明日香村における歴史的風土の保存及び生活環境の整備等に関する特別措置法による第一種歴史的風土保存地区及び第二種歴史的風土保存地区内における歴史的風土の維持保存について
さる第九一回国会において、明日香村における歴史的風土の保存及び生活環境の整備等に関する特別措置法(昭和五五年法律第六〇号)が成立し、昭和五五年五月二六日から施行された。
この法律は、古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法(昭和四一年法律第一号)の特例及び国等において講ずべき特別の措置を定めることを目的として制定されたものである。
その後、同法施行令(昭和五五年政令第一五六号)、古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法施行令の一部を改正する政令(昭和五五年政令第二〇八号)及び古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令(昭和五五年建設省令第一〇号)がそれぞれ公布施行されるとともに、明日香村歴史的風土保存計画(昭和五五年総理府告示第二七号)の決定等が行われた。
これらの法令等の施行により、明日香村特別措置法の規定により明日香村の区域を区分して定められる第一種歴史的風土保存地区及び第二種歴史的風土保存地区について、それぞれの区域の区分の目的に応じてその歴史的風土の保存が図られることとなったが、第一種歴史的風土保存地区及び第二種歴史的風土保存地区は、ともに古都保存法上の特別保存地区であり、これらの地区内における歴史的風土の維持保存については、昭和四二年三月二日建設省都公緑発第一四号建設省都市局長通達「古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法による歴史的風土特別保存地区内における歴史的風土の維持保存について」によるほか、特に左記の事項に留意して、遺憾のないようにされるとともに、この旨を貴管下関係機関に周知徹底方取り計らわれたく、命により通達する。
第一種歴史的風土保存地区及び第二種歴史的風土保存地区における行為の規制について
1 基本的方針等
(1) 明日香村における歴史的風土の保存及び生活環境の整備等に関する特別措置法(以下「明日香村特別措置法」という。)の規定に基づく明日香村歴史的風土保存計画により、第一種歴史的風土保存地区(以下「第一種保存地区」という。)は、重要な歴史的文化的遺産がその周囲の環境と一体をなして明日香村における歴史的風土の保存上枢要な部分を構成している地域であって、現に存する歴史的風土をその状態において維持保存する必要があるものについて指定し、現状の変更を厳に抑制するものとされ、第二種歴史的風土保存地区(以下「第二種保存地区」という。)は、第一種保存地区の周囲にあってこれと一体となって歴史的風土を形成している地域、随所に所在する重要な歴史的文化的遺産がその周囲の環境と一体をなして歴史的風土を形成している地域、重要な歴史的文化的遺産の背景をなして明日香村における歴史的風土を形成している地域等をもって構成される第一種保存地区を除く明日香村の区域について指定し、住民生活の安定及び農林業等産業の振興に著しい支障を与えない範囲において、著しい現状の変更を抑制するものとされている。
第一種保存地区及び第二種保存地区は、このようなそれぞれの歴史的風土の特性等に応じて行為の規制がなされる反面、古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法(以下「古都保存法」という。)第九条及び第一一条の規定に基づく損失の補償、土地の買入れが行われうる地域であり、また、明日香村特別措置法第八条の規定により土地の形質又は建築物その他の工作物の意匠、形態等を歴史的風土と調和させるために行われる事業等に要する経費の全部又は一部が明日香村整備基金の果実により支弁され得る地域でもあるので、これらの地区内における行為の規制は、古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法施行令(以下「令」という。)第六条の許可基準及びこの通達二の「建築物その他の工作物の意匠、形態等に関する規制について」により厳正に行い、それぞれの歴史的風土の特性等に応じた歴史的風土の維持保存を行う必要があること。
(2) 第一種保存地区及び第二種保存地区における行為の規制を行うにあたっては、集落等の保全修景計画、生産活動等にあたっての土地利用に関する指針、建築物等の新築等にあたっての意匠、形態等に関する指針等を作成すること等により、歴史的風土の維持保存が、これらの計画及び指針に沿って、住民の理解と協力を十分に得ながら行われるよう配慮する必要があること。
(3) 第一種保存地区及び第二種保存地区内における行為の規制に関する古都保存法第八条の規定は、行為の規制に関する都市計画法、屋外広告物法、建築基準法、文化財保護法、森林法、自然公園法、宅地造成等規制法その他の法律の規定の適用を妨げるものではないので、第一種保存地区及び第二種保存地区内における歴史的風土の保存、損失の補償等との関連上、それらの総合的運用を図る必要があること。特に、風致地区は、同じく都市計画に定められる地区であり、その歴史的風土の保存に果たす意義にかんがみ、第一種保存地区及び第二種保存地区との関連に配慮し、指定の拡大等の必要な見直しを行うこと。
(4) 第一種保存地区又は第二種保存地区内における行為の許可については、できる限りその手続の簡素化、迅速化を図るとともに、特に第一種保存地区又は第二種保存地区と風致地区が重複する土地の区域における古都保存法第八条第一項の行為の許可の申請の手続きについては、当該申請と風致地区の規制による行為の許可の申請とを受付け、申請書の様式等についてできる限り一本化をする等の措置に努めること。また、古都保存法第八条第一項の行為の許可のほか、森林法、文化財保護法等の他の法律に基づき届出等が必要とされている行為についても、歴史的風土担当部局は関係部局との調整を図り、簡素化、迅速化のための措置に努めること。
2 建築物その他の工作物の意匠、形態等に関する規制について
第一種保存地区及び第二種保存地区内における建築物その他の工作物の新築、改築又は増築等の行為の許可にあたっては、明日香村における歴史的風土の特性等にかんがみ、建築物等の意匠、形態等が、当該行為の行われる土地及びその周辺の土地の区域における歴史的風土と著しく不調和とならないよう、特に左記の事項に留意して行うこと。
(1) 建築物の新築、改築又は増築
1) 普通建築物の新築、改築又は増築
普通建築物(令第六条第一号ホ又は同条第三号ホに規定する普通建築物をいい、床面積の合計が二〇平方メートル以下のものを除くものとする。以下同じ。)の新築、改築又は増築については、当該建築物の形態及び意匠が、当該新築、改築又は増築の行われる土地及びその周辺の土地の区域における歴史的風土と著しく不調和でないこととされているほか、令第六条第一号ホ(5)、同条第二号ロ及び同条第三号ホ(4)により屋根及び外壁に関する基準が定められているが、これらの点については次のとおり取り扱うこと。
i 屋根は、切妻、入母屋、寄棟、方形、差掛け等の勾配屋根(片流れ屋根、招き屋根及び極端な緩勾配又は急勾配のもの等を除く。)であることとし、瓦ぶき屋根にあっては、黒色の日本瓦(できる限りいぶし瓦であることが望ましいこと。)ぶきのものとすること。
ii 外壁は、できる限り真壁であることが望ましいこととし、しっくい壁にあっては白色又は黒色のしっくい壁とすること。なお、「その他これらに類似する外観を有する材料で仕上げられているもの」には、土物壁、荒壁及びしっくい壁に類似する外観を有する白色又は黒色のモルタル壁等は含まれるが、鉄板壁、ベニヤ板壁等は含まれないものであること。また、「仕上げられている」ものとは、建築物の外壁の大部分がそれらの材料を使用しており、外観が全体として調和のとれた状態を有しているものをいい、建築物全体の意匠、形態をそこなわない範囲において部分的に他の材料を使用することをも一切認めないものではないこと。
iii へいは、土べい、板べい、石べい(石がきを含む。)又は土べいに類似する外観を有する白色若しくは黒色のモルタルべい等であること。
iv ひさしは、できる限り屋根の材料に準ずる材料でふかれたものであることが望ましいこと。
v 柱、扉、雨戸、格子戸、窓格子、窓枠、雨樋、戸袋等の外まわりの部分は、屋根及び外壁と調和する形態及び意匠のものとし、できる限り木材、銅板、その他これらに類似する外観を有する材料を使用しているものであることが望ましいこと。なお、「これらに類似する外観を有する材料」には、褐色、黒褐色又は黒色の鉄板・アルミニューム板・硬質塩化ビニル板等が含まれるものであること。
2) その他の建築物の新築、改築又は増築
その他の建築物(1)の普通建築物以外の建築物をいい、仮設の建築物、地下に設ける建築物及び温室を除くものとする。)の新築、改築又は増築については、当該建築物の形態及び意匠が、当該新築、改築又は増築の行われる土地及びその周辺の土地の区域における歴史的風土と著しく不調和でないこととされているが、その形態及び意匠についてはできる限り1)の普通建築物についての形態及び意匠に関する規制に準じて取り扱うものとすること。
なお、農業、林業若しくは漁業の用に供するために必要な物置、作業小屋等、又は床面積の合計が二〇平方メートル以下の建築物の屋根については、黒褐色又は黒色の化粧石綿セメント板・アスファルトシングル等を認めうるものであること。
3) 温室(ガラス又は硬質プラスチック板を使用した温室)の新築、改築又は増築については、その形態が歴史的風土と著しく不調和であることから原則として許可しないこと。ただし、第二種保存地区における温室の新築、改築又は増築で、その高さが五メートルを超えず、かつ主要な遺跡、展望地等から望見されない位置に建築されるもので、農林業経営上必要やむを得ないと認められるものについては、特に慎重な検討を行ったうえ、許可しうるものとすること。
(2) 工作物の新築、改築又は増築
工作物(建築物以外の工作物をいい、仮設の工作物、地下に設ける工作物及びビニルハウスその他これに類するものを除く。以下同じ。)の新築、改築又は増築については、当該工作物が擁壁又は擁壁を有するものである場合にあっては、当該擁壁が自然石を使用した石積み(野面石積み、玉石積み、雑割石積み、割石積み、間知石積み等)又はこれに類似する外観を有するものであること。
なお、道路、公園等から容易に望見される場所には、できる限りさく、カー・ポート等の工作物を設置しないよう住民の協力を求めること。
(3) ビニルハウスその他これに類するものの新築、改築又は増築
ビニルハウスその他これに類するものの新築、改築又は増築については、被覆材が軟質プラスチックフィルムであるものにあっては、無色の透明若しくは半透明又は黒色の軟質プラスチックフィルムに、被覆材が寒冷紗であるものにあっては、白色、緑色又は黒色の寒冷紗にそれぞれ限るものとする。なお、寒冷紗とは遮光網を含むものであること。
(4) 土地の形質の変更
土地の形質の変更については、次に掲げる基準に該当するものであること。
1) 擁壁の設置を伴う土地の形質の変更にあっては、当該擁壁が(2)の工作物の新築、改築又は増築についての形態及び意匠の基準に該当するものであること。
2) 法を生じる土地の形質の変更にあっては、畦畔法面等の小規模なものを除き、当該法面について植栽その他の歴史的風土の維持保存上必要な措置が行われること。
(5) 木竹の伐採
木竹の伐採については、次に掲げる基準に該当するものであること。
1) 林業を営むために行うものについては許可を要しないこととされている第二種保存地区内における森林の択伐については、択伐率が一〇分の三(前回の択伐の終った日を含む伐採年度から伐採をしようとする年度までの年度数に当該森林の年成長率を乗じて算出された率が一〇分の三未満である場合には、その率)以内で単木的又は小群状に伐採を行うものに限るものとし、それ以外のものは皆伐として取り扱うこと。
2) 森林の皆伐又は森林である土地の区域において行う土地の形質の変更のための木竹の伐採については、当該森林が著名な地形・地物等を構成するもの又は主要な遺跡、展望地等からの景観を構成する重要な要素となるものであるときは、歴史的風土をそこなうことのないよう特に慎重に配慮すること。
なお、森林法(昭和二六年法律第二四九号)第五条の規定により、知事が第一種保存地区又は第二種保存地区に係る民有林について地域森林計画を決定又は変更しようとするときは、林務担当部局と歴史的風土担当部局との間において、十分調整を図ることとされているので、歴史的風土の維持保存のために必要と考えられる森林の施業方法等について十分配慮したものとなるよう調整に努めること。
(6) 建築物の色彩の変更
建築物の色彩の変更については、次の基準に該当するものであること。
1) 屋根の色彩の変更については、当該変更が黒色の日本瓦、わら、檜皮、銅板、木板その他これらに類似する外観を有する材料の使用による色彩の変更であるか、又はこれらの材料に類似する色彩を有する塗料等による色彩の変更であること。また、わらぶき屋根等の保護を目的として既存の屋根を鉄板ぶき等の屋根で被覆することによる色彩の変更については、当該鉄板等が黒褐色、黒色等歴史的風土と調和する色彩であること。
2) 外壁又はへい(屋根の部分を除く。)の色彩の変更については、当該変更が白色又は黒色のしっくい、木板その他これらに類似する外観を有する材料の使用による色彩の変更であるか、又はこれらの材料に類似する色彩を有する塗料等による色彩の変更であること。
3 その他の事項
(1) 許可不要行為について
古都保存法第八条第一項により、通常の管理行為その他の行為で政令で定めるものについては、許可を要しないものとされているが、これらの行為は、一定の農業、林業又は漁業を営むために行う行為等日常的な行為で歴史的風土の維持保存に支障を及ぼすおそれの少ないもの又は都市計画事業の施行として行う行為、歴史的風土保存計画に基づく施設の整備のために行う行為等歴史的風土の維持保存のために行われるもの若しくは歴史的風土の維持保存に配慮して行われることが確実なものであることにより許可不要とされているものであり、歴史的風土の維持保存のための配慮を要しないという趣旨ではないので、これらの許可不要行為についても、歴史的風土と著しく不調和となることのないよう、建築物その他の工作物の意匠、形態等についての指導に努めること。
(2) 奈良県知事の指定する建築物等について
建築物その他の工作物で、その用途によってやむを得ないと認めて奈良県知事が指定するものについては、その指定する高さを超えないときは、一〇メートルを超えて新築、改築又は増築をすることができるものとされているが、この規定の趣旨は明日香村の区域内において必要不可欠なものであり、かつその用途によって真にやむを得ないと認められる建築物その他の工作物に限って、奈良県知事が当該建築物等を指定できるものとし、当該指定の行われた建築物等について、奈良県知事の指定する高さを超えない範囲で、高さが一〇メートルを超える建築物等を建築することができるものとしたものであり、その指定にあたっては、関係審議会の意見を聴く等慎重に行う必要があること。
(3) 主要な遺跡、展望地等からの景観について
甘橿丘、飛鳥川等の主要な遺跡、展望地等からの景観は、明日香村における歴史的風土を形成し、及び特色づける重要な要素となっており、これらの遺跡、展望地等から望見される地域内における行為の許可にあたっては、特に歴史的風土と著しく不調和となることのないよう十分留意すること。なお、眺望の背景をなす稜線については、道路、建築物等により分断されることのないよう留意すること。
(4) 関係部局との連絡調整について
1) 文化財保護法第五七条の二により、土木工事その他埋蔵文化財の調査以外の目的で、周知の埋蔵文化財包蔵地を発掘しようとする場合には、国の機関等が行う場合を除き、発掘しようとする者は、事前に文化庁長官に届け出なければならないものとされているが、明日香村においては、遺跡等の埋蔵文化財が村の全域にわたって広く分布し、歴史的風土を形成し、及び特色づける重要な要素となっているため、第一種保存地区及び第二種保存地区内における行為の許可を行うにあたっては、当該行為が周知の埋蔵文化財包蔵地の発掘を含むものであるときは、歴史的風土担当部局と文化財担当部局とが事前に連絡調整を行う等、埋蔵文化財の保護のための措置に努めること。
2) 農林業の維持振興と歴史的風土の保存との調和を図るため、規制の運用にあたって歴史的風土担当部局と農林業担当部局とが十分連絡調整を行うこと。