住指発第七一号
昭和四三年四月五日

建設省住宅局建築指導課長から部長あて

通達


火災による事故防止対策の強化について


標記については、別途昭和四三年四月五日付建設省住指発第七〇号により建設省住宅局長より各都道府県知事あて通達したが、各特定行政庁が当面講ずべき防災措置のうち、「1の(1)」消防部局との連けいにより実施する特殊建築物等の現地検査並びに「1の(3)」建築物の設計者、施工者、管理者等に対する防災指導に関し、それぞれ別添(1)及び別添(2)のとおりその実施要領を定めたので、これに基づき適切な措置を積極的に講じられたい。
なお、同じく「2の(1)」特殊建設物の防災規制及び「2の(2)」建築物の維持管理規制のために必要な条例の制定に関し、準拠すべき基準については、成案ができ次第逐次通知する。



別添 1

昭和四三年四月五日

建設省住宅局建築指導課長

特殊建築物等に対する現地検査実施要領

1 目的

最近ビル火災等が頻発し、人身事故が多発している現況にかんがみ、災害時における安全な避難の確保を図るため、消防関係部局と連けいして、以下の二〜六により、緊急に現地検査を実施し、迅速な違反の是正及び適切な改善の勧告を行なう。

2 実施主体

この現地検査は、特定行政庁が実施するものとし、できるだけ所管の消防長又は消防署長の協力を得て実施するものとする。
なお、適宜、管下建築関係団体等の協力を求めることも併せ考慮するものとする。

3 実施の時期

昭和四三年五月中旬までの期間とする。

4 検査の対象

管下の現に使用中の耐火建築物のうち、主として次の(イ)〜(ニ)の用途に供するもののほか、地方的な立地条件、密集度等の特殊性により火災による人身事故の発生するおそれの多い耐火建築物を含めるものとする。
ただし、最近現地検査を実施し実情の把握が十分であるもの等今回改めて現地検査を実施する必要のないものについては、対象から除外して差支えないものとする。
なお、対象の選定にあたつては、関係の消防長又は消防署長と十分協議するものとし、また耐火建築物以外の建築物で、特に防災上支障があると考えられるものも適宜、対象に加えるものとする。

(イ) 劇場、映画館、演芸場、その他これらに類するもの。
(ロ) ホテル、旅館、その他これらに類するもの。
(ハ) 百貨店、マーケツト、キヤバレー、バー、公衆浴場、その他これらに類するもの。
(ニ) 主要都市の都心部における各店街等の集合店舗

5 実施の方法

実施の期間中に、対象建築物について、6に掲げる項目について、一斉に現地検査を実施し、所要の改善の勧告を行ない、かつ、その状況に応じ以下(イ)又は(ロ)に掲げる措置を早急に講ずるものとする。
なお、これらの場合、所管の消防長又は消防署長と協議し、又はこれらに通報するものとし、(イ)又は(ロ)のほか、消防法に基づく措置の要否についても、所管の消防長又は消防署長に通報し、もつて、綜合的、かつ、効果的な防災措置を講ずるよう努めること。

(イ) 違反建築物に対しては、建築基準法(法下「法」という。)第九条による必要な是正措置の命令。
(ロ) いわゆる既存の不適格建築物のうち、防火又は避難に関し、不適合な事実のうち、改善の必要の極めて高いものについては、法第一〇条による必要な保安措置の命令。

6 検査の事項

実地検査の重点は、次の(1)〜(4)とする。なお、これらについて検討する際には、三月八日付建設省住指発第五四号通達の記の趣旨を参考にされたい。
(1) 内装制限関係(法三五条の二、建築基準法施行令(以下「令」という。)一二八条の四、一二九条)

(イ) 内装制限を受ける用途、規模等に係る建築物(いわゆる既存の不適格建築物を含む。)

イ 内装材料(不燃材料、準不燃材料、難燃材料、その他の別)の使用状況
ロ その他違反又は不適合の事実の有無(有の場合は、適法に又は適合させるための方法の内容)
ハ イ又はロのほか改善すべき事項の有無とその内容(特に、いわゆる新建材について検討すること。)

(ロ) その他の建築物

(イ)のイ、及びハに準ずるものとする。

(2) 防火区画の設置関係(令一一二条)

(イ) 延べ面積が一、五〇〇平方メートルをこえる建築物(いわゆる既存の不適格建築物を含む。)

イ 防火区画の有無、並びに面積区分の状況
ロ 区画部分の空隙その他防火上の支障の有無
ハ 防火戸の作動状況等機能上の支障の有無
ニ その他、違反又は不適合の事実の有無(有の場合は、適法に又は適合させるための方法の内容)
ホ イ〜ニのほか、改善すべき事項の有無(特に、各階ごとの区画の成否について検討のこと。)

(ロ) その他の建築物

イ 防火区画の有無とその状況
ロ 改善すべき事項の有無

(3) 界壁の設置関係(令一一四条)

(病院、ホテル、旅館、マーケツト等の用途に供する建築物に限る。)

イ 界壁の有無
ロ 界壁設置部分の空隙その他防火上の支障の有無
ハ その他違反又は不適合の事実の有無(有の場合は、適法に又は適合させるための方法の内容)
ニ イ〜ハのほか改善すべき事項の有無

(4) 避難施設関係(令一一七〜一二六条)

(全般的に、次のイ〜ホについて検討するものとする。)

イ 避難施設(特に廊下、直通階段、避難階段、特別避難階段)の設置状況
ロ 階段室を構成する区画の部分の空隙その他防火上の支障の有無
ハ ロの部分の防火戸の作動状況
ニ 廊下、階段等避難路の有効幅員の保持、誘導施設の設置等避難確保のための措置の状況
ホ その他、違反又は不適合の事実の有無(有の場合は、適法に又は適合させるための方法の内容)
ヘ イ〜ホのほか改善すべき事項の有無



別添 2

昭和四三年四月五日

建設省住宅局建築指導課長

設計者、施工者及び維持管理者に対する防災措置指導方針

最近の耐火建築物火災による人身事故の例にかんがみ、火災発生時における火災及びそれに伴なう煙の局限並びに安全な避難の確保のために、建築物を設計し若しくは施工し又は維持管理するものに、特に留意すべき事項として、次の点に重点を置いて指導されたい。
目次
§1 設計に関する事項

1 原則
2 重点事項

(1) 防火区画
(2) 直通階段とこれに到る経路
(3) 二以上の直通階段の設置義務
(4) 避難階段及び特別避難階段
(5) 内装材料
(6) その他

イ 煙に対する配慮
ロ 避難経路等の明示
ハ 界壁等の適切な設置
ニ 配管用のシヤフト、ピツト等の設置

§2 施工に関する事項

1 原則
2 重点事項

(1) 防火区画等の空隙の充填
(2) 防火被覆の完全な施工とその保全
(3) 適正な内装材料の使用の確保
(4) その他

§3 維持管理に関する事項

1 原則
2 重点事項

(1) 適正な内装材料の使用の確保
(2) 防火区画等の保全
(3) 防火戸の機能確保
(4) 避難経路の空間の確保
(5) 避難方法の確立と、その徹底
(6) 火気使用場所の保安
(7) その他

附:参考図

§1 設計に関する事項

1 原則

(1) 建築物の設計にあたつては、その建築物を使用する者、特に不特定多数の者、老幼弱者等の特性に応じた具体的な避難行動を想定して、避難の安全性が確保されるよう、防火上、避難上支障のないよう考慮すること。
(2) 災害時における避難行動、救助活動、消化活動等が円滑に行なわれるよう、明快な動線に基づいた平面計画を樹立すること。
(3) 細部設計にあたつては、施工上及び維持管理上の利便についても、十分考慮すること。
(4) 特に、避難階段、下等の避難経路、防火区画及びこれらに附属する防火戸その他の防火設備、排煙施設、消火設備、避難器具、その他の避難誘導用標識等については、災害時において何人でも容易に操作ができ、かつ機能が十分に発揮されるようこれら相互の関連を綜合的に勘案して、設計及び設置を行なう。

2 重点事項

(1) 防火区画

防火区画の配置にあたつては、型式的に面積区分を行なうことを避け、火災及びそれに伴なう煙の拡大の抑止を図るために設けるものとし、特に、各階ごとの区画を構成するよう努めること。
また、各区画ごとの避難の安全性を確保するため避難階段等の避難施設及び避難用のバルコニー若しくは器具等の設置を計画すること。

(附:参考図参照)
(2) 直通階段

直通階段の構造は、昇降にあたり、避難の方向が明確に判断できるものとすること。
また、避難を容易にする目的で歩行距離が規定されている趣旨にかんがみ、階段までの経路に複雑な形状の廊下があるもの、廊下、ホール等通行以外の用途に供する部分があるもの等、避難方向が明確でなく、混乱を生ずるおそれのある平面計画を避けること。(附:参考図参照)

(3) 二以上の直通階段の設置義務

二以上の直通階段を設置する目的は、いわゆる二方向避難を確保することにあるので、二以上の直通階段を一個所に集中して設けるなど、利用の実態上一のものの機能と殆んど変らないような平面計画を避けること。(附‥参考図参照)

(4) 避難階段及び特別避難階段

階段室への出入口に防火シヤツターを使用することは、火災時の閉鎖が完全に行なわれ難いばかりでなく、閉鎖後の出入の便及び防煙機能の何れについても適当でないので、極力避けること。(附:参考図参照)

(5) 内装材料

火災発生時に急激な延焼及び多量の発煙等を防止するために、これらの使用が建築基準法上強制されない場合にあつても極力不燃材料又は準不燃材料を使用すること。
特に、同法別表第一(い)欄(二)項に掲げる旅館等の用途に供する建築物のうち、内装制限が課されていない耐火建築物のものについても不燃材料又は準不燃材料の使用に努めること。

(6) その他

(イ) 煙に対する配慮

次にイ〜ニに掲げる煙に対する措置を実情に応じて、有効適切に講ずること。
イ 階段、廊下等への排煙設備の設置
ロ 階段室への加圧設備の設置
ハ 廊下等の避難経路における垂れ壁設置等の防煙措置
ニ 火災時における換気設備又は空気調和設備に対する措置

(ロ) 避難経路の表示

火災時に、使用者の円滑な避難を図るため、避難案内用の平面図、標識等を適切に設けること。

(ハ) 界壁等の適切な設置

火災の急激な拡大を防止するために、共同住宅等の各戸の界壁並びに学校の各教室、病院及び診療所の各病室、ホテル、旅館、下宿及び寄宿舎の各宿泊室、マーケツトの各区画等の間仕切壁を耐火構造又は防火構造とすることを励行すること。

(ニ) 配管用のシヤフト、ピツト等の設置

各種の配管が壁及び床を貫通する部分に、施工上空隙が生じやすく、また、可燃性の管材が使用される場合もあり、これから火災が拡大することを防止するため、極力、防火的に区画されたシヤフト又はピツト内に配管する等の措置に努めること。

(ホ) 建築主に対する維持管理上の留意事項

その建築物に課されている建築法令上の制限、特に防災に関するもの及びその他防災上留意すべき事項を建築主に十分理解させること。

§2 施工に関する事項

1 原則

(1) 設計の趣旨を十分把握し、関係法令、設計図書、適正な工法に基づく各工事を施行すること。
(2) 各工程に従事する技能者が、それぞれ他の工程に属する工事を改変し、又は破壊することのないよう、十分監督すること。(配管工事による防火区画の空隙放置等)

2 重点事項

(1) 防火区画等の空隙の充填

配管設備、防火戸の取付等のため、防火区画、界壁、間仕切壁、床等に生じた開口部分、空隙等は、それらの工事が完了した後に、完全にセメントモルタル等で充填すること。
特に、配管の熱絶縁材等はこれらの壁又は床の貫通部分に施工せず、セメントモルタル等による充填措置を励行すること。

(2) 防火被覆の完全な施工とその保全

鉄骨造の耐火構造部分の防火被覆については、必要とされる厚さを確保するとともに、この工事の施行後に行なわれる他の工事の都合により破壊することを極力避けるとともに、止むを得ない破壊部分については、完全な修復を行なうこと。

(3) 適正な内装材料の使用の確保

工法上の難易、材料の入手性、価格等の施工上の条件により内装材料の種類をみだりに変更し、内装不燃化を妨げることのないよう厳重に配意すること。
特に、使用開始後の改築、模様替等の内装工事については、建築士の設計によらないものもあるので、その内装仕上げが適法か否かを十分検討のうえ、施工すること。

(4) その他

建築工事が完了し、建築主に引き渡す際には、その建築物に関し課されている建築法令上の制限、特に、防災に関するもの及び、その他防災上留意すべき事項を建築主に十分理解させること。

§3 維持管理に関する事項

1 原則

その建築物に課されている建築法令上の制限、特に避難施設、内装制限、防火区画等について熟知のうえ、日常の適切な管理を図るのみならず、改築、模様替、修繕その他いわゆる改装等に際して違法事実の生じないよう厳重に配意すること。

2 重点事項

(1) 適切な内装材料の使用

内部の仕上を変更する際には、法令上の制限がない場合においても、極力不燃材料又は準不燃材料を使用する等内装の不燃化を図ること。

(2) 防火区画等の保全

防火区画、界壁又は間仕切壁の天井裏等見えない部分に配管又は配線のため開口を設けた場合は、完全に空隙をセメントモルタル等で完全に充填すること。

(3) 防火戸の機能確保

避難階段、防火区画等に設ける防火戸は常時円滑に作動するよう点検を怠らないこと。また、防火戸の近傍に物品等を置く等作動上の障害を与えないこと。

(4) 避難経路の空間の確保

避難階段、廊下等の避難経路に物品等を放置する等、避難行動を阻害しないこと。

(5) 避難方法の確立と、その徹底

避難方法を確立し、その徹底を図るとともに併せて防火戸の閉鎖方法、避難器具の操作方法等についても常時周知せしめること。
特に、不特定の者の使用する建築物にあつては、避難案内用の平面図、標識等を整備し、混乱の防止を図ること。

(6) 火気使用場所の保安

火気の使用については既に関係法令等において規制されている部分もあるが、その使用方法、責任体制等も明確にするとともに、使用場所の周辺の内装材料その他カーテン、家具等についても極力不燃化等を図ること。

(7) その他

建築物又はその部分の用途の変更により、建築法令上の制限の適用が変わることがあることに留意すること。なお、不明な事項がある場合には、建築行政所管部局に照会させること。(附:参考図)



付:参考図
<別添資料>


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