公共下水道の処理区域における最も理想的な屎尿排除方法は、汚水管が公共下水道に直結している水洗便所によるものであり、このため昭和四五年一二月の下水道法の一部改正に際し、従来旧清掃法に規定されていた水洗便所への改造促進規定を一層強化した改造義務規定が、下水道法第一一条の三として新設されたが、今後便所水洗化の促進を図るため、左記「水洗便所普及促進要領」を定めたので、本要領に則り法改正の趣旨の実現に努められたく、この旨貴管内市町村に対して周知徹底方よろしくお願いする。
水洗便所普及促進要領
水洗化を促進するための施策として、次に掲げる措置を講ずるものとする。
一 地方公共団体における普及促進体制の充実
水洗化の普及の重要性及びその事務の質的量的な高度性に鑑み、普及事務を担当する専任の職員を設置する等担当組織の充実を図るものとする。
二 官公庁等の建物の水洗化の促進
処理区域内に存する国、政府関係機関、地方公共団体及びこれらの出先機関等の所管に係る建物(公営住宅等も含む。)の水洗化の促進については、各市町村において関係官公庁に積極的に働きかけるものとする。
〔注〕 建設省としては、処理区域内の官公庁等所管建物の便所の改造の遅れが水洗化普及の障害となつているため、各省庁・各都道府県及び三公社に対し、水洗化資金の予算措置等の配慮について依頼を行なつてきている。 別添……「公共下水道の処理区域内にある官公庁等所管の建物の便所の水洗化について」(都市局長より各省庁官房長、三公社経理局長及び各都道府県知事あて)
三 PRの徹底
水洗化義務づけの趣旨、水洗化による便益、各市町村の水洗化に関する助成制度、改造に伴う紛争仲介の窓口等について説明会の開催、パンフレツトの配布、戸別訪問等により十分なPRな行なうことにより、水洗化に関する住民の認識を高めるとともに、住民が円滑に水洗化に取り組んで行けるようにすることが必要である。
この場合において、処理開始後できるだけ早期における水洗化の普及を図るためには、工事着手時に受益者負担金制度説明会等の機会にあわせて水洗化に関する説明を行なう等処理開始前からPRしておくとともに、処理開始時に集中的な、かつ、強力なPRを行なうことが有効である。
四 資金的援助制度の充実
水洗化のための改造工事には、相当の改造資金が必要となるので各市町村においては、直接貸付、補助、利子補給等の融資助成制度を設けるよう努めるものとする。
(1) 直接貸付制度においては、住民の負担をなるべく軽減するよう、できるだけ低利で、かつ、償還期限もできるだけ長いものが望ましく、この意味で国民年金特別融資の活用は有効である。
〔注〕 建設省としては、国民年金特別融資枠の拡大等について、関係各省に積極的な要請を行なつてきている。
(2) 民間金融機関の融資のあつせんをする場合においては、市町村が利子補給の措置を講ずることが望ましい。
(3) 水洗化促進のため少額の助成金((4)の補助金は含まない。)を交付する都市がかなりあるが、その水洗化促進効果は必ずしも大きなものを期待できないと思料されるので、たとえば、これに要する資金を直接貸付、利子補給等にあてることによつて、助成措置を充実させること等、より有効な資金利用の方策を検討するものとする。
(4) 生活保護世帯に対しては、補助金の交付をすることが望ましい。また、これに類する低所得者層に対しても、補助金の交付又は融資条件の緩和等の措置を講ずることが望ましい。
〔注〕 建設省としては、昭和四八年度予算において、水洗化改造義務を負う生活保護世帯に水洗化改造経費を補助する市町村に対する同経費の二分の一の国庫補助を要求している。
(5) 水洗化改造資金の援助としては、水洗化に伴つて必要となる排水設備の工事費まで含めることが望ましい。
(6) 相当の幅員を有し両端が公道に通ずる私道等規模及び利用形態において公道に準ずるような私道については、後日の紛争の予防措置(地上権設定登記等)を講じた上で公共下水道として管渠を布設し、又は私道排水設備設置の助成を行なうよう努めるものとする。
五 水洗化改造工事の技術的水準の確保
指定工事店制度の活用により、水洗化改造工事施行業者に対して一定期間ごとに指定を更新する等の監督を行ない、その技術的水準の確保を図るとともに市町村による改造工事の計画確認及び検査によつて適正な改造工事の施行を確保するよう努めるものとする。
なお工事店の指定にあたつては、指定済工事店のみでは当該市町村内の改造工事の消化に困難を生ずる等の場合においては、当該市町村の区域外に存する水洗化工事施行業者の指定を考慮するものとする。
六 水洗化を妨げている事由の分析と対応方法の検討
特定の理由により改造を拒み又改造に着手しえない状態にある者については、その改造を妨げている事由を適確に把握し、個別的にキメ細かく対応していく必要がある。
改造を妨げる事由としては、資金的困難さ、建物が移転、改築期にあること。借地借家関係等の民事上の問題等が代表的なものである。
(1) 資金的な問題により水洗化が妨げられている場合については、四に掲げる各措置を活用することにより対処するものとする。
(2) 近く建物を移転、除却、改築することを改造しないことの理由とするケースについては、移転、除却、改築の時期等、相手方の事情を十分に聴取した上で、できるだけ水洗化の方向での指導に努めるものとする。
(3) 借家関係等の民事上の問題が理由となるケースについては、積極的に当事者間の紛争仲介の労をとり、当事者の合意をとりつけるよう努めるものとする。なお、訴訟に至つたケースの判決ないし判定は、他の紛争の解決に積極的に採用することが有効である。
七 処理開始後三年経過した場合の対応
処理開始から三年経過しても改造しない者としては、大別して、改造する意欲の欠如する者と、改造していないことにつき客観的な理由を有する者とがある。
前者については、三年経過後ただちに改造命令を発するものとする。
後者については、原則として、三年経過前に行なつてきたのと、同様の方策を継続して行なうべきであるが、民事上の紛争等で事後的な解決が可能と見込まれるものに対しては、紛争解決前に改造命令を発動するものとする。
八 既存屎尿浄化槽便所に対する対策
下水道法上は、既存屎尿浄化槽便所の水洗化までは義務づけていないが、浄化槽汚泥の周囲に与える影響やその処理に要する経費に鑑み公共下水道への汚水管の直結について、積極的な指導を行なうものとする。
このため、個人の便益以外の公益的必要性について十分なPRを行ない、汚水管の直結に要する費用の援助制度の創設、近く処理区域になる区域における浄化槽設置に対する資金的援助制度の廃止等の方策を検討するものとする。
九 建築基準法関係
水洗化につき建築基準法第三一条第一項が適用される場合(処理区域内において建物を新築、改築若しくは増築し、又は建物に関し大規模な修繕若しくは大規模な模様替を行なう場合)には、建築基準法に基づく建築主事のチエツクが行なわれることとなるので、このチエツクに徹底してもらうよう関係部局に要請するとともに、この場合においても、下水道部局で計画確認・工事の検査を行なうものとする。