住指発第五四号
昭和四三年三月八日

建設省住宅局建築指導課長から部長あて

通達


耐火建築物等における火災による死傷事故の防止について


標記については、別途昭和四三年三月八日付建設省住指発第五三号により住宅局長から貴特定行政庁あて通達したところであるが、建築基準法(以下「法」という。)及び同法施行令(以下「令」という。)の運用に関し、具体的に留意すべき事項は下記のとおりであるので、施行に遺憾のないよう御配意願いたい。

一 防火区画(令第一一二条)

防火区画の設置に関しては火災の拡大を抑止することのほか、煙の拡大又は充満の防止の観点から有効な機能を保持させること。
また、従来防火区画の設置が形式に流れ、広範囲にシヤツター形式の防火戸が設置されているが、避難上の利便、防煙機能等から必ずしも十分とはいえない場合もあり、個々の実態に即し、適宜、開き戸又は引き戸形式による防火戸を設置させること。
令第一一二条第一二項及び第一三項の規定については、配管、ダクト等の貫通部分及びその他の仕口部分の空隙が残存している事例もあるので、特に見えがくれ部分について空隙を完全に充てんする等十分な施工を行なわせること。

二 界壁、間仕切壁及び隔壁(令第一一四条)

これらの界壁等には空隙を生じさせないよう十分な施工を行なわせること。
特に見えがくれ部分の施工については、防火区画における場合と同じく格別に留意させること。

三 直通階段(令第一二〇条)

本条は避難上容易に利用できる階段の設置を図ることを目的に歩行距離を規定しているものであり、複雑な形状の廊下を経由するもの、廊下、ホール等以外の用途に供する部分を経由するもの等で、円滑な利用上支障のあるものは、本条の趣旨に沿わないものとして扱うこと。
また、直通階段の構造については、昇降にあたり避難の方向が明確に判断できるものとさせること。

四 二以上の直通階段の設置義務(令第一二一条)

本条はいわゆる二方向避難を確保することを目的としており、二以上の直通階段を一箇所に集中して設けるなど利用の実態上一のものの機能しか持たないとされるものは、本条の趣旨に沿わないものとして扱うこと。

五 避難階段及び特別避難階段(令第一二二条及び第一二三条)

本条においては、火災時にこれらの階段の内部が火災及び煙から保護された空間を構成し、安全な避難行動を確保すべきことを目的として、これらの構造を規定しているものであるが、著しく広範囲にシヤツター形式の防火戸を使用したものについては、火災時の閉鎖が確保し難く、また閉鎖後は以後の出入の便及び防煙機能の何れについても適当でないなどの実状に照らして本条の趣旨に沿わないものとして扱うこと。
また、これらの階段の配置及び構造を適正にすることにより、建築物各層の水平区画が有効に構成されるよう十分留意すること。

六 内装制限

法別表第一(い)欄(ニ)項に掲げる旅館等の用途に供する建築物のうち、耐火建築物であるものについては、法第三五条の二及び令第一二九条の規定に基づく内装の制限が課されていないが、当面、これらの建築物についても、令第一二九条第一項に規定する内装とさせるよう指導を強化すること。

七 維持管理

廊下階段等の有効幅員の確保、防火戸の作動等、避難上の要件若しくは機能が有効に保持されていない事例もあるので、使用開始後の適正な維持管理の確保を図るため、法第一二条第三項の規定を積極的に活用するほか、随時の現地指導を強化するものとし、これには適当な民間団体等の協力を求める等の措置も適宜講じること。

追記 建築基準法の改正に関し、建築防火及び避難関係規定の整備については別添の基本方針(財団法人日本建築センターに調査を委託し、今回当職あてに中間報告されたもの)を基にして作業を進めているので参考に供されたい。


別添

建築物の防火及び避難に関する基準整備基本方針

§1 基本的な考え方

最近の建築投資の量的増大及びその都市集中並びに建築及びその関連の技術革新に伴ない、建築物の用途、規模、構造、形態等は、著しく変化しつつありこれに即応して、建築物に要求される安全性について綜合的に再検討し、安全で、合理的かつ、経済的な建築物を造り、かつ、維持するための技術的基準の整備が目下の急務であり、これにかんがみ以下(1)〜(6)の考え方に基づいて基準整備を行なうものとする。
(1) 建築物に要求される防火及び避難上の安全性に関しては、火災時における安全、かつ、円滑な避難の確保を重点に、関係基準を整備する必要がある。なお、この際、建築物の用途、規模、構造、立地等のほか、消防用の施設、消防活動、消防能力等の要素をも綜合的に勘案して、合理的な基準の設定を行なうものとする。
(2) 不特定、かつ、多数の者が使用する建築物、多数の者が高密度な使用をする建築物、多数の者が居住する建築物、地下部分に建築される建築物、極めて高層の部分を有する建築物、その他これらに類するものについて、重点的に関係規定を整備強化するものとする。
(3) 技術的基準を合理化し、かつ科学技術等の発展に適切に即応し得るようにするため、極力、仕様書的基準から性能基準へ転換するものとし、これにともない現行の試験、検査等の判定基準及び認定、指定等の制度を整備強化する方途を講ずるものとする。
(4) なお、技術的基準の合理化に伴ない、その、適正な施行確保を図るため、維持管理上の要件を必要とするものにあつては、維持管理責任の明確化など適切な方途を講ずるものとする。
(5) 法令上の構成は、原則及び基本的な事項は法律において、また、具体的な事項は、その重要度に応じて政令、省令及び告示において、それぞれ規定するものとし、その他日本工業規格等を活用するものとする。
(6) また、現行基準とのつながり及び他の関連法令との調整を図るものとする。

§2 法律において規定すべき事項

(1) 建築物は、用途、規模若しくは構造又はその周囲の状況に応じて、(その建築物の使用者等の)避難上必要とされる要件及び(これらの者若しくはその建築物の周囲の)安全上必要とされる火災耐力を具備せしめることを明らかにするものとする。
(2) (1)の目的から、建築物内部の火災の発生及び拡大の防止、他の建築物からの若しくは他の建築物への延焼防止ならびに安全な避難活動及び消火活動の確保を図るために必要な建築材料、主要構造部その他の各部の構造、廊下、階段、出入口その他の避難施設、防火壁、防火区画その他の区画、及び消火排煙のための建築設備の設置及び構造並びに敷地内の避難用及び消火用の通路の設置に関する技術的基準を整備することを明らかにするものとする。
(3) 予想しない特殊の建築材料又は構造方法を用いる建築物についての建設大臣の特別の認定に関する制度を存置するとともに、建築材料又は構造方法の性能証明に関する制度を設けるものとする。
(4) 維持管理責任の明確化のための責任者及びその義務等について必要な基準を設けるものとする。

§3 具体的事項

I 建築物主体構造の崩壊防止に関する事項

(1) 主体構造(柱、はり、耐力壁等)の耐火性能は次の各号を標準として定めるものとする。

(a) 地上階数二以下の建築物にあつては、その中の者の避難が完了するまでは、崩壊を許容しないものとする。
(b) 地上階数三の建築物にあつては、消火を行なわない火災(放任火災という。以下同じ。)の場合を除き、崩壊を許容しないものとする。
(c) 地上階数四以上の建築物にあつては、火災による崩壊又は大きな変形を許容しないものとする。
(d) 周囲の状況等により崩壊による被害を周囲に及ぼすおそれのない場合においては、(b)及び(c)は実情に応じて耐火性能を軽減するものとする。
(e) 用途・構造等により、その中の者の避難に長時間を要する建築物にあつては、(a)、(b)及び(c)に拘わらず、耐火性能(耐火時間)を加重するものとする。

(2) 耐火性能は、火災荷重の実況を考慮して定めるものとする。
(3) 前二項に基づき、建築物主体構造の部位ごとに設定された耐火性能を建築物の用途及び規模に応じて、その建築物又は部分の各部位に適用するものとする。

II 建築物内の者の避難に関する事項

(1) 避難は、最終的には屋外の地上(道路その他の安全な場所)に到ることを原則とし、建築物内部の特別の措置をした安全な場所(安全階、安全区画、屋外バルコニー等)及び屋上への避難、および外部よりの救出は、補足的に考慮するものとする。
(2) 特殊建築物等については、屋内の各部分から、屋外への出口までの経路を一体とした「避難路」(常用の廊下、階段を含む)の概念を設定し、この設置及び維持義務を課するものとする。
(3) 前項の避難路及び一般建築物の階段、廊下等の避難上重要な部分は、不燃性で、かつ避難上支障となる煙を発生しない材料等で構成しなければならないものとする。

また、これらの部分に面する開口部は、相当の防火及び防煙性能を有し、かつ、扉にあつては、常時閉鎖状態(緊急時にのみ、煙検知器との連動により閉鎖状態を構成するものを含む)にある自動閉鎖方式のものとしなければならないものとする。

(4) 特殊建築物等の内部は火災初期における避難上支障となる煙を発生しない材料等で仕上げなければならないものとする。
(5) 避難路を構成する階段、一般建築物の避難上、重要な階段、これらの附室その他避難上重要な部分には適当な排煙設備、又は排煙のための開口部、その他これに類するものを設けなければならないものとする。
(6) 大規模建築物においては、火災時に、その火災が最盛期を経過するに至るまでの間、安全に人が滞留することのできる安全区画を設置せしめるものとする。

III 火災の拡大防止に関する事項

(1) 地階又は三以上の地上階数を有する建築物(ただし、個人住宅等、一定規模以下の特定用途に係るものを除く。)にあつては、各層にわたる火災の拡大を防止するための防火区画を設けさせるものとする。

なお、防火区画を構成する床、壁、開口部建具等の耐火性能は、その建築物各部の耐火性能との均衡をも図るものとする。

(2) 同一層内における防火区画については、用途等に応じ、一定の面積ごとに設けさせるものとする。ただし、避難上支障を及ぼすおそれのある場合にはこの限りでないこととすること。
(3) 前項の防火区画には、避難上必要とされる構造(幅員、開閉方法を含む。)の開口部及び建具を設けさせるものとする。
(4) 火災の拡大に寄与するおそれのある構成材等内部の空隙、中空部分等には適当な区画を設けさせるものとする。
(5) 外壁及び開口部は、他の層にわたり、又は、他の建築物への火災の拡大を防止するため、有効な構造とさせるものとする。
(6) 地上階数三以上の建築物の屋根の耐火性能は、火災が最盛期を経過する以前に崩壊しないことを目標に定めるものとすること。ただし、屋上を避難場所として活用する必要のある場合はこれに必要な耐火性能を別々に定めることとする。地上階数二以下の建築物の屋根は原則として不燃材料で造り、又は、ふくものとする。

IV 火災時において避難上支障のある煙への対策

(1) 三以上の地上階数を有する建築物にあつては、各層にわたる煙の拡散及び充満を防止するため、防煙上有効な区画(以下「防煙区画」という。)を設けさせるものとする。
(2) 同一層内における防煙区画については用途形態等に応じ、安全な避難活動を確保するために必要な方法により、設置せしめるものとする。
(3) 前二項の防煙区画には、避難上必要な構造(幅員、開閉方法を含む。)の開口部及び建具を設けさせるものとする。
(4) 特殊建築物の避難路及び一般建築物の階段、廊下等避難上重要な部分は、他の部分からの煙が遮断されるように造り、かつ、侵入した煙を排出するための直接外気に接する開口部、排煙塔、排煙設備その他これに類するものを設けさせるものとする。

特に、避難階室又は特別避難階段の附室には、これらに侵入した煙を屋外に排出するための直接外気に接する開口部排煙塔、排煙設備その他これに類するものを必らず設けさせるものとする。

(5) 煙の拡散及び充満に寄与するおそれのある構成材等の内部の空隙、中空部分等には、適当な区画を設けさせるものとする。
(6) 特に、火災時の煙の排出が困難な地下室、地下街、無窓建築物等については、防火及び防煙区画、スプリンクラー、排煙設備等の設置基準を強化するものとする。
(7) 排煙設備等の開口部の開閉方法は、煙感知機との連動その他の方法により有効な開閉を確保するものとする。

V その他の事項

(1) 特殊建築物等には、外部からの救出活動、消火活動等のための窓、これに附属するバルコニー等を設置せしめ、かつ、安全区画との連絡を配慮せしめるものとする。
(2) 特殊建築物等には居室及び避難路に誘導標識を設置せしめるものとし、その位置及び構造は煙との関連において認識しやすいものとさせるものとする。
(3) 特殊建築物等にあつては、適正な維持管理を確保するため、維持管理責任を明らかにし、防火上及び避難上必要な構造、設備等の完全な機能確保を図るものとする。


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