建設省河政発第六二号・建設省河環発第二一号・建設省河治発第四二号
平成一〇年六月一九日

各地方建設局長河川部長・北海道開発局建設部長・沖縄総合事務局建設部長・各都道府県土木主管部長あて

建設省河川局水政課長、建設省河川局河川環境課長、建設省河川局治水課長通達


計画的な不法係留船対策の促進について


平成一〇年二月一二日付け建設省河政発第一六号をもって定められ、建設省河川局長から貴職あてに通達された「計画的な不法係留船対策の促進について」の運用に当たっては、左記の事項に留意し、遺憾のないようにされたい。
なお、関係事項を貴管下市町村長に周知方取り計らわれたい。

一 不法係留船対策に係る計画の策定について

1 不法係留船の定義について

(1) 不法係留船とは、その係留に河川法(昭和三九年法律第一六七号。以下「法」という。)第二四条、第二六条等の規定に基づく河川管理者の許可が必要であるにもかかわらず当該許可を得ずして係留している船舶をいい、それがプレジャーボート等のレジャーの用に供するものであるか、漁船等の事業の用に供するものであるかを問わない。

ただし、不法係留船対策の実施に当たり、地域の慣行を踏まえ、生業を行うために必要な船舶とレジャーの用に供する船舶とで扱いを異にすることは、不合理ではない。したがって、漁船等の事業の用に供する船舶については、例えば、暫定係留施設への係留を優先的に認めること、港湾区域又は漁港区域との重複区域において船舶係留施設の占用を認めること等の柔軟な対応を行うこととされたい。

(2) 「係留施設を設置することなく係留する場合」の例としては、錨のみにより係留、橋脚に縄を結びつけての係留がある。
(3) 船舶の係留に当たって必要となることが想定される法第二四条及び第二六条以外の河川管理者の許可としては、第二九条の規定に基づく土石の堆積等に係る許可等がある。
(4) 「通常の一時係留でない場合」とは、人の乗降や荷物の上げ下ろしのための短時間の係留意外で、当該場所及びその周辺に反復又は継続して係留する場合である。

2 計画の策定について

(1) 不法係留船対策に係る計画(以下「計画」という。)は、不法係留船の分布状況、他の河川管理者、地方公共団体、他の公共水域管理者等の関係機関との協力関係等の地域の実態に応じて、より効率的に対策が講じられると認められる範囲ごとに策定することが望ましいため、水系又は主要な河川ごと等、適宜、その策定範囲を決定することができることとしている。
(2) 計画の策定範囲を決定するに当たっては、これら関係機関とあらかじめ十分に調整することとされたい。

3 計画の内容について

(1) 計画の検討に当たっては、暫定的な係留施設(以下「暫定係留施設」という。)の設置等の必要性と河川環境管理基本計画等の既存の計画との整合性を総合的に勘案し、不法係留船対策の促進に努めることとされたい。
(2) 重点的撤去区域について

1) 河川管理者は、河川区域内の不法係留船について撤去措置を実施すべきものであるが、実態として、河川によっては既に多数の不法係留船が存在すること等から一挙に撤去措置を執ることが困難な状況にあり、計画的かつ段階的に対策を講じる必要があるところもあることから、重点的に強制的な撤去措置を執る必要があると認められる河川の区域(以下「重点的撤去区域」という。)を設定することとしたものである。
2) 重点的撤去区域を具体的に設定するに当たっては、不法係留船が及ぼしている治水上の影響等の河川管理上の支障の程度、沿川の住民の生活環境や景観への影響の程度等を勘案して、不法係留船を撤去する必要性の高い箇所から順次設定し、その範囲を拡大していくこととされたい。

(3) 暫定係留区域について

1) 暫定係留施設の区域(以下「暫定係留区域」という。)を設定することが可能な場所は、「洪水時、高潮時における治水上の支障のおそれが少なく、かつ、河川環境の保全上も比較的問題のない場所のうち、係留施設の適切な構造及び係留船舶の適切な管理方法と相まって、治水上及び河川環境上支障のない場所」のほか、治水上の支障等がなく恒久的な係留・保管施設の設置が可能な場所を含むものである。

なお、治水上の支障等の判断は、各河川の状況に応じ、個別具体的に行われたい。

2) 暫定係留区域を設定する範囲は、河川管理者が法第二四条の規定に基づき許可することとなる暫定係留施設及び当該施設に係留する船舶の占用の範囲とするものとする。

(4) 年次計画について

1) 計画は、不法係留の状況、係留・保管施設の整備の状況等を勘案しながら策定するものであり、これらの状況に変化が生じた場合は、適宜、見直しを行うこととされたい。また、策定された計画については、事務所等において閲覧に供するなどにより公表することとされたい。
2) 重点的撤去区域の設定に係る年次計画及び同区域における不法係留船の強制的な撤去措置に係る年次計画は、暫定係留区域が存しない場合においても定めるべきものであることに留意されたい。なお、特にこの場合においては、陸上での保管を促進するための斜路及び船舶上下架施設の設置、既存の恒久的係留・保管施設の活用等に努め、強制的な撤去措置が円滑に実施できるよう配慮されたい。
3) 暫定係留施設に係留する船舶は、当該施設の占用許可期間が終了するまでには、陸上での保管も含め、適法な他の係留・保管場所に移動すべきものであるため、暫定係留施設の設置に係る年次計画を策定するに当たっては、将来的な河川、他の公共水域及び陸域における恒久的係留・保管施設の整備計画、斜路及び船舶上下架施設の設置の整備計画を勘案すること、これらの施設の整備の促進に努めること等により、占用許可期間終了時点で混乱を生じないよう十分留意されたい。
4) 河川における恒久的係留・保管施設の整備については、公的主体等による整備を促進するとともに、河川環境整備事業(河川利用推進事業)を適切に活用されたい。
5) 河川区域内における船舶係留施設の占用については、「河川敷地の占用許可について(平成六年一〇月一七日建設省河政発第六一号 建設事務次官通達)」において占用が可能な工作物として例示されており、その設置に当たって河川管理上必要とされる一般的技術的基準は「工作物設置許可基準について(平成一〇年一月二三日建設省河治発第六号 建設省河川局治水課長通達)」に定められているところであり、治水上及び河川環境上支障のない場所については、その占用許可申請については前向きに応じていく方向で積極的に対処することとされたい。
6) 「他の公共水域及び陸域における恒久的係留・保管施設(民間主体が整備するものを含む。)の整備に係る計画」については、その実行について河川管理者が直接関与できるものではないため、計画に添付することとしたものである。しかしながら、これらの施設は不法係留船対策を円滑に実施する上で大きな影響を有するものであるため、計画策定段階及び実施段階において、当該施設の設置者等と十分な調整を行い、不法係留船対策が円滑に実施されるよう努められたい。

4 計画の策定手続について

(1) 不法係留船に係る問題は、その影響が河川区域内のみならず沿川地域の住民生活にも及んでいること等から、地域の合意の下で対策を実施することが重要である。このため、河川管理者が計画を策定するに当たっては、河川管理者、地方公共団体、他の公共水域管理者、警察機関、学識経験者等からなる河川水面の利用調整に関する協議会(以下「協議会」という。)を設置し、その意見を聴くこととしたところである。具体的な協議会への参加者の選定については、各河川管理者において地域の実態に応じて適正に判断されたい。なお、地方公共団体の担当部局としては、原則として、河川関係部局が当該地方公共団体の立場も代表して協議会に参画することで足りるものと考える。また、必要に応じ、漁業担当部局にも参画を求められたい。
(2) 警察機関の協議会への参加については、別紙のとおり、警察庁生活安全局地域課長から各管区警察局保安(公安)部長等あて通知されているので参考とされたい。
(3) 港湾管理者及び漁港管理者については、平成一〇年四月二八日付け建設省河川局水政課長、河川環境課長連名通達により通知したとおり、運輸省港湾局及び水産庁よりそれぞれ当該通達と同様の連絡がなされているので、このことを前提として協力を求められたい。
(4) 協議会の設置は、計画の単位ごとに行うことが基本であるが、地域の実態に応じて適切に対応されたい。
(5) 協議会は、地域住民の意見を聴きつつ、計画の内容を検討することとしているが、地域住民の意見聴取の具体的方法については、公聴会、説明会の開催等地域の実態、計画案の内容等を踏まえ、適切に選択されたい。

二 重点的撤去区域における不法係留船対策の実施について

(1) 法第七五条第三項の規定により、河川管理者が不法係留船の所有者を過失なくして確知できない場合には、簡易代執行を行うことができることとされている。日本小型船舶検査機構へ船舶検査番号に基づく照会を行ったにもかかわらず所有者が判明しない場合等には河川管理者には過失がないと考えられ、簡易代執行を行うことができることから、積極的に簡易代執行を実施されたい。

なお、同機構への照会等は、文書により行うとともに当該文書を相当期間保存されたい。

(2) 行政代執行法(昭和二三年法律第四三号)第二条の規定に基づく代執行又は簡易代執行を実施する場合には、撤去した船舶を河川管理者において善良な管理者の注意をもって保管する必要がある。このため、河川管理者が管理する土地以外の場所で保管する場合は、あらかじめ、船舶の係留・保管施設や空地等の保管場所の管理者と協議した上で、適切に保管されたい。
(3) 強制撤去の実施に当たっては、その円滑な実施を期するため、必要に応じ、あらかじめ地方公共団体、警察機関等の関係機関と連絡調整を行われたい。
(4) 重点撤去区域を定めた場合の公示内容としては、1)当該区域の範囲、2)河川管理者が個別に通知等する期限までに不法係留船を適法な係留・保管場所に自主的に移動させない場合には強制的に撤去すること、3)近隣に存する適法な係留・保管場所に関する情報等を挙げることができる。

三 暫定係留区域における不法係留船対策の実施について

(1) 暫定係留施設の設置主体は、河川における不法係留船対策の一環として暫定係留施設の設置及び維持管理を適正に行うという重大な責任を担うこととなるため、その責任を果たし得る主体として地方公共団体、第三セクター等の公的主体に限定したところであり、この趣旨からして、水産業協同組合法(昭和二三年法律第二四二号)第二条に規定する漁業協同組合を設置主体として認めて差し支えない。

なお、第三セクター等を設置主体とするときには、組織・体制等の暫定係留施設の占用主体としての適格性について十分留意されたい。

(2) 暫定係留施設の構造については、係留環等からなる極めて簡易なものであることを原則とし、各河川の状況に応じ、治水上の支障等が生じないよう適切なものとされたい。
(3) 洪水時、高潮時等の係留船舶の撤去又は移動の方法については、各河川の状況、各施設の構造等に応じ、治水上の支障を生じない適切な方法とし、このことを占用許可条件とされたい。
(4) 「暫定係留施設が、他の水面利用に著しい支障を与え」る場合とは、例えば、当該施設の設置により河道を狭めることとなり、当該河川における船舶の円滑な通航を阻害する場合をいう。
(5) 暫定係留施設に係留していた船舶が、当該施設の占用許可期間経過後に適法な係留場所に移動していない場合には、当該船舶は河川法に基づく強制的な撤去措置の対象となるものである。
(6) 不法係留船問題が生じている大きな要因として、不法係留をしている船舶の所有者の特定が困難であることを挙げることができる。このため、暫定係留施設に係留する船舶については、河川管理者が調製し、保管する登録簿に、当該船舶の所有者名、所有者の住所等の必要事項を当該施設の設置主体から登録させるとともに、当該登録簿と照合することにより所有者名等が確定可能なナンバープレートの船舶の船外への貼付を義務づけることとしたものである。

各河川管理者において、登録簿の作成、ナンバープレートのナンバーの付与を行うとともに、必要な占用許可条件を付すこととされたい。この場合、ナンバープレートにより登録している河川管理者等が識別できるよう、ナンバープレートには河川管理者名の略号(例えば、関東地方建設局は「関東」)等を明記するととされたい。ナンバープレートの貼付は、船舶の両舷中央に行うことが望ましい。
なお、ナンバープレートの作成は、暫定係留施設の占用主体が行うことを想定している。

(7) 暫定係留施設の使用料は、当該施設の設置費用、管理費用に比して公正妥当なものとし、あらかじめ河川管理者と協議の上定めることとし、このことを占用許可条件とされたい。

四 斜路及び船舶上下架施設の設置について

(1) 斜路及び船舶上下架施設は、船舶の陸上保管を促進するために不可欠な施設であり、また、不法係留船対策を円滑に実施する上においても重要な施設であるため、その占用による設置を積極的に促進されたい。
(2) 民間主体が設置する斜路等についても、当該施設が不特定多数の利用に供されるものである等不法係留船対策に有効であると認められる場合には、占用許可申請に前向きに応じていく方向で積極的に対処することとされたい。

五 その他

計画的な不法係留船対策の促進に当たり疑義が生じた場合は、当職に相談の上、その促進に努められたい。


別紙

(平成一〇年三月三日)
(警察庁丁地発第二三号)
(各管区警察局保安(公安)部長、警視庁地域部長、各道府県警察(方面)本部長あて警察庁生活安全局地域課長)

「河川水面の利用調整に関する協議会」への参画等について

近時、水上レジャーの振興等に伴い、河川区域内の不法係留船(河川管理者の許可を受けずに河川区域内に係留されている船舶をいう。)が、急激に増加する傾向にある。
河川区域内の不法係留船は、河川における水上交通の安全と円滑を阻害し、水難等の事故、河川管理施設の損壊等を発生させるなど、水上安全上、憂慮すべき障害となっている。
警察では、水上安全条例等の規定に違反する行為の指導取締りを鋭意推進するなどにより、不法係留船対策に万全を期しているところであるが、この度、建設省では、不法係留船対策の更なる充実を図るべく、同省河川局長から各地方建設局長等に対し、不法係留船対策に係る計画の策定、河川水面の利用調整に関する協議会の設置等を示達したところである。
これに伴い必要となる警察措置等は、下記のとおりであるから、各都道府県警察の水上警察担当部門にあっては、十分に留意の上、事務処理上遺漏のないようにされたい。
1 通達の概要について(別添参照)

本件の建設省河川局長通達の概要は、以下のとおりである。
(1) 計画の策定

河川管理者は、地域の実態に応じて、不法係留船が多い河川等について、不法係留船対策に係る計画(以下「計画」という。)を策定することとされた。

(2) 計画により設定される河川の区域

ア 重点的撤去区域

不法係留船を、重点的に、強制的な撤去措置により撤去すべき区域として、「重点的撤去区域」を設定することとされた。

イ 暫定係留区域

暫定的な係留施設を設置し、船舶の係留を認めても、治水上、環境保全上の問題等がない区域として、「暫定係留区域」を設定しうることとされた。

ウ 重点的撤去区域及び暫定係留区域以外の河川の区域

不法係留船に対し、原則として、強制的な撤去措置以外の適切な指導を行うこととされた。

(3) 計画の内容

ア 重点的撤去区域に係る年次計画

同区域の設定、撤去対象船舶数等同区域における強制的な撤去措置に関する年次計画を定めることとされた。

イ 暫定係留区域の年次計画

同区域における暫定的な係留施設の収容能力等暫定的な係留施設の設置に関する年次計画を定めることとされた。

ウ その他の年次計画

恒久的係留・保管施設の整備等に関する年次計画を定めることとされた。

(4) 計画の策定手続

地域の実態に応じて水系又は主要な河川ごと等に、河川管理者、地方公共団体、他の公共水域管理者、警察機関、学識経験者等からなる「河川水面の利用調整に関する協議会」(以下「協議会」という。)を設置し、協議会において、地域住民の意見を踏まえて計画の内容を検討した上、河川管理者が協議会の意見を聴きつつ、計画を策定することとなる。

(5) 計画に基づく不法係留船対策の実施

重点的撤去区域及び暫定係留区域において執るべき措置等が示達された。

2 必要となる警察措置について

警察は、従前より、河川における水上安全を確保する責務を有する立場から、諸々の不法係留船対策を実施してきたところであるが、水上安全をより効果的に確保するためには、河川管理者と密接な連携を図って不法係留船対策を講じていくことが必要不可欠である。この意味において、協議会に警察の参画が盛り込まれたことは、意義のあることと考えられる。
よって、各都道府県警察の水上警察担当部門にあっては、河川管理者等から協議会への参画を求められたときは、これに応ずるとともに、協議会においては、計画策定に関し、水上安全確保の観点等から積極的に所要の意見を申し述べることとされたい。


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