河計発第三五号
昭和五五年五月一五日

関係都道府県知事・関係地方建設局長・北海道開発局長あて

建設省河川局長通達


総合治水対策の推進について


近年、都市化の進展と流域の開発に伴い、治水安全度の低下が著しい都市部の河川については、治水施設の整備を積極的に進めるとともに、その流域の持つ保水・遊水機能を適正に確保するなどの総合的な治水対策を推進することにより、水害の防止又は軽減を図ることが必要となつてきている。
このため、建設省においては、昭和五二年度に省内に総合治水対策協議会を設置し、総合治水対策として講ずべき施策等について協議するとともに、昭和五三年度からは鶴見川等六河川の流域において流域総合治水対策協議会準備会が設置され、当該河川流域について現状のは握、流域整備計画の問題点等総合治水対策のあり方について検討が行われてきたところである。これらの検討を踏まえてこのたび、別紙一の一〇河川について総合治水対策を推進することとなつたので、流域総合治水対策協議会の設置及び流域整備計画の策定等につき特段の配慮方お願いする。
なお、流域整備計画の策定の際には、別紙二の計画の構成例を参考とされたい。



別紙一

総合治水対策河川

河川名
水系名
級種
所在都道府県
流域面積
(km2)
伏籠川
石狩川
北海道
一〇六
中川・綾瀬川
利根川
埼玉、東京
九八七
新河岸川
荒川
埼玉、東京
三九〇
真間川
利根川
千葉
六三
鶴見川
鶴見川
東京、神奈川
二三五
境川
境川
東京、神奈川
二一三
引地川
引地川
神奈川
六五
巴川
巴川
静岡
一〇五
新川
庄内川
愛知
二六〇
猪名川
淀川
大阪、兵庫
三八三



別紙二

○○川流域整備計画

1 総説 (計画作成の意義、計画の期間等)
2 流域の現況

(1) 流域及び河川の概要 (流域の諸元(面積、流路延長、人口等)、河川の現況)
(2) 土地利用 (都市計画の区域区分等、土地利用の変遷)
(3) 浸水実績 (過去の主要洪水の概要、代表的水害の状況等)

3 流域整備の基本方針

(1) 治水機能の地域区分 (保水地域、遊水地域、低地地域の区分)
(2) 流域整備の基本方針

(i) 流域整備の前提 (流域における市街化の見通し等の流域開発の想定)
(ii) 治水計画の基本方針 (長期的な治水計画(工事実施基本計画等)の基本方針)
(iii) 治水暫定計画の基本方針 (流域整備計画の計画期間に対応する治水施設整備計画の基本方針)
(iv) 流域対策の基本方針 (治水計画以外の流域における対策の基本方針及び土地利用についての基本方針)

4 河川の整備計画

(1) 治水施設の整備現況 (河川毎の改修状況等)
(2) 治水計画 (工事実施基本計画等)
(3) 治水暫定計画 (整備目標、事業内容、工期、事業費等)

5 地域毎の整備計画

(1) 保水地域

(i) 地域の概要 (地域内の土地利用及び保水機能の概要)
(ii) 保水機能保全対策 (防災調節池、暫定調整池、雨水貯留施設、透水性舗装の適用等、下水道における貯留機能等に対する配慮等)

(2) 遊水地域

(i) 地域の概要 (地域内の土地利用及び遊水機能の概要)
(ii) 遊水機能保全対策 (計画遊水地、多目的遊水地等)

(3) 低地地域

(i) 地域の概要 (地域内の土地利用及び浸水状況)
(ii) 低地地域保全対策 (排水対策(内水排除施設等)、災害危険区域の設定、土地利用における治水安全度の配慮等)

6 その他 (警報避難、水防活動等)



(参考)

○流域整備計画の概念図
(目標条件)

1) 現況河道対応降雨(モデルの例では30mm)を治水暫定計画が終了するまで確保する。
2) 治水暫定計画は10年以内程度で実現可能なもので、一定の効果を発揮するものとする。
3) 50mm対策を治水安全度に関する当面の目標値とする。

備考

((イ)) 暫定対策:暫定調整池、防災小堤、市街化調整区域のうち治水上の機能を有する土地に対する配慮等
((ロ)) 保水・遊水機能保全開発施設計画:棟間貯留、各戸貯留等
((ハ)) 保水・遊水機能保全治水施設計画:防災調整池、雨水貯留施設、多目的遊水地等

この概念図の例では、当面の整備目標として計画期間内に時間雨量五〇ミリメートル相当(年超過確率五分の一〜一〇分の一)の降雨に対応しうるよう治水対策を実施することとするが、この間において流域の開発は年々進展すると予想され、これに伴つて現在の河道の流下能力に対応した降雨量(以下「対応降雨」という。概念図の例では時間雨量三〇ミリメートル)は減少することとなる。この対応降雨の減少に対処するためには、流域全体として保水・遊水機能を維持、確保するための治水対策等の恒久対策と一定期間この機能を補完する暫定的な対策が考えられる。これらの諸対策を総合的に計画したものが流域整備計画である。

○流域整備計画における流量分担計画例

(注)

上段は流域整備計画目標年度(10年後)
下段( )書は現況

この例では、時間雨量五〇ミリメートルの対応降雨に対して現状では流域の基本高水が毎秒八〇〇立方メートルであり、このうち毎秒三〇〇立方メートルが河道で処理され、残り毎秒五〇〇立方メートルについては、うち毎秒五〇立方メートルが保水地区において防災調節池等で処理され、遊水地区では毎秒三〇〇立方メートルが遊水し、低地地区では毎秒一五〇立方メートルが湛水していることを示している。これに対して流域整備計画の目標年度の一〇年後には、その間の開発により流域の基本高水が毎秒一、〇〇〇立方メートルに増加することが予想され、これに対しては、まず河川の分担として毎秒八五〇立方メートルを処理することとする。この場合において、河道を総合治水対策特定河川事業により毎秒三〇〇立方メートルから毎秒六五〇立方メートルに上げ、さらに遊水地区で遊水していた毎秒三〇〇立方メートルのうち毎秒二〇〇立方メートルを多目的遊水地事業等により処理することとする。しかしながら、これでも流域の基本高水毎秒一、〇〇〇立方メートルには未だ及ばないので毎秒一五〇立方メートルは流域における流量分担を要請せざるを得ない状況にある。この場合において保水地区については、防災調節池事業等により毎秒五〇立方メートルから毎秒一〇〇立方メートルへと処理流量を上げることとし低地地区については、湛水していた毎秒一五〇立方メートルの流量を毎秒○立方メートルにすることを示している。流量分担計画は、流域の特性に応じてこのモデルの考え方を参考として策定されることになる。


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