河川法の一部を改正する法律(平成七年法律第六四号)は、平成七年四月五日に、河川法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(平成七年政令第三四四号)及び河川法施行令の一部を改正する政令(平成七年政令第三四五号)は、同年九月二七日に、河川法施行規則の一部を改正する省令(平成七年建設省令第二二号)は、同年九月二八日に公布され、いずれも平成七年一〇月一日から施行されることとなった。
今回の河川法(昭和三九年法律第一六七号。以下「法」という。)の改正は、近年、市街化の進展に伴い、都市における計画的な治水対策の推進が強く求められている中で、事業用地の取得の円滑化を図るとともに、適正かつ合理的な土地利用を図りながら河川の整備及び河川管理の適正化を推進するため、地下に設けられた河川管理施設等に係る河川区域を地下又は空間について一定の範囲を定めた立体的な区域として指定すること等ができるものとするとともに、河川区域内において増加傾向にある車両、船舶等の違法放置物件に的確に対処するため、相手方を確知できない場合の監督処分の手続の整備を図るものである。
一 河川立体区域について(法第五八条の二関係)
1 河川立体区域制度の趣旨
河川立体区域制度は、地下に設けられた河川管理施設等に係る河川区域を地下又は空間について一定の範囲を定めた立体的な区域として指定することにより、当該河川区域(河川立体区域)外については、河川法による規制を排除し、基本的には建物の建築等の自由な利用を認めることを意図したものであること。
2 河川立体区域制度の活用について
都市における治水施設の整備を行うに当たっては、河川管理者が敷地を全面的に買収して事業を行うことを従来どおり原則とするが、土地利用の稠密化した市街地において緊急に整備を行うべき河川管理施設について、当該河川管理施設の存する地域の土地利用の状況、土地の利用に関する権利を有する者(以下「地権者」という。)の現地居住の意向等を踏まえ、河川管理施設の上下の空間を建築物等の空間として利用することが当該河川管理施設の整備を促進するために必要であると認められる場合においては、河川管理者は河川立体区域制度の適用について地権者との協議を行い、本制度を積極的に活用して治水施設の整備の推進に努めること。
3 河川立体区域制度の適用対象施設について
(1) 河川立体区域制度の適用対象とする河川管理施設は、その上部での土地利用を基本的には自由にすることのできる形態を有する特殊な河川管理施設であり、具体的には以下の河川管理施設であること。
1) 地下に設けられた河川管理施設(地下放水路、地下調節池等)
2) 建物その他の工作物内に設けられた河川管理施設(調節池、ポンプ施設等)
3) 洪水時の流水を貯留する空間を確保するために設けられる柱又は壁及びこれらによって支えられる人工地盤から成る構造を有する河川管理施設(遊水池の整備に併せて流水を貯留する空間を新たに確保するために設けられるいわゆるピロティ型の河川管理施設)
(2) また、前記(1)の施設を新たに設ける場合のみでなく、既に設けられているこれらの施設についても適用することができるものであること。
4 河川立体区域の法的性格について
改正後の法第五八条の二は、法第六条第一項の特例として、河川区域を地下又は空間について一定の範囲を定めた立体的な区域として指定することができる旨規定したものであり、河川立体区域の法的性格は通常の河川区域と全く同一であり、河川法の適用に当たっては河川区域として取り扱われるものであること。
したがって、河川立体区域内においては、法第二三条から第二九条までの河川の使用及び河川に関する規制の規定が適用されるとともに、既存の河川管理施設について河川立体区域が指定された場合には、当該河川管理施設に係る通常の河川区域は、河川立体区域の指定された立体的な区域の範囲内に限定されて、同一性を保ちつつ継続することとなるものであること。
この河川立体区域の法的性格にかんがみれば、既存の河川管理施設に係る河川区域において既に行った許可等の取扱いについては、河川立体区域の指定に伴い、
1) 河川立体区域内となる区域については、河川区域はその同一性を保ちつつ継続するため、当該区域内で行われた許可等は依然有効であり続けるとともに、
2) 河川立体区域外となる区域については、河川区域外となるため、そもそも許可等の効力の問題は生じない。
こととなること。
なお、地下放水路等の河川管理施設について河川立体区域を指定した場合には、当該河川管理施設の敷地(法第六条第一項第二号の土地の区域)のみならず、当該河川管理施設内の河川の流水が継続して存する区域(法第六条第一項第一号の土地の区域)についても河川立体区域となり、当該河川立体区域外については河川区域は発生しないものであること。
5 河川立体区域の指定及び公示について
(1) 河川立体区域の指定範囲について
河川立体区域は、原則として、河川立体区域を指定しようとする河川管理施設について、当該河川管理施設の現に存する地下若しくは空間の範囲、又は当該河川管理施設の設置に当たって河川管理者が取得した権原に係る範囲を指定すること。
したがって、河川管理者が当該河川管理施設の設置に当たり土地の所有権を取得した場合には、河川立体区域を指定する必要はないこと。
(2) 河川立体区域の規定及びその公示について
河川立体区域の指定及びその公示は、新たに設けられる河川管理施設については、事業が完了して当該河川管理施設が完成すると同時に行うものとすること。この場合において、当該河川管理施設が部分的に完成する場合には、当該部分について完成すると同時に行うものとすること。
(3) 不動産登記の嘱託について
今回の河川法の一部を改正する法律附則第二項において、不動産登記法(明治三二年法律第二四号)第九〇条が改正され、土地又はその一部が河川立体区域となった場合には、登記簿上表題部に、河川区域内である旨の表示に加え、河川立体区域内の土地である旨の表示も記載されることとされたところである。
このため、河川立体区域の指定を行つたときは、不動産登記法第九〇条第一項及び第二項の規定に基づき、別途送付する照会回答に従い、遅滞なくその旨の登記の嘱託をすること。
また、河川立体区域の変更又は廃止により土地の全部又は一部が河川立体区域内の土地でなくなったときも、同条第三項の規定に基づき、別途送付する照会回答に従い、遅滞なく当該登記の抹消を嘱託すること。
6 設置する河川管理施設の構造等について
法第五八条の四第一項第三号及び改正後の河川法施行令(昭和四〇年政令第一四号。以下「令」という。)第三五条の三により、河川立体区域を指定する河川管理施設を保全するため指定される河川立体保全区域内においては、載荷重が一平方メートルにつき二トン未満の物件の集積は許可を要さないこととされていることを踏まえ、今後新たに設置される河川立体区域を指定する河川管理施設については、載荷重が一平方メートルにつき二トンの物件の集積が行われた場合にも安全な構造となるよう設計すること。
また、法第五八条の四第一項ただし書を受けた令第三五条の二第三号において、河川保全立体区域内における行為で許可を要しないものとして地表から深さ一・五メートル以内の土地の掘削又は切土が規定されていることを踏まえ、例えば必要な土被りを確保するなど、地表から深さ一・五mの土地の掘削が行われた場合にも浮き上がりに対して安全の構造となるよう設計すること。
二 河川保全立体区域について(法第五八条の三及び第五八条の四関係)
1 河川保全立体区域の趣旨
河川保全立体区域は、現行の河川保全区域がその効力が区域の上下の範囲すべてに及ぶので、河川管理施設の上部空間の自由な利用を可能とする河川立体区域制度の趣旨と相いれないことから、河川立体区域について、当該河川立体区域を指定する河川管理施設を保全するため必要な区域を上下の範囲を定めて指定できる区域として創設されたものであること。
このことから、河川保全立体区域は河川立体区域についてのみ指定できるものであり、かつ、河川立体区域については河川保全区域を指定することはできないものであり、今回の法第五四条第一項の改正はこのことを明らかにしたものであること。
2 河川保全立体区域の指定について
河川管理者は、河川管理施設を保全するため必要があると認めるときは、河川立体区域に接する一定の地下又は空間について必要最小限の範囲を限って河川保全立体区域を指定し、河川保全立体区域内における行為の制限を課すことができることとしているが、河川区域を立体的に限定してその上下の空間について自由な利用を認める場合においても、河川立体区域に接する地下又は空間から河川管理施設に及ぼされる支障を防止する必要性は依然として変わらないことから、河川立体区域をとりまく地下又は空間において重量物の集積等何らかの行為が行われ、それにより河川管理施設に支障を及ぼすような場合には、河川管理者は必要に応じ河川保全立体区域を指定し、適正な河川管理に努めること。
また、既存の河川管理施設について河川立体区域が指定された場合には、法第五四条第一項により当該河川管理施設を保全するため指定された河川保全区域について指定された状態を継続することはできないことから、当該河川立体区域の指定と同時に河川保全立体区域を指定すること。この場合において、従来の河川保全区域の指定は、法第五八条の三第五項により効力を失うとされていることから、特に廃止手続を要するものではないこと。
3 河川保全立体区域の指定範囲について
河川保全立体区域は、当該区域内の土地等の所有者又は占有者に一定の行為制限を課すことにかんがみ、法第五三条の三第二項においてその指定は必要最小限の範囲とすることとされているものであること。指定に当たっては、当該河川管理施設の構造及び種類並びに地形、地質、地表からの深さその他の状況からみて当該河川管理施設の保全に必要な最小限度と認められる範囲を指定すること。
また、河川保全立体区域を必要最小限の範囲として指定するとすれば河川保全立体区域の上側の境界と地表面が一致するような場合には、地表面における行為も「河川保全立体区域内の行為」に該当し、当該行為は制限されることとなると解されるが、そのことが一般私人の側からも明確となるよう、このような場合には地表面よりも原則として一メートル高い部分までを河川保全立体区域として指定すること。
4 河川保全立体区域における行為の制限について
(1) 制限される行為について
法第五八条の四第一項各号に掲げる行為は、河川立体区域を指定する河川管理施設の保全に影響を与えるおそれのある行為として、河川保全立体区域内において河川管理者の許可を受けなければならない行為とされているものであること。
一方で、令第三五条の二各号に掲げる行為は、その行為が河川管理施設の保全上支障がないと認められるとともに、一般個人住宅の建築等の通常の土地利用を特に河川管理者の許可を受けることなく可能とする観点から、許可を要しないこととされたものであること。
(2) 河川保全立体区域内における行為の許可の審査基準について
河川保全立体区域における許可を行うに当たつては、河川管理施設の保全上の支障の有無について審査を行い、当該河川管理施設の保全上の支障を生じるおそれがない場合に許可をすることができるものであること。
三 河川予定立体区域について(法第五八条の五から第五八条の七まで関係)
1 河川予定立体区域の趣旨
河川立体区域となるべき一定の地下又は空間について河川工事を施行するため支障のある行為については、これまでは河川予定地の制度により制限してきたところであるが、現行の河川予定地がその効力が区域の上下の範囲すべてに及ぶので、河川立体区域の範囲以外の地下又は空間についても河川予定地となる。そこで、河川立体区域となるべき地下又は空間について河川工事を施行するため支障となる行為を制限する区域として、河川予定立体区域が創設されたものであること。
このことから、河川予定立体区域は河川立体区域についてのみ指定できるものであり、かつ、河川立体区域については河川予定地を指定することはできないものであり、今回の法第五六条第一項の改正はこのことを明らかにしたものであること。
2 河川予定立体区域の指定について
河川管理者は、河川工事を施行するため必要があると認めるときは、河川立体区域となるべき一定の地下又は空間について河川予定立体区域を指定し、河川予定立体区域内における行為の制限を課すことができることとしていることから、河川立体区域となるべき地下又は空間において堅固な工作物の新築等何らかの行為が行われ、それにより河川工事に支障を及ぼすような場合には、河川管理者は必要に応じ河川予定立体区域を指定し、円滑な河川工事の実施に努めること。
また、河川立体区域が指定される河川管理施設について既に河川予定地が指定されている場合には、法第五六条第一項により当該河川予定地について指定された状態を継続することはできないことから、速やかに河川予定立体区域を指定すること。この場合において、従来の河川予定地の指定は、法第五八条の五第四項により効力を失うとされていることから、特に廃止手続を要するものではないこと。
3 河川予定立体区域における行為の制限について
(1) 制限される行為について
法第五八条の六第一項各号に掲げる行為は、河川工事の施行に支障を及ぼすおそれのある行為として、河川予定立体区域内において河川管理者の許可を受けなければならない行為とされているものであること。
一方で、令第三五条の四に規定する令第三五条各号に掲げる行為は、その行為が河川工事に客観的に支障を及ぼすおそれがないと認められるとともに、通常の土地利用を特に河川管理者の許可を受けることなく可能とする観点から、許可を要しないこととされたものであること。
(2) 河川予定立体区域内における行為の許可の審査基準について
河川予定立体区域における許可を行うに当たっては、河川工事の施行上の支障の有無について審査を行い、当該河川工事の施行上の支障を生じるおそれがない場合に許可をすることができるものであること。
四 相手方が確知できない場合の監督処分について(法第七五条第三項関係)
1 簡易代執行に関する規定を設けた趣旨
近年、河川区域内においては、車両、船舶等の違法放置物件が増加傾向にあるが、これらの物件は、河川工事の実施の支障、洪水の流下の阻害、物件が流出した場合の河川管理施設等の損傷などの治水上の支障のほか、一般公衆の自由使用を妨げ、景観を阻害するなどといった様々な面での河川管理上の支障を引き起こしているものである。
そこで、河川管理者にはこれらの違法放置物件に的確に対処することが求められているところであり、今回の河川法改正において、河川管理者が、河川区域内の違法放置物件の撤去等について監督処分を行うに当たり、過失がなくて相手方を確知できないときは、相当の期間を定めて公告をした上で、自らが監督処分に係る措置を行うこと等(以下「簡易代執行」という。)ができることとしたものであること。
2 簡易代執行制度の活用について
簡易代執行制度の創設された趣旨を踏まえ、車両、船舶等の違法放置物件のうち、特に治水上の支障等河川管理上の支障が著しく、かつ、過失なくて相手方を確知できないものについて、簡易代執行制度の活用を積極的に図り、適正な河川管理に努められたいこと。
3 簡易代執行制度を活用する上での留意事項について
簡易代執行制度については、特に違法放置物件の多い車両、船舶等について運用マニュアルを別に定めることとしているので、当該マニュアルに基づき活用を図られたいこと。