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別添 海洋建築物安全性評価指針
財団法人 日本建築センター
まえがき
近年、ウォーターフロントを利用したレジャー開発が盛んになってきており、その一形態として、係留型の海洋建築物(水上、水中に設けて建築物としての用に供する施設をいい、淡水域に設けるものも含む。)が各地で計画されるようになってきた。
建築基準法では、従来より水底に固着された水中展望塔等の他に、水上に浮かぶものについても、鎖や桟橋により水底に定着され建築物の用に供するものは建築基準法の対象とされており、旧南極観測船ふじ(名古屋港で博物館として使用)、オリアナ号(別府湾でレストラン等として使用)等多くの海洋建築物の安全性が建築基準法により確保されてきている。
これらの海洋建築物は、現行の建築基準法が想定しない構造方法、建築材料を使用するため、建築基準法第38条に基づき、現行規定によるものと同等の効力があることの認定を受ける必要があるが、従来は、各物件ごとにその設計内容について、(財)日本建築センターで技術的評定を行い、その結果に基づき建設大臣が認定を行ってきた。
上述のように今後、海洋建築物が増加する傾向にあることから、このたび(財)日本建築センターにおいて、この「海洋建築物安全性評価指針」をとりまとめ、評定のガイドラインにするとともに、事業者側の計画・設計の指針として活用されることを目的として作成したものである。
この指針の適切な活用により、海洋建築物の計画・設計の合理化と審査の迅速化に資することが期待される。
海洋建築物安全性評価指針作成委員会 (敬称略:五十音順)
委員長 岸谷孝一 日本大学理工学部建築学科教授
委員 明野徳夫 芝浦工業大学建築工学科教授
五十嵐定義 大阪大学工学部建築工学科教授
鎌田元康 東京大学工学部建築学科助教授
神田順 東京大学工学部建築学科助教授
西條修 日本大学理工学部海洋建築工学科教授
斎藤光 千葉大学工学部建設工学科教授
菅原進一 東京大学工学部建築学科助教授
鈴木俊夫 建設省住宅局建築指導課長
辻本誠 名古屋大学工学部建築学科助教授
楡木尭 建設省建築研究所第2研究部長
平野道勝 東京理科大学工学部建築学科教授
船木俊彦 大阪大学造船工学科助教授
三村由夫 建設省建築研究所建築試験室長
武藤暢夫 関東学院大学工学部建築設備工学科教授
室田達郎 建設省建築研究所第3研究部長
山中保教 建設省住宅局建築防災対策室長
協力委員 宇野博之 建設省住宅局建築指導課建設専門官
池内眞一 (前)建設省住宅局建築指導課課長補佐
目次
第1章 総則
1 一般
2 構造種別と規模
3 係留位置
第2章 構造計画
1 総則
2 自然環境条件
3 設計用荷重
4 構造解析
5 構造材料
6 構造設計
7 復原性能設計
8 係留装置設計
9 桟橋設計
10 防食
第3章 防災計画
1 総則
2 防災計画の基本方針
3 主構造材の耐火性能
4 防火区画
5 内装防火設計
6 煙制御設計
7 避難設計
8 消防用設備
第4章 維持管理
1 維持管理
参考文献
第1章 総則
1 一般
係留型の海洋建築物とは、鎖、ドルフィン、桟橋等により水上の一定位置に係留される浮体構造物で、建築物としての用途に供されるものをいう。
転用船舶とは、海上等を航行するために建造された船舶で、海洋建築物としての用途に転用されるものをいう。
係留される場所は、海、河川、湖沼等を含むものであり、必ずしも海洋に限定されないが、本指針の策定に当たっては、海上を主体に検討を加えている。湖沼等において計画される場合は、本指針の趣旨を踏まえて適宜読みかえるものとする。
なお、本指針は、新築、転用船舶いずれの場合も含むものであるが、防災計画では、既存船舶の転用の場合を中心に述べている。
2 構造種別と規模
3 係留位置
係留位置は、湖等の内水面上及び本邦沿岸海域のうち、構造安全性に係る設計において設定する自然環境条件を、それに関する過去の観測データや理論に基づいて合理的かつ適切に推測できるような地点とする。
非常に複雑な海底地形のため、係留位置における潮流や波浪等の推測が困難であるなど、合理的かつ適切な自然環境条件の設定ができない場合は、当該位置付近において適切な条件設定をするに足る現地観測データを入手する等の事前の処置を講じなければならない。
北海道のオホーツク海沿岸などでは冬期に流氷の着岸があり、このような水域に係留型の海洋建築物を設けることは技術的に困難であるから、対象外とする。
以上の条件を満足する係留位置は、人の避難や緊急車両の進入など防災面での安全性が確保できるよう、原則として桟橋が設置できる地点とする。
第2章 構造計画
1 総則
1.1 一般
1.2 構造設計及び構造安全性検討の手法
設計条件として設定される荷重は、係留型の海洋建築物及びその係留装置、桟橋等の安全性、機能の確保、経済性などに重要な影響を与えるため、慎重に考慮されなければならない。設計用荷重の設定は当該施設の性格及び施設のおかれた状況に応じて、次に掲げる設計荷重のうち適切なものを選定し、それらの自然条件、施設の利用状況、施工条件、部材の特性、その他社会的要請などを考慮して、当該施設が安全なものとなるように定めるものとする。
(1)固定荷重、(2)積載荷重、(3)静水圧及び浮力、(4)風圧力、(5)波力及び波浪荷重、(6)地震力、(7)氷雪荷重、(8)係留力、(9)その他
陸上の建築物であれば建築基準法(以下、「法」という。)や日本建築学会の関連諸基準等によって設計し、構造の安全性の検討が出来る。しかし、係留型の海洋建築物は、浮体構造物で、陸上とは違った特殊な荷重・外力が作用するため、対象構造物特有の構造部分について検討されなければならない。また、次のような事項の検討には、船舶等他分野で慣用されている手法によることが出来る。
(1)排水量及びトリム計算(前後構造物傾斜)、(2)乾舷の計算、(3)浸水計算及び水密区画、(4)復原性、(5)浮体に働く剪断力、曲げモーメント及び捩モーメント、(6)横強度、(7)係留装置、など
係留施設の種類としては、岸壁、係船浮標、係船ぐい、桟橋、浮桟橋等があり、係留施設の構造には、自然条件、海洋建築物の利用形態による、重力式、矢板式、桟橋式等の構造様式がある。
これらの構造様式の特性を考慮し、自然条件、利用条件、施工条件等想定される条件下において、係留機能を保持するものでなければならない。
桟橋は、一般に直ぐい式桟橋が多いが、くいの横抵抗、曲げモーメント及び軸力ならびに上部工の曲げモーメント、せん断力などの他に、係留浮体を介して加えられる荷重、外力に対しても構造安全性を確保しなければならない。
2 自然環境条件
2.1 風
一般の建築物の耐風設計においては、建築基準法施行令(以下、「令」という。)に定める風の速度圧に基づいて風圧力を設定している。
海洋建築物の設計における支配的外力は、暴風時に発生する波浪によって生起される力であって、その力を推定するためには、暴風時の平均風速を設定することが必要となる。(1)項は、そのような観点から定めた暴風時の平均風速の下限値である。
平均風速の下限値は以下のようにして求めたものである。
1) 令第87条及び建設省告示(以下、「告示」という。)第1074号に規定する地上10mにおける風の速度圧
q=60√(10)・Z(kg/m2) (1)
Z :告示1074号に定める地域係数
(海岸からの距離が8km以内で、G+P+Wの場合)
2) 地上10mにおける風速をV(m/s)、ガスト影響係数をG1、空気密度をρとすると、(1)式は次のように置換できる。
q=60√(10)・Z=1/2ρV2・G1 (2)
すなわち、
V=√(2・60√(10)・Z/ρ・G1) (3)
ρ=1/8、G1=2.4*とすると
V=35.6√(Z) (4)
* 日本建築学会「建築物荷重指針」第6章における地表面粗度区分IIIに対するガスト影響係数の概算値
3) (4)式によってVoを計算すると下表のようになる。
(注) 沖縄県のZの値は同県の規則に定める数値
4) 政令や告示に定められている風の速度圧は、陸上の気象官署において観測された風速のデータに基づいて定められている。したがって、前項までに求めた風速は陸上におけるものであり、沿岸海域などにおいてはこれよりやや高い風速の風を想定する必要がある。このような観点から、前表の数値の約10%増を海洋建築物の設計用風速としたのが、(1)項の表中の数値である。
海洋建築物が外洋に面する海岸の沖合い遠くに設けられる場合は、(1)項の風速の下限値は過小評価値と考えられる。そのような場合は別途適切な方法により設計風速を設定しなければならない。
設計風速を別途の方法により設定する場合は、その水域における100年再現期待値以上の風速を設定する。また、設定にあたっては、日本建築学会の「建築物荷重指針」に定める方法などによることができる。
平均風速の鉛直方向の分布は、一般にべき乗則であらわされる。海上風の観測データによれば、べき乗則のべき指数は0.1程度であり、(2)項においては、べき指数を0.1とした風速分布の式を提案している。
2.2 波浪
海洋建築物の設計に当たっては、暴風時に想定される風及び波浪による荷重を組み合わせて考慮する。
波浪には、その海域で吹いている風によって直接に起こされる風浪と、ある海域で発生した風波が伝播により他の海域に伝えられるうねりとがある。したがって、波浪の想定に当たっては、2.1で設定した平均風速をもつ暴風とその暴風が係留水域に接近するまでの気象条件とを考慮する必要がある。
発生域における風浪の推算手法には、風域が移動しない場合に適用されるSMB法、台風等の風域が移動する場合に適用されるウイルソン法、波の発達に対する水深の影響を考慮したプレットシュナイダー法等の有義波法がよく用いられる。この場合には、別途うねりの推算を必要とする。
PNJ法等のスペクトル法を用いて波浪を推算してもよい。この場合は、発生域での風浪とうねりとが合成された有義波の諸元が求められる。
しかしながら、現在迄の知見では、風と波浪との相関を理学的合理性をもって推定することは容易ではない。
波浪の想定を波浪の観測データ等を極値統計的に処理をして行う場合には、設定する波浪の再現期間は、平均風速の再現期間と同じでなければならない。なお、2.1.(1)項の表に掲げる平均風速の再現期間は100年とする。
外洋に対して解放された水域では、砕波が発生することがある。この場合には、浮体の水線近傍の構造強度を別途検討する必要がある。
2.3 潮流及び海流
潮流、海流の速度が大きい水域に設置される海洋建築物については、最も厳しい流速方向に対して、流れに起因する作用力の影響を検討する必要がある。
外洋に対して閉囲された水域では、潮流、海流の速度は小さいので、その影響の検討は省略できる。外洋に向かって解放された水域であっても、防波堤等によって囲まれた地点に係留される場合は同様である。
2.4 潮位及び副振動
2.5 高潮(暴風津波)
海洋建築物が設置される湾の形状が台風の卓越方向に長く、かつ、遠浅であると、高潮がおこりやすいので注意しなければならない。
2.6 津波
外洋に向って解放された水域においては、地震に伴なう津波の発生についても検討する必要がある。
海洋建築物の安全性に関して支配的な影響をもつような著しい波高の津波が発生する可能性のある水域は、我が国では三陸沿岸に限られるものの、津波の来襲が予測される水域に建設される海洋建築物の設計に当っては、その波高を過去の観測データなどに基づいて予測し、その影響を検討しておく必要がある。
3 設計用荷重
3.1 固定荷重(G)
3.2 積載荷重(P)
3.3 静水圧及び浮力(B)
3.4 風圧力(W)
海洋建築物各部の耐風性を検討する場合の風圧力は、一般に次式によって算定される。
P=q・C・G1・A (1)
ここに
P:風圧力
q:1/2ρV2
C:風力係数
G1:風の乱れ及び設計対象部分の振動性状の影響を考慮したガスト影響係数
A:見付面積
これらの数値の具体的算定方法は、日本建築学会の「建築物荷重指針」などによる。
風力係数は既存のデータから推定するのが通常である。適用可能な風力係数のデータがない場合は、風洞模型実験などによって推定することが望ましい。
船体設計の実務においては、船体の風力係数としては次表のような数値が慣用されている。
係留力の算出、浮体の復原性の評価においては、風の乱れが係留装置や浮体の動揺におよぼす影響は通常無視することができる。
(3)項のただし書きはこのことを述べたものであり、具体的にいえば(1)式中のG1の値を1とすることができるということである。
3.5 波力及び波浪荷重(X)
浮体に作用する波力は、ストリップ法、特異点分布法、境界要素法、有限要素法等のうちの適切な手法で求めることができる。
浮体の動揺量及び動揺により浮体に生じる準静的な波浪荷重を解析的に算定する場合は、原則として、係留システムを適切なバネ系にモデル化して、これを浮体の動揺方程式に付加する直接計算法により求める。ただし、海洋建築物の態様及び係留位置の自然環境等から、十分に安全性が担保される場合には、簡易計算法により求めることができる。
浮体に波が作用すると浮体は波の進行方向に徐々に移動する。この原因となる力が波浪漂流力であり、寸法が大きく、かつ、柔らかい係留システムで係留されている浮体に不規則波が作用すると、浮体に長周期動揺を生じさせる原因となる。
浮体の動揺量及び動揺により浮体に生じる準静的な波浪荷重等は、浮体の形状、載荷状態等の浮体固有の特性及び不規則な海象状態に依存する確率・統計量である。
浮体の動揺量及び波浪荷重等の再現期間内出の最大期待値は、決定論的手法の設計波法あるいは統計的手法の設計スペクトル法から求められる。
浮体の動揺量及び波浪荷重等は、浮体の固有周期により大きく影響されるため、設計波法を用いる場合には、浮体の固有周期と波周期との同調に十分考慮を払う必要がある。
3.6 地震力(K)
3.7 氷雪荷重(S)
我国の日本海側には多雪地が広く分布するが、そのような地方においても海岸での積雪量は内陸部よりはるかに少ないから、最寄の海岸部での積雪量を採用してよい。太平洋側の地域の沿岸部では、陸上と海上の積雪量には大差がない。
北海道などの寒冷地沿岸では、結氷現象があることを考慮する必要がある。
3.8 係留力(Y)
風、潮流・海流、潮汐等による定常外力により生じる定常係留力は、定常外力と浮体の復原力の静的な平衡から求められる。静的な平衡状態は、厳密には逐次計算法により求められる。
波浪中での浮体の動揺を拘束する変動係留力は、原則として、係留装置を適当なバネ系にモデル化した直接計算法から求めることが望ましい。ただし、海洋建築物の態様及び係留場所の自然環境等から、十分に安全性が担保される場合には、定常係留力及び変動係留力は簡易計算法により求めることができる。
4 構造解析
4.1 荷重の組合せ
海洋建築物の構造設計においては、
・暴風時において浮体が復原性を保持し、かつ著しい浸水がないこと
・避難時において海洋建築物からの避難が容易になされうること
・常時及び暴風時において、浮体の主要構造部あるいは係留装置について、構造耐力上の安全性が保持されること
が必要である。本項は、以上の三つの要件を確認する場合に想定すべき状態、すなわち、荷重の同時発生の組合せをきめたものである。
海洋建築物の設計において想定される暴風状態は、極めて稀に発生する状態である。このような異常な状態の他に、比較的頻度の高い荒天状態が存在する。海洋建築物のうち不特定多数の人を収容して営業するものにあって、荒天状態に過大な浮体の動揺を生じる場合は、収容者の健康と精神状態あるいは当該建築物内における日常行動に差し障りを生じることが予測される。したがって、過大な浮体の動揺が予測される場合は、事前に営業を中止して収容者を陸上等に避難させなければならない。
浮体からの避難は収容者が避難行動を容易にとることができるような状態で行われる必要があり、(1)項の避難時の荷重の組合せは、そのことを確認する場合に採用すべき荷重の組合せを規定している。ここで、避難時に考慮する荷重のうちのW、X及びYは、営業を中止することとなる荒天状態等において発生する風圧力、波力及び係留力とする。すなわち、必ずしも収容者が退避行動をとっている最中の状態ではなく、避難が終了した後の荒れた海面状態に対応する荷重である。ただし、暴風の通過前後などにおいては、大きな波浪のみ存在し、風は静穏である場合がある。そのような場合においては、Wを考慮する必要はないこともある。
上記のW、X及びYは、船舶設計などにおいて慣用されている方法によって設定することができる。
(2)項における「常時」の状態とは比較的頻度の高い荒天状態をいい、「暴風時」として100年に1度の頻度のものを設定した場合には、「常時」の荷重としては、10年に1度程度の発生頻度をもつ荷重を想定すべきであろう。
本項の荷重の組合せには、氷雪荷重及び地震に伴う津波による荷重が考慮されていない。これらの荷重及び荷重の組合せについては、建設地点の実況に応じて適宜考慮しなければならない。
4.2 解析法
解析法については、日本建築学会の該当する設計規準による解析法を基本とするが、浮体として機能する主構造部分については、慣用の船体構造解析法等の適切な手法によることができる。
設定された設計荷重に対して、弾性解析により構造物各部に生じる応力あるいは変形を求め、これらが許容値以下であることにより構造物の安全性・機能性を確認することを原則とするが、船体の構造部材によっては塑性理論によることが合理的である場合には、塑性解析により構造部材の安全性・機能性を算定することができる。
構造部材の寸法は、部材位置や耐用年数、自然環境条件等に応じた錆代を予め考慮して定める。耐用年数を通じての構造物の安全性、機能性を確認するための一連の作業である構造解析では、錆代を除いた部材寸法について応力・変形を求めなければならない。
転用船舶については、既腐食量を適正に評価しなければならない。
5 構造材料
5.1 鋼材等
転用船舶等では、外国規格による鋼材、あるいは建築基準法施行令等の建築関係法規で対象としていない鋼材等が用いられている場合がある。そこで、本項のただし書きを設けて、それに対応できるようにした。
基準強度の値は、原則として、その鋼材等の規格に定めてある降伏点、又は耐力の下限値と引張強さの70%のうちのいずれか小さいほうの値とすればよい。
転用船舶の場合、慣用の船体構造設計の基準に定められている許容応力度の値が比較的小さいので、上記の基準強度から許容応力度を定めて既設構造体について再計算を行った場合に、存在応力度が許容応力度を超えることはないと考えられる。
5.2 許容応力度
6 構造設計
6.1 一般
構造物各部の設計は、原則として建築基準法令に従い、許容応力度法による。ただし、浮体として機能する主構造部に対する構造設計については、慣用の船体構造設計の手法によることができる。
6.2 溶接設計
浮体構造については、水密性を保つために一般に溶接構造が用いられるが、水中では補修作業が困難であるため、信頼性の高い継手の設計を行う必要がある。
使用する鋼種、板厚により適正な溶接法・溶接施工法を選定し、溶接残留応力・溶接変形に留意するとともに、溶接部の靭性が十分確保されるように努めなければならない。
繰返し応力を受ける溶接継手部は、疲労設計と不可分であるため、応力集中が少なくなるように設計する必要がある。
6.3 疲労設計
接合部等の応力集中箇所については適切なFEM解析等を行い、求められた応力の頻度分布とその部に対応する適切なS―N線図を基に、マイナー則を用いてその部の耐用期間での累積被害度を算定し、これが経験工学的に求められている許容値以下となるように、接合部等の形状及び溶接施工を勘案すること。
万一発生した疲労亀裂の進展が浮体の切損につながるような箇所には、不安定破壊を防止するために靭性の高い鋼材を板張りするなど、適切な対応が望ましい。
6.4 錆代
耐用年数が20年である場合の錆代の標準を次表に示す。
上表に示す錆代は、鋼材に有効な耐腐食塗料を施している場合の標準的な値であるから、周辺の環境、防食対策及び保守の方法等を考慮して、適当と認められる値まで増減できる。
7 復原性能設計
7.1 一般
復原性能とは、浮体を直立状態の釣合の位置から傾斜させようとしたときに抵抗しようとする能力、すなわち、傾斜した位置においてその原因を取り除いたときに元の状態に戻ろうとする能力を言う。
復原性能の計算は、海洋建築物の全ての使用状態について行なうこと。
7.2 復原力曲線及び傾斜モーメント曲線
復原力曲線とは、浮体の傾斜角と復原偶力てことの関係を表わす曲線である。復原偶力てこは、浮体を傾斜した位置においてその原因を取り除いたときに元の状態に戻そうとする復原モーメントを浮体の排水量で除した値である。
傾斜モーメント曲線とは、浮体の傾斜角と傾斜偶力てことの関係を表わす曲線である。傾斜偶力てこは、浮体を直立状態の釣合の位置から傾斜させようとする傾斜モーメントを浮体の排水量で除した値である。
傾斜モーメントが作用したときの傾斜角は、復原力曲線と傾斜モーメント曲線との交差する点での傾斜角で与えられる。
7.3 復原性能の規準
浮体は、全ての使用状態において、浮体を傾斜させる原因が取り除かれたときには元の直立状態に戻そうとする能力を持たなければならない。そのためには、メタセンター高さGMが正でなければならない。ここで、Gは浮体の重心、Mはメタセンター(傾斜時の浮体の浮力中心から水線面に下した垂線と重心を通る鉛直線との交点)である。
海水流入角とは、浮体の直立状態から、強度及び水密性について有効と見なしうる閉鎖装置を備えない開口の下線が水面に達するまでの傾斜角を言う。
8 係留装置設計
8.1 一般
8.2 荷重及び荷重の組合せ
8.3 材料
8.4 疲労
9 桟橋設計
9.1 設計一般
9.2 構造材料
9.3 解析及び設計
10 防食
10.1 防食設計
海洋建築物は、主要材料として鋼材を使用する場合が多いので、対象建築物が設置される海域の自然環境、気象、海象条件を調査の上、耐用年数等を考え合わせて防食設計を行なう必要がある。その際、海洋建築物の腐食環境区分(海上大気部、飛沫帯、干満帯、海中部、海底土中部)ごとに鋼材の腐食速度を決定して防食対策を検討する。
設計手法については、船舶、港湾構造物等で慣用されている手法によることができる。
10.2 防食法
防食法としては、表面処理による「塗覆装工法」、化学的な「電気防食法」及び「環境処理」等による防食法がある。
防食工法は、それぞれ特徴をもっているため、対象構造物の状況、防食効果と防食系自体の耐久性等の要求性能、公害、安全に係わる規則、工期等の防食施工に係わる規制要因、条件を十分に検討した上で対象構造物に最も適合するものを選定する。
防食法の1つとして、設計強度上必要な肉厚以外の余剰肉厚を「腐食代」として利用することが出来る。保守管理の難しい部位については、供用期間中の腐食量に見合った肉厚を設計時に腐食代として見込むことは有効である。
第3章 防災計画
1 総則
1.1 一般
係留型の海洋建築物を新築する場合には、いうまでもなく建築基準法の規定にしたがって安全性を確保する計画とする。
2 防災計画の基本方針
2.1 一般
海洋建築物の安全上必要な措置の基本は、建築基準法等の規定に適合するように改修を施すことであるが、それが困難な場合などは、別の代替措置により全体として一般の建築物と同等の安全性を得るようにする必要がある。
国際航海に従事する船舶は、「海上における人命のための国際条約(SOLAS)」(以下、「SOLAS」という。)に定める規定等に従って、船舶としての火災時における人命の安全性が担保されている。しかし、この規定は国内専用の船舶には適用されない上、船舶と建築物とはその使用方法や管理方法が異なるので、それが海上等に係留されて建築物としての用途に供される場合には、SOLAS等による船舶としての設計のままで、常に一般建築物と同等の安全性が担保されるとは考えられない。
さらに、SOLASもこれまで何回か改訂を重ねてきているので、対象を国際航海に従事する船舶に限ったとしても転用船舶のすべてが同じ規準によって安全性を確保しようとしているわけではない。また、SOLASは国際的な一般基準であり、これに加えて各国では更に詳細な基準をそれぞれ独自に作成して適用していることも多い。このような事情からもともと船舶として有していた防災対策も、建築物としての観点から改修等を求められる防災対策も、その内容は対象とする海洋建築物によってそれぞれ異なることになる。
参考までに、船舶の防災計画と、建築防災計画との相違を整理すると一般には以下のようなことがあげられる。
1) 区画についてはその水密性の確保と構造上の特性からも一定の範囲(約40m間隔)である時間(1時間以内)火災に耐えるような防火区画を設けるような規定がある。また居住区域を他の部分と区画することが定められている。これによって一定の範囲で火災の拡大を止める可能性は大きく、また、後者の規定は建築の異種用途区画の考え方に近いが、建築物の防災計画では厳しい条件が課せられている竪穴区画については居住区域であってもそれは明確には規定されていない。
2) 建築物の防災計画を策定するうえで重要な要件となる排煙等煙制御に関する規定がない。
3) 避難は最終的には救命艇や救命いかだによらざるを得ないので、避難経路はその乗艇甲板(乗艇甲板:船舶等に乗り込むときの甲板(デッキ))に至るように設計され、建築物が地下階以外は下方へ避難するのに対し、船舶は主として上方への避難という形態をとる。
4) 建築物は最終的には外部に出てしまえば一般には安全と考えられるように設計されるが、船舶においてはこの乗艇甲板の避難人員に見合うスペースの確保が重要な条件となる。
5) 二方向避難とか避難階段の要件などの規定はあるが、実質的に避難にも用いられる可能性がある階段がすべて区画されているわけではなく、また、これによって竪穴区画が成り立たないことがある。またとくに高い安全性を配慮した特別避難階段に見合う規定はない。
6) 構造的には、柱、梁等の耐力部材が少なく、鋼板等による穀構造のような形で成り立っていることが多いので、耐火的にも区画部材の耐火性で構造安全性が担保されている。これは、建築物でも壁構造など似たようなシステムの構造もある。しかし、耐火性としては、船舶では最高1時間までの性能しか要求されていないので、階数によっては最高3時間の性能が要求される建築物に比してやや緩い規定になっている。
7) 原則として消火も自衛手段に頼らざるを得ないので、一般の建築物に要求される消防隊のための非常用エレベーターや進入口、その他消火設備の規定が建築物のそれと大きく異なっている。特別避難階段や排煙設備がないことも消防活動上は大きな制約となる可能性がある。
以上のように船舶の防災計画と建築物のそれとを比較してみると、SOLAS の規定の方が建築関連の規定よりやや制約が緩い場合が多い。これは、船舶においてはその構造上の制約(スペースを最小限におさえたり、気密な構造が要求される)や、消防の消火・救助活動に頼ることができないことに対して、乗組員の日常時・非常時の管理体制等を充実させて可燃物の管理や消火・避難誘導等を迅速かつ誤りなく行えるようになっているためであると考えられる。船舶が係留されて用途が変わり、それらのソフトな管理体制が変わってくると、一般には建築物と同等のレベルの構法・設備等の対策が必要となることは当然のことと考えられる。
しかし、転用される船舶はその構造・形態が定まっていて、その改修等には大きな制約があるので、技術的な対策のみで建築物と同等のレベルの安全性を得ることは大変難しいことも少なくない。このような場合には、技術的対策の一部を人間の管理等で補って安全性を確保することが必要な場合がある。また、この場合、管理の条件が十分に担保されることが必要なので、用途等その他海洋建築物の条件によってその方法が可能かどうか異なるであろう。
3 主構造材の耐火性能
3.1 一般
建築物は防火地域や準防火地域内に建設される場合、又は特殊建築物一定規模以上での場合は、耐火建築物としなければならない。耐火建築物は主要構造部を耐火構造とし、外壁の開口部で延焼のおそれのある部分に防火戸等を設け、主要構造部の耐火構造は通常の火災時の加熱に30分から3時間耐えることが必要とされる。しかし、船舶にあっては最高1時間までの耐火性の要求しかないので、なんらかの耐火性能向上の対策を施し、主構造材の耐火性能を建築基準法の規定に適合させることが必要となる。
ただし、海洋建築物が一般の建築物に比して明らかに可燃物量が少ない状態に維持管理されている場合等で、火災性状等の性状予測に基づく耐火設計により火災時の安全性を確認でき、かつ周辺への影響がなければ、元の構造のまま、若しくは軽微な改修で良いとされることもある。
3.2 主構造材の耐火性能
14階以下の耐火建築物の柱、はり、壁及び床は、1時間又は2時間の耐火性能が要求されている。船舶の構造は骨付鋼板で形成されているため、建築構造の柱、はりに対応する部材は甲板室その他に部分的に使用されているにすぎない。この柱、はり以外の船舶の主要構造部の耐火性能は全体構造の安全性を考慮して定めてもよい。ただし、主構造材についてのみは建築物と同等の耐火性能を要求することにする。SOLAS ではこの主構造材はA級仕切りで構成されているので、鋼製で1時間の遮炎性、遮煙性をもち、遮熱性は0から60分の性能を有するものがあるので、遮熱性を向上させることが必要となる場合がある。水平区域を区分する甲板は床であるので、下階室の火災に対して十分な耐火性能を持つことが望ましい。
船側鋼板の露出する外壁は、係留建築物の周辺の状況により、外部火災の影響が極めて少ない場合はそのままで、また影響があると認められる場合は遮熱性をもたせることにより、耐火構造の外壁と同等の性能があるものとみなしてよい。また、甲板室の外壁は一般の建築物の非耐力壁として取り扱い、30分の耐火構造とする。
主垂直区域隔壁:主垂直区域を隔てる隔壁で「A」級仕切りとされている。主垂直区域とは船体、船楼及び甲板室が仕切られた区域であり、甲板上におけるその平均の長さが原則として40メートルを超えないものをいう。旅客の定員が36人を超えるか36人以下かによって基準が異なる。
主水平区域:主垂直区域において自動スプリンクラー装置が設置されていない部分は「A」級水平仕切りで設置されている部分と水平区域に区画されるが、これらを主水平区域と呼ぶ。
甲板室:上甲板以上にある船楼以外の囲まれた建造物
A級仕切り:次の条件を満たす隔壁又は甲板で形成する仕切り
(1) 鋼その他これと同等の材料で造られている。
(2) 適当に補強されている。
(3) 1時間の標準火災試験において煙及び炎の通過がない。
これらは「A―0」級、「A―15」級、「A―30」級、「A―60」級に分けられる。これはその時間内(分)において非加熱側の平均温度が最初の温度よりも139℃を超えて上昇しないことと、継手を含めたいかなる点における温度も最初の温度より180℃を超えて上昇しないものとして級別されたものである。
B級仕切り:次の条件を満たす隔壁、甲板、天井張り、又は内張りで形成する仕切り。
(1) 30分の標準火災試験で炎の通過がない。
(2) 「B―15」級、「B―0」級はAのクラス分けの考え方に準じる。
但し、平均温度139℃は同じであるが、?桙「かなる点の温度??は225℃とする。
(3) 不燃性材料で造られている。
4 防火区画
4.1 一般
防火区画計画は、構造形態に直接結びついているうえ、海洋建築物のような浮遊構造物では、耐火被覆等の施工は、自重の増加に結びつき易いため、改修・改造が技術的に困難なことが多い。また、防火区画を構成する部材は、区画内で起こり得る最長の火災継続時間を超える耐火時間を有していれば、原則として、所要の防火安全性を確保できるので、用途等の条件によっては、区画の耐火時間を緩和し得る場合がある。それによりその転用船舶ですでに行われている区画計画や場合によっては管理条件を加えて代替の対策とみなす可能性もある。
4.2 防火区画等の設置
船舶構造を防火区画設置のために改造することは、技術的困難とは別に、船舶の外観・内部空間の形状・雰囲気を著しく変化する場合があり得る。船舶を博物館・展示館として転用するなど船舶としての特徴を保存することが用途上、非常に重要な計画については、前項に述べたように他の代替措置等によりその安全を確保した上で、建築基準法により必要とされる防火区画の設置を行なわずに、従来の構造のままとすることができる。このような場合、技術的な代替対策のほか、係員の常駐、火気使用禁止、可燃物の抑制等の条件を整えるなど管理の条件を確実に担保することが求められることもある。
4.3 区画構成部材の耐火性能
船舶では、主として異種用途間等で火熱の貫通が起こらないように、仕切りの規定を設けている。この仕切りは、建築物の防火区画とは趣旨が幾分異なるので、その防火性能を直接比較するのは難しいが、SOLASでは、仕切りの裏面の温度上昇にもとづいて一種の耐火時間を規定しているが、これは建築基準法の耐火時間とは必ずしも一致していない。しかし、室内の収容可燃物量及び内装等に使われる可燃材料の量が特定でき、火災時に開放される可能性のある室開口の条件がわかれば、火災盛期の継続時間・室内温度を予測することができる。既存の仕切りやそれを防火的に改修したものが、予測される火災継続時間・温度に対して、延焼防止を期待できる性能を有することが確認されれは、建築基準法に定める耐火構造と同等の壁・床とみなすことができる。
例えば、改修に関しては、船舶における隔壁又は甲板のA級仕切りは、鋼製で1時間の遮炎性・遮煙性をもち、遮熱性は、0から60分の性能を有するものがあるので、遮熱性を向上させれば、耐火構造にほぼ適合させることができる。また、隔壁・甲板・天井張り又は内張りのB級仕切りは、不燃性材料を用い、30分の遮炎性をもつので、補助的な区画として考慮することができる。なお、火災荷重が5kg/m2未満で、壁・天井の内装がSOLASの規定を満足する場合は、室火災において、フラッシュオーバーやそれに続く換気支配型の高温燃焼が起こらないことが明らかなので、「A―O」級以上の仕切りがあれば、必要な耐火性能を有するものとみなすことができる。
なお、SOLAS第26規則においては、隔壁の性能をそれに接する空間の用途等によって詳細に規定しているが、海洋建築物の計画がこの用途と同じ条件で使われる場合には、そこに示した性能が本来要求される性能を満たしているものと考えることができよう。
4.4 防火戸
船舶の耐火性仕切りに設ける戸については、SOLAS で仕様等の規定を設けている。それによれば、延焼防止について、耐火1時間級である「A」級仕切りには仕切りと同等の性能を有する鋼製戸を設置し、30分級の「B」級仕切りには不燃性の材料の戸を設けることとしている。A級に使用する防火戸は、鋼製で1時間の遮炎性・遮煙性をもち、その面では甲種防火戸とほぼ同等の性能があるとみなすことができる。B級に使用する防火戸は、SOLASでは遮煙性について定めていないので乙種防火戸に相等する遮煙性能を有するものであるか確認する必要がある。
一方、遮煙性については、必ずしも甲種防火戸と同等の性能を有しているとは言いがたい場合も少なくないが、通路に接するA級仕切りに設ける防火戸については、通路に可燃物がないことから特に問題とはならないと考えられる。ただし、避難路となる部分に位置する防火戸は、戸の幅、開き勝手等に関し、避難上支障とならないようにする必要がある。
5 内装防火設計
5.1 一般
建築物における内装制限の防火安全上の意義は、出火防止、在館者の避難安全、他区画等への延焼防止などである。特に、主な避難経路として計画される通路、階段等は、火災時の安全性を確保する必要上、高度な防火性能をもつ内装が求められる。しかし、耐火構造のように火熱が確実に遮断できる壁等で区画された居室で大きな火気も使用されない場合、内装に必要な防火安全性は、当該室の在室者の避難を完了するまでの間、人命に脅威となるような急激な燃焼拡大、有毒ガス等の発生が起こらないことに帰着できる。このような場合には、必ずしも建築基準法の内装制限の規定に適合していなくても、その安全性を担保することができる。ただし、火気や収納可燃物の制限などの管理条件が必要なこともあるので注意しなくてはならない。
5.2 避難路の内装制限
各階の居室から避難設計で定められる避難階に至る廊下、階段、通路については、避難安全性を確実にするため、火炎の発生や延焼とそれによる急激な火炎の伝播を極力抑制することは当然である。
5.3 居室の内装制限
SOLASの第49規則及び第50規則においては、通路、階段、居住区域、業務区域等の内装について、材料の防火性能と構造を規定している。SOLASで定める内装材料の防火安全性は、建築基準法上の防火材料とは幾分異なった立場から性格づけられているが、評価の主たる目的は、火災初期の火炎伝播性の抑制という点にあり、この基準が満足されていれば、火災室の人命安全性は一応確保されると考えられる。(2)は、SOLASにもよらない内装設計の評価の指針である。
6 煙制御設計
6.1 一般
煙制御は、主として火災時における建築物全体の人命安全性を確保するための対策である。船舶では、本来、居室の外部開口部が小さいため、建築基準法の規定を適用すると機械排煙が必要となる場合が極めて多いと考えられるが、一方、船舶の構造は気密・水密であるため、給気口を各室に設けなければ、機械排煙は機能しにくい。しかも一般に階高が低く、室間の区画性も高い構造であるため、排煙・給気用ダクトを新設するのは困難であるばかりでなく、区画性能等をむしろ低下させる可能性もある。このように、船舶を転用した海洋建築物で機械排煙を採用することは無理な場合があるので、代替の対策を講じて避難の安全性や消防活動の有効性を図った方がよいことが多い。
6.2 防煙区画
SOLASの仕切りに関する基準がそのまま建築基準法の防煙区画基準を満足するというわけではないが、「A」、「B」級仕切りは、不燃材料で構成されており気密な構造であるので、建築基準法の防煙壁と同等の性能を有するものとみなすことができる。
6.3 排煙設備
排煙が実際上困難な空間では、他の煙制御の手法で避難時の安全性を確保することとする。特に、船舶では、仕切りごとの気密性が一般の建築物より高いから、密閉防煙は、煙拡大を防ぐ有効な方法であるが、避難時間がかかるような室では、避難完了前に避難者が煙に曝される可能性がある。密閉防煙が有効なのは、在室者密度の小さい小規模な室で、出火確認後、防火管理者による避難誘導が迅速に行える管理体制が確立している場合などである。
避難路となる部分の気密性が高ければ、避難階段等の加圧防煙も効果が高い場合があると考えられる。加圧防煙による場合は、避難路の圧力配置が、避難行動上支障とならないように慎重に設計する必要がある。
以上のいずれの方法によるにしても、避難誘導計画など、火災時の管理者による対応と矛盾のない計画となっていなければならない。なお、船舶内部に劇場等大規模で収容人数の多い室を設ける場合は、密閉防煙、加圧防煙では、避難者の安全を確保できない可能性が大きいので、原則として、排煙によることとする。
7 避難設計
7.1 一般
避難施設については、とくに船舶全体の計画に直接結びついているので、総合的な改修・改造が困難なことが多い。代替の対策により安全確保ができれば、建築基準法の一般基準に従った方法によらなくてもよいことは避難施設に限らず共通の考え方であるが、人間の安全に係ることなので、とくに慎重に計画しなくてはならない。
7.2 避難階
SOLASにおいては船内各部から、救命艇及び救命いかだの乗艇甲板までの脱出を可能とする施設を要求している。すなわち、船舶においては火災時の非常時の避難先は救命艇等の乗艇甲板とされているが、この乗艇甲板は一般には船舶の構造上かなり上層の部分に設置されている。したがって船舶では、非常時に多くの人が上方に向かって避難することになる。
これに対して建築物では、地上に接する避難階から屋外へと避難するのが原則であり、非常時の避難行動は地階を除き大部分が下方に向かうこととなる。
そこで、海洋建築物においては一般の建築物の避難階にあたる階をいずれに設定し、その条件を整えるかが一つの課題となる。
7.3 海洋建築物からの避難路
通常の建築物の場合には、接道条件があり、緊急自動車の接近、消防隊の進入及び避難経路の確保が図られている。海洋建築物の場合には陸地から離れて係留されることも予想されるので、道路から当該建築物に至る通路が災害時に有効に機能するよう計画する必要がある。このための基本条件は下記の通りである。
1) 避難路の構造は、鉄骨造又は鉄骨鉄筋コンクリート造その他これらと同等の不燃性、耐久性を有するものとする。
2) 傾斜している避難路の勾配は、最大でも7度を超えてはならない。
3) 避難路は、避難計算により避難上支障のないことを確認する。
4) 避難路は、当該建築物の真近まで緊急自動車が進入できる構造のものとする必要がある。それができない場合には、避難路とは別に消防隊の進入経路を確保しなければならない。
7.4 屋内の避難施設の設置
SOLASでは、乗艇甲板に至る常設の脱出設備の規定がある。この脱出設備は、隔壁甲板の下方では各水密区画室及びこれに類する区画された場所からそれぞれ2以上が、また隔壁甲板(隔壁甲板:水密の横置隔壁が達する最上階の甲板)の上方では各主垂直区域及びこれに類する区画された場所から少なくとも2以上の脱出設備が要求される。そしてその脱出設備の少なくとも1は「迅速に近づき得る閉囲された階段」とすると規定されている。建築物の場合には、垂直の避難施設である階段の数や位置は、階を単位として規定されている。したがって建築と船舶とでは、階段の数・位置について直接的には比較できない。
なお、昇降機を避難施設としないという点は、船舶でも同様である。
ところで、用途上従来の船舶の構造のままとすることが必要とされるのは例えば次のような場合である。
1) 船舶の構造自体を博物館・展示館として使用する場合
係員の常駐、入館者の管理、入場制限、火気使用禁止、展示室の区画(展示ケース化)等の条件を含めて建築基準法同等以上の避難の安全性を確認する必要がある。
2) 客船の客室等をそのままホテルとして使用する場合
客室の数が極く少数で避難対象者数が限定される場合には、安全区画までの避難距離や感知・通報・誘導システム、あるいは客室の間仕切りの区画性能や消火設備等の安全確保の状況を確認することにより、階段の構造や廊下の幅員が船舶の構造のままとしても建築基準法同等以上の避難上の安全性がある場合がある。この場合とくに維持管理について徹底する必要があり、十分な係員の常駐が重要な条件となることが多い。
7.5 避難施設の構造
階段の幅員については建築基準法では具体的に規定されているが、SOLASでは「非常の際に階段を使用することのある人員を考慮して、混雑を防ぐために十分な面積のもの」と規定されているため、個別の事例については、別途判断せざるを得ない。
階段区画の火災からの防護については、SOLASではA級仕切りによることとなっているが、その仕切りの遮熱性については、階段に隣接する空間の用途により変わるので、海洋建築物の計画がこれの規定に基づいて造られたものと同じ条件である場合には、その仕切りが本来要求される性能を満たしているとみなすものと考えることができる。また、すべての開口部には有効に閉鎖する装置を設けるとされている。とくに、防火戸の規定は詳細であり、建築基準法の甲種防火戸の水準は十分に満足すると考えられる。区画の壁の防耐火性能については建築基準法の規定と異なるが、煙を遮蔽する性能は支障の生じないレベルであると考えられるので、火災の初期に全員が避難できる計画の場合には、船舶の構造のままでも避難施設として大きな支障はないと思われる。ただし、消防隊の活動拠点としての防耐火性能は、別途検討が必要である。
また、次の条件を満たすことが必要である。
*当該階段の構造は建築基準法の屋外避難階段の構造に適合したものであること。
*3以上の階にわたる場合には適切な誘導標識等を設け、迷うことなく避難階まで到達できるように計画されていること。
8 消防用設備
8.1 一般
消防用設備については、船舶の改造等の際に設置がほぼ可能であると考えられるため、基本的には消防法令の規定に従った設備を設置することが必要である。しかし、船舶そのものを展示の対象とする等保存に重点がおかれている場合において、改造に制約が加えられ、消防法令の規定をそのまま適用することが困難である場合は、消防当局と協議し、実質的な防火安全性を確保することによって消防法令の規定によるものと同等と扱えるようにする必要がある。
また、すでに船舶関係法令の規定により一定の消防用設備が設置されている場合においては、当該設備の構造、性能及び設置に係る基準が一定レベル以上のものであると確認すれば、消防法令の規定によるものと同等と扱えるものとする。
なお、参考までに次に消防法令及び船舶関係法令による消防用設備の対比表を示す。
消防法令及び船舶関係法令による消防用設備の対比表
第4章 維持管理
1 維持管理
1.1 一般
維持管理には一般には下記のような内容があるとされている。
イ 日常的な維持管理…清掃、日常点検、運転、警備、保安
ロ 定期的な維持管理…定期点検、保守、経常的修繕
ハ その他 維持管理…臨時点検、修繕、改修
海洋建築物は海洋に設置されるため、一般の建築物とは異なる構造や設備を有したり、異なる使い方をする場合も予想される。このような場合にはそれぞれの条件に応じて最も適切な維持管理の方法を定めておく必要がある。
この特別の維持管理とは、一般の建築物における維持管理に比して、方法が異なる場合と管理のレベルが異なる場合がある。
1.2 計画書の作成
海洋建築物を建築あるいは改修するに当たっては、建築基準法令や本指針に基づき、海洋建築物の特性に応じた安全性が確保されることとなるが、その後の維持管理が的確に実施されないと当初に計画された安全性の水準が確保できなくなる。
このため、海洋建築物の計画に当たっては、その利用の実態等に対応した維持管理計画を作成し、これに基づき適正な維持管理を計画的に実施するものとする。
1.3 使用制限
実況に応じた風速観測を行い、一定の風速を超えた場合は、直ちに海洋建築物の使用を禁止し、乗客等を避難させなければならない。ただし、この際、明確で判断しやすい詳細なマニュアルを作成すること。また、一定風速の基準以下の場合でも、風向や、波しぶきの状況を考慮し、管理責任者の判断によって使用を中止する。
海洋建築物の避難路の傾斜角は7度以下なので、傾斜角が7度を超える恐れのある場合は、事前に乗客が避難出来る時間を十分とって安全確保に努め、海洋建築物の使用を中止しなければならない。
その他、海洋建築物の安全性が確保出来ないと判断した場合は直ちに使用を禁止する。
1.4 定期報告
調査・検査対象は海洋建築物の特殊性を考慮に入れ設定されるが、一般に下記を考える。
係留海域(泊地)
海洋建築物
係留装置
桟橋(渡橋)
防災施設・交通装置等
調査の項目及びその方法は特定行政庁と協議して定められるが、外観あるいは目視検査等により定期的に観察を続け、変形、腐食、損傷、劣化、などが確認された場合は、板厚(肉厚)計測、性能試験、開放検査等による精密な調査を行う。
調査は定期的に行い、その結果を特定行政庁に報告するが、台風、地震、津波などの異常外力が作用した直後の臨時に調査を行うこともある。
臨時調査を必要とする異常外力の大きさは、予め特定行政庁と協議して定めるものとする。
参考文献
「建築物荷重指針・同解説」(日本建築学会)
「海洋建築物構造設計指針(固定式)・同解説」(日本建築学会)
「1974年海上人命安全国際会議を終えて 森下丈夫」(造船界50年1月号)
「1974年SOLAS条約の改正について 三谷泰久」(日本造船学会誌第628号)
「船舶設備規程」
「1983年海上人命安全条約」(運輸省海上技術安全局監修)
「船舶安全法の体系」
「Rules for building and Classing Offshore Mobile Drilling Unit」
:American Bureau Veritas.(1985)
「第1回海洋工学シンポジウム(浮遊式海洋構造物の諸問題)」(日本造船学会S49)
「港湾の施設の技術上の基準・同解説」(日本港湾協会S55)
「浮遊式海洋構造物(貯蔵船方式)による石油備蓄システムの安全指針に関する答申」(運輸省技術審議会S53)
「係留システム設計指針」(日本海事協会S58)
「造船設計便覧(第4版)」(関西造船協会)
「港湾の施設の技術上の基準」(日本港湾協会)
「港湾構造物の劣化防止・補修技術について」(運輸省港湾局技術課)
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