住発第七号
昭和三八年一月一四日

住宅金融公庫副総裁及び都道府県知事あて

建設省住宅局長通達


団地に対する防犯対策の強化について


標記について、別紙のとおり警視庁防犯部長より依頼があったので、早急に各団地にその趣旨を徹底させるようお取り計らい願いたい。



(別紙)
(防、防、防第二六九号)
(昭和三七年一二月二〇日)

建設省住宅局長殿

警視庁防犯部長

団地に対する防犯対策の強化について依頼

寒冷の候、ますます清祥のこととお喜び申し上げます。
さて、皆様すでに新聞紙上などでご承知のとおり、さる一二月一七日の白昼、北多摩郡久留米町のひばりケ丘団地内において留守番の老婆が強盗に襲われ殺害されるという事件が発生しました。現在、警察では全力をつくして犯人の捜査につとめておりますが、この事件の内容を防犯的に検討してみますといろいろと問題点があるようであります。
つきましては、別添の資料をご検討の上、早急に各団地の皆さんに対し、その趣旨を浸透され、すみやかに必要な措置を講ぜられ、犯罪防止につとめられるよう特段のご配慮を賜りたくお願い申し上げます。



(別添資料)

防犯ニュース No.二九 一二月二〇日

防犯課

〜ひばりケ丘団地における殺人事件と防犯対策〜

さる、一二月一七日田無警察署管内ひばりケ丘団地内において発生した強盗殺人事件について、当課で現場防犯を実施した結果は左記のとおりであったから、団地、アパート等に対する防犯広報資料として活用されたい。
1 発生日時

一二月一七日午後四時ごろと推定される。

2 発生場所

北多摩郡久留米町南沢四九

日本住宅公団 ひばりケ丘団地

一六六号館二〇三号 会社員 加沢和夫方

3 被害者

前記加沢方(義母)

無職 某女 七三歳

4 被害金品

現金 八万一、〇〇〇円

5 被害の模様

(1) 被害者宅の状況

被害者宅には
会社員(世帯主)加沢和夫 三一歳
教員  妻    うめ 三三歳

長男   秀之  二歳

と被害者の四人暮しで、加沢夫妻は共稼ぎのため、長男はいつも同団地内のA婦人三七歳方に預けられ、昼間は被害者一人が留守番をしていた模様である。

(2) 犯行の状況

被害当日も娘夫婦は、平常どおり午前八時前に出勤、長男を預け、その後は被害者一人が留守番をしていた。
午後四時ごろA婦人が子供を返しに行ったところ玄関のドアーのカギがかかり内部からは何等応答がなかった。
午後六時一五分ごろ、被害者の娘うめが勤め先から帰宅してみると、玄関のカギは開いていたが部屋の中が真っ暗で、母親を呼んでも返事がないので不審に思いながら電灯をつけてみると室内のタンスなどが荒されているので、さらに四畳半の間の押入れを開けてみたところ、被害者がネマキのヒモで首を絞められうつ伏せに殺害されているのを発見、驚いて付近の人とともに一一〇番に急報したものである。

6 現場の地理的状況

現場は、西武池袋線ひばりケ丘駅南西約一キロメートル、日本住宅公団ひばりケ丘団地(一七〇棟、二七一四戸、人口約八、七〇〇人)で、その北端に位置し、道路に面して建てられた一棟四階建で、被害家屋は北側の二階である。

7 被害家屋の構造および防犯設備の状況

別添見取図のとおり、四・五畳、六畳、ダイニングキッチン、湯殿などとなっており防犯施設としては、
(1) 玄関のドアーは鉄製で、カギは面付のドアー錠のほか補助錠としてドアーチェンが設置され、さらに内部から外来者を確認するためののぞき窓がついている。
(2) 玄関内側の壁には、スイッチ式の非常警報装置が設置され、これを使用した場合には一棟に四個(各階に一個宛)設置されている各非常ベルが一せいに鳴る仕組になっている。
など施錠設備については、おおむね完備しているものと思われる。

8 防犯上の問題点

犯人はいまだ検挙されておらず、また目撃者もないので即断はできないが、今回の事犯を検討してみると、前記のとおり、防犯施設面についてはおおむね完備されており、それほどの欠かんは認められないが、問題はこれらの効果的な施設をいかに有効に活用したかという点であるが、調査の結果では、
(1) 被害者はいつも玄関を固く締めておくことは、来訪者に失礼になるとの配慮から折角つけてあった「ドアーチェン」を常日ごろはもちろん被害当日もこれをかけていなかった模様である。

したがって、このことが直接の侵入原因と認められるが、これ以外の団地共通の問題点としては、

(2) 階段や廊下が道路の延長という考え方から、誰が歩いていても別に怪しいと思われない。
(3) 独身者や共かせぎの夫婦などが多く、昼間は留守がちで、しかも近所づきあいがない。といったことなどが、犯人の犯行をより容易にしたものと思われる。

9 今後における防犯対策

警察としては、従来の団地内における警ら路線、警ら方法等を再検討の上、強化措置を講ずるほか、管理人(責任者)などと連絡を密にして、特に次の点について協力を呼びかけること。
(1) 自衛防犯体制の強化

ア まだ組織のないところでは、隣保共助体制を強化するため、居住者同志の、あるいは管理人を中心とした自治会、防犯協会支部などの自衛防犯組織をつくり、自主的に防犯座談会、研究会等を開催して防犯意欲を高めさせる。
イ 管理人のないところでは、これを常置するよう呼びかけ、外来者や留守部屋に対する警戒あるいは警察(派出所、駐在所)への連絡などを行なわせる。
ウ できうれば各棟ごとに連絡責任者を指定してこれらを防犯連絡拠点とするなどの方策を講ずる。

(二) 一般的な防犯心得として

ア ドアーには既設のカギのほかに内側からドアーチェン(安全ぐさり、用心ぐさり)などの補助錠をつけ、訪問者があったら半開きにして相手を必ず確めてから開ける。
イ 行商人などは不必要に入れない。できうれば透し窓をつけるように工夫する。
ウ 多額の現金や貴金属などは、タンスや鏡台などの引き出しに不用意に入れておかないで、目立たない場所に分散しておくようにする。
エ できるだけ、相互連絡用などの防犯ベルを設置して、隣り近所で助け合えるよう日ごろから連絡しておくこと。

10 その他

アパートにおける本年一月〜一一月までの被害状況(統計、集計上の問題から団地、個人アパートの区別ができない。)および団地における被害事例は別表第1、第2のとおりである。



別表 〔略〕


All Rights Reserved, Copyright (C) 2003, Ministry of Land, Infrastructure and Transport