建設省経民発第四五号、建設省住街発第九四号
平成七年一一月七日

都道府県知事、政令市長あて

建設省建設経済局長、建設省住宅局長通知


「宅地開発等指導要綱の見直しに関する指針」について

住宅宅地の供給は、国民生活の質の向上のため、ゆとりとうるおいのある健全な都市の形成において重要な役割を担うものであり、本年六月一六日の住宅宅地審議会答申においてもこのような観点を踏まえ地域整備と一体となった宅地開発の推進の重要性が指摘されているところである。今後においては、適正かつ明確なルールの下、地方公共団体と住宅宅地開発事業者(以下「事業者」という。)が連携・協力しつつ魅力ある地域づくりを推進することが求められており、このような観点に立って、良好なまちづくりに資する住宅宅地開発事業が円滑に促進されるよう、それぞれの地方公共団体において適切な取組を行うことが望まれている。
地方公共団体の宅地開発等指導要綱(以下「指導要綱」という。)及びこれに基づく行政指導については、良好な都市環境を形成する上で一定の役割を果たしてきたところであるが、反面、その一部に行き過ぎがあることが従来から指摘されており、建設省としては、「宅地開発等指導要綱に関する措置方針」(昭和五八年八月二日建設省計民発第五四号建設事務次官通達)のほか数次の通達により、その適切な見直しについて指導を行ってきたところであり、貴職においても御尽力いただいているところであるが、最近においても、規制緩和推進計画(平成七年三月三一日閣議決定)においては、豊かさを実感できる住生活の実現に向け、土地の有効利用、良質な住宅・宅地の供給促進、住宅建設コストの低減等を図るため、指導要綱の行き過ぎ是正を含めた諸規制の緩和等を推進することとされ、また、先の経済対策(平成七年九月二〇日経済対策閣僚会議決定)に際しても指導要綱の行き過ぎ是正の徹底を図ることとされたところである。
近年、住宅宅地供給をとりまく社会経済状況は、指導要綱が多く制定された当時とは大きく変化してきているところであり、

(1) 従来の新市街地型大規模開発が減少し、既成市街地におけるマンション開発が増大する等開発の小規模化が進んでいること。
(2) 東京圏の人口が転出超過に転ずる等、人口の地域間移動が安定的に推移するとともに、高齢・少子化の進行等人口構造が変化してきていること。
(3) 行政手続法(平成六年一〇月一日施行)の趣旨を踏まえ、行政指導に係る公正の確保と透明性の向上を図る必要性が一層高まっていること。
(4) 地方公共団体が自ら住宅宅地関連公共公益施設整備を行う場合における負担を軽減するため、国庫補助等の助成措置を着実に拡充してきていること。
(5) 大幅な地価上昇が継続的に見られた時期にあっては、相当の開発利益が見込まれたこと等から、必ずしも根拠が明瞭でない負担を事業者に求めていた場合が少なくなかったと考えられるが、地価が安定的に推移する等、住宅宅地開発をとりまく市場環境が従来と大きく異なってきており、厳しい市場環境のもと、根拠が明瞭でない負担を見直し、国民にとってより入手しやすい住宅宅地価格の実現を図る必要が高まっていること。
等の状況にある。

このような状況のもと、指導要綱の見直しに関する基本的な考え方を下記のとおり「宅地開発等指導要綱の見直しに関する指針」として定めたので通知する。地方公共団体においては、過去の通達を十分に踏まえつつ、本通達の趣旨に沿って、指導要綱の適切な見直しに努めるとともに、新規に指導要綱を策定しようとする場合にあっても、本通達の趣旨にのっとり、その内容について十分な検討が行われるよう期待するものである。
貴職におかれては、本通達を管下の市区町村に周知せしめるとともに、見直し状況の的確な把握に努める等、指導要綱の適切な見直しが推進されるよう特段の配慮をお願いする。[※本項は、都道府県あてのみ]

宅地開発等指導要綱の見直しに関する指針

1 総括的な事項

(1) これまでの指導要綱は、主として乱開発の防止等を目的として策定されたものであるが、事実上開発に対して抑制的に作用するものも多かったものと考えられる。多くの地方公共団体が創意工夫を凝らして魅力あるまちづくりを推進しようとしている中で、住宅宅地開発事業はまちづくりを実現する上での重要な機会であることから、地方公共団体と事業者の相互の協力の下に、良好なまちづくりに資する住宅宅地開発事業が円滑に促進されるよう、指導要綱の在り方を検討する必要があること。
(2) 指導要綱に基づく行政指導は、行政手続法の趣旨を踏まえ、あくまで、事業者の理解と協力の下にその実現を図るべきものであり、行政運営の公正の確保と透明性の向上を図るために、行政指導の内容及びその手続について、適正なルールをあらかじめ設定した上で、それを明文化するとともに公表することが適当であること。
(3) 公共公益施設は、もっぱら開発区域内の住民が利用する区画道路、公園、ごみ置場等事業者の負担で設置することについての法令上の位置付け又は社会通念上の合意があるものを除き、その性質上、公共側において設置・管理することが本来であり、住宅宅地開発事業関連のものといえども地方公共団体において設置(又は費用の負担)・管理を行うことが基本であること。また、住宅宅地関連の公共公益施設整備にあっては、近年、着実に拡充されてきている国の助成措置(建設省による国庫補助制度及び自治省による地方財政上の措置)の積極的な活用を図ること。
(4) 住宅宅地開発を通じて魅力ある地域整備を実現するとともに国民に低廉かつ良質な住宅宅地を供給することの必要性に鑑み、事業者に対して施設の整備・提供等の負担を求める場合にあっては、その負担が最終的に居住者等の負担につながるものであること、及び過大な負担は良好なまちづくりに資する住宅宅地開発事業の円滑な推進をも阻害するものであることに留意し、その負担内容は、必要かつ合理的な範囲内のものとすること。
(5) 以上の点を踏まえ、社会経済状況の変化に適切に対応するとともに、2以下に掲げる事項に留意した上で、公民の適切な役割分担のもと、低廉かつ良質な住宅宅地を供給する事業が地域のまちづくりに即した形で円滑かつ迅速に行われるよう、各地方公共団体においては指導要綱の適正な見直しに努めること。

2 適正かつ明確なルールの設定

(1) 事業者に一定の協力を求める行政指導を行う場合にあっては、行政運営の公正の確保と透明性の向上を図るため、行政指導の内容及び手続について、明文化するとともに公表することとし、内規等の根拠が不明確なものに基づいて負担を求めることは適当ではないこと。例えば「○○については市長と別途協議」のような不明確な内容の条項を根拠に負担を求めることは適当ではなく、仮に個々の事例ごとに弾力的な対応をせざるを得ない場合があるとしても、協力を求める内容の上限を設定し、又は標準的な内容を明示する等、運用に当たっての公正の確保と透明性の向上を図るための適切な措置を講じること。
(2) 指導要綱に基づく各調整手続(指導要綱に基づく手続に先行する事前手続を要する場合は、その事前手続を含む。)ごとに通常必要となる標準的な期間を極力明示することとするほか、関係部局(例えば、環境アセスメント、埋蔵文化財の担当部局等)間の横断的調整組織を設置すること等により、事前相談の段階から法令上の処分を行うに至るまでの一連の調整手続全体が円滑かつ迅速に行われるよう必要な措置を講じること。
(3) 指導要綱に基づく調整手続と都市計画法第三二条に基づく同意・協議手続とを並行的に進める等、実質的に同一の調整手続を重複して行うことのないよう極力手続の簡素化・合理化を図ること。なお、同条の手続は、公共施設の管理の適正を期するために設けられているものであることから、公共施設管理上の事由によらずしてその手続を拒否又は遅延してはならないこと。
(4) 事業者に提出を求める書類・図面の部数にあっては、地方公共団体によって、正副各1部でよいとするところから、数十部も求めるところもあるなど、相当のばらつきが見られるところである。複数の関係部局の事務手続を同時並行的に処理することを可能とする等、事務処理の円滑化を図るために一定部数の提出を求めることは考えられるところであるが、事業の規模・内容等にかかわらず一律に多くの部数を求めることは過大な負担となる場合があることから、事案に応じ、必要最小限と認められるものの提出を求めることとすること。
(5) 事業者の窓口となる部局・担当課を明確にするとともに、関係法令・関係課、調整手続の事務処理フロー図等を整理した手引書等を用意すること等により、事業者において調整手続全体を事前に了知し得るよう適切な措置を講じること。

3 公共施設に関する基本的な事項

(1) 設置に関する事項

(イ) 公共施設にあっては、もっぱら開発区域内の住民が利用する区画道路、公園等を除き、住宅宅地開発事業関連のものといえども公共施設としての性格に鑑み、地方公共団体において設置(又は費用を負担)することが基本であること。
(ロ) 公共施設の利用者の担当部分が開発区域内の住民である場合においては、その設置について、事業者に応分の負担を求めることも考えられようが、この場合においても、事業者に負担を求める程度は、例えば、公共施設の利用者のうち開発区域内の住民の利用者が占める割合を斟酌するなど合理性の認められる範囲内のものとすること。
(ハ) 住宅宅地開発事業に関連する公共施設整備にあっては、住宅宅地関連公共施設整備促進事業、緊急住宅宅地関連特定施設整備事業、住宅宅地緊急支援事業(平成七年度創設)をはじめ、自治省による住宅宅地関連公共施設整備促進事業の地方公共団体負担分についての地方財政上の支援措置及び都市生活環境整備特別対策事業(平成五年度創設)等の助成措置が用意されているので、これらの積極的な活用に努めること。

(2) 管理に関する事項

(イ) 開発行為により設置される公共施設については、地方公共団体が土地の所有権を取得しないまま、事業者等に管理委託させていたことに起因して、公共施設以外のものに転用される等の紛争が発生することが見られるところであるが、このような事態を招かないためにも、都市計画法第三九条及び第四〇条の規定の趣旨を踏まえ、同法第三六条第三項の工事完了公告の翌日に管理の引き継ぎを行うとともに、土地所有権の確実な帰属のために必要な措置を構じること。また、公共施設の帰属手続の遅れから工事完了公告が必要以上に遅れることのないよう帰属手続の迅速化に努めること。
(ロ) 住宅宅地開発に関する工事完了後において、管理を引き継いだ道路、公園、水道等の維持管理費用を事業者等に求める地方公共団体がわずかながら見受けられるところであるが、公共施設の性格からして、住宅宅地開発事業関連のものといえどもその維持管理費用を事業者等に求めることは適当ではないこと。

4 公園等

(1) 公園、緑地、広場(以下「公園等」という。)については、開発区域面積の三%かつ一人当たり三m2を確保することを基本とする。ただし、中高層住宅において、一人当たり三m2の基準を一律に適用することは過大な負担を課する結果となる場合が多いことから、一人当たりの面積基準を設ける際にも、開発区域面積の六%以上の公園等の確保を求めることは適当ではないこと。
(2) 良好な樹林地等を存置するなど緑を確保する必要性が高いと認められる地域にあっては、公園等の確保と併せて平成七年度の都市緑地保全法の改正により創設された市民緑地制度、緑地協定制度の活用を図ること等により、事業者にとって負担を課することなく、緑地等の確保を図る方策を検討すること。

5 公益施設

(1) 公益施設にあっては、もっぱら開発区域内の住民が利用するごみ置場等開発区域内の住民の便益を図る上で必要不可欠な身の回り施設を除き、住宅宅地開発事業関連のものといえどもその性格に鑑み、地方公共団体において整備することが基本であり、公益施設用地の確保を求める場合にあっては、当該用地は有償で取得することを原則とすること。公益施設の整備にあっては、国庫補助制度等の助成措置の積極的な活用に努めること。
(2) 公益施設用地の確保を求める場合にあっては、地方公共団体が協力を求める内容の透明性・公正さを確保する上で、確保を求める公益施設用地の面積割合の上限を合理的な範囲内において設定することが適当であること。面積割合の上限の設定に当たっては、例えば、住区レベルにおいて必ず必要と見込まれる公益施設用地が住区の面積に占める割合を考慮して上限(三%程度)を設定している事例が存するところであり、これらを参考にした上で、その設定根拠を明確に整理すること。また、開発許可基準にあっては、二〇ha以上の大規模開発についてのみ公益施設の配置を考慮することとされていることを勘案し、小規模な開発についても一律に公益施設用地の確保を求めることは適当ではないこと。
(3) (2)により設定した上限を超えて公益施設用地の確保を求める場合にあっては、適正な対価で買い取ることが適当であること。また、この上限の範囲内であっても、具体の案件において公益施設の用地の確保を求める場合にあっては、当該施設の主たる利用者が開発区域内の住民であるか否か等、事業者に確保を求める必要性・合理性について慎重に検討することとし、確保を求める用地の使途は、事前に明確に特定することが適当であること。
(4) 公益施設の利用者の相当部分が開発区域内の住民である場合においては、その用地の確保について、事業者に用地の減額譲渡を求める等、応分の負担を求めることも考えられようが、この場合においても、事業者に負担を求める程度は、例えば、公益施設の利用者のうち開発区域内の住民の利用者が占める割合を斟酌するなど、合理性の認められる範囲内のものとすること。また、義務教育施設、行政機関の出張所等、本来行政の責任において整備すべき性格の施設の用地にあっては、その施設の利用者がもっぱら開発区域内の住民である場合にあっても、当該用地については適正な対価で買い取ることが適当であること。
(5) 地方公共団体において適当な用地を確保することが困難である等の特別な事情がある場合において、地域整備の必要性等の観点から住区レベルを超える広域的な公益施設(例えば、図書館、文化ホール等)の用地の確保を事業者に求める場合にあっても、その用地は、適正な対価で買い取ることが適当であること。
(6) 小学校・中学校にあっては、学校教育法上市町村に設置義務があることに十分留意するとともに、学校の校舎等いわゆる上物は、地方公共団体が整備することとし、上物整備についての負担を事業者に求めることは適当ではないこと。この場合においては、国庫補助制度等の助成制度の積極的な活用に努めること。

6 寄付金等

(1) 寄付金、負担金等の支払いを求めることを規定した要綱は、従前多く存在したところであるが、多くの地方公共団体においては、寄付金等に係る規定について廃止等の見直しを行い、又は検討しているところである。このような動向を踏まえ、適切な見直しを推進すること。また、必要性・合理性が明確ではない寄付金等を求めることは適当ではないこと。
(2) 事業者が整備することが適当である公共公益施設の整備に代えての寄付金(例えば、事業者が設置することとされている公園が開発区域面積の関係で小規模なものとなる場合において、当該小規模公園の提供に代えて、開発区域の周辺における公園緑地の確保の財源としての基金への寄付金)等、根拠が合理的かつ明確なものについては、事業者に負担を求めることも考えられようが、寄付金等の提供を求める場合にあっては、以下の点に留意すること。

(イ) 負担の程度が、例えば、寄付金等と代替関係にある公共公益施設整備等との権衡が図られているなど、合理性の認められる範囲内のものである必要があること。
(ロ) 寄付金等の徴収目的と実際の使途との連関性を明らかにするため、寄付金等が開発区域を含む地域に還元されることを担保する措置を講じるなど、収支と使途の明確化を図ること。

7 人口密度規制及び戸当たり人数等

(1) 中高層住宅に関して、一定面積当たりの計画人口及び一戸当たり人数を設定すること、又は一戸当たりの床面積を一定規模以上とすること等により、一定面積当たりの戸数を制限するいわゆる人口密度規制のほか、用途制限等の建築制限に関する指導を行っている地方公共団体がわずかながら見受けられるところであるが、本来建築制限は、都市計画上の容積率規制等で対応すべきであり、また、世帯人員によって確保することが望ましい居住水準が異なっていること等から、行政上の内部目標値としての人口密度等を設定することは格別、事業者に対して事実上の建築制限となるような指導を行うことは適当ではないこと。
(2) 良好な住環境を確保することが必要であると認められる場合にあっては、地区計画制度、建築協定制度等の様々なまちづくりに関する法制度が用意されているところであるので、これらの積極的な活用を検討すべきこと。
(3) 人口密度規制のほか、事業者に負担を求める公共公益施設整備の水準の算定の基礎とする等のために、戸当たり人数の設定を行っていることがあるが、この場合においては、過大な負担を求めることとならないよう、地方公共団体における一世帯当たり人員数に関する直近の国勢調査結果や今後の見込み等を踏まえ、実態に即した適切な見直しを行うこと。

8 周辺住民調整

(1) 周辺住民との紛争を未然に防止するため、必要に応じ、計画内容等の周知、問題の生ずるおそれがある場合における話し合い等を求めることは、合理的な範囲の内容、方法をもって行わせる限り、有効かつ適切なものではあるが、事業者と周辺住民との調整に関する行政指導を行う場合にあっては、行政運営の公正の確保と透明性の向上を図るため、その手続等について明文化したルールを定めるべきであること。
(2) 調整手続に関するルールを定める場合にあっては、住宅宅地の円滑な供給に支障とならないよう十分に配慮することとし、周辺住民等の同意書又は実質的に周辺住民の同意書と同一と認められる書面(例えば、住民の署名押印がなされた説明会の議事録)の提出を求めることは適当ではないこと。

9 制裁的措置
指導要綱による行政指導に従わない場合に、都道府県への進達拒否、都市計画法三二条同意・協議手続拒否、建築確認申請書の不受理、水道、ガス等の供給拒否その他の制裁的措置を行うことは、行政手続法の趣旨に照らしても問題であり、そのような制裁的措置は行わないこととし、制裁的措置に係る規定を定めている場合にあっては、当該規定は廃止すること。


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