建設省河防海発第九二号
平成一〇年六月四日

各都道府県知事及び指定市土木主管部局長あて

建設省河川局防災・海岸課長通知


「美しい山河を守る災害復旧基本方針」(ガイドライン)の策定について


標記について、別添のとおり策定したので通知する。今後の災害復旧事業については、この「美しい山河を守る災害復旧基本方針」(ガイドライン)に基づき、すべての河川において河川環境の保全に配慮した災害復旧事業の実施が図られるよう留意されたい。
なお、査定官申合事項における「別に定める基準」は、本基本方針の主要事項により構成したものであるので、念のため申し添える。
おって、貴管下市(指定市を除く。)町村に対してもこの旨周知徹底方取り計らわれたい。



(別添一)

美しい山河を守る災害復旧基本方針

建設省 河川局 防災・海岸課
I はじめに

旧河川法が制定された明治二九年(一八九六年)から数えて一〇一年目に当たる平成九年(一九九七年)は、河川行政の新しい世紀のスタートにふさわしい記念すべき年となった。言うまでもなく、これまで長年にわたって積み重ねてきた環境をめぐる様々な試みの集大成として「河川環境の整備と保全」を明確に位置付けた河川法の改正(平成九年六月四日公布、第一四〇国会)が行われたことを指しているが、これは河川行政の質的な大変革を名実ともに内外に宣言したに等しい。
平成九年度を初年度とする第九次治水事業七箇年計画においても、「コンクリートのない川づくり」もしくは「コンクリートの見えない川づくり」を目指してすべての河川で多自然型川づくりを実施することとしている。
災害復旧事業は、通常の河川改修とは実施の考え方・体系が異なるだけでなく、現に被災を受けた施設を復旧することから、諸条件には厳しいものがあるとは言え、従来のようなコンクリートむき出しの護岸等による復旧は、改正された河川法を勘案するに、基本的な考え方において河川管理者が行うものとしては不適当と言わざるを得ない。
このようなことから、本基本方針は、河川内で行われるすべての災害復旧事業において、自然環境の保全に配慮した復旧を実施するために、以下のような事項に配慮し作成したものである。
本基本方針は、復旧に当たって対象とする設計外力(流速等)の設定方法、洗掘等河床変動の考慮、及びそれらに応じた適切な復旧方法選定の基本的な考え方を示すものである。
(一) コンクリートを使用した護岸等の構造物は、我が国の洪水や土砂災害に対して十分な強度を有することから多くの箇所で施工されているが、想定以上の外力を受けた場合や河床洗掘・土砂の吸い出し等に対する配慮の程度によっては被災することもある。
(二) 施設の復旧に当たっては、治水上、被災原因の分析による適切な設計外力の設定、並びに洗掘等河道内の変動への対処を考慮することが不可欠であり、その上で多様な工法の中から自然環境の保全に配慮した適切な復旧方法を選定する必要がある。
(三) 自然の材料である木や石の使用や覆土による工法は、コンクリートに比べると強度的に劣ることは否定できないが、適切に組み合わせて使用することにより、想定される大部分の範囲の外力に耐え得る強度を持つ。環境に配慮した復旧であるからと言って適用を誤り、再度災害を被ることは許されないことは当然である。

要は、自然の材料を組み合わせて作る構造物の限界を理解し、適用を誤らないことが肝要である。

本基本方針は、自然環境の保全に配慮した災害復旧事業の実施のために、河川管理者が事前にやっておくべき調査、適切な自然の復元に関する留意事項の基本的な考え方や参考事例を示すものである。
(一) 現状において、自然環境に配慮した復旧がなされていない原因は、1)治水機能の復旧、取り扱いの容易さ及び経済性を重視する観点からすると、“コンクリートブロック”が優れた利点を有していたこと、2)自然環境の価値に対する評価が適切になされていなかったことが大きいが、このほか、

・自然環境に配慮した工法に関するノウハウの蓄積が少ないこと
・設計法等の基準が標準化されていないこと
・経済性を証明するための比較設計に費用を要し、かつ補助されないこと
・査定時に認められなかった場合には、設計等で手戻りが生じること
・草刈り等の維持管理の軽減

等により、地方公共団体が申請を避ける傾向があることもあげられる。
(二) 自然環境は、本来多様な様相を有するものであり、自然環境の保全には画一的な仕方といったものはなく、河川管理者はふだんからの創意・工夫によってその地域や場所毎にふさわしい復旧方法を見いだす必要がある。
(三) そのためには、動植物の生息調査のほか、河道の縦横断形状や河床材料等河川特性の把握、過去の被災履歴の整理や被災原因の分析などの事前調査を行っておくことが望ましいことから、その内容や整理方法についても記述している。
(四) さらには、適切な自然の復元を期待して行う河岸や水際部での様々な留意事項についても基本的な考え方とともに、多くの参考事例も紹介している。
本基本方針は、これに基づいて適切な災害復旧が実施されることにより、災害復旧事業におけるコスト及び全体事業費の縮減を目指すものである。
(一) 現下の厳しい財政事情の下、限られた財源を有効に活用し、効率的な公共事業の執行を通じて社会資本整備を進め、本格的な高齢化社会の到来に備えるためには、公共工事コストの一層の縮減を推進していく必要があるとの認識に基づき、政府は平成九年一月に、「公共工事コスト縮減対策に関する行動指針」を策定した。
(二) 災害復旧事業においても、“鉄線籠型護岸”等の採用を進めているが、従来から経済性を重視してきたこともあり、これらの現行の工法だけを採用している限り、縮減の余地は少ない。
(三) 環境に配慮した河川事業は、コストが増加すると誤解している向きもあるが、本基本方針に示した工法の多くは、コンクリートを使用した従来の工法よりもコスト縮減となっている。
(四) ただし、河床が著しく急勾配であるために流速が大きく、大きな石が流れ下るような最上流部の山間地に位置する一部の河川では、技術的限界から環境ブロック護岸やポーラスコンクリート護岸等を採用せざるを得ず、事業費が従来工法より増える場合がある。これについては、従前有していた自然環境の復旧を犠牲にすることは適当でないことから、更なる技術開発等によりコストの縮減に努力する必要がある。

II 本基本方針の使い方

(一) 本基本方針は、自然環境の保全に配慮した災害復旧の実施のために考慮すべき基本的な事項をとりまとめたものであり、今後の災害復旧事業の実施は、これに沿って行われることになる。

なお、技術開発や全国での実施例を受けて工法の改良や追加を適宜行うものとする。

(二) 本基本方針では、築堤河川の漏水・浸透対策や抜本的な洗掘対策が除外されており、全ての河川災害対策を網羅したものとなっていない。

災害の発生過程は様々であり、本基本方針に示す復旧対策によるだけでなく、被災原因や河道特性等を的確に把握し、適正な復旧対策について今後とも研究し、その内容の充実を図ることが重要である。

(三) 災害復旧事業は、申請者たる各河川管理者の創意・工夫を必要条件とし、都道府県によって異なる諸条件に適合しつつ実施されるべきことは当然のことである。さらに、自然環境の保全に配慮した災害復旧の実施は、従来に比べて手間と時間がかからざるを得ない。

したがって、各都道府県は、それぞれの地域固有の条件等を考慮の上、本基本方針に沿った独自の「美しい山河を守る災害復旧事業実施方針」を事前に策定するものとする。

目次

第一章 総説
一―一 環境保全に関する今日の状況
一―二 河川行政における環境保全への取り組み
一―三 河川法改正と河川環境
第二章 災害復旧事業における環境保全
二―一 災害復旧事業における環境保全の現状
二―二 災害復旧事業における環境保全の必要性
二―三 災害復旧事業における環境保全の基本的な考え方
第三章 河川特性の把握(川の見方)
三―一 河川特性の把握の必要性と心構え
三―二 机上査定、現地調査の方法
三―三 河川特性の記入項目様式
第四章 河岸の被災原因
四―一 被災原因の把握の必要性
四―二 災害発生に関与する力
四―三 護岸の被災原因
四―四 天然河岸の被災原因と被災形態
第五章 護岸構造選定の手順
五―一 護岸構造の考え方
五―二 護岸選定の手順と考慮する諸元
五―三 法勾配等横断形状の決め方
五―四 粗度係数
五―五 設計流速
五―六 護岸構造選定
第六章 護岸構造別設計上・施工上の留意点
六―一 植生護岸
六―二 連節ブロック護岸
六―三 木系護岸
六―四 かご系護岸
六―五 自然石護岸
六―六 複合型護岸
六―七 基礎工
六―八 根継工
六―九 護岸の付属工
第七章 覆土
七―一 災害復旧における覆土の基本的考え方
七―二 覆土の設計・施工
第八章 根固工・横断工作物
八―一 根固工の基本
八―二 最大洗掘深
八―三 根固工の設置の考え方
八―四 根固工の構造選定の考え方
八―五 根固工構造別設計上・施工上の留意点
八―六 横断工作物
第九章 多様な水際部及び低水路
九―一 水際部処理のあり方
九―二 多様な低水路のあり方
九―三 魚類等の生育環境に配慮した工法

第一章 総説

一―一 環境保全に関する今日の状況
公共事業における環境への配慮は世界的な潮流であり、我が国においても重要な政策課題である。

≪解説≫

◇ 近年の社会経済情勢の変化は著しいものがあり、国内ではバブル経済の崩壊後、右肩上がりの経済の終焉や本格的な高齢化・少子化社会の到来などと相まって国民のニーズが多様化し、物質的な豊かさに加えて「真の豊かさ」が求められる社会となっている。
◇ 公共事業についても、防災・災害対策の面からもより一層の社会資本整備が図られる一方で、効率的な社会資本投資のみならず、ゆとりやうるおいを生み出す社会資本整備が求められ、特に環境対策は重要な課題となっている。
◇ 環境問題については、一九七二年(昭和四七年)から国連の場で議論されているが、一九九二年(平成四年)ブラジルのリオデジャネイロで開かれた地球サミット(環境と開発に関する国際会議)において、野生動植物の種の尊重と未来世代の生存権の保証を旨とする「環境倫理」が確立されて以来、地球環境の保全は世界の潮流となっている。既に、諸外国では、アジェンダ二一に基づく環境保全のための行動計画が実行段階にあり、環境保全を図りつつ開発を推進するため様々な取り組みが行われている。
◇ 日本ではアジェンダ二一行動計画に基づき、一九九三年(平成五年)「環境基本法」及び「絶滅のおそれのある野生生物の種の保存に関する法律」が成立し、翌年には環境基本計画、公共投資基本計画を策定している。また、一九九七年(平成九年)「環境影響評価法」が成立し、「財政構造改革の推進について」(六月三日閣議決定)では、公共事業の実施に際し「環境及び福祉の充実への配慮」を行うべきことを明記している。
◇ 建設省では、一九九四年(平成六年)環境に関する中長期的な政策課題と施策の方向を「環境政策大綱」として取りまとめ、その実現に向けた活動を行っている。

「環境政策大綱」では、建設行政における環境の内部目的化を基本理念として掲げ、住宅・社会資本整備を通じてゆとりとうるおいのある美しい環境を形成することとしている。また、環境政策の具体的な推進方策として、多自然型川づくり、エコシティ、エコロード等の環境リーディング事業を推進することとしている。

◇ 社会構造の様々な面でグローバルスタンダードが求められる今日、今後とも諸外国の動向にも着目しつつ、環境保全対策を推進していく必要がある。

各種世論調査からも、河川環境の保全に対する国民のニーズがうかがえる。

≪解説≫

◇ 「人と水のかかわりに関する世論調査」(平成六年九月総理府調査)

水に親しめる場所として「河川」を挙げた者が六五%で、その理由として「自然を感じることができる」「子供が遊べる」「水に触れることができる」の順に高い割合になっている。

◇ 「これからの国土づくりに関する世論調査」(平成八年六月総理府調査)

自然災害防止と自然の維持について「費用が多くかかっても、自然の維持に配慮した防災措置をとるべきだ」と答えた者が七三・九%で、今後の国土づくりで力を入れる点について「災害に対する安全性の確保」(四九・八%)「自然環境の保護」(三九・三%)を挙げた者が多い。

◇ 「河川に関する世論調査」(平成八年九月総理府調査)

護岸の整備に関して「洪水に対する安全性を下げないように工夫しながら、河川の景観や環境、河川利用のことも考えて、人と自然に優しい構造を採用すべきだ」と答えた者が七八・六%で、このうち「これまで既に整備されてきた護岸もつくりかえるべきだ」「河川環境を考慮した上で、必要な護岸に限ってつくりかえるべきだ」と答えた者が合わせて七九・六%に達している。

◇ 「公共事業費に関するアンケート調査」(平成九年四月財政構造改革会議調査)

予算配分比率を増やすべき事業として、中央官庁、市町村とも「水質浄化、緑地整備など河川の環境整備」を上位に挙げている。

一―二 河川行政における環境保全への取り組み
河川環境の保全については昭和四四年から取り組んでおり、その集大成として平成九年に河川法の改正を行った。

≪解説≫

◇ 昭和四四年 河川環境整備事業(河道整備、河川浄化等)

河道整備事業:環境護岸、高水敷等の整備を行い、良好な河川環境の形成を図る。
河川浄化事業:汚泥浚渫、浄化用水の導入等により水質浄化を行い、清浄な流水の確保を図る。

◇ 昭和五六年 河川環境管理基本計画

親水的な利用を目指す「整備ゾーン」、自然志向の利用を図る「自然利用ゾーン」に加え、いち早く河川空間自然を保全する「自然ゾーン」を位置づけた。
平成九年までに、一級河川一〇九水系のすべてと、七六七の二級水系で策定済み。

◇ 昭和六二年 ふるさとの川整備事業

河川が本来有する自然環境の保全や周辺環境との調和を図りつつ、地域整備と一体となった河川改修を行う。

◇ 昭和六三年 桜づつみモデル事業

自然的、社会的、歴史的環境等の背景により、特に河川の緑化を推進する必要のある地域について、堤防を強化するとともに桜等樹木の植樹を行う。

◇ 昭和六三年 ラブリハー制度

ボランティア活動として堤防の草刈り等を行う住民に対して、河川敷を住民の植栽や花壇としての利用のために開放し、基金等により費用を補助する。

◇ 平成二年 河川水辺の国勢調査

河川環境の観点から、定期的、継続的に河川に関する基礎情報の収集整備のための調査を実施する。

◇ 平成二年 多自然型川づくり

河川改修等に当たって、瀬と淵を保全・再生し、川幅を広くとれるところは広くし、法勾配は緩勾配とし、植生や自然石を利用した護岸を採用するなどの自然の川の持つ構造的な多様性を尊重し、また、生物の良好な育成環境に配慮しつつ、川が本来有している多様性に富んだ環境の保全を図る。

◇ 平成三年 魚がのぼりやすい川づくり推進モデル事業

魚類の遡上環境の改善を図るため、学識経験者の指導・助言を得ながら、堰、床固、ダム、砂防ダム等の改良、魚道の設置・改善、魚道流量の確保等を行う。

◇ 平成七年 「今後の河川環境のあり方についての答申」

(平成七年三月三〇日河川審議会答申)

河川環境の保全と創造の基本方針として、1)生物の多様な生息・生育環境の確保、2)健全な水循環系の確保、3)河川と地域の関係の再構築を掲げ、河川環境に関する施策の推進について提言を行っている。なお、災害復旧事業についても「『多自然型川づくり』を広く普及させるとともに、生物の生息・生育環境への配慮を強化すること」と述べている。

◇ 平成七年 河川再生事業

市街地の河川において、周辺の環境に対し河川環境が著しく劣悪な河川を、川本来の姿に再生し、地域の豊かな生活環境を創出する。

◇ 平成八年 「二一世紀の社会を展望した今後の河川整備の基本的方向について」

(平成八年六月二八日河川審議会答申)

明治以降続けられてきた近代治水一〇〇年の歴史を振り返り、その反省を踏まえて、二一世紀に向けた安全で安心できる国土の形成(安全)・自然と調和した健康な暮らしと健全な環境の創出(環境)・個性あふれる活力ある地域社会の形成(活力)を目標とする河川整備や、総合的水行政のあり方について提言を行っている。

◇ 平成八年 「社会と経済の変化を踏まえた今後の河川制度のあり方について」

(平成八年一二月四日河川審議会答申)

河川制度をとりまく社会経済状況の変化に対応するため、河川法の目的への環境の位置付け、水と緑のネットワーク整備等、河川制度の改正の方向について提言を行っている。

◇ 平成九年 第九次治水事業七箇年計画
「自然を生かした川」の整備延長

区分
素材・工法タイプ
延長
コンクリートを使わない川
A 植生による川
二、三〇〇km
 
B コンクリートのない川(石・木材等)
一、四〇〇km
コンクリートをやむを得ず使う川
C コンクリートの見えない川(コンクリートの覆土等)
二、〇〇〇km
 
D コンクリートの見える川
一、六〇〇km
 
七、三〇〇km

※ 河川の中上流部のような比較的流れが急な箇所においては、堤防法面のコンクリートを土で覆い、その上に植栽等を施す。(Cタイプ)
※ 河川の中上流部で非常に流れが急な箇所においては、コンクリートを使用するが、可能な限り自然を活かした川となるように新たな技術開発を行う。(Dタイプ)

◇ 平成九年 河川法改正

河川行政において水質、生態系の保全、水と緑の景観、河川空間のアメニティ等の国民のニーズ増大に答えるため、河川法の目的として治水、利水に加え、「河川環境の整備と保全」を位置付けた。

一―三 河川法改正と河川環境
河川法の目的に「河川環境の整備と保全」を明記したことにより、今後、災害復旧事業を含め、全ての河川で多自然型川づくりを積極的に推進していくこととなる。

≪解説≫

◇ 昭和三九年に制定された河川法は、もともと治水・利水を主眼としており、「河川環境」を明確に位置付けたものではなかった。動植物の生態系等自然環境の保全、潤いのある水辺空間の保全・整備等の観点は、「河川の適正な利用」、「流水の正常な機能の維持」といった目的規定では促え難く、正面から「河川環境」として促え直した。
◇ 環境基本法の精神を踏まえ、河川の持つ多様な自然環境や潤いのある水辺空間に対する国民のニーズに対応するため、治水・利水のみならず環境も見据えた総合的な河川管理へ転換することとなった。
◇ 「河川環境」とは

1) 河川の流水の水量・水質や河川に生息繁茂する動植物からなる自然の生態系など、河川の持つ自然環境
2) 河川の流水の水質、河川にかかわる水と緑の景観、河川空間のアメニティ、人と川との触れ合いなど、河川と人とのかかわりにおける生活環境を意味する。

◇ 「河川環境の整備」とは、多自然型川づくり等により積極的に良好な河川環境を形成することである。

また、「河川環境の保全」とは、水質の維持、優れた自然環境や景観を有する区域の保全、河川工事等が環境に与える影響を最小限に抑えるための代替措置(ミティゲーション)等により、良好な河川環境の状況を維持することである。

◇ 河川整備基本方針

河川管理者は従来工事実施基本計画で定めていた事項のうち、全国的な整備バランスを確保し水系全体にわたって定める必要がある事項(主要地点の計画高水流量等)を河川整備基本方針として策定する。
1) 一級河川では、専門家等(河川審議会)の意見を聴いて作成。
2) 二級河川では、都道府県河川審議会の意見を聴いて作成。
3) 河川整備基本方針は公表が義務づけられている。

◇ 河川整備計画

河川管理者は、河川整備基本方針に従って具体的な整備の計画である河川整備計画を策定し、河川環境の整備と保全を図るために必要な措置等について定める。
1) 河川整備計画の策定に当たっては、地域住民、学識経験者、都道府県知事、市町村長の意見を聴く。
2) 河川整備計画は公表が義務づけられている。
第二章 災害復旧事業における環境保全

二―一 災害復旧事業における環境保全の現状
災害の早期復旧に多大な貢献をしてきた災害復旧事業は、一方で画一的で多様性のないコンクリートだらけの川を出現させてしまった。

≪解説≫

◇ 公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法(以下、「負担法」という。)が制定された当時は、河川の整備水準が低かったことから全国的に洪水被害が頻発していた。このような状況下において、災害を早期に復旧し、民生の安定を図ることは極めて緊要な課題であるとともに、広く国民の要望するところでもあった。
◇ 負担法を受けた「要綱」、「査定方針」、「査定官申し合わせ」等が、治水機能の復旧を重視していることは当然のことであり、これまでの災害復旧事業は災害の早期復旧と再度災害の防止に多大の貢献を果たしてきた。
◇ コンクリートを使用した護岸や根固工は、洪水等の外力に対して十分な強度を有し、入手や施工が容易で、相対的なコストも安価であったことから、これまで多くの河川で採用されてきた。
◇ しかしながら、環境機能を有していた“天然河岸”であってもコンクリートを使用するなど、その結果として、全国的に画一的で多様性のないコンクリートだらけの川を出現させてしまった。

“鉄線籠型護岸”等の実施は、環境機能に配慮したものであるが、どちらかというと経済性重視に重みがおかれており、他の環境保全型の工法についても実施を進める必要性がある。

≪解説≫

◇ 自然環境の保全を重視する世論の高まりに配慮し、災害復旧事業においても“鉄線籠型護岸”等を一部で実施しているが、これは従来のコンクリートを使用した護岸に比べて費用が少なくてすむという経済性が重視されているにすぎず、植生が繁茂することにより動植物の生態系を回復しているという環境機能の重要性を鑑みれば、植生の回復しやすい環境保全型の他の工法についても積極的に実施する必要がある。

二―二 災害復旧事業における環境保全の必要性
環境の保全は、世界的な潮流であるとともに、各種の世論調査においても重要な政策課題であると認識されており、環境へ配慮した公共事業の実施は、必然の流れである。
特に、河川法が改正された状況下において、環境の保全に配慮しない災害復旧事業の実施は、河川管理者が行うものとしては不適当と言わざるを得ない。

≪解説≫

◇ 第一章で述べたように、環境への配慮は世界的な潮流であるとともに、我が国においても重要な政策課題となっていることは、周知の事実である。特に、“自然工物”である河川は、治水機能と渾然一体となって多様な自然環境が存在していることから、その自然環境の保全と整備に対する国民の要望と期待には、大変強いものがある。
◇ このような中にあって、河川法の目的に「環境の保全と整備」を位置付けた法改正を行ったが、一般の国民から見れば、河川改修であろうが災害復旧事業であろうが同じ河川管理者が行う河川の工事には違いがなく、“災害復旧事業は環境に配慮しなくてもよい”ということについて、説得力のある説明を行うことはできず、また、理解を得ることも不可能に近いと言わざるを得ない。

二―三 災害復旧事業における環境保全の基本的な考え方
今後の災害復旧においては、すべての河川で環境の保全に配慮した「コンクリートのない川」もしくは「コンクリートの見えない川」を目指す。

≪解説≫

◇ コンクリートむき出しの護岸や根固工、平らに均された変化に乏しい河道は、河岸での植生の繁茂を不可能にし、昆虫類の生息も妨げた。さらに、水際部の植生や多孔質性が失われることにより魚類・両生類等の生息条件を著しく悪化させてしまった。
◇ そして、我々の心に潤いをもたらし、心を豊かにしてくれた美しい山河の風景も失われてきた。
◇ 河川法の改正、及びそれに至る様々な努力については、第一章で述べたとおりであり、災害復旧においても原則としてすべての川で、木や石といった自然の素材を使用した「コンクリートのない川」、もしくは覆土等により植生が繁茂することによる「コンクリートの見えない川」を目指す。

瀬や淵を残すなど被災前に有していた自然環境を大きく改変しない。

≪解説≫

◇ 河川は、流れが持つ侵食・運搬・堆積作用によりその形状は常に変化するものであり、自然はその変化する形状に合わせて自らの適応力・回復力によって形成されるものであることから、被災前に形成されていた状態が復旧に際して考慮すべき自然環境といえる。
◇ これまでの河川改修では、定期断面形の計画河道に適合するように河床を平坦に整形してきたが、流水の作用によって河床が変化することは当然であり、平坦な河床がそのまま維持されることはほとんどない。直線的な計画河床は、ある洪水流量を安全に流下させる河積を計算するために便宜的に設定したものであって、実際の河床を平坦に整形すること自体はさほど重要なことではない。
◇ したがって、復旧に当たっては、被災原因となる河積を阻害している土砂の除去や深掘れ箇所の根固工の施工は当然であるが、それ以外の既存の瀬や淵、みお筋、深掘れ等、従前の状態を極力保全することを基本とする。
◇ 河積を阻害している土砂の除去や河積確保のための河道掘削を行う場合にも、低水流量時に多様な水辺環境が形成されるよう置き石や寄せ石等により変化をつけることが望ましい。
◇ 河岸に自生している樹木についても、河積阻害にならない範囲で極力残しつつ活用することが望ましい。

自然環境の保全に配慮した災害復旧とは、被災前に繁茂していた植物や生息していた魚類・両生類・昆虫等が、復旧後も自然の回復力によって被災前あるいは近傍と同程度の生態系が形成されるように配慮された構造を持つ施設に復旧することである。

≪解説≫

◇ 災害復旧は、被災した施設を“原形に復旧”することを原則とし、それが不可能な場合等は、“従前の効用”を復旧するものであり、自然環境の復旧も同様の原則に基づくことは当然である。
◇ 災害復旧における自然環境の保全は、人為的な疑似自然環境を作り出すものではないことから、樹木や種子の散布によって新たな植生を持ち込んだり、新たに淵を掘ったり、従前には生息していなかった特定の昆虫(例えば、ホタルとか)等を呼び込んだりするようなことを意図したものではない。したがって、そのような構造を持つ施設に復旧することは不適当である。
◇ 多様な様相を有するという自然環境の特質から、自然環境の復旧には、“標準設計基準”のようなものはないが、1)自然が有している適応力・回復力を活用し、2)被災前あるいは近傍と同程度の生態系が形成されるように考慮された構造を持つ施設に復旧することが基本である。

・河岸の植生に関しては、仮置きしておいた被災箇所の表土や近傍から採取した同様の植生が繁茂している土を覆土できる構造を確保する。
・水際部は、洪水時に洗掘に堪えることは当然として、植生や寄せ石・木杭等によって多孔質の構造を確保する

◇ 特に法令等により環境機能に配慮が必要となる以下のような場合は、それに適した工法とする。

・被災施設が特に環境に配慮した工法により施工されている場合。
・自然環境、歴史的風土、文化財等に関する法令により、災害復旧工法に制約を受ける場合。
その他
・上下流域、あるいは前後施設で環境に配慮した施工が行われており、これらの施設との連続性を保つ必要がある場合。
・被災箇所において、絶滅のおそれのある野生動植物の種が確認された場合

自然環境の保全に配慮した災害復旧では、被災現場や近傍から入手できる木や石など自然の素材をできる限り活用する。

≪解説≫

◇ 被災現場や近傍から入手できる木や石など自然の素材の活用は、自然環境の保全の観点から好ましいだけでなく、コストの縮減につながる場合も多い。
◇ 自然の素材を活用する場合でも、河床の砂礫の場所に巨石積護岸を施工するようなことは、その場所にふさわしい構造物とは言い難く好ましいものではない。従前の状況を大きく改変するような復旧は避けるべきである。
◇ また、河床の玉石等の過度の採取は河床の細粒化をまねき、その後の出水時に河床低下をまねくおそれがあることや従前の環境を悪化させるため、注意をする必要がある。

第三章 河川特性の把握(川の見方)

三―一 河川特性の把握の必要性と心構え

・自然環境の保全に配慮した災害復旧事業を実施するには、河川の物理特性、環境特性、周辺環境等幅広い調査が要求される。
・日頃より準備できる既往資料は常備しておく。
・地元河川利用者、学識経験者等に様々なアングルからの意見を聞く。
≪解説≫

◇ 河川環境に配慮した災害復旧事業実施のためには、被災原因や外力に応じた適切な復旧工法検討のための河川特性把握及び多様な河川環境を把握する必要がある。そのため、従来以上にきめ細かい事前準備、現地調査、文献調査が要求される。

例えば、瀬や淵、植生分布、魚の隠れ家及び、産卵場所など物理特性と生態環境を関連づけて観察する。

◇ いざというときに迅速な対応がとれるよう、特に過去の被災履歴、改修状況、生物分布、地域特性等の資料は日頃より収集整理に努めておく必要がある。

〔・河川関係(平面図、縦断図、横断図)
・地質図
・治水地形分類図
・航空写真
・河川水辺の国勢調査(建設省)
・動植物分布図(環境庁)
・自然環境情報図(環境庁)
・現存植生図(環境庁)〕

◇ 地域住民や漁業関係者、釣り人など河川利用者からの開き取りを行い、その意向、過去の状況等を把握する。必要に応じて学識経験者の指導を仰ぐなど、河川管理者のみで判断するのではなく、幅広く意見を取り入れて工法を検討する。

三―二 机上調査、現地調査の方法

・遠くから近くから、いろいろなアングルから場所を変えて治水、環境等いろいろな観点から川を見る。
・現地調査時は、ポール、巻尺、ノート、カメラ、鉛筆等を持参する。
・調査した河川特性は河川特性整理表(A表)により整理する。
≪解説≫

◇ 災害発生時には必ず担当者が直接現地に出向き、A表(「三―三」章で詳述)に従い迅速に必要事項を整理する。現地に行く回数は多いほどよいが最低一回は必ず行く。

事前調査、現地調査、解析・検討を繰り返しできればより効果が得られる。

◇ 生物を確認したらその生息環境やライフサイクルとセットで必ず確認する。

例えば、水裏部など砂泥が堆積するような環境にヨシが生育している状況や淵などの深みに生息するコイなど。

◇ 川を見る位置を変えて各場所で収集できる情報を整理する。例えば

〔1)川に行く前に水辺の国勢調査やレッドデータブックを見る。
2)川へ行ったらまず遠くの橋の上から川を眺めてみる。
3)次に川に降りてみる。
4)水の中に入って川底の砂利に触れてみる。
5)川で見た生物を図鑑で確認する。〕

川の現状を把握する段階

段階
 
見る位置
遠くから全体を見る
事務所で(机上で)
 
遠くの橋の上から
近くの橋の上から
近くで見る
河道、法肩から
水辺で
触れる
川の中に入って

川を見るテーマ(河道、生物)の一例

段階
川の周囲の地形
川の周囲の地形
一〜二
河道の蛇行
一〜二
水面幅、高水敷幅
一〜二
ワンド、淀み
一〜二
瀬と淵の分布
三〜四
瀬と淵の種類
五〜六
河床材料、湧水
段階
生物(植物を例に)
一〜三
水域と裸地と緑地
一〜三
緑地の質(樹林とヨシ原)
一〜三
群落の変化
二〜四
群落の構成種と立地環境
四〜六
水際の植生
四〜六
種の分布
五〜六
水草、水生生物

[関連知識]
○多様な河川環境(例)
〔・流れにさらされていても、砂泥が堆積するような環境(水裏部など)が形成されているためにヨシが生育している
・川は連続しているので、ある一箇所だけを見ても判断を誤る。瀬や淵ができる河川構造には、淵の上流や下流の地形が作用している。
・淵だけを残したり、創ろうとしてもいずれは消滅してしまう。瀬と淵は互いに影響を及ぼし合って存在している。
・水産の関係者や釣り人は平瀬、早瀬の他にもたくさんの細かな分類をしている。
・基本的には石の堆積の状況は流量や流速などの河道の特性で決定される。〕

三―三 河川特性の記入項目様式
“災害復旧箇所河川特性整理表”(A表)は協議時、査定時に提示する。

≪解説≫

◇ “災害復旧箇所河川特性整理表”(A表)は、河川環境に配慮した災害復旧工法立案のためには必要不可欠である。事前協議時、査定時には必ず提示するものとする。
◇ “災害復旧箇所河川特性整理表”(A表)は、申請箇所毎に作成する。

なお、被災延長が長い場合、中抜けとなる場合、左右岸に及ぶ場合などには、A表の被災状況欄にポンチ絵等で整理すること。

◇ 記入項目及び要領を以下に示す。必ず前記の机上調査、現地調査の方法を参照して実施する。
[物理的特性]

・被災延長:左右岸を含めて上流端〜下流端までの延長。中抜けしている場合も含める。
・蛇行状況:ある程度遠くから確認する。直線部か蛇行部か該当するものに○印記入。
・水衝部又は水裏部:ある程度遠くから確認する。該当に○印記入。
・既設構造物:当該箇所を含めて、上流・下流の構造物について施工年度と構造物の種類を記入する。
・横断形状:背後地盤が計画高水位より高い場合は堀込河道。

背後地盤が計画高水位より低い堤防を有する場合は有堤、無い場合は無堤と判断。
ここでは便宜的に複断面・単断面は一法か否かで判断。

・河床材料:既存の物理試験のデータがあればそれを使用。無い場合が多いので県内代表河川のデータを確保しておき目安とする。

現地では必ずメジャー等と一緒に写真撮影。

・瀬、淵:有るか無いかで記入。形状等はポール、巻尺等を使って簡易な測量を実施し、環境スケッチの欄に記入。
・河床変動:河床が上昇傾向にあるのか、低下傾向にあるのかを上・下流の状況から判断する。

[親水・空間利用]

・水深:ポール等簡易な手法で測定。水位は平常時で可。
・静水域:有るか無いかで記入。
・水質:既知データがあれば具体的に項目と単位まで記入。無ければ見た目で判断。
・利用状況:地域の人や釣り人等に利用状況・意向等を聞き取り記入。
・親水性:小学校低学甲程度を想定して、水深、横断形状、流速等考

[自然環境]

・既存の資料や聞き込み情報、現地調査時の結果をもとに記入。天然記念物、レッドデータブック、文献等既存資料は事前に確認しておく。
・残したい自然環境:例えば「緩やかな匂配で縦断的にも変化に富んだ水際や瀬、淵が交互にあり魚種が豊富…」等。

[周辺環境]

・周辺要素:あらじめの机上調査で確認しておく。

該当に○印記入。

・歴史的風土:あらかじめ机上調査で確認しておく。

有の場合、名称を記入する。

・文化財:あらかじめ机上調査調査で確認しておく。

有の場合、文化財等の名称を記入する。

・景観要素:周辺環境との調和を考慮して、河川内に残したい望ましい景観要素を記入。
・公園等:被災場所や臨接地域で関係する国立・国定公園、都道府県立公園、自然環境保全地域等

[護岸構造・根固工検討諸元] (算出手法等詳細は五章、八章参照)

・設計水深:低水路部は「設計水位−低水路平均河床高」で、高水敷部は「設計水位−高水敷平均高」で算出。
・河床勾配:申請区間だけでなく、ある程度上下流を含めて判断。
・川幅:設計水位における川幅。
・高水敷幅:高水敷幅
・合成粗度係数:低水路、高水敷、護岸各々の粗度係数を合成して算出した数値。
・代表流速:マニング式で求めた断面平均流速に補正係数を乗じて求めた流速。
・最大洗掘深:五章で算出した数値を記入。
・被災状況:被災状況や被災原因がわかるように記入する。

被災状況を写真や図面で示し、被災原因のコメントを記入する。

・環境スケッチ:被災箇所と周辺環境とのかかわりがわかるようなスケッチ又は写真を添付する。



<別添資料>




<参考文献>

(一) 森下郁子:環境を診断する―五感による生態学―、中公新書、一九八一
(二) 桜井善雄:水辺の環境学―生きものとの共存―、新日本出版、一九九一
(三) 沼田真監修:河川の生態学、築地書館、一九九三
(四) 角野康郎、遊磨正秀:ウェットランドの自然、保育社、一九九五
(五) 玉井信行、水野信彦、中村俊六:河川生態環境工学、東京大学出版会、一九九三
(六) 松本忠夫:生態と環境、岩波書店、一九九三
(七) 井手久登、亀山章編:緑地生態学―ランドスケープ・エコロジー―、朝倉書店、一九九三
(八) 竹間康弘、谷田一三、玉置昭夫、向井宏、川端善一郎:棲み場所の生態学、平凡社、一九九五
(九) リバーフロント整備センター:川の風景を考える―景観設計ガイドライン(護岸)―、山海堂、一九九三
(一〇) 桜井善雄:続・水辺の環境学―再生への道をさぐる一、新日本出版、一九九四
(一一) 島谷幸宏:河川風景デザイン、山海堂、一九九四
(一二) 杉山恵一:ビオトープの形態学、朝倉書店、一九九五
(一三) 橘川次郎:地球を丸ごと考える八―なぜたくさんの生物がいるのか?―、岩波書店、一九九五
(一四) 山本晃一:沖積河川学、山海堂、一九九四

第四章 河岸の被災原因

四―一 被災原因の把握の必要性
復旧した施設が、同じような外力によって再び被災するような事態があってはならない。このような事態を避けるためには、被災現場や周辺の状況の的確な調査によって、被災を引き起こしたメカニズムを把握し、復旧工法の選定に反映させる必要がある。

≪解説≫

◇ 被災を引き起こすメカニズムは、1)河床の局所洗掘等構造物の被災を引き起こした直接的な現象だけでなく、2)そのような現象を生じさせた原因となる外力(流速、掃流力、残留水圧等)とその作用の仕方、3)そのような外力をもたらす河道状況の相互に関連する三つの要素から構成される。
◇ 第三章で述べた“河川特性の把握”結果を基礎として、被災のメカニズムを明らかにし、適切な護岸工法の選定、根入れや根固工の設計、床固工による河床低下対策の実施等被災原因を適切に除去できる復旧方法を選定する必要がある。
◇ さらに、コンクリート護岸の施工による粗度の減少やショートカットによって従前よりも流速が速くなったために、復旧箇所やその近傍で同じような規模の洪水であっても災害が発生することもあり得ることから、復旧後の状況を推測したチェックも重要である。

四―二 災害発生に関与する力
(一) 揚力・抗力

物体周りで流線が曲がり、物体面に作用する圧力によって生じる力。厳密には表面の摩擦抵抗もこれに加わる。主流に対し直角方向に作用する力を揚力、主流方向に作用する力を抗力という。レイノルズ数が小さい場合を除いて流速の二乗、及び投影面積に比例する。

(二) 圧力

物体の面に直角方向に作用する力。平行な流れ及び流速のない場では水深に比例する(静水圧)。これに対し、流速のある場の水圧を動圧力と呼び、流れの状態によって静水圧からずれる。
礫や砂の間隙に満たされた水の圧力を間隙水圧と呼ぶ。減水時に堤防内の浸透水の排水が遅れて浸潤面が洪水位よりも高い状態になると、間隙水圧が護岸に作用する。これを残留水圧と呼ぶ。

(三) 水中重力

水中の物体に作用する重力から浮力を引いたもの。

(四) 摩擦力

摩擦面と直角方向の力に摩擦係数を乗じた力。斜面上のブロック等が移動しないための耐力の主体をなすもの。摩擦係数は摩擦力の発生する面の凹凸等の状態によって変化する。

(五) 掃流力

面に置かれた物体を動かそうとする流れの力。物体の移動は抗力・揚力・重力・摩擦力等がバランスして発生するが、こうした力の合力の作用を簡単に表記したもの。河床の砂など水深に対して小さい物体の移動状況を表すのに便利な指標である。

(六) 土の粘着力・内部摩擦

自然河岸において侵食耐力の主体をなすもので、土粒子間を化学的に結びつけている力を粘着力、粒子のかみ合わせにより生じるものを内部摩擦と称する。

粒径が細かくなるほど耐力における粘着力の割合が増大する。

図4―2―1 河岸に作用する主な外力

四―三 護岸の被災原因
護岸の被災原因を力学的な見知から以下の七つに分類し、それぞれについて破壊に至る機構を概説する。
(一) 局所洗掘が誘発する破壊

護岸基礎周辺の河床が局所洗掘して護岸の破壊を引き起こすもので、その機構はさらに二つに細分される。
(イ) 抑え土圧の低下による破壊

洗掘の発生により堤防又は河岸の抑え土圧が減少し、土がすべり破壊を起こしたり、護岸自体が自重によりずり落ちるものである。

(ロ) 空洞の発生による破壊

洗掘が護岸基礎にまで達すると、基礎の根浮きが生じ、護岸裏の土砂が流出して空洞を作る。この状態で維持されることもあるが、護岸が中途で折れて破壊・流出につながる場合が多い。

図4―3―1 河床洗掘による被災(1)
図4―3―2 河床洗掘による被災(2)

(二) 流体力によるブロックの移動・流出

平ブロックなどの目地が施工後しばらくして剥がれたりしている場合、洪水時には個々のブロックに揚力・抗力、重力等が作用する。ブロックは摩擦力で対抗するものの流体力が大きくなるとついには移動・流出する。一つのブロックが流出すると、その周辺のブロックに作用する流体力は増大し、流出範囲が次々と拡大するというものである。
図4―3―3 流体力によるブロックの移動・流出による被災

(三) 流体力によるめくれ破壊

連節ブロックなど、全体がマット状に連結かつ屈撓性を有した護岸に発生する破壊形態である。連節ブロック護岸の上流端などで、適切な端部処理がなされていない場合、端部のブロックに作用する流体力は群中のものより大きいので端部からブロックの移動が始まり、下流にその範囲を拡大してめくれるように破壊するものである。

(四) 吸い出し破壊

護岸裏法部の土砂が吸い出しを受けて流出し護岸全体が破壊に至るものである。吸い出し現象の発生のメカニズムとしては、洪水時の圧力変動により護岸の隙間から砂がピックアップされるものや、洪水減水時の残留水圧によるパイピング等が挙げられる。
図4―3―4 吸い出しによる被災

(五) 残留水による破壊

洪水減水時に堤体内や河岸土内に浸透水が取り残される残留水は、前記(四)のようにパイピングを招いたりするほか、護岸の法勾配がきつい場合は残留水圧が土圧に加わって護岸を川側に転倒させたり、土質強度を低下させてすべり破壊を招いたりする。
図4―3―5 残留水による被災

(六) 天端からの侵食破壊

護岸天端を越えるような洪水時、又は低水護岸で高水敷への乗り上げ流れや高水敷から落ち込み流れの著しいところでは、護岸天端保護工の背後から侵食され、護岸裏を空洞化して護岸の破壊を招くものである。
図4―3―6 護岸の天端からの侵食による被災

(七) 直接的な衝撃による破壊

流木等が護岸にぶつかり破壊するものである。事例としては少ないと考えられる。
図4―3―7 直接的な衝撃による被災

四―四 天然河岸の被災原因と被災形態
被災のメカニズムを記述するにはまず被災形態を分類する必要がある。ところが分類方法は、その視点より力学的な原因による分類、形態による分類など様々な方法が考えられる。ここでは一見してわかりやすい形態別分類をとることとし、それぞれについてなるべく力学的な視点から機能の説明を行う。
(一) 受食型河岸侵食

扇状地河道に多く見られる河岸侵食形態で、洪水時、河岸の流水に接している部分が掃流力によって削られ、水面上の河岸は薄く剥離するように崩落する。一洪水中において上記サイクルは同一地点で複数回繰り返され、しかもそのインターバルは他の侵食形態に比べて各段に短い。河岸土の粘着性が乏しいことがこのような侵食形態の直接の原因となっている。

(二) ノッチ型河岸侵食

河岸土が耐侵食性の異なる互層構造になっているところで発生する。洪水時のせん断力、波食などによって耐侵食性が劣る箇所が侵食されノッチを形成し、それより上部のオーバーハング状に残された部分が自重に耐えきれず崩落する。オーバーハング部の崩落後、ノッチが再発達するので継続的に河岸侵食が発生するのが特徴である。

(三) 局所洗掘型河岸侵食

河岸前面に発達した局所洗掘により河岸土の抑え土圧が減少し、すべり破壊を起こすもので、あらゆる河道で発生し得るが、規模の大きな破壊は河岸土に粘着性のあるところで発生する。

(四) 剥離型河岸侵食

流水の作用により粘着性土の表面から様々な大きさの土塊がはぎ取られて侵食される形態である。粘性土に限られる侵食形態である。
粘性土の土質特性により侵食速度がかなり異なるのが特徴である。

第五章 護岸構造選定の手順

五―一 護岸構造の考え方
護岸は、流水による侵食作用から堤防及び河岸を安全に保護するために設けるもので、その構造は法覆工、基礎工、根固工等からなり、設置に当たっては下記の事項に留意する。

・護岸の構造は、設置箇所の外力条件や河川環境の保全に適した構造を基本として施工性・経済性等を考慮する。
・護岸は、河岸等の被災状況、みお筋の変化等、現況河川の特性を十分に把握してなじみよく法線、縦横断形を定める。
・被災箇所及び上下流施設に配慮するとともに、一連の施設の改良(助成・関連)を計画する場合は、出来る限り改良計画等に支障を与えないような護岸の配置、構造とする。
≪解説≫

◇ 改良復旧については、別途資料を参照する。

五―二 護岸選定の手順と考慮する諸元
護岸構造の選定に当たっては、被災水位又は計画高水位以下の流水に対し、安全な構造となるよう被災洪水特性及び被災状況並びに河道状況を十分考慮するとともに、河川が本来有している多様な生態系の生息環境や河川特有の景観形成等に配慮する必要がある。
以下の諸元について検討し、護岸の素材、構造の選定を行うものとする。

・被災箇所の「被災状況」、「被災原因」
・河川の状況を適切に把握した「断面形状」
・周辺土地利用状況、背後地盤等に対する「安全性」
・生態系や景観等からみた「水際部」、「河床部」、「法覆部」
・外力評価に用いる、「粗度係数」及び「河床材料」
・洪水時における外力としての、「流速」、「掃流力」及び「洗掘深」
≪解説≫

◇ 護岸構造は外力を算定し、河道特性、被災状況、河川環境等を考慮して断面形状及び構造を選定する。この場合、河川特性は原則として現況諸元を用いるものとする。
◇ 瀬や淵など現状の河川形状を尊重しつつ、被災原因を十分把握して基礎構造等を決定する。
◇ 背後地の利用状況(道路と兼用し、輪荷重を考慮する必要がある場合等)によっては、土圧に対する安定性の検討が必要である。
◇ 護岸は、水際部に設置されるため、良好な河川環境が保全できるよう、生態系や景観などに配慮した構造とする。
◇ 外力評価に用いる粗度係数は、河床材料及び護岸設置箇所の状況を十分調査して決定する。
◇ 洪水時の河岸防護としての安全性を脅かす主たる外力である、流速、掃流力及び洗掘深を考慮する。

五―三 法勾配等横断形状の決め方
法勾配等の断面形状は上下流の河道状況に配慮し、下記事項に留意して設定する。

・法勾配は、自由度の高い工法を採用するためできるだけ緩勾配とする。
・淵・山付け部、樹木のあるところでは無理に緩くしない。
・河岸の位置、河床部の瀬、淵は現況を尊重し、平瀬化しない。
・河床、水際、陸上部の生態系の連続性が確保できるよう、必要に応じて勾配に変化をつける等の工夫を行う。
≪解説≫

◇ 河道の横断形状を計画する場合は、現況形状を尊重し、画一的な護岸勾配や平滑な河床面としない。
◇ 多様な工法が検討できるよう、可能な限り法勾配を緩やか(できれば1:2.0以上)にするのが望ましい。

ただし、樹木や淵、山付け部等の急勾配の箇所で、良好な河川環境が形成されている場合は、これらを保全するため緩くしない。
また、流速が大きく、土砂や転石等が流水に含まれる急流河川等では無理に緩くせず安全な護岸構造とする。

◇ 現況河岸を尊重じて法勾配を中段で変えるなど工夫する(図五―三―一)。なお、勾配に変化をつける場合は、変化部が弱点とならないよう構造上の配慮を行う。
◇ 瀬や淵など多様な河川形状を尊重するため、洗掘に対して根入れを確保し、床掘の埋戻し等により河床をレベルにしたり、一様にした施工をしないよう注意する(図五―三―二)。

ただし、寄洲の発達が深掘れの原因となっている場合は、一定の範囲の洲の除去について検討する必要がある。

◇ 生物の多様な生息、生育環境及び移動経路の確保を図るため、水中、水際、陸上部をコンクリート等で遮断しないよう工夫する。

五―四 粗度係数
五―四―一 粗度係数の考え方
流速算定に用いる粗度係数は合成粗度係数を用いるものとし、河床部、高水敷部、護岸部(法面部)の各区分毎に粗度係数を設定し算定する。
なお、ここで求める合成粗度係数(N)は、護岸選定に用いる平均流速を求めるためのものである。

≪解説≫

◇ 流速算定に用いる粗度係数は、河床材料等、設計対象地点の河道状況に応じた適切な値を用いる。
◇ 中小河川では河床材料の他に河津法面粗度の影響も無視できないので、河床部、高水敷部と護岸部(法面部)に分けて粗度係数を設定し、これらを合成して求める合成粗度係数(N)を用いるものとし、各部位毎の粗度係数(n)とその潤辺(S)により次式を用いて求める。

1) 単断面
2) 復断面

図5―4―1 各部位毎の粗度係数及び潤辺の取り方

なお、各部位に用いる粗度係数は、「5―4―2」以降により求める。
五―四―二 河床部の粗度係数
河床部の粗度係数は、河床材料の代表粒径により算定する。

≪解説≫

◇ 河床部の粗度係数(n)は、次の手順により算出するものとする。

(一) 河床部の粗度係数は、災害箇所毎の代表粒径を求め、マニング・ストリクラーの次式により算定する。

n=(Ks1/6/7.66√g)

ここで、

Ks:相当粗度(河床材料の代表粒径をm単位で使用)
g:重力加速度=九・八m/S2

・代表粒径(dR):河床材料の平均的な粒径としてよい。

河床材料のサンプリング方法としては、

1)面積格子法
2)線格子法
3)平面採取法
4)写真測定法

などがあり、「河川砂防技術基準(案)同解説」(調査編)などを参考に、これらの中から最適な手法を選んで行うものとする。

なお、代表粒径と粗度係数の関係は下表を参考としてもよい。

表五―四―一 河床部の代表粒径と粗度係数の関係

dR‥代表粒径
n:粗度係数
 
AとBの区分法
 
A
B
 
岩盤
〇・〇三五〜〇・〇五〇
 
A:河床が平坦で砂州が目立たず表層に突出する粒径の大きな石が目立たない。
B:河床の凹凸が大きく粒径の大きな石が突出する。
玉石(四〇cm〜六〇cm)
〇・〇三七 1)
〇・〇四二 2)
 
〃 (二〇cm〜四〇cm)
〇・〇三四 1)
 
 
〃 (一〇cm〜二〇cm)
〇・〇三〇 1)
 
 
粗礫〔大〕 (五cm〜一〇cm)
〇・〇三五 2)
 
 
〃 〔小〕 (二cm〜五cm)
〇・〇二九 2)
〇・〇三四
 

注:
1)はマニング・ストリクラーの式より求めた値。
2)はτ*−φグラフより求めた値。

(二) 代表粒径二cm未満の河床部の粗度係数は、次式により計算するものとする。

n=(Hd1/6)/(√g・φ) φ=6.0+5.75・log〔Hd/2.5・dR〕

ここに、Hd:設計水深(m)

設計水深=設計水位(W・L)−平均河床高(Z)(「五―五―一」参照)
dR:河床材料の代表粒(m)

なお、河床材料の代表粒径を迅速に求めるのが困難な場合は、当面dR=〇・〇〇五mを用いてもよい。

ただし、計算したnが〇・〇二〇を下回る場合は〇・〇二〇とする。

五―四―三 高水敷部

高水敷部の粗度係数は、高水敷上の設計水深と高水敷の地被状態に応じて算出する。
≪解説≫

◇ 高水敷部の粗度係数は、高水敷上の設計水深(Hfp)と平均植生の高さ(hv)の比の関係より下図を参考に求めるものとする。
◇ 流水中の草は、作用する硫体力の大きさと草が有する曲げの強さの大小に応じて、通常繁茂している場合と同じように直立した状態(直立状態)、流向に沿って倒伏している状態(倒伏状態)、さらにはそれらの中間的な状態(たわみ状態)を呈することになる。草の粗度としての大きさはこれらの状態によって変化する。
◇ 洪水時の草の直立、たわみ、倒伏状態の判断は、出水後の現地で確認した植生状況を考慮して決定する。
図5―4―2 流水中の草の状態と粗度係数の関係

なお、多くの場合、洪水時には高水敷上の草本類の植生は倒伏状態にあると考えられるので、倒伏時の粗度係数を使ってよい。

◇ ただし、高水敷の地被が発達しており、倒伏状態とすることが不適当と考えられる場合は、以下により求める。

流水中の草の状態は、洪水時の草の倒伏状態に関する調査資料を参考に設定する。資料がない場合には、以下に示す高水敷上の摩擦速度(u*)によって判断する。

摩擦速度

u*=√(g・Hfp・Ic)

Hfp:高水敷上の設計水深(cm)
Ic:エネルギー勾配(一般に平均的な河床勾配としてよい)
g:重力の加速度(九八〇cm/S2)

【堅い草が繁茂している場合】

堅い草はヨシ、ススキ、セイタカアワダチソウなどが代表される、高さ一〜二mに達する直立した堅い茎を有する草を指す。流水中の堅い草の状態は摩擦速度の大きさで以下のように設定する。

直立状態 u*≦12cm/S
たわみ状態 12cm/S<u*≦22cm/S
倒伏状態 22cm/S<u*

【柔らかい草が繁茂する場合】

柔らかい草とはエノコログサ、イヌエビ、ネズミムギなどに代表される、地表面近傍から多数の葉が生えており、かつ比較的曲がりやすい茎を有する草を指す。
流水中の草の状態は摩擦速度の大きさで以下のように設定する。

直立状態 u*≦7cm/S
たわみ状態 7cm/S<u*≦15cm/S
倒伏状態 15cm/S<u*

なお、高水敷上に多くの草が繁茂している場合には、各草の繁茂状況を勘案し、繁茂面積によって加重平均をとるものとする。また、高水敷上の凹凸が激しい場合や草の高さが大きくバラツイている場合など、高水敷粗度係数を大きくする要因が明確な場合には、図五―四―二に示す値より大きくしてもよい。

五―四―四 護岸(法面)部

護岸部は、マニング・ストリクラーの式により算出する。
≪解説≫

◇ 一般に、護岸部の粗度係数は、マニング・ストリクラーの次式により求める。

n=(Ks1/6)/(7.66√g)

Ks:相当粗度(m)
〔法面の凹凸の大きさを表す係数〕
g:重力加速度(m/S2)

ただし、半分埋もれた玉石護岸等の粗度係数は、次式により求める。

n=(Hd1/6/√g・φ)、φ=6.0+5.75・log〔Hd/(2.5・d)〕

ここに、Hd:設計水深(m)

設計水深=設計水位(W.L)−平均河床高(Z)

(「五―五―一:参照)
d:玉石の粒径(m)

なお、相当粗度は通常は模型実験で求めるものであるが、相当粗度が把握できない場合、粗度係数は下表を参考としてもよい。

表五―四―二 護岸構造と粗度係数の関係

護岸構造
粗度係数
間知、張ブロック(Ks=〇・〇四)
〇・〇二四
連結ブロック(Ks=〇・〇八)
〇・〇二七
鉄線籠型護岸(詰石径=二〇cm程度)
〇・〇三二
草丈二〇cm程度の雑草
〇・〇三二
木柵護岸(詰石一五〜二〇cm程度)
〇・〇三〇
玉石(径三〇cm程度)、水深(二〜四m)
〇・〇二五
玉石(径四〇cm程度)、水深(二m)
〇・〇二七
〃 ( 〃 )、水深(三〜四m)
〇・〇二六
玉石(径五〇cm程度)、水深(二〜三m)
〇・〇二八
〃 ( 〃 )、水深(四m)
〇・〇二七

(注) 木柵護岸の階段状の影響については、現在評価法がないので当面はこの表による。

◇ 粗度係数を求める護岸構造は、想定復旧工法とする。

想定復旧工法は、A表による河川特性と想定される代表流速から、C表を参考として設定する。

[合成粗度係数の算出例]
【各部位の粗度係数の算定】

◇河床部

代表粒径(dR)=15cm ⇒ n=0.030(「表5―4―1」より)

◇護岸部

・想定護岸工法:右岸―カゴマット、左岸―自然石積護岸
・自然石積護岸:径(Φ)=0.4m ⇒ n=0.026(「表5―4―2」より)

(n=Hd1/6/√(g)・φ、φ=6+5.75log{Hd/(0.25・d)}
φ=6+5.75×log{3.0/(0.25×0.4)}=14.19
n=3.01/6/(√(9.8)×14.49)=0.026)

・かごマット:詰石dm=0.2m ⇒ n=0.032(「表5―4―2」より)

(n=(Ks1/6)/(7.66√g)=(0.201/6)/(7.66×√9.8)=0.032)

【粗度係数の合成】

N=〔(
(ni3/2・Si))/S〕2/3

 
粗度係数(n)
潤辺(S)
n3/2・S

・低水路部

0.030
7.00m
0.0364

・自然石積護岸部

0.026
√(1.52+3.02)=3.35m
0.0140

・かごマット護岸部

0.032
√(1.52+3.02)=3.35m
0.0192
 
 
13.70m
0.0696

∴ N=(0.0696/13.70)2/3=0.030

五―五 設計流速
護岸選定に用いる流速は、断面平均流速に河道要因を評価した補正係数を乗じて求めた護岸近傍の代表流速より求める。
計算対象区間は、護岸設置箇所だけでなく、上下流を含む一連区間の範囲とする。

≪解説≫

◇ 護岸選定の外力として用いる設計流速は、護岸近傍に作用する代表流速とする。

この代表流速は、マニングの公式で求めた断面平均流速に、河道法線形、砂州、洗掘等の要因を水理的に評価した補正係数を乗じて求める。

◇ 計算対象区間は被災区間(L)を包括する範囲で、直線、曲線区間に分割して定める。ただし、

1) 直線区間は被災延長を対象とするが、被災延長が短い場合は川幅(設計水位での川幅:B)の三倍以上はとること。
2) 曲線区間は湾曲部の全延長とする。

◇ 検討断面数は最低三断面程度とする。

ただし、計算対象区間の河道法線形、河岸状況、洗掘等の状況が一様であると見なせる区間では、代表となる一断面を対象としてよい。

図5―5―1 計算対象区間と検討断面の配置
◇ 検討断面は、被災箇所以外にあっては現況断面とするが、被災箇所にあっては復旧想定断面(工法)を用いて代表流速を算定する。
◇ 護岸選定に用いる設計流速は、原則として各断面の代表流速の平均値とする。ただし、平均値で全延長を復旧することが不適切な場合は、各々の断面の代表流速を用いてよい。
◇ 設計流速算定後、代表流速・自然環境・周辺環境・背後地の形態・施工性・経済性から適した工法を選定し、想定工法と異なる場合は代表流速を繰り返し算出する。
◇ 代表流速の算定手順は以下のとおりとする。
図5―5―2 設計流速算定から護岸選定のフロー

※代表流速の算定に当たっては、B表の『設計流速算定表』を用いて係数等を整理し求める。
五―五―一 設計水位

・設計水位は、被災水位及び被災施設の従前の設計条件等を考慮して定める。
・設計水深は、設計水位から平均河床までの水深とする。
≪解説≫

◇ 設計水位(W・L)は、次のような取り扱いとする。

1) 計画高水位が設定され、そのとおり施工されている場合は計画高水位。
2) 計画高水位が設定されていない場合

a 既設護岸が被災した場合は、既設護岸の天端高に相当する水位又は洪水痕跡水位のいずれか高い水位。
b 維持上又は公益上特に必要と認められるものとして採択される天然河岸については、上下流施設の護岸の天端高に相当する水位又は洪水痕跡水位のいずれか高い水位。

なお、要綱第三第二号ハ、ホ、ト、チに該当する当該災害を与えた洪水の設計水位も前記1)2)を考慮する。

◇ 設計水深は、Hp=W.L−Zとする。

Z:河床高(現況平均河床高)

図5―5―3

五―五―二 平均流速の求め方

平均流速は、マニングの平均流速公式より算定する。
≪解説≫

◇ 平均流速 Vm=1/N・Rd2/3・Ie1/2

N:合成粗度係数 ⇒ 『5―4 粗度係数』により求めた合成粗度係数とする。
Ie:エネルギー勾配 ⇒ 原則として、平均的な河床勾配を用いてよい。
Rd:径深 ⇒ 設計水深に対する径深。

Rd=A/S

A:断面積(m2)
S:潤辺〔S1+…+Si〕(m)

※ただし、川幅が100m以上の河川では、径深(Rd)に代え設計水深(Hd)を用いてもよい。

図5―5―4

五―五―三 補正係数(湾曲、洗掘、根固)
マニングの平均流速公式より求めた流速を、河道の状態による局所的な流れや根固による変化を考慮した代表流速に補正する。

≪解説≫

◇ 護岸選定に用いる流速は、マニングの流速公式で求めた断面平均流速に、深掘れ現象による水深増加の影響や湾曲部に発生する渦による流速増加の影響等、河道の状態を適切に考慮した、局所流速に置き換える必要があり、補正係数αを考慮する。

このαの使い分けは次のフローのとおりであり、詳細について以下に述べる。

◇ 補正係数αは流れの補正α1と根固の補正α2とし、α=α1・α2とする。
図5―5―5 補正係数の選定フロー

注1) 固定床とは、三面張水路、岩の露出等深掘れの発生しない河床の場合。
注2) 下流影響区間とは、固定床:L=5b、移動床:L=2bである。

なお、bは単断面においては河床の底幅(図5―4―1における単断面の場合のS2)、複断面では低水路底幅(図5―4―1における複断面の場合のS4)とする。

注3) 補正に用いる最大洗掘深は、根固工を採用する場合は、現況最大洗掘深を用いる。
(一) 直線河道の場合

砂州の発生する直線河道では、深掘れを考慮する。
≪解説≫

◇ 砂州のある区間では、砂州の谷の部分で流速が大きくなる。このため、砂州の波高を考慮した水深増加を見込む。

【α1=1+△Z/2Hd】

△Z:最大洗掘深 ⇒ 「五―五―四」により算出する。

◇ 岩の露出等、深掘れの発生しない箇所では、α1=一とする。

(二) 湾曲河道の場合

・湾曲河道では、渦による高速流の影響を考慮する。
・さらに、移動床では砂州による深掘れの影響も考慮する。
≪解説≫

◇ 渦による流速の増加はこれまでの研究により、湾曲の曲率半径(R)と低水路幅(b)により定められる。
◇ 移動床では、外岸側の護岸前面に洗掘が生じ、渦による影響も加えて大きな流速が発生する。
◇ 一般に、湾曲部の流れは湾曲入口で内岸側に高速流が発生する。流下過程で次第に一様化し、さらに流下するに従い外岸側で高速流が発生し、その影響は河道が直線に戻った後もしばらく続く。
◇ 水理的には内岸側及び外岸側とも上流部と下流部では流速は異なるが、ある断面で護岸工法を変えるとその変化点が弱点になりやすいことから、内岸側及び外岸側ともそれぞれ湾曲区間一連での平均外力をもって設計する。

1) 移動床の場合

渦の影響を考慮するとともに、外律側では深掘れによる水深増加の影響を考慮する。
なお、湾曲下流2b区間は渦の影響等があるため、湾曲部とみなして補正する。

・外岸側…【α1=1+b/2R+△Z/2Hd】
・内岸側…【α1=1+b/2R】
・下流2b区間…【α1=1+b/2R+△Z/2Hd】

図5―5―6 流速分布と割増し範囲(移動床の場合)

2) 固定床の場合

渦の影響を考慮する。なお、下流5b区間までは湾曲部とみなして補正する。

【α1=1+b/2R】

図5―5―7 流速分布と割り増し範囲(固定床の場合)

(三) 流れに影響のある根固工がある場合
根固工が十分な幅を有し、洗掘抑制効果及び根固工自身の粗度による流速低減効果が期待できる場合は、その影響を考慮する。

≪解説≫

◇ 護岸基礎前面に、破損や顕著な変形をすることなく健全な状態で、かつ、十分な幅を持つ根固工を設置した場合(左図参照)は、洗掘の緩和や粗度効果による流速低減の影響を考慮する。

根固による補正係数α2はこれまでの経験により、次の値を用いてよい。

Bw/H1≧1⇒α2=0.9とする。
Bw/H1<1⇒α2=1.0とする。

図5―5―8 根固工がある場合の断面説明図

五―五―四 最大洗掘深(△Z)の算出方法
最大洗掘深(△Z)は、原則として川幅、水深及び河床材料により評価する推定最大洗掘深(△Zs)と被災箇所の現況最大洗掘深(△Zg)のいずれか大きい方とする。

≪解説≫

◇ 推定最大洗掘深(△Zs)は、低水路幅、水深、河床材料、曲率半径等から経験式を用いて推定する。
◇ 現況最大洗掘深(△Zg)は、被災箇所及び周辺の最深河床を測量等により求める。

(一) 直線河道の場合
最大洗掘深(△Z)は、原則として現況最大洗掘深(△Zg)を考慮して評価するものとするが、最大洗掘深が砂州波高に支配される場合は、現況最大洗掘深と推定最大洗掘深(△Zs)のいずれか深い方とする。

≪解説≫

◇ 低水路幅(b)、水深(Hd)の比b/Hdが一〇以下の場合、及び河床に細砂(〇・二mm以下)が堆積している河川では一般的に砂州は発生しない。

従って、被災箇所や前後箇所も含めた現況最大洗掘深(△Zg)を評価し、最大洗掘深(△Z)とするのを原則とする。

図5―5―9 現況深掘れ部と最大洗掘深の断面説明図(b/Hd≦10又はdR≦0.2mmの場合)
◇ 低水路幅(b)、水深(Hd)の比b/Hdが一〇を超える場合は一般的に砂州の形成が見られるため、推定最大洗掘深(△Zs)を計算により算出し、現況最大洗掘深(△Zg)と比較していずれか深い方を最大洗掘深(△Z)とする。
◇ b/Hd>10である直線河道では、深掘れ部の水深は主に砂州波高(Hs)に支配される。この砂州波高は、低水路幅、水深(五―五―一参照)及び河床材料に支配されることから、計算による推定最大洗掘深(△Zs)は以下の方法により算定する。
図5―5―10 河床洗掘が砂州波高に支配される場合の断面説明図
1) 砂利河川の場合(dR≧2cm)

(イ) 砂州波高(Hs)と設計水深(Hd)の比を以下により決定する。

(1) 低水路幅〔b(m)〕と設計水深〔Hd(m)〕の比を求める。(図五―五―一一:横軸)

b/Hd……((a))

(2) 設計水深〔Hd(m)〕と河床材代表粒径〔dR(m)〕の比を求める。(図五―五―一一:当該ライン)

Hd/dR……((b))

(3) ((a))、((b))をもとに、図五―五―一一よりHs/Hdを決定する。(図五―五―一一:縦軸)

Hs/Hd……((c))

図5―5―11 Hs/Hd〜b/Hd関係図

(ロ) ((c))をもとに、最大洗掘部の水深(Hmax・s)を次式により求める。

Hmax・s={1+0.8(((c)))}・Hd……((d))

(ハ) 推定最大洗掘深(△Zs)を次式により求める。

△Zs=(((d)))−Hd……((e))

(ニ) 現況最大洗掘深(△Zg)と推定最大洗掘深(△Zs)を比較し、いずれか大きい方を最大洗掘深(△Z)とする。

2) 粗砂・中砂の河川の場合(0.2mm<dR<2cmの場合)

多列砂州(ウロコ状砂州)の統合による割増し五〇%を見込む。このため、砂利河川と同様に求め、推定量大洗掘深(△Zs)を一・五倍して求める。

∴△Zs=1.5・((e))……((f))

現況最大洗掘深(△Zg)と推定最大洗掘深(△Zs)を比較し、いずれか大きい方を最大洗掘深(△Z)とする。

(二) 湾曲河道の場合
湾曲河道での最大洗掘深(△Z)は現況最大洗掘深(△Zg)と計算による推定最大洗掘深(△Zs)のいずれか深い方とする。
ただし、被災箇所の現況深掘れ状況から、推定最大洗掘深(△Zs)が不適当と判断される場合は現況最大洗掘深(△Zg)を用いてよい。

≪解説≫

◇ 湾曲河道の推定最大洗掘深(△Zs)は、低水路幅(b)と河道湾曲半径(r)との比により算定する。

(イ) 推定最大洗掘部の水深(Hmax)と設計水深(Hd)の比を以下により決定する。

(1) 低水路幅〔b(m)〕と河道湾曲半径〔r(m)〕との比により下図より求める。

b/r……((a))

図5―5―12 Hmax/Hd〜b/r関係図(吉川秀夫:流砂の水理学、丸善、1985、p230)よりA=2.89として求めた。

∴(Hmax)/(Hd)……((b))

(ロ) 推定最大洗掘部(△Zs)の水深(Hmax)を次式により求める。

Hmax=(((b)))・Hd……((c))

(ハ) 推定最大洗掘深(△Zs)を次式により求める。

△Zs=(((c)))−Hd

◇ 前記で求められた推定最大洗掘深(△Zs)と現況最大洗掘深(△Zg)のいずれか深い方を最大洗掘深(△Z)とする。

ただし、図五―五―一二は大河川を対象とした一般的な定数を用いているので、中小河川にあっては現場の深掘れ状況を考慮して現況最大洗掘深(△Zg)を重視してもよい。

五―五―五 設計流速の決定
外力の計算対象区間の平均代表流速を「設計流速」とする。
計算はB表に基づき作成して、査定時に提示する。

≪解説≫

◇ これまで述べてきたように、計算対象区間内における平均流速(Vm)を断面毎に算定し、湾曲・洗掘等の影響を考慮した補正を行い、これを平均して区間内の代表流速とし、護岸選定に用いる設計流速とする。ただし、平均値で全延長を復旧することが不適切な場合は、各々の代表流速を用いてよい。

VD:設計流速

VD=meanVo、

meanVo=(V1+V2+V3)/3(検討断面3ケ所の場合)

V1、V2、V3は「p.5―12」でいう検討断面の各々の流速

Vo:代表流速(計算断面毎)

Vo=α・Vm

Vm:マニングの平均流速
α:補正係数(湾曲は深掘れによる補正〔α1〕及び根固工による補正〔α2〕)

α=α1・α2

◇ 以上の計算過程をB表にまとめ、査定時に提示できるようにしておく。

なお、B表は河道形状、規模等に応じて適宜修正して作成してもよい。

◇ 護岸工法・根固工の有無が選定された後、必要に応じて設計流速を検証すること。
◇ 平均流速(Vm)が限界流速(√(gh))より大きくなる場合は、前後施設、湾曲、洗掘及び粗度係数などをチェックすること。



<別添資料>




[参考]
五―六 護岸構造選定
五―六―一 護岸の種類と特徴
護岸の設計に際しては、設置箇所の河道特性に応じた護岸とすることが重要であり各種護岸工法の特徴を理解しておく必要がある。

≪解説≫

◇ 護岸には多くの工種があり、使用される素材、構造の外観等は様々である。
◇ 複雑な外力条件により被災した事例が設計に生かされることが重要であり、過去あるいは類似河川での被災経験に対応した護岸の特徴を把握しておく必要がある。
◇ 設置箇所の河道特性に応じて工法を選定できるよう各工法の構造的な特徴を理解しておく必要がある。
◇ 護岸設計を行う際の基本知識として、一般に用いられる工法分類を素材を主にし、その特徴を示すと表五―六―一(一)、(二)のとおりである。

なお、護岸工法については現在種々の新工法が開発されており、これらも参考にすること。

表5―6―1(1) 護岸の種類と特徴

護岸
工法
工法の概要図
設計の考え方・特徴等
植生系護岸
張芝
 
 
・芝は生活限界として、30cm以上の層根を確保する。
・芝張の流速限界(根の層厚5cm)V=2m/s以下
・法面勾配は概ね1:2.0より緩くして法面の安定を図る。
・植生の管理レベルで差が生じるため、十分な活着維持管理が必要。
・張芝は平水では浸水しない箇所で、確実に活着するまで流水にさらされない部分であることが必要。
・残土処理で寄せ石を行い杭打を併用する。
 
ジオテキスタイル工
 
 
・表面をジオテキスタイルシートやブロックマットにて覆い、表面の植生の根を通根させることによって補強効果を得る。
・ジオテキスタイルシート併用時の流速限界V=3.0m/s、ブロックマット併用時の流速限界V=4.0m/s。
・ジオテキスタイルの法面勾配は概ね1:2.0より緩くして法面の安定を図る。
・ブロックマットの法勾配は1:1.5より緩い勾配に適用するが、1:1.5〜1:2.0の勾配では杭等によるズレ止めを行う。
・シート上には植生の通根が可能となるよう10cm程度の覆土を行う。
・表面は芝等の植生が必要。
・残土処理で寄せ石を行い杭打を併用する。
 
ブロックマット工
 
 
 
連節系護岸
連節+捨石
 
 
・護岸近傍の代表流速を対象としためくれや滑動に対して安全な控え厚さを確保する。
・流速V=5.0m/s以下の河川に適用。
・法勾配は1:1.5より緩い勾配に適用するが、1:1.5〜1:2.0の勾配では杭等によるズレ止めを行う。
・覆土を行い、植生の復元を図る。
・たれ部のめくれが弱点となるので、捨石により堤脚を固める。
木系護岸
杭柵工
 
 
・詰石と木杭を組み合わせて河岸を保護する工法。
・流速V=4.0m/s以下の河川に適用。
・法勾配1:0.6より緩い勾配で適用。
・転石の少ない河川で適用。
・詰石は、護岸近傍の代表流速に対して移動しない石の径を用いる。
 
粗朶法覆
 
 
・粗朶を用いて法枠を組み河岸の保護を行う工法。
・流速V=4.0m/s以下の河川に適用・法勾配が1:1.5程度より緩い河川に適用。
・転石の少ない河川で適用。
・詰石は、護岸近傍の代表流速に対して移動しない石の径を用いる。

表5―6―1(2) 護岸の種類と特徴

護岸
工法
工法の概要図
設計の考え方・特徴等
かご系護岸
かごマット工法
 
 
・強い酸性又は高塩分濃度の河川、人頭大の転石のある河川以外で適用。
・平張は流速5.0m/s以下の河川に、多段積は流速6.5m/s以下の河川に適用。
・設計無次元掃流力に対し移動しない径の中詰石を用いる。
・「鉄線篭型護岸の設計施工技術基準(案)」及び「鉄線篭型多段積護岸工法設計・施工技術基準(試行案)」に準じて設計する。
・法面勾配が1:1.5より緩い場合は、平張型を採用し、1:1.0より急な場合は多段型を採用する。
・植生の回復を助けるために、残土処理としてかごの上に土を被せる。
自然石系護岸
自然石張(空)・(練)
 
 
(空石張)
・護岸近傍の代表流速により、「掃流―一体性が強いモデル」で計算して安全な石の径を用いる。
・流速5.0m/s以下の河川に適用する。
・法勾配が1:1.5以上緩い場合に適用。
・植生が復元されやすい。
・石のかみ合わせを考慮する。
(練石張)
・流速5.0m/s以上で適用する。
・法勾配が1:1.5以上の緩い場合に適用。
・胴込コンクリートは表面に出ないよう深目地とする。
 
自然石積(練)
 
 
(練石積)
・流速が5.0m/s以上の河川で適用。
・法勾配は1:1.0より急な河川に適用。
・コンクリートブロック積と同等の控え厚さがあればブロック積と同等と考える。
・胴込コンクリートは表面に出ないよう深目地とする。
ブロック系護岸
環境ブロック
 
 
・従来のコンクリートブロック積護岸と同等の耐侵食強度が期待できる。
・コンクリートブロック積と同等の控え厚さと重量とする場合は流体力に対する安定性の検討は必要ない。
・流速5.0m/s以上の河川で適用する。
・開発途上であり経済性の検討が必要。
・緑化基材は現地材が好ましい。
 
ブロック積・張
 
 
・標準設計図を用いる。
・標準控え厚さは35cmとする。
・河川のほとんどの箇所で採用できるが、柔構造ではないため河床低下等に対してはもろい面があり、河川の特性を損なう。
・他の多自然型護岸が使用できない場合に適用。
・環境保全対策としては、水際部分に寄石等の配慮が必要。

五―六―二 選定基準
(一) 護岸の選定
復旧工法の選定に当たっては、当該箇所の設計流速により適用工法を選択し、被災状況、河道状況、背後地の形態、河川環境への配慮、施工性、経済性等を総合的に勘案して選定する。

≪解説≫

◇ 護岸工法選定方法

護岸の基本構造は下記事項を総合的に勘案して適用工法を選定するものであり、その選定フローは以下のとおり。
・被災状況 ・被災原因 ・河道特性 ・背後地の形態 ・上下流施設との関連 ・河川環境への配慮 ・設計流速 ・経済性 ・施工性

◇ 設計流速より適用工法を選択する場合は、河道状況や被災施設及び未被災施設等の状況を考慮して行う。
河川災害復旧工法の選定フロー
◇ 各種工法に対応する設計流速の目安は表五―六―二(C表)のとおりである。

なお、河岸を固め、水際部と陸上部の連続性を遮断し、動植物の生息・生育環境上好ましくない工法は基本的に使用せず、他の工法では施工が著しく困難な場合のみ使用するものとする。

◇ 河床の転石状況及び河岸法勾配の制約等から所定の設計流速に対応し、環境等にも配慮した経済的な護岸工法が採用できない場合、下部を転石に適応した工法や法勾配を立てる工法等、いわゆる複合型護岸を採用することも検討する。
◇ 表五―六―二以外の工法であっても設計流速に適応できる合理的な新工法については積極的に採用するものとし、この場合の検証方法は、「河川砂防技術基準(案)同解説」(社団法人日本河川協会)や「護岸の力学設計法」(財団法人国土開発技術研究センター)を参考に個別に行う。

また、新技術や新工法等の追加及び見直しや改良があった場合には、適宜その都度変更や差し替えていくものとする。

◇ 各工法の諸元は「第六章 護岸構造別設計上・施工上の留意点」によるものとする。



<別添資料>




第六章 護岸構造別設計上・施工上の留意点

第五章、表五―六―二(一)〜(三)の設計流速関係表(C表)にある各工法の中には最近の使用実績に乏しいものもある。今後はこれらの工法を使用する一方、外力に耐え環境上ふさわしい新工法を積極的に試験施工的に採用し、これらについて現場からの反省点等の各種意見を集約し、あわせて実施工法の追跡調査と解析を実施しながら今後の適用工法の見直しや追加拡充などに反映していくことが重要である。
また、これらを踏まえて、適用工法や代表流速選定表の見直しや新たなる工法の掘り起こしを行い、今後の災害復旧工法に反映していく予定としている。
なお、今回の各工法は試行ではあるが、自然環境に配慮した護岸工法を各現場にて積極的に採用していくものとし、設計に当たっては以下の留意点に配慮すること。

六―一 植生護岸
(一) 張芝
植生が堤体又は河岸に十分活着していること、及び植生の管理が行われていることが必要である。
平水位以下は、寄せ石等を施工する。

≪解説≫

◇ 法勾配は1:2.0より緩い勾配で採用する。
◇ 植生護岸は流速が二m/sまでで、平水位以上の護岸や余裕高部に適用されるもので、平水位以下は木柵、寄せ石等の根固工を組み合わせて使用する。
◇ 植生は侵食を防止するため重要であるので、適正な管理を行う必要がある。
◇ 張芝、種子吹き付けなどの施工は出水期までに活着する時期(例えば内地では一一月)に施工することが望ましい。
◇ 種子吹き付け等の種子は現地の在来種、もしくは当該河川に悪影響を与えないものとすること。
◇ ヤナギ等を用いる場合には現地の在来種を基本とし、あまり高木にならないものとする。
◇ ヤナギは、挿し木程度の設計としておくこと(苗木を植栽するのではなく、切断した幹・枝を密に埋設するだけ)。

(二) ジオテキスタイル
表面をジオテキスタイルシートで覆い、一〇cm程度覆土する。
表面の植生の根を通根させることによって補強効果を得る。

≪解説≫

◇ 流速三m/sまでで採用する。
◇ 法勾配は1:2.0より緩い勾配とする。
◇ 耐久性においては耐火性に懸念があるが、覆土することにより防止する。
◇ 水際部は木柵護岸やかご系護岸で保護する。
◇ めくれ対策が重要であり、特に上下流端部の処理を確実に行う。

(三) ブロックマット
ブロックマットはめくれ対策が重要であり、特に上下流端部のすり付け部の処理及び根固工・寄せ石等を確実に行うこと。

≪解説≫

◇ ブロックマットは、コンクリートブロックを強くて耐久性のある合成繊維で作られた布(マット)に付着固定した工場製品で、流速の小さい河川・湖沼等に侵食防止工法として使用されている。
◇ これまでの実績では四m/s程度まで採用されているが、転石の多い河川や水衝部では採用しないこと。
◇ ブロックマットはマットと地面との摩擦の関係から、1:2.0以上の法勾配で適する。
◇ ブロックとマットが一体となっているため、ブロックの大きさの決定方法を定めたものはないが、1:1.5〜1:2.0で使用する場合には杭等によるすべり止めが必要である。
◇ マットの必要強さ及び必要付着強度は施工時が最大となるので、これに対応した強度が必要となる。
◇ 耐久性においては耐火性に懸念があるが、覆土することにより防止する。
◇ マットは吸い出し防止効果を兼ねるので、吸い出し防止に適したマットを使用する必要がある。
◇ ブロックマットはブロックの形状に空隙が多いため、覆土、植生復元に適しているので必ずブロックを覆う程度に覆土を施工すること。

六―二 連節ブロック護岸
連節ブロックの設計は、連節ブロック護岸工法設計・施工技術基準(試行案)による。

≪解説≫

◇ 連節ブロック護岸は、法面の安定性から1:1.5以上の緩い法勾配に適用するものとするが、1:1.5〜1:2.0の勾配では杭等によるすべり止めを行う。
◇ 連節ブロックの控え厚さは、「護岸の力学設計法」の「滑動―群体モデル、めくれモテル」により計算する。
◇ 連節ブロックの連結線は腐食等に対する耐久性を考慮したものとする。
◇ 連節ブロックは、張りブロックと違い個体として流体に作用するため、流体力等によりめくれ上がるおそれがある。
◇ 河川上下流の端部のめくれに対する対応策として、連結鉄筋の端部を小口止め等に固定する。
◇ たれ部のめくれに対する対応策として、捨石等による根固工を施工する。
◇ ブロック形状は覆土に適した形状とする。
◇ 小口止めを設置することを標準とするが、十分なすり付け等がとれる場合はこれを省くことができる。
◇ 連節ブロックは、透過性の護岸のため背面の土砂の吸い出しを防止することが重要であり、必ず吸い出し防止材を設置する。なお、裏込材は設置しない。

六―三 木系護岸

施工事例は少ないが、間伐材等の有効利用を図っていくものとする。

杭は洪水時に流出しないように、十分な根入れを確保すること。
詰石は設計無次元掃流力より大きい石とする。

≪解説≫

◇ 杭の径や長さを設計するに当たっては、施工実績及び自立式土留杭の設計要領等を参考に検討する。
◇ 護岸上部に輪荷重がかかる場合、又は建物等がある場合は適用しない。
◇ 実績から考慮して流速四・〇m/s以下の河川で適用する。
◇ 詰石の粒径は「掃流―中詰めモデル」により、設計無次元掃流力τ*c=0.05として求めるが、次表を参考としてよい。

表六―二―一 木系護岸の詰石粒径(掃流―中詰めモデル、1:1.0の場合)

(単位cm)
設計水深(m)
設計流速(m/s)
 
 
 
 
一・〇
二・〇
三・〇
四・〇
一・〇
一〇
三〇
二・〇
一〇
一五
三・〇
一〇
一五
四・〇
一五
五・〇
一〇

◇ 木系護岸を採用する場合、護岸法勾配をできるだけ緩く(1:0.6以上)し、ステップはできるだけ小さくする。
◇ 水際部は杭柵かかご系等の護岸で保護する。
◇ 詰石の下に吸い出し防止材を布設する。
◇ 木材はできるだけ間伐材やその地方のものを使用し、防腐剤は有害なものを使用しないこと。

六―四 かご系護岸
かご系護岸の平張タイプ、多階積タイプの設計は、各々の技術基準(案)又は試行案により設計すること。

≪解説≫

◇ かご系護岸は屈撓性があり、かつ空隙があってかご上に残土処理を行うことにより植生の復元が早く、多自然型護岸として適している。
◇ かご系護岸は法勾配が1:2.0より緩い勾配に適している。1:0.5〜1:1.0の急勾配についても多段積工法として適用できるが、この場合1:0.5の勾配に固定せず可能な限り緩勾配とすること。
◇ かご系護岸の設計に当たっての平張の技術基準は、「鉄線籠型護岸の設計施工技術基準(案)」(平成六年河川局治水課)によるものとする。

また、多段積の技術基準は、「鉄線籠型多段積み護岸工法設計・施工技術基準」(H九年八月試行案:河川局防災・海岸課)によるものとする。

◇ 適用除外

・PH五以下の河川水が流れている区間
・塩素イオン濃度が年平均四五〇mg/l以上の河川水か流れている区間
・黒色有機物混り土、泥炭層などの土壌で電気抵抗率が二、三〇〇Ω・cm以下の区間
・河床材料が大きな(人頭大程度以上)転石や玉石で構成されている区間

◇ 護岸高さの設計に当たっては当面施工実績等を考慮して五・〇m以下とし、基礎地盤や背後地盤の土質が軟らかい粘性土又は軟弱地盤の場合は、擁壁の設計と同様に支持力、滑動、転倒に対して検討すること。
◇ 中詰め材の粒径は、施工箇所の河岸等に働く設計無次元掃流力を算定して決定する。
◇ 護岸法線は現地の地形に合わせて、上下流の法線になじみよく取り付けること。

多段積の法線は鉄線かごの肩を法線とするよう設計すること。

◇ 天然河岸にすりつける場合は地山が掘削等により乱されているので、侵食防止等を考慮した小口止めを設置することを標準とする。ただし、十分なすりつけ等がとれる場合にはこれを省くことができる。

六―五 自然石護岸

・練石張(積)工法はコンクリートブロック張(積)工法の設計に準じて行い、施工に当たっては深目地とし植生の復元を期待する。
・空石張工法は流体力に対しての安全性を検証して用いるが、施工に当たっては石のかみあわせを十分行う。
・護岸天端からの洗掘を防止する必要のある場合には天端工を設置すること。
≪解説≫

◇ 自然石を利用した護岸工法は強度もあり、当該河川に自然石がある場合にはこれを活用することにより、周辺ともマッチした優れた工法となる。
◇ 河川環境面からは空石張が優れており、外力に対しての安定性を確認の上、それを優先的に選定する。
◇ 外力に対して練石張(積)とする場合には、コンクリートブロック張(積)工法に準じて行うが、石の大きさは現地材を利用することから、あまり規格化せずに幅広く採用するよう設計する。
◇ 練石張(積)の目地は深目地とし空石張と同様の植生効果を期待する。
◇ 空石張の場合は、吸い出し防止材を敷設する。
◇ 空石張の粒径は、「護岸の力学設計法」の「掃流力―一体性の強い」モデルにより、設計無次元掃流力τ*c=0.05として求めるが、次表を参考としてよい。

表六―五―一 自然石護岸の必要粒径(掃流―一体性強いモデル、1:20)

(単位cm)
設計水深(m)
設計流速(m/s)
 
 
 
 
 
一・〇
二・〇
三・〇
四・〇
五・〇
一・〇
二〇
二〇
二〇
六〇
二・〇
二〇
二〇
二〇
三〇
七〇
三・〇
二〇
二〇
二〇
三〇
五〇
四・〇
二〇
二〇
二〇
二〇
四〇
五・〇
二〇
二〇
二〇
二〇
四〇

◇ 低水護岸や護岸天端部からの洗掘を防止する必要のある場合は天端工を設置する。天端工はできるだけ自然石を使用する(天端工の詳細は六―七―二による)。
◇ 在材の利用が基本であるが、他の場所から搬入する場合には、現地河床材料と異質なものとならないように周辺環境と整合性を検討して用いる。
◇ 在材の有効利用を図るに当たっては、河床低下を招くおそれのある過度の採取を控え、河相を変えてしまわないこと。
◇ 空石張の石の配置はできるだけ下に大きな石を用い、上に行くにしたがい小さな石を配置し、十分なかみ合わせを行うこと。

また、高さは実績等を考慮して三m以下が望ましい。

六―六 複合型護岸
複合型護岸は、河床の転石対策や法勾配に制約を受ける場合等に適用するもので、河川特性に合わせて種々の護岸工法を組み合わせて設計するものとする。
この場合、接続部に急激な変化をつけないようにすること。

≪解説≫

◇ 人頭大の転石のある河川においては、耐久性を考慮して護岸の下部を自然石積又はコンクリートブロック積とし、上部を流速に対応し環境に配慮した工法とする組み合わせも可能である。
◇ 現況法勾配の下部が急な場合、これに準じた地形なりの勾配とする複合型工法を選定することを検討する。

なお、用地の制約がある場合でも、上部だけ法勾配を緩く植生の復元の可能性の大きな工法を選定することも考える。

◇ 川幅の小さな河川で法勾配を一:二・〇とした場合、河床部が狭くなり洗掘が進行したり、水面幅が小さく環境上好ましくない場合は、下部を立て(一:〇・五程度)豊かな水際部を創出する。
◇複合型護岸は必要に応じて、別途安定計算を実施して用いること。

六―七 基礎工
護岸の基礎工(法留工)は、洪水による洗掘等を考慮して、法覆工を支持できる構造とするものとする。
基礎工の天端高は、一般に現況最深河床から〇・五〜一・五m程度埋め込むこと。
ただし、被災箇所の洗掘が著しい場合や砂州及び湾曲による推定最大洗掘深が深い場合で、基礎工の根入れを深くすることが困難な場合は、根固工を設置して洗掘を緩和すること。

≪解説≫

◇ 護岸の被災事例で最も顕著なものは、洪水時の河床洗掘を契機として基礎工が浮き上がってしまい、基礎工及び法覆工が被災する事例である。
◇ 基礎工天端の基本的な考え方は次のとおりである。

1) 基礎工の天端高は、一般的に現況最深河床高から〇・五〜一・五m程度埋め込んでいるが、その深さは河川規模、洗掘状況及び推定最大洗掘深を考慮して設定する。
2) 基礎工天端高より推定最大洗掘深が深い場合や、当該被災状況から基礎工の安定を図る必要がある場合には根固工を設置する。
3) 根固工を併設する場合は根固工の厚さを考慮し、上記1)にかかわらず根固工の下端に基礎天端高を合わせてもよい。

◇ 基礎部における所定の埋め戻し線以上は、河床の残土を利用し寄せ石等を行うことにより護岸の脚部を保護し、水際部の多様性を確保する。

基礎の形式は、河道特性、地盤条件、施工条件等を考慮の上、選定する。

≪解説≫

◇ 一般的な護岸の基礎工は、河道特性、地盤条件、施工条件を考慮の上、そのタイプ毎の各設計基準又は施工実績により形状を定める。
◇ 地盤が良好な場合には直接基礎とし、軟弱地盤の場合には杭又は矢板を用いる。
◇ 直接基礎の設計は、沈下及び流水の作用に対して安全となるように設計する。
◇ 矢板基礎は水深が大きい場合、仮締め切りに多大な費用がかかり不経済な場合等に用いる。
◇ 矢板基礎の設計については、「災害復旧工事の設計要領」(防災研究会編)を参考とする。
◇ 矢板基礎の場合は、特に水際を多様化させるために寄せ石等を設ける。

六―八 根継工
根継工は、河床洗掘、河床低下に伴い既設護岸の基礎部分が露出したり、被災した場合に、基礎部を保護するために設置するものであり、治水上支障とならない構造とする。

≪解説≫

◇ 根継工は根固工等で対処できない場合で、やむを得ず施工しなければならないときに用いる。
◇ 根継工は、治水上流下断面に支障を与えないもので、かつ施工時に既設護岸の増破や緩みを生じさせない安全な構造とする。
◇ 河積に余裕がある場合は、既設護岸に悪影響を与えない構造としてステップ式(a)、矢板式(c)が一般的である。
◇ 河積に余裕のない場合、直接根継(d)が考えられるが、この場合、床掘中に既設護岸を引き落とす等の災害を誘発する恐れもあるので、基礎部の土質が良好で既設護岸が堅固な場合に用いる。
◇ 根継工を採用する場合は、水際部の河川環境上の多様性を保全するため、材質、形状を工夫したり寄せ石等を行う(b)も検討すること。

図6―8―1 根継工の例
六―九 護岸の附属工

附属工は法覆工の天端、上下流のすり付け部等の侵食防止、背後からの吸い出し防止など法覆工周辺の保護を目的として設置するものである。

六―九―一 天端工

・護岸天端からの洗掘を防止する必要のある場合には、天端工、天端保護工を設置する。
・天端工は流れの作用に対して安全な構造とする。
≪解説≫

◇ 低水護岸や護岸天端からの洗掘を防止する必要のある場合には、天端工を施工すること。
◇ 天端工の標準工法は、練石積、コンクリートブロック(環境ブロックを含む)積(張を含む)の場合は下図を標準とし、天端工の幅を二m、天端保護工を一・五〜二・〇mの幅で設置する。

なお、直高一mの巻き止め工を併用する場合もある。

◇ かごマット、連節ブロックは別途設計基準(案)による。

六―九―二 小口止工
小口止工は、法覆工の上下流端部を保護する必要のある場合に設置するものであり、護岸構造に適合した構造とする。

≪解説≫

◇ 小口止めは剛性の護岸工法には必要不可欠のものであり、現地状況により既設がある場合等不要な場合を除いて必ず設置する。
◇ 小口止めの施工範囲は、原則として法覆工及び天端工の施工範囲とする。
◇ かご系、連節ブロック系、木系はそれぞれの構造に合わせた保護工を設けることとするが、端部すり付け工により保護できる場合はこの限りではない。
◇ 異なった構造の護岸が接続する箇所に設ける小口止めは、背面に流水が廻らないことを主とした構造(例えば、遮水シート)で護岸厚さの大きい方に合わせた範囲に施工すること。
◇ 剛性護岸延長が長いときには、一定区間毎に横帯工を設け、護岸の変位・破損が他に波及しないように絶縁する。

六―九―三 吸い出し防止材
原則として、透過性護岸の背面には吸い出し防止材を設置する。

≪解説≫

◇ かご糸、連節ブロック系、木系護岸等透過性護岸は、背後の残留水や流水により背面土砂の吸い出しが法覆工の変形に結びつき、容易に破壊につながるので、これを防止するために吸い出し防止材を設置する。
◇ 練石積等不透過性護岸においては、特に背後の土砂が細粒土の場合、裏込材へ細粒分が流入し、裏込材の透水性が低下するおそれがあるので使用される場合もある。

六―九―四 裏込材
剛性護岸には、背面水圧の低下と護岸の地山へのなじみをよくするために裏込材を設置する。

≪解説≫

◇ 剛性護岸には原則として、裏込材を設置する。

なお、背後の土質が礫質で透水性が高い場合には、必ずしも裏込材を設置する必要はない。

◇ 裏込材の厚さは「災害復旧工事の設計要領」(防災研究会編)による。
◇ 連節ブロック、木系護岸及びかご系等透過性の護岸には原則として裏込材は設置しない。
◇ 護岸には一般に水抜きは設けないが、掘込河道で残留水圧が大きくなる場合は水抜きを設ける。

六―九―五 すりつけ工
護岸には、原則として上下流端で河岸侵食が発生しても護岸本体に影響を及ぼさないようなすり付け工を設置する。
すりつけ工は、屈とう性と適度な粗度を持つ構造とする。

≪解説≫

◇ すり付け工は、護岸の上下流部が侵食され、護岸が破壊されるのを防止するものである。
◇ すり付け工は、一般的にブロック系の剛構造の護岸に設置するが、連節ブロックやかご系の柔構造護岸にはめくれ防止工として設置する。
◇ すり付け工は、最低限床掘の範囲は施工することとし、護岸上下流で侵食が生じることが明らかな場合は、床掘の範囲で適切な施工延長を検討すること。
◇ すり付け工は、上流側のすりつけ部の粗度を大きくすることにより、流速を緩和して下流の護岸の侵食を防止する工法とする。

第七章 覆土

七―一 災害復旧における覆土の基本的考え方

・護岸には原則として残土を利用した覆土を施工するものとする。
・護岸の上に覆土を行うことにより、植生の生成基盤である土壌を確保する。
≪解説≫

◇ 護岸等の施設の上に土壌を確保し、植生が生育できる環境を創出することにより、環境保全を図るものである。
◇ 植生の育成を左右する主たる要因は、光、水、土壌であり護岸上に穏やかに覆土を行うことにより、自然河岸と同様に植生が育成しやすいような条件を整えるものである。
◇ 覆土上に植生が密生することにより、柔構造護岸の耐久性や強度が増す効果も期待される。
◇ したがって、災害復旧で行う覆土は、植生の早期復元を図るために土を散布する程度のものであり、設計として護岸強度を増加させるものではないので、締固めは必要としない。
◇ 材料としては周辺の残土のうち表土を用いて従来の植生の早期復元を図ることが望ましい。
◇ やむを得ず覆土ができない構造の護岸の場合は、現地状況に合わせて残土による水際部の寄せ石、天端部の覆土を行う。

七―二 覆土の設計・施工
覆土は、生態系の保全、資材の有効利用のために現場発生材を利用するものとし、残土処理として扱うこと。

≪解説≫

◇ 覆土は現地と同様の生態系の保全を確保するために、覆土材料は表土を仮置きして利用し、残土処理として取り扱うものとする。
◇ 覆土の厚さは、護岸をかくすとともに、植生が繁茂するような厚さ(二〇〜三〇cm程度)を確保する。
◇ 一様な厚さにしなくてもよく、厚さに変化をもたせるなどし、施工に当たっては敷均し程度で締固めは行わない。したがって、厚さの管理を実施しなくてよい。
◇ 覆土は植生復元の促進のために行うものであるので、護岸勾配が一:〇・五程度の急な場合でも階段状の護岸では残土により護岸が見えない程度の被覆を行う。
◇ 水際部は、覆土が流失しないよう寄せ石等で保護する。

第八章 根固工・横断工作物

八―一 根固工の基本
根固工は、局所的な河床洗掘などの河床変動等を考慮して、護岸基礎工の安定を図るために設置する。

≪解説≫

◇ 護岸の被災原因の多くは、基礎部の洗掘によるものである。根固工は、その地点の流勢を減じ、河床を直接覆うことで急激な洗掘を緩和する目的で設置する。
◇ 根固工の構造は、流出、散乱、磨耗等に対して耐えるよう、代表流速及び河床材料を考慮して決定すること。
◇ 根固工の敷設幅は、最大洗掘深時にも効用を発揮するような幅とする。

八―二 最大洗掘深

◇ 最大洗掘深(△Z)は「五―五―四」により求める。

八―三 根固工の設置の考え方
根固工は、原則として以下の場合に設置する。

・被災箇所の洗掘が著しく、最深河床高まで護岸基礎の根入れが困難な場合。
・上、下流の河床状況及び既設根固工などを考慮して必要がある場合。
≪解説≫

◇ 根固工は、設定された最深河床高が護岸基礎天端高より深い場合には、護岸基礎部が洪水時に洗掘され不安定となるため、これを緩和するために設置するものである。
◇ 前記の他、出水時の急激な河床洗掘による被災箇所や水衝部などの局所的な河床洗掘による災害を受けやすい箇所、及び既設根固工(上・下流を含めて)のある箇所においては、現場条件を十分に考慮の上、根固工の必要性を検討して設置すること。
◇ 根固工の設置高さは、原則として根固工を設置する場所の現況河床高に根固工の上面を合わせるものとするが、設置場所での水深、上下流の河床状況等を考慮してこれによることが適当でない場合はこの限りではない。また、根固工の横断勾配は、河床状況に応じて設定すること。

なお、既設の根固工がある場合には、原則として既設根固工の高さを考慮して設置する。

八―四 根固工の構造選定の考え方
八―四―一 根固工の種類と特徴
根固工は、護岸と合わせて出水時に予測される洗掘を緩和するもので、設計に当たっては各工法の特徴を理解して、設置箇所に応じた検討を行う。

≪解説≫

◇ 根固工は流水の作用に対して安全である必要があり、護岸工法と同様に各工法の構造的な特徴を理解した上で、そのタイプや配置について検討する。
◇ 一般的に用いられる根固工法の分類とその特徴を示すと次表のとおりである。

表八―四―一 根固工法の種類と特徴

 
工法概念図
工法の特徴と設計の考え方
木系
 
 
・粗朶沈床は緩流河川、木工沈床は急流河川で用いられる場合が多い。
・中詰め材の粒径は設計無次元掃流力を基に設計すること。
かご系
 
 
・かご材は十分な強度と耐久性を有すること。
・中詰め材の粒径は設計無次元掃流力を基に設計すること。
石系
 
 
・河床低下に対して変形が生じても護岸基礎前面の平坦幅を確保すること。
・捨石の粒径は設計無次元掃流力を基に設計すること。
ブロック系
 
 
・隣接するブロック間は連結又はかみ合わせにより一体化させるとより安定する。
・流体力に対して滑動・転動を評価して設計すること。

八―四―二 根固工の構造
根固工は、流速に耐えるもので河床の変動に追随できる屈とう性を有し、急激な洗掘を生じさせない構造とする。

≪解説≫

◇ 根固工は、大きな流速の作用する場所に設置されるため、流体力に耐える重量であること、耐久性が大きいこと、河床変化に追随できる屈とう性構造であることが必要である。

根固工は、護岸基礎前面の河床が低下しない敷設幅を有する構造とする。

≪解説≫

◇ 根固工は、護岸基礎前面の河床が低下しない敷設幅を確保する必要がある。
◇ 沈床工法などで、深掘れ部に重ねて設置する場合は、階段状に設置する。
◇ 川幅が狭く、河床のほとんどが根固工で覆われてしまうおそれのある河川では、杭柵、沈床又は片法枠等の構造とする。

八―四―三 根固工法の選定
根固工法は、被災状況及び河道特性等に応じて設計流速に対して安定した工法で、環境保全に配慮した工法を選定し、単独もしくは護岸工法と組み合わせて施工する。

≪解説≫

◇ 根固工法は、左記事項を総合的に判断して選定する。

・被災原因
・河道特性
・設計流速
・自然環境や周辺環境への配慮
・前後施設との工法の連続性
・施工性
・経済性

◇ 各種工法に対応する設計流速の目安は表八―四―二のとおりである。
◇ 表八―四―二以外の工法であっても設計流速に適応できる合理的な工法については、積極的に選定の対象とする。

また、新技術や新工法等の追加及び見直しや改良があった場合には、適宜その都度変更や差し替えていくものとする。

◇ 根固工の設計・施工は「八―五」による。



<別添資料>




八―五 根固工構造別設計上・施工上の留意点
八―五―一 木系根固工
木系の根固工は、河道特性に対応した強度と屈撓性を持ち、吸い出しを防止する構造とすること。

≪解説≫

◇ 杭材料は、その実績や耐久性から松杭が一般的である。
◇ 粗朶を用いる工法は、素材が植物であることから屈とう性に優れ、流れに対する強度(抵抗力)を有している。
◇ 粗朶の材料としては、一般的にはヤナギが用いられている。
◇ 材料の木材は腐食を考慮して、常に水面下に埋没させる。
◇ 河岸部からの吸い出しを防止するため、連続杭等を設置する。
◇ 中詰め材は「護岸の力学設計法」の「掃流―中詰めモデル」により設計無次元掃流力τ*c=0.05として計算し、流体力に対して流出しない粒径とするが、下表を参考としてもよい。
表8―5―1 木系根固工の中詰め粒径(掃流―中詰めモデル

単位(cm)
設計水深(m)
設計流速(m/s)
 
 
 
 
 
 
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
6.0
1.0
5〜
5〜
10〜
30〜
2.0
5〜
5〜
10〜
15〜
35〜
65〜
3.0
5〜
5〜
10〜
15〜
25〜
45〜
4.0
5〜
5〜
5〜
15〜
25〜
40〜
5.0
5〜
5〜
5〜
10〜
20〜
35〜
6.0
5〜
5〜
5〜
10〜
20〜
30〜

注) 現地材や再生材を利用する場合は、上表粒径以上であれば施工できる範囲で粒度分布を規定しない。
八―五―二 かご系根固工
かご(又は袋)は、十分な強度と耐久性を有すること。

≪解説≫

◇ かご系根固工は、屈とう性があり多孔質であるため、河床洗掘を抑制するとともに、水際の多様性にも適している。
◇ かご(又は袋)は、十分な強度と耐久性を有すること。
◇ かご系根固工は、大きな玉石・転石の多い河川には適用しないこと。
◇ かご等については、互いに連結させることが望ましい。
◇ 中詰め材は「護岸の力学設計法」の「掃流―かご詰めモデル」により設計無次元掃流力τ*c=0.10として計算し、流体力に対して流出しない粒径とするが、下表を参考としてもよい。
表8―5―2 かご系根固工中詰め材の粒径

単位(cm)
設計水深(m)
設計流速(m/s)
 
 
 
 
 
 
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
6.0
1.0
5〜15
5〜15
5〜15
30
2.0
5〜15
5〜15
5〜15
5〜15
15〜20
3.0
5〜15
5〜15
5〜15
5〜15
15〜20
15〜20
4.0
5〜15
5〜15
5〜15
5〜15
5〜15
15〜20
5.0
5〜15
5〜15
5〜15
5〜15
5〜15
15〜20
6.0
5〜15
5〜15
5〜15
5〜15
5〜15
15〜20

注)
・上表の粒径は、市場性を考慮した規格である。
・現地材又は再生材を利用する場合は、上表の最小粒径以上であって、施工できる範囲の粒度分布の材料を採用する。
八―五―三 石系根固工
石自体が流体力に対して安全性を有しているとともに、施工に当たっては石のかみ合わせを十分行う。

≪解説≫

◇ 石は自然素材の中でも強固なものであり、従前の河川状況を保全する観点からも好ましく、石を使っての根固工は古くから用いられていて実績も多い。
◇ 石の粒径は「護岸の力学設計法」の「掃流―乱積みモデル」で設計し、流出しない粒径のものとするが、左表を参考としてもよい。
表8―5―3 石系根固工の粒径(掃流―乱積みモデル)

設計流速(m/s)
粒径(cm)
摘要
1.0
 
2.0
 
3.0
30
 
4.0
50
 
5.0
80
 
6.0
120
 

◇ 地盤よりの吸い出しに対しては、大小粒径の混じった適正粒径を用いることで防止できる場合もある。
◇ 石の並べ方は、表面に大きめの石を配置する。
◇ 横断方向表面の石の配置は、石の法尻が崩れると一挙に石自体の崩壊が考えられるため法尻に大きめの石を用いる。
◇ 天端の設置高さは、平水位以下とすることが望ましい。
◇ 石は現地材の使用を基本とするが、他の場所から搬入する場合には、周辺環境との整合性を図る。
◇ 現地材の有効利用に当たっては、その後の河床洗掘を助長しないよう、また河相を変えるような過度の利用はしないこと。
◇ 敷き幅は、河床低下により変形が生じても護岸基礎前面に二m以上の平坦幅を確保すること。

八―五―四 ブロック系根固工
層積状態で設置する根固工は、流体力により滑動・転動を検証する。

≪解説≫

◇ ブロック重量は、「護岸の力学設計法」の「滑動及び転動―層積み」モデルにより流体力による滑動・転動を検証するものとするが、下表を参考としてもよい。

表八―五―四 ブロック系根固工の重量(滑動、転動―層積みモデル)

設計流速(m/s)
ブロック重量(tf)
摘要
一・〇
 
二・〇
 
三・〇
 
四・〇
〇・五
 
五・〇
〇・五
 
六・〇
一・〇
 
七・〇
一・〇
 
(計算条件)

平面形の根固

a=0.54×10−3
β=2.06(ブロック層積)

*(注)

これ以外の条件の場合は各々検証する必要がある。
◇ 表八―五―四にかかわらず、既設のブロックが流失している場合には、設計流速を再チェックする等、適切な工法を選定すること。
◇ 天端の設置高は、平水位以下とすることが望ましい。
◇ ブロック系根固工については、多様な水際を確保するため、空隙の多いブロックや石等との組み合わせを行うことが望ましい。
◇ 敷設幅は、河床低下が生じても、最低一列もしくは二m程度以上の平坦幅が確保される必要があるため、次式により求めるものとする。

Bw=Bs+D1s/sinθ

ここで、

Bw:根固工の敷設幅
Bs:護岸前面の平坦幅(ブロック一列又は二m程度以上)

D1s:根固工の敷設高と最深河床高の高低差

θ:河床洗掘時の斜面勾配(三〇度を用いてもよい)

ただし、根固工の敷設幅は(Bw)は低水路部の1/3を超えないことを目安とする。

八―六 横断工作物
落差工や帯工などの横断構造物の設置に当たっては、魚類等の遡上、降下に支障とならないような構造とする。

≪解説≫

◇ 床止めは、河床低下を防止して河床を安定させ、河川の縦断、横断形状を維持するために設置される構造物である。落差のないものを帯工といい、落差のあるものを落差工という。基本的な構造は「河川砂防技術基準(案)」及び「河川管理施設等構造令」によるものとする。
◇ 落差工を設置する場合には、生息する魚類等の種類、季節別の流況の把握に努め、必要に応じ魚道を設置するなど魚類等の遡上・降下・移動にできる限り支障を与えないような構造とする。

・支障の少ない構造としては、一段の落差を小さくした(五〇cm以下)多段式とする場合、緩傾斜とする場合等がある。
・落差工の水落ち部には、魚がジャンプする助走用の淵(魚種にもよるが一般的に水深三〇cm程度)を設けるなど構造的な工夫をする。
・法的な規制を受ける区域以外等で魚の遡上、降下のみを目的とする施設の新設は行わない。

◇ 本体の上下流に設ける護床工は屈撓性をもたせ連結することが望ましい。この場合、鉄線かご型護岸等の透過性構造とすると水が伏流してしまい魚類の遡上・降下が妨げられる場合があるので注意する必要がある。
◇ 落差工の天端、帯工にはあらかじめ切り欠きを設けたり、両端部を若干上げ横断方向に勾配を設けるなど必要な水深を確保し魚類等の遡上、降下に必要なルート確保する工夫が必要である。
◇ 必要に応じ魚道を設置する場合の留意事項

・魚道は魚の通り道であり魚のすみかではないので、できるだけ速やかに通過できる構造がよい。
・河川条件や魚の種類などにより様々な形式の魚道が考案されているので、特性にあったものを選択する。
・魚道の入口は魚が自然に集まるところに設けるのがよい。流量が豊富であれば呼び水水路を設けて、入口に魚を集めるのも有効な方法である。
・魚道の勾配や魚道内の流速は、対象魚の遊泳力に合わせて決める。

第九章 多様な水際部及び低水路

九―一 水際部処理のあり方
九―一―一 水際部処理の基本的考え方
護岸構造、根固構造の決定については、別途第五章、第八章で記述したとおりであるが、ここでは治水上も生物等にとっても非常に大切な水際部の処理のあり方について、特に現地での施工上の留意点について記述する。
水際部処理のあり方は、様々なやり方があり、統一的な方法や考え方がないので事例等を参考に今後対応していくものとする。

・水際部は、護岸工の下部及び基礎など治水上重要な部分である場合が多い。
・水際部は、多くの生物にとって最も重要な部分であり、多様な環境が求められる。その処理に当たっては治水上支障のない範囲において左記事項に留意する。

1) 変化に富んだ水際(直線化、平坦化しない)
2) 多孔質、透水性、通気性(隠れ場所、水質)
3) 草や樹木による適当な陰(産卵場所、水温)

・自然環境も“原形復旧”が原則であり(第二章参照)、河床を真っ平らにするようなことはしない。
≪解説≫

◇ 水際は、生物の生育環境にとって非常に重要な部分であり、生息する生物も多種多様である。一方、第六章の複合型護岸にもみられるように、上部と下部で構造を変えるなど治水上も配慮が必要である。
◇ 生育環境の保持のためには、川本来の多様な姿に注目し(第三章参照)、できるだけ現状の良好な環境を変えないようにすることが肝要である。

現在ある瀬や淵など多様な河川形状を保全するため、河床はできるだけ改変しない。やむを得ず手をつける場合には、現況を再現・再生させるような工夫を施し、河床を真っ平らにするようなことはしない。

九―一―二 環境に配慮した水際部処理方法

・現地において、水際部でのちょっとした工夫が見違えるような川となる。どのような川づくりを目指すか現場内での意思統一が必要である。
・前記(五章、八章)の標準的な工法に、施工段階でいろいろな工夫を加えることにより多様な水際を保全する。
・工事が完了して終わりでなく、その後の追跡調査が必要。それが次の“川づくり”に生きる。
≪解説≫

◇ 例えば現地の石や土を残土処理あるいは跡地整理として河岸に寄せておくだけで従前の多様な環境が保全されるきっかけとなる。
◇ これらの処理について発注図面等に逐一表示するのは困難であるため細かい規格等にこだわらず、残土、残石等の処理として現地に合わせて施工する。結果的に、自然環境を保全しつつ経費の縮減につながる。
◇ 現地材料は石や土だけでなく、例えばブロックの破片、ヒューム管、U字溝などを組み合わせて配置することにより多様な空間が確保でき、様々な大きさの魚の隠れ家となる。単一な大きさだと魚の種類も限定される。
◇ 出水期までに、ある程度植生が生育するように施工時期を工夫する。やむを得ない場合は必要に応じて石や木杭等を使った補助工法を施す。(九―二―二参照)
◇ 水辺の多様な形態は、いくつもの出水等を経験しながら長い年月をかけ自然の営力により形成されていくものであり、工事完了後も追跡調査が必要である。追跡調査といっても大げさなものでなく、現地に行って遠くから、近くから観察し写真を撮る程度でも良い。日常の河川管理・出水直後のパトロール等の中で構造物の健全度や自然の回復度等を確認する。

必要に応じて維持的工事が必要となる。

【施工例】
魚巣ブロックは中流域の水深のあるところで使用する。どうしても単調になりがちなので寄せ石と組み合わせて植生基盤を確保している。木陰は魚の隠れ家として最適である。
水域から陸域への連続性を持たせ、植生基盤を確保。
カゴマットで復旧の際はできるだけ現地形を尊重して施工することが重要。
単調な水際となる場合が多いので覆土はもちろん石や木を使って水際に変化を持たせたい。
異形ブロックと石と土をうまく組み合わせ、合わせて治水と環境の両効果を期待。

九―二 多様な低水路のあり方
九―二―一 多様な低水路形状を形成するための基本的考え方

・川幅の狭い中小河川においては、自然豊かな多様性のある低水路は河川環境上非常に重要である。
・復旧に当たっては極力河床をさわらないようにするが、やむを得ずさわる場合は工事前の低水路の形態(蛇行、瀬、淵等)をよく観察し、元の状況に復元するよう努める。
・従前の多様な低水路がある場合には、復旧工事により、従前の環境が損なわれないよう従前の低水路を確保する。

・発生土砂を河岸に積み上げる
・土砂を河岸に積み上げる。必要に応じて木杭や置き石等の補助工法を追加。

 
 
≪解説≫

◇ 河道内では、長年月をかけて土砂の侵食や堆積が繰り返され、堆積した土砂には植生が根付き、そして出水で流出する。こうした繰り返しが河道をより自然性の高いものとしている。

しかし、中小河川の改修後に、平瀬化した浅い流れのまま瀬や淵のない、また洲や植生の少ない河道が出現することがある。このような河道は魚類や他の水生生物にも悪い影響を与えている。

◇ 人為的な手はなるべく加えないようにすると同時に、事前調査結果(第三章参照)をもとに、工事前の河道内の良好な環境に復元することを原則とする。
◇ 川が自ら動ける自由度を持たせるためにもできるだけ川幅を広くとり、川が自然に河道をつくり上げる能力に任せる。

具体的には、低水路の水際は直線化せず、様々な環境となるよう発生土を利用して河岸に土砂を積み上げる等、低低水路を確保する。なお、河岸の土砂が流出するおそれがある場合には、木杭、置き石等の補助工法を行う。

九―二―二 多様な低水路形成のための補助工法

表九―二―一 多様な低水路形成のための補助工法
工法
概要・特長
ミニ落差

単調な流れに変化を与えるため、横断的に石や木杭を置き、一〇cm〜二〇cm程度の落差を形成する。
緩急の変化に富んだ流れが形成される。

斜路

単調になりがちな低水路に木杭と石を用いて三〇分の一程度の勾配で斜路を設け、せせらぎとする。横断方向にも緩やかな勾配をつけて、水位変動にも柔軟に対応できるようにしておく。ランダムに木杭を打ち込むことによって、さらに流れの変化が加わる。

置石

置き石の設置により、流れに変化が生じ深みができる。
複数の石を水制状に設置して、小さなワンドを形成したり、水際に植生の生育基盤を形成できる。

石積

自然石を空積みすることにより、河岸を多孔質で空隙を備えた構造とし、多様性に富んだ水際を創出する。
施工箇所の特性に応じて、覆土、置き石、木杭等を併用する。

木杭

河岸近くに松丸太などの木杭を打ち込み、土砂の堆積を誘導し、植物の生育基盤を形成したりして、低水路の多様化を図る。置き石や蛇籠を併用する場合が多い。

連柴柵

伝統的な法止工のひとつで、法先に木杭を一定間隔で打ち、柳技束や粗朶を束ねた連柴を取り付け、背面に粗朶などの吸い出し防止策を施したうえで、土砂で埋戻す工法である。

植生ロール

掘削などによって土砂が不安定な状態になった河岸において、水性植物などの生育を促進していくための基盤を形成する補助工法である。
木杭や捨石工と併用して河岸に設置する場合が多い。

水制

水制の材料によって、石などを利用した不透過水制と、杭出しなどの透過水制に分けられる。
治水上の目的としては、流水の侵食作用を和らげ、あるいは河床勾配を緩和して流速緩和が期待できる。
九―三 魚類等の生育環境に配慮した工法

・根固工や護岸工を多孔質にすることにより、魚類や底生生物のすみか、休息場、避難場、餌場あるいは植生の早期回復といった多様な機能を持たせることができる。
・このため、必要に応じ生態系に配慮した工法として魚類等の水生生物の生息域を確保するための魚巣ブロックや巣穴を根固工、護岸工と組み合わせ設置する。
≪解説≫

◇ 魚巣ブロック等は、従来より魚類の生息域の確保のために用いられてきた工法である。

設置に当たっては、ある程度の水深を持った生息域の確保のために用いると、魚巣としての効果が発揮しやすいと言われている。また、流れのある箇所では、魚巣ブロック等の前面に置き石をし、流速の緩和、土砂の流入防止を図る工夫を行っている事例もある。

◇ 孔を利用するオオサンショウウオ、ウナギ、ナマズ、フナ類等は流れが穏やかで水深のある場所で生息するため、魚巣、ブロック等の設置に当たってはそれぞれの生態に十分配慮し、その使用場所、使用方法を適切に行う。
◇ 巣穴工の実施事例

魚類や水生生物の生息域として巣穴工を実施した事例を下記に示す。
1) 護岸前面に寄せ石をし、寄せ石のみの隙間だけて魚類や小型の水生昆虫などの生息場所とするもの。
2) 木工沈床の礫部下部に通水管(ヒューム管、U型側溝の裏返し)を設置し、背部に魚巣ブロック等を配置することにより小型のオオサンショウウオ、ウナギ、ナマズや魚類の隠れ家とするもの。
3) 護岸の底部に桝(九〇cm角)を設置し、大型のオオサンショウウオが巣穴として活用できるよう外部からの進入を容易にしたもの。

【例】
<参考文献>

(一) 河川管理施設構造令研究会編:解説・河川管理施設構造令、山海堂、一九七八
(二) 建設省河川局監修:建設省河川砂防技術基準(案)同解説、調査編、計画編、設計編〔I〕〔II〕、山海堂、一九九七
(三) (財)国土開発技術研究センター:護岸の力学設計法、一九九七
(四) 建設省土木研究所河川部河川研究室:土木研究所資料、洪水流を受けたときの多自然型河岸防御工・粘性土・植生の挙動、一九九七・一
(五) 防災研究会編:災害復旧工事の設計要領、一九九七
(六) 吉川秀夫:流砂の水理学、丸善、一九八五
(七) 土木学会編:水理公式集、
(八) (財)リバーフロント整備センター:河道内の樹木の伐採・植樹のためのガイドライン(案)、山海堂、一九九四
(九) 福岡捷二、藤田光一:堤防法面張芝の侵食限界、水工学論文集、第三四巻、PP.三一九〜三三〇、一九九〇
(一〇) 福岡捷二、藤田光一:洪水流に及ぼす河道内樹木群の水理的影響、土木研究所報告、第一八〇号―3、PP.一二九〜一九二、一九九〇
(一一) 富田和久、宇賀和夫、長谷川博幸、並木嘉男、藤堂正樹:張芝工の耐侵食性についての現地観測、土木学会第四七回年次学術講演会概要集、PP.四一八〜四二〇、一九九二
(一二) 福岡捷二、渡辺和足、柿沼孝治:堤防芝の流水に対する侵食抵抗、土木学会論文集、No.四九一、II―二七、PP.三一〜四〇、一九九四
(一三) 服部敦、平舘治、藤田光一、宇多高明、関口利昭、宮下光泰:堤防の耐侵食性の評価方法に関する研究、河道の水理と河川環境シンポジウム論文集、PP.七三〜八〇、一九九五
(一四) 山本晃一、藤田光一他:河岸形成における水と植生の役割、土木技術資料三五―八、PP.五四〜六〇、一九九三
(一五) 藤田光一、宇多高明:川幅縮小機構についての考察、河道の水理と河川環境シンポジウム論文集、PP.一八三〜一九〇、一九九五・六
(一六) 藤田光一、宇多高明:ウォシュ・ロードの堆積により河岸の高水敷が形成される水理条件について、第四〇回水理講演会論文集、一九九六・二
(一七) 山本晃一:沖積河川学、山海堂、PP.四四九〜四五〇、一九九四・九
(一八) 土木学会編:水辺の景観設計、技報堂出版、一九八八
(一九) (財)リバーフロント整備センター:川の風景を考える―景観設計ガイドライン―山海堂、一九九三
(二〇) (財)リバーフロント整備センター:まちと水辺に豊かな自然をIII―多自然型川づくりの取組みとポイント―、山海堂、一九九六



<別添資料>


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