建設省経民発第四五号・建設省住街発第一五三号
平成元年一二月一九日

建設省建設経済局長建設省住宅局長から各都道府県知事・各政令指定都市の長あて

通達


開発指導行政の円滑な執行のための周辺住民等との調整に関する事務処理マニュアルについて


開発事業の実施又は中高層建築物の建築に際しての、都市計画法の開発許可手続又は建築基準法の建築確認手続においては、周辺住民等の同意書の提出まで求めることは行き過ぎであり、必要がある場合には、事業者等に対して適切な住民対応を求めるよう指導してきたところである。今般、事業者等の住民対応に当たって参考とするべき事項について別添のとおり「開発指導行政の円滑な執行のための周辺住民等との調整に関する事務処理マニュアル」を作成したので、今後、必要に応じて、本マニュアルを活用し、開発指導行政の円滑な執行を図られたい。
また、貴管下の市町村にも周知徹底方取り計らわれたい。

開発指導行政の円滑な執行のための周辺住民等との調整に関する事務処理マニュアル

I 目的

本マニュアルは、開発事業の実施又は中高層建築物の建築に際しての事業者又は建築主との周辺住民等との調整について、地方公共団体が、都市計画法(以下「法」という。)の開発許可手続又は建築基準法の建築確認手続を円滑に進めるため、開発事業計画又は建築計画の内容の周知等に関する指導を行うに当たって参考とするべき事項を示すことを目的とする。

II 周辺住民等との調整に関する基本的姿勢

1) 開発事業の実施又は中高層建築物の建築に際しての事業者又は建築主と周辺住民等との調整については、必要に応じ、計画内容等の周知、問題の生ずるおそれのある場合における話し合い等を求めることが適切であり、周辺住民等の同意書の提出まで求めることは行き過ぎであることをかねてより指導してきたところであるが、本マニュアルは、開発指導行政の円滑な執行のため、周辺住民等の同意を求めることによらず、事業者等と周辺住民等との調整を指導する必要が生じた場合において参考とするべき事項を定めたものであることを理解の上、各々の地方公共団体において適切な指導を行うこと。
2) 開発許可の権限を有する都道府県知事、指定都市の長及び法第八六条第一項の規定に基づき都道府県知事の委任を受けた市の長(以下「開発許可権者」と総称する。)においては、本マニュアルの趣旨を踏まえて、開発許可手続に係る事務処理を行うとともに、公共施設管理者としての市町村が本マニュアルに沿って、円滑に法第三二条に規定する公共施設管理者としての同意又は協議等の手続を進めるよう指導すること。

また、開発事業計画について周辺住民の同意が得られていないことを理由として、市町村が同条に基づく協議等の手続を遅延させている場合には、開発許可権者は、同条に基づく協議等を含む開発許可手続全体を管理する立場から、当該市町村に対して、協議等の促進のための具体的指導を行うこと等により、開発許可手続の円滑な進行に努めること。

3) 建築主事は、建築確認の申請書が適法に提出された場合においては、これを受理しなければならないものであり、建築基準法所管部局において、建築確認の申請書の受理の機会あるいは、建築確認に係る審査の機会をとらえて周辺住民との調整について建築主の指導を行うに当たっては、本マニュアルの趣旨を踏まえて、行き過ぎにわたらないよう十分留意し、建築行為が円滑に進むよう努めること。
4) 中高層建築物の建築を目的とする開発事業にあっては、開発事業に関する住民との調整と中高層建築物の建築に関する住民との調整との不必要な重複を避け、両者の対応について担当部局が連携を密にして一体的に行うことにより、手続を円滑に進めること。

なお、日照、電波障害等の中高層建築物の建築に係る調整について、建築計画の内容が開発許可手続の段階で十分固まっていないために一体的な対応をとることができない場合は、その旨を住民に告知のうえ開発許可手続を進行させ、中高層建築物の建築の段階における対応に委ねること。

III 開発事業の実施に関する周辺住民等との具体的調整方策

一 一般的留意事項

1) 開発事業者と周辺住民等との調整については、昭和六一年五月一三日付け建設省経民発第二〇号、昭和六二年一〇月三一日付け建設省経民発第四三号によって、必要がある場合においては、開発許可手続とは別に十分協議・調整を行うよう指導し、同意書の添付までは義務づけないようにすることとしたところであるが、本マニュアルの具体的調整方策は、開発事業者と周辺住民等との間で協議、調整を行うよう地方公共団体が開発事業者を指導する際の事務処理の例という性格を有するものである。

したがって、本マニュアルに沿って協議、調整が行われたにもかかわらず、一部の住民が合理的理由もなく開発事業の実施そのものについて反対しているような場合においては、開発許可手続を適切に進行させるべきものであることに留意した上で、本マニュアルの具体的調整方策を、状況に応じて適切に運用する必要がある。

2) 開発事業の計画の段階では、周辺住民に対する影響が客観的に予測できないことも多いため、周辺住民への対応を必要とする理由が合理的に整理されないままで地方公共団体が開発事業者に対して周辺住民との調整を求めている場合がある。

対応を求める範囲についても、一律に建物の高さを基準として要求するというように日照に係る対応の基準が援用される等客観的に影響のある範囲に限定されているとはいえない例も多い。
また、対応の相手となる当事者についても、開発事業者が、周辺の住民自治会やマンションの管理組合等との対応を行っているにもかかわらず、重ねてそれらの構成員全員と個々に対応を求めるような極端な例もみられる。
このため、周辺住民との対応を要求する理由、対応すべき範囲、相手となる当事者の各々について合理的に整理し、客観的に必要とされる措置を講ずることを指導することや、影響のある範囲を明確にさせることにより、周辺住民との調整を求める理由が解消されることもあり、その場合にはその旨を周辺住民に明示して、開発事業者に対し不必要な調整を求めることのないようにする必要がある。

3) 対応の方法は、対応を求める理由に応じて、開発事業計画の内容の周知、住民説明会等実施、施工時の公衆災害防止措置の実施等があげられ、これらを行うべき時期についても、法第三二条に規定する公共施設管理者としての同意又は協議を整える前までの段階、その後開発許可がなされる前までの段階、開発許可後工事に着手する前までの段階等に区分できる。

この点を踏まえ、対応を求める理由に応じて、適切な時期に必要とする範囲で適切な方法により指導することとし、いたずらに開発許可手続を遅延させることのないようにする必要がある。

二 周辺住民との調整事項

(1) 工事に伴う影響

工事に伴う影響については、「騒音規制法(昭和四三年法第九八号)」では、工事に伴う騒音についての規制等、「振動規制法(昭和五一年法第六四号)」では、工事に伴う振動についての規制等、「建築基準法(昭和二五年法第二〇一号)」では、工事現場の危害の防止等、「道路交通法(昭和三五年法第一〇五号)では、道路における工事等の許可等について規定されているところである。
また、市街地における土木工事の適正な施行を確保し、公衆災害を防止するための技術基準としての「市街地土木工事公衆災害防止対策要綱(昭和三九年一〇月一日付け建設事務次官通達)」により指導がなされているところである。

工事に伴う影響については、住民自治会等を通じた説明要求があれば、工事日時帯、工事車両通行の日時帯、工事車両通行の頻度、通行工事車両の規模及び進入路、作業重機の搬入出法等を明らかにするとともに、通学路の安全確保のため必要な場合の交通整理員の配置等の措置に関する説明を行い、施行計画に対する理解を得るよう開発事業者を指導すること。
住民説明会等を通じた説明等がなされた後においては、地方公共団体は、開発事業者からの調整経過の報告書等を基に適切な判断を行い開発許可手続を進めること。
なお、この場合においては、開発許可権者は、必要に応じ、必要な措置の内容を開発許可の際に条件として付すること。

(2) 日照

中高層建築物を予定建築物とする開発事業においては、日照に関する事項が周辺住民にとって最も関心の高い事項のひとつであることも多いことから、周辺住民との紛争を未然に防止するために、住民との調整手続の早い段階において必要な調整を行わざるを得ない場合もある。

日照に関する対応を行うことが必要な場合については、極力、開発事業に関する住民との調整と中高層建築物の建築に関する住民との調整とを一体的に進めることにより対応すること。
なお、開発許可手続の段階で、日照への影響が具体的に判断できる程度まで建築計画の詳細が定まっていない場合は、中高層建築物の建築の段階における住民との調整の過程で対応する旨を住民に告知し、開発許可手続を進めること。
可能な場合は必要に応じ、開発事業計画の内容の周知、住民説明会等により影響範囲について明確にし、明らかに影響のない住民の懸念を取り除くこと等により、影響を受ける住民に対しては、開発事業計画に対する理解を求めるよう開発事業者を指導すること。
住民説明会等を通じた説明等がなされた後においては、地方公共団体は、開発事業者からの調整経過の報告書等を基に適切な判断を行い開発許可手続を進めること。

(3) 開発後の周辺地域の交通安全の確保

開発後の周辺地域の交通量を勘案して信号機や横断歩道の設置により交通安全の確保が図られることになるが、具体的状況によっては、開発後の交通量の増加に比し接続道路の幅員等が不十分である場合等周辺住民が懸念を抱く場合もある。

開発後の周辺地域の交通安全については、住民自治会等を通じた説明要求があれば、開発区域から幹線道路への接続等に関する説明を行うことにより開発事業計画に対する理解を求めるよう開発事業者を指導すること。
住民説明会等を通じた説明等がなされた後においては、地方公共団体は、開発事業者からの調整経過の報告書等を基に適切な判断を行い開発許可手続を進めること。

(4) 駐車場の確保

違法駐車については、「自動車の保管場所の確保等に関する法律(昭和三七年法第一四五号)」では保管場所の確保等、「道路交通法(昭和三五年法第一〇五号)」では駐車を禁止する場所等について規定されており、開発後の違法駐車についても、これらにより規制されることになるが、開発により設置される駐車場の規模等が違法駐車の発生に影響を及ぼすこともある。

駐車場の確保については、住民自治会等を通じた説明要求があれば、開発事業により設置される駐車場の位置、規模等に関する説明を行い、開発事業計画に対する理解を得るよう開発事業者を指導すること。
住民説明会等を通じた説明等がなされた後においては、地方公共団体は、開発事業者からの調整経過の報告書等を基に適切な判断を行い開発許可手続を進めること。
なお、この場合においては、必要に応じ、開発事業者の側において駐車場の位置、規模等の設計上の配慮をするよう指導すること。
三 開発区域内の開発行為の妨げとなる権利(法第三三条第一四号)に関する事項

開発区域内の開発行為の妨げとなる権利を有する者については、法第三三条第一四号の規定により「相当数の同意」の取得を求めており、昭和四五年四月八日付け建設省計宅開発第九一号では、権利者数及び地積の三分の二以上を一応の目安としている。しかし、実際に開発行為が行えるかどうかは、開発予定区域内の地権者との関係で定まることから、紛争の未然防止の必要から全員の同意の取得を要求している例もある。

開発許可権者においては、ごく一部の地権者の民事上の権利関係について紛争がある場合等特別な事情がある場合を除き、開発許可までには開発区域内の開発行為の妨げとなる権利を有する者の全員の同意を取得することに努めるよう、開発事業者に対して要請すること。
しかし、開発許可権者において、実質的に開発行為を阻害しないような権利を有する者等までの同意書を求めることは行き過ぎであり、その権利が開発行為の妨げとなる権利かどうかについては、適切に判断すること。
四 隣接地の権利に関する事項

開発事業者と隣接地の権利者との間で境界をめぐる争いがある場合に、開発許可権者が開発許可の審査の段階で、開発区域の境界を確保するために開発区域の隣接地の権利者から開発に対する同意の取得を要求する例があり、なかには、境界確定書の添付まで要求することもある。

隣接地との境界確定は、基本的には民事上の権利の帰属に関する問題であり、隣接地の権利者と境界をめぐる争いがある場合であっても、境界確定書の添付まで要求することにより、開発許可手続を必要以上に遅延させることのないようにすること。この場合において開発許可権者は、開発区域の変更と取り扱う必要がないと認められる軽微な場合には、境界紛争に係る土地を含まぬよう開発区域を暫定的に後退させておき、紛争解決後に開発区域に加えることとするような現実的な対応をすること。
五 放流による影響に関する事項

地方公共団体が、開発により変化する放流の質や量によって影響を受けると予想される開発者との紛争を未然に防止するため、これらの者の同意取得を要求することもある。河川、農業用水路等の管理権限を有しない水利組合、水利権者、農業用水使用関係者等の公共施設の管理者でない者とは、必要がある場合においては開発許可手続とは別に十分協議、調整を行うよう指導し、同意書の添付までは義務付けないようにすることとしているところである(昭和六一年五月一三日付け建設省経民発第二〇号建設経済局長通達)。

放流による影響について、地域の慣行により、漁業組合、水利組合等の意思決定機関を有する団体との調整を求めることがやむをえない場合もあるが、このような場合においても、個々の構成員全員との調整を要求するのではなく、組織との調整で足りることとし、調整の範囲についても、原則として一次放流先において影響を受ける範囲に限定すること。

IV 中高層建築物の建築に関する周辺住民との具体的調整方策

(1) 一般的留意事項

中高層建築物の建築に関する周辺住民との調整手続を担保するため、調整の履行を建築確認の申請書の受理の条件にしたり、周辺住民の同意書の提出まで求めることは行き過ぎであるが、周辺住民との紛争を未然に防止させるため、建築計画の内容の周知(事前公開、事前説明等)や問題が生じた場合における話し合い等を求めることは、合理的な範囲の内容、方法等をもって行わせる限り、有効かつ適切な指導である。
建築主等から周辺住民に対して建築計画の内容の周知を行わせる場合、その対象となる建築計画の内容は、通例、建築計画の概要及び当該建築物に係る日照、電波障害等に関する事項であり、図面を用いる等住民が理解しやすい方法をもって行わせる例が多いが、次に掲げる事項については周知の対象となる周辺住民の範囲、当事者間の話し合いの際の指導内容等に特に留意する必要がある。

(2) 日照

日照に係る事項について周知を行う対象となる周辺住民の範囲が、客観的に影響のある範囲に限定されていない例もあるため、その範囲を合理的な根拠のある範囲(建築物から一定距離といった一律のものでなく、建築物の高さ等との関係で判断される合理的な範囲)に限定すること。

(3) 電波障害

電波障害について周知を行う対象となる周辺住民の範囲は、電波障害に関する調査等に基づきできる限り客観的かつ合理的に確定することとし、建築物完成後に予想される受信状況、対策方法等を周知の内容とすること。

(4) 工事に伴う影響

開発事業に関する調整手続で調整されなかった工事に伴う影響について中高層建築物の建築の段階における調整過程で周知を行う場合は、施工計画の概要、周辺への危険防止対策等を周知の内容とすること。


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