建築基準法の一部を改正する法律(昭和五一年法律第八三号)、建築基準法施行令の一部を改正する政令(昭和五二年政令第二六六号)及び建築基準法施行規則の一部を改正する省令(昭和五二年建設省令第九号)は、いずれも、昭和五二年一一月一日から施行されることとなつた。
今回の建築基準法の改正は、近年建築物を使用しながら増築等の工事を施工していて火災が発生し、重大な事態を引き起こす事例が見られ、また、都市における土地の高度利用の進展に伴い日照紛争その他の都市環境を阻害する事態が発生する事例が随所で見られることにかんがみ、このような事態に対処するため、工事中の建築物の使用制限を強化するとともに、建築物による日影に関する基準の設定、第二種住居専用地域内における用途規制等の強化、建築協定に関する規定の整備等の措置を講じるための所要の改正を行つたものである。
また、建築基準法施行令の改正は、建築基準法の改正に伴う所要の改正を行うとともに、最近の酸欠事故の発生状況にかんがみ換気設備の技術的基準を改める等の改正を行つたものである。
今回の改正の概要と今後の運用方針は、左記のとおりであるが、貴職におかれては、関係市町村に対してもこの趣旨を周知徹底させ、今後の施行に遺憾のないようにされたく、命により、通達する。
I 改正の概要
一 建築物に関する防災対策の強化
(一) 建築等をする場合又は用途を変更する場合に建築主事の確認を受けなければならない特殊建築物の範囲を拡大した。
(二) 特殊建築物等を新築する場合又はこれらの建築物の増築等の工事で避難施設等に関する工事を含むものをする場合には、特定行政庁が安全上、防火上又は避難上支障がないと認めて仮使用の承認をした場合を除き、検査済証の交付を受けた後でなければ、その建築物又は建築物の部分を使用してはならないこととした。
(三) 特定行政庁は、工事の施工中に使用されている特殊建築物等が著しく安全上、防火上又は避難上支障があると認めるときは、当該建築物の所有者等に対して使用禁止等の必要な措置をとることを命ずることができることとした。
(四) 百貨店、病院、ホテル、キヤバレー等の用途に供する特殊建築物で一定の規模以上のものの建築主は、当該建築物の新築の工事又は避難施設等に関する工事の施工中にこれを使用する場合は、あらかじめ、当該工事中の安全上の措置等に関する計画を作成して特定行政庁に届け出なければならないこととした。
二 日影規制の新設
第一種住居専用地域、第二種住居専用地域、住居地域、近隣商業地域及び準工業地域のうち条例で指定された区域においては、建築物の周辺の日照条件の悪化を防ぎ、良好な居住環境を保つため、中高層の建築物について敷地外一定距離以上の部分に条例で指定された時間以上日影を生じさせないよう制限を行うこととした。
三 第二種住居専用地域における環境保全措置の強化
(一) 第二種住居専用地域における用途規制を強化し、三階以上の部分を店舗、事務所等第一種住居専用地域内で建築することができない建築物の用途に供する建築物及びこれらの用途に供する建築物で大規模なものは大学、病院等のほかは建築できないこととした。
(二) 都市計画に定められる第二種住居専用地域内の建築物の容積率制限について現行の制限のうち一〇分の四〇を廃止し、新たに一〇分の一〇及び一〇分の一五を加え、建ぺい率の制限について現行の一〇分の六のほか新たに一〇分の三、一〇分の四及び一〇分の五を加えることとした。
四 建築協定制度の整備
建築協定の締結を促進するため、土地の所有者は、一人で当該土地の区域を建築協定区域とする建築協定を定めることができること等の規定の整備を行つた。
五 その他
(一) 換気設備等の技術的基準の整備
火を使用する室等に設けなければならない換気設備等の技術的基準を整備した。
(二) 第一種住居専用地域内に建築することができる公益上必要な建築物の追加
第一種住居専用地域内に建築することができる公益上必要な建築物として水道事業の用に供する施設である建築物で建設大臣が指定するもの等を追加することとした。
(三) 前面道路の幅員による容積率制限の強化
前面道路の幅員による容積率の制限について第一種住居専用地域、第二種住居専用地域、住居地域又は特定行政庁が都市計画地方審議会の議を経て指定する区域内の建築物にあつては現行の道路幅員に一〇分の六を乗じた数値とすることを改め、道路幅員に一〇分の四を乗じた数値とすることとした。
(四) 第一種住居専用地域内における建築物の高さ制限の緩和
第一種住居専用地域内において、その敷地内に一定以上の空地を有し、かつ、その敷地面積の規模が一定以上である建築物であつて、特定行政庁が低層住宅に係る良好な住居の環境を害するおそれがないと認めるものについては、高さが一〇メートルを超えて一二メートルまで建築することができることとした。
(五) 総合設計制度の規定の整備
敷地内に一定以上の空地を有し、かつ、その敷地面積の規模が一定以上である建築物で市街地の環境の整備改善に資するものの建築を促進するため、規定の整備を行うこととした。
(六) 建築物又はその敷地が区域又は地域の内外にわたる場合の措置の合理化
建築物又はその敷地が建築基準法による制限を受ける区域又は地域の内外にわたる場合における建築物の容積率、建ぺい率又は各部分の高さについては、建築物又はその敷地の過半の属する区域又は地域の制限を適用することを改め、容積率及び建ぺい率については異なる区域又は地域に属する敷地の部分の面積により加重平均をした制限を適用することとし、各部分の高さについては、当該各部分の存する区域又は地域の制限を適用することとした。
II 今後の運用方針
一 建築物に関する防災対策の強化
近年建築物を使用しながら増築等の工事を施工していて火災が発生し、重大な事態を引き起こす事例が見られたことにかんがみ、特殊建築物等を新築する場合又はこれらの建築物の増築等の工事で避難施設等に関する工事を含むものをする場合には、当該新築に係る建築物又は当該避難施設等に関する工事に係る建築物若しくは建築物の部分は、原則として、使用を制限するとともに、特に、百貨店、病院、ホテル、キヤバレー等の用途に供する特殊建築物で一定規模以上のものについては、建築主に対し、工事中の安全上の措置等に関する計画の作成及び届出を厳に励行させ、更に、特定行政庁において、工事の施行中に使用されている特殊建築物等が著しく安全上、防火上又は避難上支障があると認めるときは、速やかに、当該建築物の所有者等に対して使用禁止等の必要な措置をとることを命ずることにより、建築物に関する防災対策の強化に十分な措置をとられたい。
二 日影規制の運用
日照阻害は基本的には私法上の相隣関係の問題であるが、住宅地における中高層の建築物における日照阻害はその影響範囲が大きく、地域の居住環境の問題として重大な問題であるので、公法上の最低限の基準を設けることとしたものである。本制度の運用に当たつてはこの趣旨を念頭におき適切なる指導に留意されたい。
また、本制度は従来の法規制と異る新しい規制方法であるので、建築主事をはじめ関係職員の養成、訓練、国民への周知徹底等円滑な事務執行のための措置について格段の配慮をされたい。
なお、当然のことながら、今回の改正に伴い、法に抵触することとなる条例、指導要綱については適切な措置を講ぜられたい。
三 建築行政と都市計画行政との連けい
今回の改正は、日影規制をはじめ第二種住居専用地域における用途規制、容積率制限等の強化、第一種住居専用地域における公益上必要な建築物の追加等都市計画とあいまつて良好な居住環境の確保に資することをねらいとするものであるので、法の施行に当たつては建築行政と都市計画行政とは相互に連けいをとりつつ、この趣旨を生かした措置が採られるよう配慮されたい。
四 建築協定制度の積極的な活用
建築協定は住民が自らの手でより良い居住環境を形成するため法に定める基準よりも高度の基準を定めることができる制度として極めて有意義な制度であり、特に近年各地で活用されている。今回協定締結の一層の促進を図るため一人協定の制度を設ける等の改正を行つたが、今後とも本制度の普及に努められたい。