規定に基づき補償することとなる。
五 細目政令第一九条第一項について
(一) 細目政令第一九条第一項の基準は、伐期末到達の用材用の立木の集団の伐採補償について規定したものである。一方、要綱第三〇条第一項の規定は補償の対象について明文上そのような限定はしていないが、補償基準の内容からして用材用の立木の集団の伐採補償について規定したものであることは明らかであるため、政令上その旨を明記したものである。
また、細目政令第一九条第一項第一号においては、「伐期までに要すると見込まれる経費の前価の額」を控除することを明記しているが、これは、要綱第三〇条第一項第一号の運用上「伐期における当該立木の価格の前価額と現在から伐期までの収益の前価合計額との合計額」を算出する過程で「伐期までに要すると見込まれる経費の前価の額」を控除していたものを政令上明記したものであって、補償額の算定について同号の内容と何ら差はない。
なお、細目政令第一九条第一項の規定は、用材用の立木以外の立木(薪炭林、収穫樹、竹林、庭木等)について伐採補償をしないという反対解釈をする趣旨ではなく、これらの立木について補償することが相当である場合には、法第八八条の規定に基づき補償することとなる。
六 細目政令第二四条について
(一) 要綱については細目政令の制定と併せてその一部が改正されたが、改正前の要綱第二八条においては、「仮住居の使用に要する費用」が補償の内容とされており、仮設建物の建設費等新たに仮住居を確保するのに要する費用が補償の内容となるか否かが必ずしも明らかではなかった。そこで、細目政令第二四条においては、補償の内容を「仮住居を新たに確保し、かつ、使用するのに通常要する費用」とし、仮設建物の建設費等も補償の内容となり得ることを明記したものである。なお、要綱第二八条についても同旨の改正をしており、両者の基準の内容は同一となっている。
七 細目政令に規定する損失以外の損失に対する補償について
(一) 細目政令は、要綱の考え方に沿い、土地等の収用又は使用に伴い通常土地所有者等が受ける損失のうち典型的な損失についてその補償基準の細目を定めたものであり、土地等の収用又は使用に伴い通常土地所有者等が受ける損失の補償について網羅的に定めたものではない。したがって、細目政令に規定する損失以外の損失に対しても、当該損失が通常土地所有者等が受ける損失であると認められるときは、法第八八条の規定に基づき補償することとなる。
なお、細目政令に規定する損失以外の損失であって、法第八八条の規定に基づき補償することが想定されるものの例を掲げると、以下のようなものがある。
ア 再築工法により新たな建物を建築することに伴う運用益損失額
土地等の収用又は使用に係る土地にある建物を除却し、当該土地以外の土地において、当該建物と同種同等の建物等(以下「同種同等建物等」という。)を建築することが相当であると認められる場合において、除却される建物の耐用年数が満了する時期以前に、当該土地等の収用又は使用に伴い、同種同等建物等を建築することが必要となることにより通常生ずる損失(同種同等建物等の推定再建築費から除却される建物の現在価額を控除した額についての運用益に相当する額)。なお、この場合においては、除却される建物の所有者に対し、通常、除却される建物の現在価額、再築工法により新たな建物を建築することに伴う運用益損失額及び建物の除却に要する費用の合計額から除却される建物の発生材の価額を控除した額が補償されることとなる。
イ 移転雑費
土地等の収用若しくは使用に係る土地にある建物その他の物件を移転し、又は収用し、若しくは使用する土地等の従来の利用目的に供するため代替地等を確保することが相当であると認められる場合において通常必要となる移転先又は代替地等の選定に要する費用、法令上の手続に要する費用、転居通知費、移転旅費その他の雑費。
ウ 祭し料
土地等の収用又は使用に伴い、神社、仏閣、教会等の宗教上の施設を移転し、又は墳墓について改葬を行うことにより通常必要となる当該移転又は改葬に伴う供養、祭礼等の宗教上の儀式に要する費用。
第五 生活再建のための措置について
(一) 法第一三九条の二第二項の規定により起業者が努めるべき「申出に係る措置」とは、同条第一項各号に掲げる「措置の実施のあつせん」であり、同項各号の措置そのものではない。すなわち、同項第三号の「職業の紹介」を例にすれば、起業者は、職業紹介をしなければならないのではなく、職業紹介の実施のあっせんをしなければならないということである。