建築基準法の一部を改正する法律(昭和六二年六月五日法律第六六号。以下「改正法」という。)、建築基準法施行令の一部を改正する政令(昭和六二年一〇月六日政令第三四八号)及び建築基準法施行規則の一部を改正する省令(昭和六二年一一月六日建設省令第二五号)は、いずれも昭和六二年一一月一六日から施行された(ただし、建築基準法施行令の一部を改正する政令のうち間仕切壁の構造制限の合理化に関する部分については、昭和六三年四月一日から施行される。)。
今回の改正法等は、近年の建築技術の進歩等を背景として、木造建築物の構造耐力、防火性等の向上に関する構法及び計画技術が確立されてきたこと、近年における我が国の経済社会の変化に伴う土地の高度利用に対する要請の高まり等を背景として、建築物の形態制限が合理的な建築計画と良好な市街地環境との調和を保つ上で改善を要する面が現われていること等にかんがみ、木造建築物等に係る制限及び建築物の形態制限等の合理化等を行うとともに、併せて建築物の防火に関する研究の進展等に対応し、内装の制限の合理化を図る等の改正を行つたものである。
今回の改正法等の概要及び今後の運用方針は、左記のとおりであり、貴職におかれては、建築物の安全性及び良好な市街地環境の確保の重要性にかんがみ、関係市町村に対してもこの趣旨を十分周知されるとともに、今後の施行に遺憾のないようにされたく、命により、通達する。
第一 改正法等の概要
一 木造建築物等に係る制限の合理化
(一) 木造建築物に係る高さ制限の合理化
安全上及び防火上必要な技術的基準に適合する木造建築物について、高さが一三メートル又は軒の高さが九メートルを超えて建築することができることとした。
なお、高さが一三メートル又は軒の高さが九メートルを超える木造の建築物については、一級建築士でなければ設計又は工事監理をしてはならないこととした。
(二) 防火壁設置義務の合理化
次の大規模木造建築物等について、防火壁の設置を必要としないこととした。
イ 火災の発生のおそれが少ない用途に供する建築物で、防火上必要な技術的基準に適合するもの
ロ 畜舎等の建築物で、その周辺地域が農地等であり、特定行政庁が建築物の構造等により避難上及び延焼防止上支障がないと認めるもの
(三) 準防火地域内の建築物の防火制限の合理化
防火上必要な技術的基準に適合する三階建て木造建築物等について、準防火地域内で建築することができることとした。
(四) 大断面の集成材等を用いて建築される木造建築物等の特例 安全上必要な技術的基準に適合する大断面の集成材等を用いて建築される木造建築物等について、壁を設け又は筋かいを入れた軸組を配置することを要しないこととした。
(五) 軟弱地盤区域における木造建築物等の布基礎の構造の合理化
特定行政庁が指定する軟弱地盤区域における木造及び組積造の建築物の布基礎は、一体の鉄筋コンクリート造とすることとした。
(六) 三階建て木造建築物の柱の小径の合理化
三階建て木造建築物の一階の構造耐力上主要な柱の小径について、柱と土台、はり等をボルト締等により緊結し、かつ、構造計算等により安全であることが確かめられた場合には、一三・五センチメートルを下回ることができることとした。
(七) 小屋裏隔壁の設置義務の合理化
小屋組が木造である建築物のうち、防火上必要な技術的基準に適合するもの並びに特定行政庁が避難上及び延焼防止上支障がないと認める畜舎等について、小屋裏隔壁の設置を必要としないこととした。
二 建築物の形態制限等の合理化
(一) 道路幅員による容積率制限の合理化
イ 幅員六メートル以上の前面道路が延長七〇メートル以内で幅員一五メートル以上の道路に接続する場合においては、都市計画により定まる容積率の限度の範囲内で、当該幅員一五メートル以上の道路までの前面道路の延長に応じ、道路幅員による容積率の限度を割り増すこととした。
ロ 壁面線の指定がある場合において、特定行政庁が許可した建築物については、都市計画により定まる容積率の限度の範囲内で、その前面道路の境界線は当該壁面線にあるものとみなして道路幅員による容積率の限度を割り増すこととした。
(二) 第一種住居専用地域内における建築物の高さの制限の合理化
第一種住居専用地域内における建築物の高さの制限を都市計画で定めるものとし、当該限度として、従来の一〇メートルのほか一二メートルを加えることとした。
(三) 道路斜線制限及び隣地斜線制限の合理化
イ 道路斜線制限の適用については、前面道路の反対側の境界線から一定距離以下の範囲内のみに限ることとした。
ロ 前面道路の境界線から後退した建築物について、その後退距離に応じて、道路斜線制限を緩和することとした。
ハ 一定の高さを超える部分が隣地境界線から後退して建築される建築物について、その後退距離に応じて、隣地斜線制限を緩和することとした。
ニ 前面道路の反対側に壁面線の指定等がある場合の道路斜線制限の緩和措置は、廃止することとした。
(四) 総合設計の許可に係る空地規模要件の引下げ
高さ制限のみの緩和に係る総合設計の許可について、敷地内に確保しなければならない空地の面積の敷地面積に対する割合の最低限度を引き下げることとした。
(五) 総合的設計による一団地の建築物の取扱いの整備改善
特定行政庁が安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めたことにより同一敷地内にあるものとみなされた総合的設計による建築物に係る一団地内において、当該総合的設計による建築物以外の建築物を建築しようとする者は、特定行政庁の認定を受けなければならないものとし、併せて公告手続を整備することとした。
三 その他
(一) 駐輪場の延べ面積への不算入
自転車の停留又は駐車のための施設の用途に供する部分に加え、自転車の停留のための施設の用途に供する部分についても、その床面積を一定の範囲内で容積率の対象となる延べ面積に算入しないこととした。
(二) 間仕切壁の構造制限の合理化
児童福祉施設等の防火上主要な間仕切壁を耐火構造等とすることとした。
(三) 排煙設備等の設置義務の合理化
イ 高さが三一メートル以下の部分にある共同住宅の住戸で二〇〇平方メートル以内ごとに耐火構造の床若しくは壁又は防火戸で区画されたもの及びスポーツ施設について、排煙設備の設置を必要としないこととした。
ロ スポーツ施設について、非常用の照明装置の設置を必要としないこととした。
(四) 内装の制限の合理化
イ 窓その他の開口部を有しない居室のうち、天井の高さが六メートルを超えるものについて、内装の制限を行わないこととした。
ロ スポーツ施設について、内装の制限を行わないこととした。
ハ 耐火建築物である共同住宅で、二〇〇平方メートル以内ごとに耐火構造の床若しくは壁又は防火戸で区画されたものについて、内装の制限を行わないこととした。
ニ 耐火建築物の高さが三一メートル以下の部分にある居室で、一〇〇平方メートル以内ごとに耐火構造の床又は防火戸で区画され、かつ、特殊建築物の用途に供しないものについて、内装の制限を行わないこととした。
(五) 特殊な使用形態の昇降機の特例
建築基準法施行令(昭和二五年政令第三三八号)第五章の三第二節の規定の適用を受けない昇降機として、特殊な使用形態の昇降機を追加することとした。
第二 今後の運用方針
一 木造建築物に係る制限の合理化について
木造建築物に係る制限の合理化によつて新たに法令上位置付けられた建築物の建築確認に当たつては、安全上及び防火上の所要の技術的基準に適合する旨の審査を徹底し、安全性が十分に確保されるよう措置するとともに、良質な木造建築物の普及を図るため、地域の優良工務店の育成等関係業界等に対する指導、啓もうに努められたい。なお、準防火地域内の三階建て木造建築物については、現在の木造住宅の施工の実態に十分配慮されたい。
二 容積率制限及び斜線制限の合理化について
容積率制限及び斜線制限の合理化については、良好な市街地環境が確保されるよう、関係市町村と緊密な連携を図り、適切な執行に努められたい。なお、今回の改正においては、新たに壁面線に係る容積率制限の特例が設けられたほか、総合設計制度及び総合的設計に係る一団地の建築物の取扱いに関する規定の整備改善が行われているので、これらの積極的活用を図られたい。
三 第一種住居専用地域内における建築物の高さ制限の合理化について
第一種住居専用地域内における建築物の高さの制限の合理化は、低層住宅地における居住形態の多様化及び地域特性の分化に適切に対応しようとするものであるので、建築行政と都市計画行政との緊密な連携の下、地元住民の意向を踏まえ、地域の実情に十分配慮して運用されたい。
四 都市基盤施設の整備について
市街地内において土地の適切な高度利用を進めるためには、都市基盤施設の整備が不可欠であるので、今後ともその整備の促進に努められたい。
五 執行体制の整備について
建築行政は、国民から多大の期待をかけられており、特に良質な木造建築物の普及、良好な市街地環境の整備等については一層の重点的執行を図る必要があるので、今後とも執行体制の整備・強化に努められたい。