計用発第九号の二
昭和五九年三月三一日

建設省関係公団の長・各指定都市の長あて

建設事務次官通知


公共事業に係る工事の施行に起因する水枯渇等により生ずる損害等に係る事務処理要領の制定について


標記について、別紙のとおり北海道開発局長、沖縄総合事務局長及び各地方建設局長に通知したので、参考までに送付する。



別紙

公共事業に係る工事の施行に起因する水枯渇等により生ずる損害等に係る事務処理要領

(趣旨)

第一条 建設省の直轄の公共事業に係る工事の施行により生じた起業地外の生活用水、農業用水等の不可避的な枯渇又は減水(以下「水枯渇等」という。)により、生活用水、農業用水等を使用している者(以下「用水使用者」という。)に社会生活上受忍すべき範囲(以下「受忍の範囲」という。)を超える損害等が生ずると認められる場合の費用の負担等に関する事務処理については、この要領に定めるところによるものとする。

(事前の調査)

第二条 公共事業に係る施設の規模、構造及び工法並びに工事箇所の状況等から判断して、工事の施行により水枯渇等が生ずるおそれがあると認められるときは、水枯渇等に対する措置を迅速かつ的確に行うため、工事の着手に先だち、起業地及びその周辺地域において、次の各号に掲げる事項のうち必要と認められるものについて調査を行うものとする。

一 水位、流量、水質、水脈、地形、地質の状況
二 地下水、伏流水、表流水等の取水状況
三 生活用水、農業用水等の使用状況及び使用量
四 井戸、ため池等の分布状況
五 過去の水枯渇等の発生状況及びその原因
六 地下水等の水源に影響を及ぼすおそれのある他の工事の有無及びその内容等
七 水道又は簡易水道(以下「水道等」という。)の敷設の状況及びその給水の能力
八 その他必要な事項
(水枯渇等の原因等の調査)

第三条 起業地の周辺地域の用水使用者から水枯渇等の発生の申出があったときは、水枯渇等と工事との因果関係、その回復の可能性等について、速やかに、調査を行うものとする。
2 前項の調査は、次の各号に掲げる事項のうち水枯渇等の発生の状況を勘案して必要と認められるものについて行うものとする。

一 工事着手時の水位又は流量と水枯渇等の発生時の水位又は流量との比較
二 工事着手前、工事中又は工事完了後における水位又は流量の変化
三 工事の工程と水枯渇等の発生の時間的関連性
四 工事による湧水の発生時期及びその量
五 工事箇所と水枯渇等の発生地点との平面的及び立体的な位置関係
六 水枯渇等の発生地域における過去の月別平年降水量と水枯渇等の発生時の降水量との比較
七 水枯渇等の原因と見込まれる他の工事の影響の有無及びその程度
八 その他必要な事項
(応急措置)

第四条 水枯渇等が発生したことにより、生活用水等の確保に支障があり、用水使用者に第五条第二項に規定する受忍の範囲を超える損害等が生ずると見込まれる場合において、第二条又は前条の調査の結果等から水枯渇等の発生が当該工事による影響と認められ、かつ、緊急に措置を講ずる必要があると認められるときは、合理的かつ妥当な範囲で、給水用の車両を配備し、又は仮設の水道等を敷設する等の措置(以下「応急措置」という。)を講ずるものとする。

(費用負担の要件)

第五条 第三条の調査の結果等から公共事業に係る工事の施行により生じたと認められる水枯渇等により、用水使用者に受忍の範囲を超える損害等が生ずると認められる場合においては、当該損害等をてん補するために必要な最小限度の費用を負担することができるものとする。
2 前項に規定する「受忍の範囲を超える損害等」とは、既存の施設による必要な水量の確保が不可能となり生活又は生業に支障をきたすことをいうものとする。この場合において、「必要な水量」とは、既存の施設による使用実績水量をいうものとし、当該水量が把握し難い場合は、次の各号に掲げるいずれかの水量から推定することができるものとする。

一 既存の揚水設備による取水可能水量
二 近隣における同一用途の用水使用量
三 水道等の使用実態調査等における同一用途の用水使用量
(機能回復の方法による費用の負担)

第六条 前条第一項の規定により負担する費用は、原則として、既存の施設の機能を回復すること(以下「機能回復」という。)に要する費用とするものとする。この場合においては機能回復は、用水の使用目的、使用水量、取水方法等、新たな水源を必要とする場合の水源確保の見通し及び当該地域の社会的環境等の諸要素を総合的に判断して、技術的及び経済的に合理的かつ妥当な範囲で行うものとする。
2 前項の規定により負担する費用は、次の各号に掲げる方法のうち技術的及び経済的に合理的と認められるものによる機能回復に要する費用とし、付録の式によって算定するものとする。

一 既存の施設を改造する方法
二 代替施設を新設する方法
(機能回復以外の方法による費用の負担)

第七条 前条に規定する機能回復の方法によることが著しく困難又は合理的ではないと認められる場合において負担する費用は、生活用水、農業用水等を使用できないことにより通常生ずる損害等の額とするものとする。
2 前項の規定により負担する費用は、次の各号に掲げる用水の使用目的に応じてそれぞれ算定するものとする。

一 農業用水の場合

従前の農業用水を使用する農作物から農業用水を使用する必要のない他の農作物に作付転換した場合に通常生ずる損害等の額とし、付録の式によって算定するものとする。

二 農業用水以外の用水の場合

用水を使用している施設の移転に要する費用、移転雑費及び営業上生ずる損害等の額とし、合理的と認められる移転先、移転方法等を勘案して適正に算定するものとする。

(応急措置に要する費用の負担)

第八条 第四条に規定する場合において、用水使用者が応急措置を講じたときは、当該措置に要する費用を負担するものとし、その費用は、付録の式によって算定するものとする。

(その他の損害等に対する費用の負担)

第九条 前三条の規定による費用の負担のほか、農作物、養殖物等に対する損害等又は休耕等を余儀なくされたことに対する損害等については、その損害等の程度に応じて適正に算定した額を負担することができるものとする。
2 前項の場合において、第七条第二項第一号に規定する費用の負担を行うときは、休耕に伴う費用の負担は行わないものとする。

(事前の措置に要する費用の負担)

第一〇条 第二条の調査の結果等から判断して、水枯渇等が公共事業に係る工事の施行により生ずると認められる場合において、用水使用者に受忍の範囲を超える損害等が生ずると認められるときは、当該損害等の発生前に合理的かつ妥当な範囲で必要な措置を行うために要する費用を負担することができるものとする。
2 前項の費用の負担については、第六条及び第七条の規定を準用する。

(費用負担の請求期限)

第一一条 費用の負担は、用水使用者から当該公共事業に係る工事の完了の日から一年を経過する日までに請求があった場合に限り、行うことができるものとする。

(費用負担の方法)

第一二条 費用の負担は、原則として、用水使用者別に金銭をもって行うものとする。この場合において、代替施設、応急措置に係る施設又は事前の措置に係る施設を共同で新設し、かつ、使用する場合又は地方公共団体等が用水使用者に代わって新設し、かつ、管理する場合には、代替施設、応急措置に係る施設又は事前の措置に係る施設の新設及び使用に関し用水使用者全員の同意を得て設立された組合の代表者又は当該地方公共団体等に対し行うことができるものとする。
2 用水使用者から金銭に代えて既存の施設の改造、代替施設の新設又は事前の措置に係る施設の設置を要求された場合において、その要求が技術的及び経済的に合理的と認められるとき又はやむを得ないと認められるときは、これらの措置を行い、引き渡すことができるものとする。
3 前二項の負担は、渡し切りとするものとする。

(複合原因の場合の協議)

第一三条 水枯渇等が他の工事の施行に係るものと複合して起因していることが明らかな場合は、当該工事の施行者と損害等に係る費用の負担の割合等について協議するものとする。

(経過措置)

第一四条 費用の負担について、既に協議を行っているものについては、この要領によらないことができるものとする。



付録
1 既存の施設を改造する場合

費用負担額=施設の改造費+維持管理費の増加分+諸経費−発生材価格

(一) 施設の改造費は、井戸の掘下げ等既存の施設の改造に要する工事費(揚水機の設置を必要とする場合の揚水機に係る費用を含む。)とする。
(二) 維持管理費の増加分は、次により算定した額とする。

維持管理費=A×(((1+γ)n−1)/γ(1+γ)n)

ア Aは、改造した施設に係る年均等化経常費(電気料、動力用燃料費、借地料、滅菌費、組合運営費、定期点検費、故障修理費、塗装費等)から既存の施設に係る年均等化経常費を控除した額とする。
イ γは、年利率とし、六パーセントとする。
ウ nは、改造した施設の維持管理費の費用負担の対象となる年数とし、おおむね一五を限度とする。ただし、用水使用者が借家人である場合又は市街化区域若しくは宅地見込地地域にあって農業用水の機能回復を図る場合は、おおむね一〇を限度とする。

(三) 諸経費は、施設の改造に伴い必要となるその他の経費とする。
(四) 発生材価格は、既存の施設を改造することにより不用となる既存の揚水機等の処分価格から処分に要する費用を控除した額とする。

2 代替施設を新設する場合

費用負担額=施設の新設費+維持管理費の増加分+諸経費−発生材価格

(一) 施設の新設費は、水道等の敷設に要する工事費(施設加入金を含む。)並びに井戸(揚水機の設置を必要とする場合の揚水機及び配管を含む。)及び簡易水道等の新設に要する工事費とする。
(二) 維持管理費の増加分は、次式により算定した額とする。

維持管理費=A×(((1+γ)n−1)/γ(1+γ)n)

ア Aは、新設した施設に係る年均等化経常費(水道料、電気料、動力用燃料費、借地料、滅菌費、組合運営費、定期点検費、故障修理費、塗装費等)から既存の施設に係る年均等化経常費を控除した額とする。
イ γは、年利率とし、六パーセントとする。
ウ nは、新設した施設の維持管理費の費用負担の対象となる年数とし、おおむね一五を限度とする。ただし、用水使用者が借家人である場合又は市街化区域若しくは宅地見込地地域にあって農業用水の機能回復を図る場合は、おおむね一〇を限度とする。

(三) 諸経費は、施設の新設に伴い必要となるその他の経費とする。
(四) 発生材価格は、代替施設を新設することにより不用となる既存の揚水機等の処分価格から処分に要する費用を控除した額とする。

3 農業用水の場合で機能回復以外の方法による場合

負担額=(作付転換前の平均純収益−作付転換後の平均純収益)×(((1+γ)n−1)/γ(1−γn))+作付転換に伴い通常要する費用等の額

(一) 作付転換前及び作付転換後の平均純収益は、次式により算定した額とする

平均純収益=農業粗収入−農業経営費

ア 作付転換前の農業粗収入は、当該土地で作付けされている農作物の過去三年間の平均収穫量に、費用負担時の農作物価格を乗じて算定する。
イ 作付転換後の農業粗収入は、当該地域で作付けされている一般的な農作物の過去三年間の平均収穫量を基準として、当該作物を当該土地に作付けしたときに見込まれる収穫量に、費用負担時の農作物価格を乗じて算定する。
ウ 農業経営費は、種苗費、肥料費、諸材料費、水利費、防除費、建物費、農機具費、畜力費、雇用労働費、自家労働費、賃料料金、地代、資本利子、公租公課その他の経費とする。
エ γは、年利率とし、六パーセントとする。
オ nは、作付転換に伴う収益減の費用負担の対象となる年数とし、おおむね三〇を限度とする。ただし、市街化区域又は宅地見込地地域にあっては、おおむね一〇を限度とする。

(二) 作付転換に伴い通常要する費用等の額は、作付転換後の農業経営費のうち、作付転換の初年度において平年の農業経営費と比較して増加が見込まれる労働費等の額及び不用となる農機具等の売却損とする。

4 応急措置による場合

費用負担額=水道等の敷設等に要する工事費等+維持管理費の増加分+諸経費−発生材価格

(一) 水道等の敷設等に要する工事費等は、仮設の水道等の敷設に要する工事費(施設加入金を含む。)、仮設の水路等の建設に要する工事費及び給水用の車両の配備等に要する費用とする。
(二) 維持管理費の増加分は、次式により算定した額とする。

維持管理費=A×n

ア Aは、水道等の敷設等に係る施設に係る年均等化経常費(水道料、電気料、動力用燃料費、借地料、滅菌費等)から既存の施設に係る年均等化経常費を控除した額とする。
イ nは、応急措置を講じたときから水道等の敷設等に係る施設が不用となるときまでの月数を一二で除したものとする。

(三) 諸経費は、水道等の敷設等に伴い必要となるその他の経費とする。
(四) 発生材価格は、水枯渇等が回復した場合又は既存の施設の機能回復を行った場合において不用となる水道等の敷設等に係る施設又は既存の揚水機等の処分価格から処分に要する費用を控除した額とする。


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