建設省都計発第八四号、建設省住街発第九七号
平成九年九月一日

都道府県知事、指定都市の長あて

建設省都市局長、建設省住宅局長通知


高層住居誘導地区制度の運用について


標記については、平成九年九月一日付け建設省都計発第八三号「都市計画法及び建築基準法の一部改正について」をもって、建設事務次官から通達されたところであるが、さらに下記の事項に留意し、遺憾のないようにされたい。
なお、貴管下関係機関に対しても、この旨周知徹底方お願いする。

1 高層住居誘導地区制度の基本的考え方について

本制度は、大都市地域の都心地域等で、居住機能の低下、人口の空洞化が進展し、職住の遠隔化による通勤時間の増大、公共公益施設の遊休化などの問題が発生していることにかんがみ、住宅と非住宅の混在を前提とした五種類の用途地域(第一種住居地域、第二種住居地域、準住居地域、近隣商業地域及び準工業地域。以下「混在系の用途地域」という。)内の指定容積率四〇〇%の地域において「高層住居誘導地区」を指定し、住宅に係る容積率の引き上げ等の措置を講じることにより、都心における居住機能の確保、職住近接の都市構造の実現及び良好な都市環境の形成を目的として創設されたものであること。
なお、高層住居誘導地区制度は、大都市地域における都心居住の推進を主目的にしたものであるが、地方部においても、都市構造の視点から住宅供給の促進を図るべきと考えられる場合には積極的に活用し得るものであること。

2 高層住居誘導地区に係る都市計画決定を行う主体について

高層住居誘導地区は、混在系の用途地域が本来目指している住宅と非住宅の適正な用途配分が実現されていない地域において指定し、用途地域制度を補完するものであり、用途地域と密接不可分の関係にあることから、都市計画の合理性を確保するため、高層住居誘導地区に係る都市計画の決定主体は、用途地域に係る都市計画の決定主体と同一の主体としたものであること。

3 高層住居誘導地区の指定に当たっての配慮事項等について

(1) 本制度の活用を検討するに当たっては、以下の点に配慮すること。

1) 高層住居誘導地区の指定対象地域は、混在系の用途地域のうち、必要な公共施設が整備され、又は整備される見込みがあり、土地の高度利用を図るべき地域とされている容積率四〇〇%の地域に限定することとしたものであり、当該要件に該当する地域については、都心居住の推進による都市構造の再構築の観点から積極的に指定を検討すること。
2) 高層住居誘導地区の指定に当たっては、高容積の住宅が建設されることによる市街地環境への影響を踏まえ、公共施設の整備状況、整備見込み、土地利用の動向等、当該地区及び周辺の状況を総合的に勘案して、当該地区を高層住居誘導地区に指定することの妥当性について十分検討すること。また、この場合、当該地区における日影規制の適用状況や住民等利害関係者の意見等にも十分配慮すること。
3) 重量車両の交通が特に多い幹線道路の沿道等、著しい交通騒音により住環境の確保が困難と考えられる地域には、高層住居誘導地区の指定は避けること。

(2) 高層住居誘導地区の指定に当たっては、地区内及び周辺の市街地環境に対する影響等を総合的に勘案して指定することとなるが、本制度の目的、周辺に与える影響等をかんがみれば、以下のような地区について積極的に検討すること。

1) 水面、緑地等によって囲まれていること等により独立性が高く、当該地区における高層住宅の供給が周辺に与える影響が少ないと考えられる地区
2) 臨海部における工場、倉庫用地であり、相当の公共施設の整備が行われている地区であるが、工場移転等により遊休化した土地が多く、近年、都心と近接しているなどの利便性から事務所、住宅等の土地利用に転換しつつある地区
3) 公共施設が整っている都心に近い市街地であるが、敷地規模の状況等の要因から、適切な高度利用が図られていない地区において、敷地の統合を促進しつつ、地域にふさわしい高層住宅の建設を誘導していく必要がある地区

(3) 高層住居誘導地区に関する都市計画で定める内容について

1) 容積率について

容積率については、用途地域に関する都市計画で定められた数値から、建築基準法施行令第一三五条の四の四に規定する方法により算出した数値までの範囲内で、当該高層住居誘導地区内の土地利用の現状及び動向、公共施設の整備状況等を勘案しつつ、地区内において高層住宅の供給を促進するという観点を踏まえ、適切に定めること。

2) 建ぺい率の最高限度及び敷地規模の最低限度について

ア 建ぺい率の最高限度及び敷地規模の最低限度については、当該高層住居誘導地区における高層住宅市街地として必要な環境水準を確保するという観点を踏まえ、必要に応じて適切に設定すること。
イ 建ぺい率の最高限度については、地区内の公共施設整備の状況等を踏まえ、一般的制限を強化することにより、通風、採光等の市街地環境を確保する場合に指定することが考えられること。なお、この場合においては、建築基準法第五三条第三項から第五項までの規定は適用されないこととなるが、当該規定の趣旨を踏まえ、同条第四項第二号に掲げる建築物について建ぺい率制限の不適用措置をとるほか必要な措置を講ずること。
ウ 建築物の敷地面積の最低限度については、敷地の細分化を防止するとともに、本制度に基づく容積率の適用を一定規模以上の敷地に限定することにより、狭小な敷地の統合の促進を図るために定めることが考えられること。

(4) その他

1) 高層住居誘導地区内で、地区におけるより適切な高度利用を図るため、必要に応じ、地区施設や建築物の配置等に関する事項を定める地区計画の策定について検討すること。
2) 高層住居誘導地区と用途別容積型地区計画については、住宅用途に係る容積率割増の考え方が同様であることから、重複して住宅に係る容積率割増の適用はできないものであること。

4 高層住居誘導地区の区域内における建築制限について

(1) 高層住居誘導地区の区域内においては、住宅供給を積極的に誘導する観点から、当該地区の区域内の建築物のうち、その住宅の用途に供する部分の床面積の合計がその延べ面積の三分の二以上であり、かつ、当該高層住居誘導地区に関する都市計画において建築物の敷地面積の最低限度が定められたときは、その敷地面積が当該最低限度以上であるものについては、次の1)及び2)の建築制限の合理化措置が講じられるものであること。なお、住宅の用途に供する部分の床面積の合計のその延べ面積に対する割合を算出する場合にあっては、その延べ面積には、住宅の用途に供する地階の部分の床面積並びに共同住宅の共用の廊下及び階段の用に供する部分の床面積も含まれることに留意すること。

1) 容積率制限については、用途地域に関する都市計画で定められた数値から、建築基準法施行令第一三五条の四の四に規定する方法により算出した数値までの範囲内で、高層住居誘導地区に関する都市計画で定める容積率が適用されるものであること。

また、前面道路幅員による容積率制限については、第一種住居地域、第二種住居地域又は準住居地域内にあっては、前面道路の幅員のメートルの数値に一〇分の六を乗じたもの以下とされるものであること。
なお、高層住居誘導地区の区域内の建築物について、共同住宅の共用の廊下及び階段の用に供する部分に係る容積率の不算入措置は、併せて適用されるものであるが、住宅の地階に係る容積率の不算入措置を適用する場合にあっては、住宅の地階の床面積を含めて算定した容積率が、用途地域に関する都市計画において定められた容積率の一・五倍以下でなければならないことに留意すること。

2) 道路斜線制限については、第一種住居地域、第二種住居地域、準住居地域又は準工業地域内にあっては、前面道路の反対側の境界線からの水平距離が三五メートル以下の範囲内において、勾配は一・五とするものであること。また、隣地斜線制限については、第一種住居地域、第二種住居地域又は準住居地域内にあっては、立ち上がりを三一m、勾配を二・五とするものであること。

(2) 高層住居誘導地区の区域内の建築物に関しては、その住宅の用途に供する部分の床面積の合計のその延べ面積に対する割合にかかわらず、日影規制は適用されないものであること。なお、高層住居誘導地区の区域内の建築物であっても、当該高層住居誘導地区の区域外の日影規制適用対象区域内の土地に対して日影を生じさせる部分については、日影規制が適用されるので留意すること。

5 高層住居誘導地区の区域内における住宅について

(1) 高層住居誘導地区の区域内における建築制限の合理化措置の対象となる住宅に関しては、その構造、設備等により住宅の用途に供される目的で建築されていることが明らかであることについて、建築確認、完了検査等に当たり、十分に審査等を行うこと。また、必要に応じ、壁、床等により住宅部分とそれ以外の部分とが構造上明確に区分されるように指導すること。
(2) 高層住居誘導地区の区域内における建築制限の合理化措置の対象となる住宅には、事務所等を兼ねるいわゆる兼用住宅は含まれないものであること。
(3) 高層住居誘導地区の区域内の建築物に係る住宅の用途に供する部分の床面積の合計のその延べ面積に対する割合については、原則として住宅の用途に供する部分(以下「住宅部分」という。)の床面積の合計をもとに算出することとなるが、住宅の用途に供する部分とその他の用途に供する部分が複合している建築物に係る住宅部分の床面積の算定に当たっては、原則として以下の取扱いとすること。

1) 住戸の用に供されている専用部分は、住宅部分として取り扱うこと。
2) 共用部分のうち、専ら住戸の利用のために供されている部分は、住宅部分に含めて取り扱うこと。例えば、一定の階の専用部分の全てが住宅の用途に供されている場合には、その階の廊下、階段等の部分は住宅部分として取り扱うこと。
3) 共用部分のうち、専ら住戸以外の利用のために供されている部分は、住宅部分に含めないこと。
4) 2)及び3)以外の共用部分については、その床面積の合計に、当該建築物における住戸の用に供されている専用部分等(1)及び2)の部分)の床面積の合計と住戸以外の用に供されている専用部分等(住戸以外の用に供されている専用部分及び3)の部分)の床面積との合計のうち住戸の用に供されている専用部分等の床面積の合計が占める割合を乗じて得た面積を住宅部分の床面積に含めて取り扱うこと。

(4) 高層住居誘導地区の区域内の共同住宅の用途に供する部分とその他の用途に供する部分が複合している建築物に係る容積率の算定については、(3)により、住宅部分と住宅部分以外の部分に区分した上で、共同住宅の共用の廊下及び階段の用に供する部分に係る容積率の不算入措置を講ずること。

6 住宅部分に係る用途転用防止策等について

高層住居誘導地区の区域内において、その住宅の用途に供する部分の床面積の合計がその延べ面積の三分の二以上であり、容積率制限等の建築制限の合理化措置の適用を受けた建築物については、住宅から住宅以外への用途変更による容積率制限等の建築制限に関する違反建築物の出現を防止するため、次の点に留意すること。
(1) 建築確認申請書には、住宅の用途に供する部分の床面積の合計を記載することとされているが、建築確認の審査においては、当該建築物の容積率が高層住居誘導地区に関する都市計画において定められた容積率の最高限度に適合しているか否かを慎重かつ適正に判断すること。また、容積率制限等の建築制限の合理化措置の適用を受ける建築物については、その前提となる住宅の用途に供する部分を特定したうえで、建築物の概要、住宅の用途に供する部分の配置等を記載した台帳を作成すること。
(2) 建築基準法第一二条第一項の規定に基づき特定行政庁が定める報告事項については、建築基準法施行規則第五条第二項の規定により、建築物の用途に関する事項を定めることができるとされているので、高層住居誘導地区の区域内において、容積率制限等の建築制限の合理化措置の適用を受けた建築物については、建築基準法第一二条第一項の規定に基づき特定行政庁が定める報告事項として、建築物の用途に関する事項を定めるとともに、当該建築物の所有者(所有者と管理者が異なる場合については、管理者)に対し、住宅の用途の現況等の状況について、定期的に特定行政庁に報告を求め、また、定期的に表札等の調査を行うなどの現地調査を行うことにより、その用途の現況等の状況を十分把握すること。また、建築主に対して、上記の定期報告を行うべき旨を確認時に告知するとともに、当該建築物の譲渡等が行われた場合には、建築主が、当該建築物の所有者(所有者と管理者が異なる場合については、管理者)に対して、上記の定期報告を行うべき旨を伝達するよう、告知すること。
(3) 当該建築物について違反が発見された場合には、その是正のため、迅速かつ適切に措置命令、使用禁止等の必要な措置をとるものとすること。
(4) 建築基準法第九三条の二の規定に基づく閲覧の対象となる建築計画概要書の記載事項に、都市計画区域内及び建築基準法第六八条の九の規定に基づく条例により容積率の最高限度が定められた区域内の建築物に係る住宅部分の延べ面積を追加し、当該建築物において住宅部分がどの程度の割合を占めているかについて閲覧の際に認知できるよう措置されたところであるので、住宅用途に係る容積率制限の特例制度の適用の有無が認知できるよう、この閲覧制度の適切な執行を図ること。
(5) 高層住居誘導地区の区域内において、容積率制限等の建築制限の合理化措置の適用を受けた建築物については、その敷地又は内部にその適用を受けた建築物である旨の標識等による標示を行うよう指導すること。

7 その他

(1) 都市基盤施設整備の推進について

本制度に基づき、土地の有効高度利用を進めるとともに、採光、通風、開放性などの点で良好な居住環境、都市環境の確保を図るため、引き続き、道路、公園、河川等の都市基盤施設の整備を積極的に推進し、公開空地の確保を図ること。

(2) 高層共同住宅等の整備に当たっては、高齢者、障害者等が安心して居住できるようにするため、地震・火災等の災害に対する万全の防災対策を講じるよう、十分配慮すること。
(3) 土地は、適正かつ合理的な土地利用を図るため策定された土地利用に関する計画に従って利用されるものであり、また、投機的取引の対象とされてはならないものであり、土地政策に関する諸施策の推進についても遺憾なきよう図られたい。
(4) 高層住居誘導地区が駐車場整備地区又は近隣商業地域において定められる場合には、駐車場法(昭和三二年法律第一〇六号)第二〇条第一項の前段の規定に基づく駐車場附置義務条例の制定に努めること。

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