住発第五九八号
昭和二六年一一月三〇日

都道府県知事あて

建設省住宅局長、厚生省社会局長、地方自治庁次長通達


公営住宅家賃の強制徴収について


標記の件については公営住宅法施行に関するブロック会議等の機会に既に明確にしているところであるが、最近これに反する意見が一部において表示されたため(札幌市長の質疑に対する法務府法制意見第一局長の回答)、事業主体においてもなお、疑問を有している向もあるが、公営住宅の家賃は左記理由により地方自治法第二二五条の規定により強制徴収することができるものと解するから、管下事業主体に対してその旨指導徹底されたい。

公営住宅は、地方公共団体がその住民の利用に供する住宅であるから、地方自治法第二条第三項第六号の営造物であることは明らかである。もとより営造物であるからといって、その利用関係については、すべて私法上の規定の適用を排除すべしとすることは正しくないが、これに優先していかなる公法上の規律に服すべきかは、当該利用関係に関する個々の法律の規定とこの利用関係の実態とを考察して、決定すべきである。而して公営住宅の利用関係を解明する場合、少なくともその家賃の徴収については左の理由から地方自治法第二二五条の規定により強制徴収をなしうると解するを至当とする。なお国会における公営住宅法の提案理由においてもこれと同趣旨の見解が明らかにされている(別紙)。
第一に公営住宅は、右に述べた如く地方自治法第二条第三項第六号の営造物であるから、その家賃は地方自治法第二二〇条にいう使用料であることは明らかであり、従って、同法第二二五条第一項にいう使用料から公営住宅の家賃を排除すべき何らの理由がない。
第二に公営住宅は現在の深刻な住宅難を急速に解決するために特に制定された公営住宅法に基づいて建設経営されるものであって、その公共的性格は極めて高い。すなわち地方公共団体は、住宅困窮者に対して公営住宅の建設経営の義務があり(同法第三条)又国はその建設については財政上及び金融上の援助義務(同法第四条第一項及び第一一条)を負うており、実際においても政府は毎年莫大な公共事業費を支出し、資金運用部資金を融通し、地方公共団体も相当な財政支出を行なっている。而してその利用関係も単に私法の一般的規定によらしめることなく、事業主体である地方公共団体は、家賃の決定(同法第一二条)及び変更(同法第一三条)、修繕の義務(同法第一五条)、入居者の募集方法及び選考方法(同法第一六条、第一八条)について、法律で特別の規律を受け、その反面、入居者はその資格(同法第一七条)について特別の制限を受け、保管(同法第二一条)及び明渡(同法第二二条)についても、特別の義務を負う外、一般的に公営住宅の管理に関しては条例で定むべきものとしている。かくの如く公共的性格が顕著で、特別の公法上の規制を受ける公営住宅の経営を、営利上の計算に基づく民間の貸家経営と同一に取扱うことは何らの理由がなく、その家賃の徴収については、他の営造物の使用料と同様に地方自治法の規定により処理することは当然である。なお公営住宅の家賃は、右に述べた如く、公営住宅法に定めるところにより最小限度の管理及び修繕に要する費用を含めて、当該住宅の建設費のうち国庫補助金を除いた部分を長期低利に償却するものとして計算した額をもって構成されており、従ってその額は極めて低額であり、その徴収については地方自治法による徴収手続を当然に前提としているものであって、もしこれによる家賃の強制徴収ができないとすれば、たちまち地方公共団体の住宅経営に重大な支障を来し、ひいては一般納税者に損害を及ぼすのみならず、低家賃庶民住宅建設の、現下最も緊急な施策の遂行にも影響を及ぼし、住宅問題の解決を益々困難にする結果となり、地方自治法において地方公共団体に対し特別徴収を認めた法意に全く反するものといわなければならない。


(別紙)

第一〇回国会衆議院建設委員会議録
(昭和二六年五月一五日)抜すい
第一〇回国会参議院建設委員会議録
(昭和二六年五月二四日)抜すい

○田中(角)委員 ただいま議題となりました公営住宅法案につきまして、提案の理由、及び要旨について御説明申し上げたいと思います。

(中略)

第一四条は、事業主体が公営住宅の入居者に対して不当な金品を賦課することを禁止した条文でありまして、公営住宅に入居する場合に、事業主体が特別な反対給付を受けて、特定人に優先入居を認めたりすることのないよう、その住民に対して平等に入居の機会を与えるために規定した次第であります。但し敷金については、慣行上広く行なわれておりますし、家賃の不払いの場合や、住宅を毀損した場合の担保となるものでありますので、これを徴収し得ることとしたのであります。なお、公営住宅の家賃不払いの場合には敷金を債務に充当するほか、地方自治法第二二五条による滞納処分をなし得ることはもちろんであります。



(写)
(昭和二六年一〇月二四日)
(/法務府/法意一/発第六七号)

法務府法制意見第一局長

札幌市長 殿

公営住宅法の家賃の性質について

八月一四日付 札庶第一七八八号をもって照会に係る標記の件について左のとおり、意見を回答する。
一 問題

公営住宅法第一二条及び第一三条等にいう「家賃」について滞納がある場合に、地方自治法第二二五条の規定する強制徴収手続を適用することができるか。

二 意見

お尋ねの点は、消極に解する。

三 理由

私経済的役務に対する反対給付は、地方自治法第二二〇条にいう「手数料」に包含されないのであり、従って、その滞納に対しては同法第二二五条の規定する強制徴収手続が適用されないことは、別添法務府法意一発第五二号「都道府県知事の行なう家畜人工授精講習会の受講料について」において述べたとおりであるが、右の理はいわゆる使用料についても、同様であって、私法上の使用料については、同法第二二五条の規定は、適用されないものと解すべきである。
お示しの家賃は、公営住宅の使用に対する反対給付である意味において、いわゆる使用料の概念に包含されるものであるが、その法律上の性質からいえば、私法上の使用料であるといわざるを得ない。けだし、公営住宅は、国民生活の安定と社会福祉の増進のために設けられるのであり(公営住宅法第一条参照)、その意味において、公営住宅の設置ないし維持管理に公益的目的の存することを否定するものではないけれども、その使用及びその反対給付たる家賃に関する法律関係は、通常の私人間に行なわれる借家契約に関するそれとなんら性質を異にする点はないのであって、お示しの家賃を公法上の使用料と解すべき根拠は全くないからである。
従って、公営住宅の家賃の滞納については、地方自治法第二二五条の規定する強制徴収手続を適用すべきではないと解する。


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