住指発第五五九号
平成三年一二月一一日

特定行政庁建築主務部長あて

建設省住宅局建築指導課長通知


「興行場等に係る技術指針」について


近年、映画館等の興行場等については、従来の大劇場型から、いわゆるミニシアター、ビデオシアター等の小劇場型、他の用途と併設される複合型等の興行場等が建設される傾向が顕著になってきている。しかしながら、現在、各特定行政庁の建築基準条例において定められている興行場等に係る建築基準は従来の大劇場型の興行場等を想定したものであるため、これらの新しい傾向に対応した合理的な建築基準を求める声が高まっている。
このような状況にかんがみ、建設省では興行場等に係る建築基準研究委員会を設置し、検討を行ってきたところであるが、今般、別紙のとおり「興行場等に係る技術指針」を定めたので通知する。
貴職においても、今後、貴特定行政庁の建築基準条例における興行場等に係る建築基準の見直しに際して、本指針を積極的に活用されたい。
なお、後日、本指針の解説を別途送付するので、参考とされたい。



別紙

興行場等に係る技術指針

1 適用範囲

この技術指針は、劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂又は集会場に対して適用する。

2 用語の定義

この技術指針において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

1 興行場等  劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂又は集会場をいう。
2 興行場等の用途に供する部分  一つの建築物の中に複数の興行場等が設置される場合又は興行場等以外の用途と複合して設置される場合に、一つの客席部に併せて設けられる客用廊下、舞台、楽屋等を含む一団の部分をいう。
3 出入口  日常的に使用する出入口のほか、非常時に使用できる出入口を含む。
3 客席部の定員

観客席の定員の算定方法は、客席部の態様に応じて、それぞれ次のイからハまでに定めるところによる。

イ 個人別に客席が区画された椅子席についてはその客席数、客席が連続した長椅子席については客席幅(単位cm)を40cmで除した数値(端数は切り上げる。以下この項において同じ。)とする。

ただし、椅子席の配列形態が特定できない場合においては、客席部の面積(単位m2)を0.45m2で除した数値とする。

ロ ます席等における座り席については、座り席のために用意された一つの区画ごとに面積(単位m2)を0.3m2で除した数値とする。
ハ 立見席又は待見席における立ち席については、立ち席のために用意された一つの区画ごとに面積(単位m2)を0.2m2で除した数値とする。
4 客席の構造
1 客席が椅子席の場合の椅子の前後間隔(前席椅子の最後部と後席椅子の最前部の間で通行に使用できる部分の間隔をいう。以下同じ。)は、水平投影距離で35cm以上とすること。
2 主階以外にある客席の前面(舞台に直接面する部分を除く。以下この項において同じ。)及び立ち席の前面には、高さ75cm以上の手すりを設けること。ただし、主階以外にある客席の前面に広い幅の手すり壁を設けること等により安全上支障がない場合においては、この限りでない。
3 段床に客席を設ける場合で前段との高さの差が50cm以上あるときは、当該客席の前面に高さ75cm以上の手すりを設けること。ただし、主階以外にある客席の前面に広い幅の手すり壁を設けること等により安全上支障がない場合においては、この限りでない。
4 立ち席の位置は、原則として客席部の後方とし、通路の一部を立ち席としてはならない。
5 客席部の通路

(1) 通路の配置

1 客席が椅子席の場合には、客席横列の両側に縦通路を設けること。また、客席が横列8席を超える場合においては、椅子の前後間隔を35cmに8席を超える1席につき1cm以上の割合で広げること。

ただし、椅子席が横列4席以内又は横列が4席を超える場合で椅子の前後間隔を35cmに4席を超える1席につき2cm以上の割合で広げたときは、客席横列のいずれか一方にのみ縦通路を設けることができる。

2 客席が椅子席の場合には、両側に客席を有する縦通路の最前部と最後部を横通路又は客席部の出入口に連結するとともに、客席縦列20席以内ごとに横通路に連結すること。

ただし、客席縦列の最前部又は出入口若しくは横通路までの長さが10m以内の縦通路で、構造上やむを得ず、かつ、防火上支障がない場合、又は客席部の両側に縦通路を設け、横列の客席数の合計に応じて、以下に示す縦列客席数ごとに出入口を一つ設けた場合においては、この限りでない。

 
 
 
 
 
 
 
 
横列客席数
1の出入口を設ける縦列客席数
 
 
〜8席
15席
 
 
9席〜12席
10席
 
 
13席〜20席
6席
 
 
21席〜31席
4席
 
 
32席〜
3席
 
 
 
 
 
3 客席がます席の場合には、ます席は縦通路又は横通路に面すること。
4 横通路は、客席部の出入口に直通すること。

ただし、長さ10m以内の横通路で、構造上やむを得ず、かつ、防火上支障がない場合においては、この限りでない。

5 客席部に出入口を2つ以上設ける場合には、各客席から各出入口に至る通常の歩行経路のすべてに共通の重複区間がある場合における当該重複区間の長さは、5mを超えてはならない。
 
 
 

(2) 通路の幅員

1 両側に椅子席がある縦通路の幅員は80cm以上、片側だけに椅子席がある縦通路の幅員は60cm以上とし、かつ、当該縦通路において想定される通過人数1人当たり0.6cm以上とすること。
2 横通路の幅員は100cm以上とし、かつ、当該横通路において想定される通過人数1人当たり0.6cm以上とすること。
3 椅子の前後間隔並びに縦通路及び横通路の幅員は、原則として避難方向に向かって狭くならないこと。
4 ます席に面する通路の幅員は40cm以上とし、かつ、当該通路において想定される通過人数1人当たり0.6cm以上とすること。

(3) 通路を斜路等とする場合

1 通路を斜路とする場合には、その勾配を1/10以下とすること。

ただし、手すり等を設けた場合においては、勾配を1/8以下とすることができる。

2 通路を階段状とする場合には、次の各号によること。

イ 蹴上げは18cm以下とし、かつ、踏面は26cm以上とすること。
ロ 通路の高低差が3mを超える場合には、3m以内ごとに横通路又は廊下若しくは階段に連絡するずい道に通じさせること。
ただし、階段の勾配が1/5以下の場合においては、この限りでない。

6 客席部の出入口

(1) 出入口の数
客席部から直接出ることができる出入口の数は、客席部の定員に応じて以下の数値以上とすること。また、バルコニー席、ボックス席等における出入口は、その区画された部分の定員に応じて以下の数値以上とすること。

 
 
 
 
 
 
 
 
客席部の定員
出入口数
 
 
(定員)< 30人
1
 
 
30人≦(定員)<300人
2
 
 
300人≦(定員)<600人
3
 
 
600人≦(定員)<1000人
4
 
 
1000人≦(定員)
5
 
 
 
 
 
 
 
 
 

(2) 出入口の配置
客席部の出入口は、客席部内から容易に認識できる位置に配置すること。出入口が2つ以上要求される場合は、複数の出入口が火災による煙、熱等により同時に使用できなくなることがないように、互いに十分に離して設置すること。
(3) 出入口の幅員等

1 出入口の幅員は1m以上とし、かつ、当該出入口において想定される通過人数1人当たり0.8cm以上とすること。
2 必要な出入口の幅員の合計の1/2以上は、日常的に使用する出入口で確保すること。
3 出入口の扉は、避難方向に開くことができるものとすること。
7 客用の廊下

(1) 行き止まり廊下の制限
客用の廊下は、行き止まりとなる部分の長さを10m以下とすること。
(2) 廊下の幅員

1 廊下の幅員は1.2m以上とし、かつ、当該廊下において想定される通過人数1人当たり0.6cm以上とすること。
2 客用の廊下は、原則として、避難方向に向かって狭くならないこと。
3 客席部の出入口の扉は、避難の障害にならないように設置し、かつ、廊下に要求される幅員の1/2以上を妨げないこと。
8 興行場等及び興行場等の用途に供する部分の出入口

(1) 出入口の数
興行場等又は興行場等の用途に供する部分の出入口の数は、2以上とすること。
(2) 出入口の配置
興行場等又は興行場等の用途に供する部分の出入口は、相互にできる限り離すとともに、客席部の出入口から円滑に避難できる位置に配置すること。
(3) 出入口の幅員

1 興行場等又は興行場等の用途に供する部分の出入口の幅員は1m以上とし、かつ、当該出入口において想定される通過人数1人当たり0.8cm以上とすること。
2 必要な出入口の幅員の合計の1/2以上は、日常的に使用する出入口又はその付近に配置すること。
3 出入口の扉は、避難方向に開くことができるものとすること。
9 避難用の階段

(1) 階段の配置
階段は、客席部からの円滑な避難が確保されるように、客席部の出入口又は客用の廊下等から直接認識できる位置に設置すること。ただし、廊下等の認識しやすい位置に階段の位置を明示する誘導灯が設置されている場合においては、この限りでない。
(2) 階段の幅員

1 客席部の外にあって観客が避難するときに通過する階段の幅員は、当該階段に流入する人数1人当たり1cm以上とすること。
2 必要な階段の幅員の合計の1/2以上は、興行場等又は興行場等の用途に供する部分の日常的に使用する出入口の付近に配置すること。

(3) 階段の構造等

1 客席部から直接進入する場合の階段は、特別避難階段又は屋外避難階段とする。
2 客席部が避難階より6mを超える下方にある場合には、避難階までの直通階段は、特別避難階段又は屋外避難階段とする。
3 階段の入口の扉等の幅員は、当該階段に流入する人数1人当たり0.8cm以上とすること。
4 出入口の扉は、避難方向に開くことができるものとすること。

(4) 階段の共用

1 興行場等の用途に供する部分の避難のための階段は、同一階の他の用途(他の興行場等の用途に供する部分含む。)の避難のための階段と共用することができる。ただし、この場合においては、当該階段までの経路は、他の用途の部分(共用ロビー、共用廊下等は除く。以下この項において同じ。)を経由してはならない。

また、同一階の他の用途の部分と共用する階段の幅員は、当該階段を利用する各用途の部分につき必要とされる階段の幅員の合計以上としなければならない。

2 複数の興行場等の用途に供する部分が積層し、それぞれの興行場等の用途に供する部分が同一階段を共用する場合の階段の幅員は、各階において当該階段に流入する人員を合計した人数1人当たり1cm以上とする。

ただし、階段を特別避難階段とした場合又は各階において当該階段に流入する人員を合計した人数の1人当たり0.05m2以上の面積を有する前室若しくはバルコニーを設置した屋外避難階段とした場合の階段の幅員は、各階において当該階段に流入する人数(一の興行場等の用途に供する部分の客席が複数階にある場合においては、各階において当該階段に流入する人員を合計した人数とする。)の最大人数1人当たり1cm以上とすることができる。

10 避難階における避難経路

(1) 階段出口の幅員等

1 各階段の避難階における出口の幅員は、当該階段の幅員の8/10以上とすること。
2 出入口の扉は、避難方向に開くことができるものとすること。

(2) 階段の出口から建物の外までの経路

1 興行場等の用途に供する部分が使用する階段が避難階において建物内部に面している場合においては、避難階における階段の出口から屋外の出口に至る経路は、他の用途の部分(共用ロビー、共用廊下等は除く。)を経由してはならない。
2 上記の経路の幅員は、避難階において建物内部に面している階段の出口の幅員の合計以上としなければならない。

(3) 敷地の外への避難経路

1 敷地内には、避難階における建物の出口及び屋外階段の出口から、道、公園、広場その他の空地に通ずる通路を設けなければならない。
2 上記の通路の幅員は、避難階における建物の出口及び屋外階段の出口の幅員の合計以上としなければならない。
11 映写室等

映写室は、耐火構造の床若しくは壁(木造の興行場等にあっては、防火構造の床若しくは壁)又は甲種防火戸若しくは乙種防火戸により区画すること。ただし、建築基準法施行令第112条第9項の対象にならない映写室の映写のために必要な開口部で、その面積が1m2以内で、かつ、ガラス等の不燃材料で造ったものについては、この限りでない。


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